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Run Run Run  作者: 涼汰浪
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1.脱出 ②

「「ああん?」」


 岩田ちゃんとセリフが被ったが、そんなことはどうだっていい。透明な円筒状の入れ物に液体漬けの脳。サイズは俺の頭に入れてジャストフィットしそう。つまり人間大。胸の奥に圧迫感が生じる。恐らく心理的なもの。俺のチキンハートが警報を出している。これはマトモじゃねぇぞと。


「人のもんか?」


「そう伝え聞いております」


「お嬢は何たってこんな……。どんな価値がある?」


「コレクターの方々が商品にどんな価値を見いだすかは、千差万別。お嬢様にはお値段に足る魅力があったとしか」


「いや、そうじゃなくてだな。これはそもそもどんな品だ? 誰のどんな脳みそで、なんで保存されて売りに出た?」


 これなら頭に角が刺さった生き物の実物の方が、可愛げがあったな。岩田ちゃんがオッサンに食って掛かってるが、俺もいつまでもビビってちゃいられない。若い二人に視線を戻すと、この二人も中身をガン見して、引いてる。片方はヨダレが垂れそうなほど、口を開けたまま立ちつくしてる。こいつらも中身を知らなかったようだ。オッサンが言うように、新人研修のはホントかもしれない。


「こちらの商品ですが」


 オッサンが解説をしてくれそうだが、俺は今、耳よりも眼の方が冴えていて、二人に注意しながら、脳みその観察にいそしんだ。

 

 見た目は100人中100人が『脳みそ』と答えられる程度に形を保っている。なにかの病気にかかってるようには見えない。色は……、血の気が無くて白っぽい。これが異常か正常か俺には判断つかない。ただ何か、こう、これを見ていると何か違和感というか、既視感というか、なんとなくモヤモヤするモノがある。でも、キレイに保存されたむき出しの臓器を見たのはこれが初めてだから、他のモノを見ても同じ感想を抱くかもしれない。


「詳細は不明です。私が聞いている話はほとんど裏付けの取れていない、信憑性の低いモノですのでそのおつもりで。裏が取れていることでは、性別は女性。出身はアフリカのどこか。亡くなったのは昨年の八月。確かなのはこれだけです」


「だけ? いくら何でもその情報だけでこの額はありえないだろ。その裏の取れていない話ってのがキモなんだな?」


「ええ、恐らくコレクターの方々もその話に興味がおありなのかと」


 アフリカ系女性のモノか。縁もゆかりもないってヤツだ。俺もそれだけの情報じゃ何もピンとこない。若いのも不思議そうにオッサンの話に聞き入っている。これが演技なら、絶対特別な訓練を受けている。トレッドストーンの暗殺者だったらどうしよう。勝てない。


「生前にこの女性は、魔術師として名が知れていたそうです。まぁあの辺りなら良くある話ですが」


「魔女の脳みそか」


「そうです。当然それだけで皆様、大金を準備したわけでは無いでしょうが。この女性は、直接触らず物を動かした、人の心を読んだ、何も無いところに火を起こしたなどの逸話をお持ちでした。そして、年齢は200歳を超えていたとか」


 なるほど。ここも良く聞く話だな。まだまだ眉唾ってヤツだ。この話で大金は動かない。動かさない。


「そして、恐らく皆様の関心を得たのは、この話でしょう。彼女は、およそ二年前に米国から来た研究機関の者に連れられて母国を離れたと。そして、昨年に死亡するまで米国で彼女の魔術について研究が行われていた」


「それも裏が取れてないのか? 本当ならアメリカに記録があるだろう。なんて研究機関で、どんな研究してて、どんな結果だったって。まだ、全然この脳を買う気起きねぇ内容だ」


「ええ、そうでしょうとも。ここで重要な証拠というものが何故無いかといえば、彼女の死亡と同時にその研究機関が消滅したからだと言われております」


「消滅?」


「そう聞いております」


 お、急に嘘くさいファンタジーからSFぽくなってきたぞ。X-ファイル課が動く話か?


「消滅って何だよ。爆撃でもされたのか? 閉鎖されたとかじゃ無くて、消滅なのか?」


「そうです、消滅です。それが彼女の魔術によってもたらされた事故、事件とも、何かの漏洩を恐れた研究機関が自ら選んだ自爆とも、他の機関からの攻撃とも言われているようですが、確かなのは、その研究機関の建屋が綺麗に無くなったということ。これにより内容は不明ですが、魔術の研究について何かしら成果がでたのだと皆様判断なられた様です」


「なるほど。でも、その話の出所はどこなんだ? 裏が取れなくても、それなりに信用出来るヤツがそれを語ったからお嬢は信じたんだろ? 俺は今、あんたからこの話を聞いても、やっぱり買おうとは思わない。間抜けな詐欺話だって突っぱねるぜ」


 この場合、仲買人のオッサンから聞いた話だからというのと、岩田ちゃん自身がオカルト関連にトキメかないってのもあるだろう。オカルト好きが『この人が言うなら本当だ』と判断する肩書きをもっている人物がこれをリークした。


「名前を言ってもお二人とも存じない方だと思われますので、肩書きだけ。その方は元FBIのアメリカ人になります」


「やっぱりX-ファイルか」


「「は?」」


「いや、気にしないでくれ」


 うっかり口に出しちゃったが、やっぱりだ。モルダーとスカリーの調査結果なら、俺も信じる。これは宇宙規模の話なのかも知れないぞ。……まだプレデターへの警戒を怠ってはいけないな。そして、若い二人の片方も共感したのか、何か期待の眼差しで俺を見つめている。


「その方がもたらした情報は、今の話の他にも研究機関の所在や、研究に関する資料もございました」


「それは、裏が取れた情報じゃないのか? だったらソイツの偽装文書だってこともあるだろう」


「ええ、100%信用できるものではございません。その方がおっしゃった研究機関は公的文書にどこにも存在しませんでした。しかし、示された所在地には確かに建物が存在したのです」


「公には何の建物なんだ?」


「いえ、公にはそこに建物は無いはずなのです。ですが、過去の航空写真には建物があり、現在では、焼けた地面だけになっております」


「今でも確認できる? グーグルアースで」


「はい、グーグルアースで」


 僅かながら信憑性が出てきたな。でも、ジュラルミンケースいっぱいの札束のためなら、その位の手間は掛ける。条件に合いそうな建物を探し出した可能性だってある。自分の土地に申請無しに倉庫建てた農家とか、何なら自分で土地を買って仕込むとかもやるかもな。


「研究に関する資料ってのも信用できるものだったのか?」


「その資料には確かに、魔術や超能力といった単語が使われており、何より偽装の効かない公文書用の用紙に電子捺印もありました。内容は懐疑的なことばかり書かれていたようですが、それがアメリカの公文書であることは疑いようが無いかと」


「それって裏が取れてるって言わないのか?」


「一切確認を取る術が無い内容が書かれておりまして、なんとも。近年の言葉で言うと、所謂『中学二年生が考えたような』言葉ばかりでして、効いたことの無い名称の原理、現象のオンパレード。その言葉の意味することが分からないために、絶対の信用は得られないかと」


 でも、オカルトコレクター達は信じて、大金を動かしても欲しいと思ったと。そして、その内の一人がわれらのお嬢というわけだ。


「……やっぱり分からねぇな。実際にその資料や航空写真を見てないってものあるが、見ても俺は買わないだろうな。荒唐無稽過ぎて何がなにやら」


「岩田ちゃん、お嬢にレンラクするか? 考え直すかも知れないぞ」


「いや、口出すとすげぇ嫌がられる。そもそも商品についてこんなに詳しく説明受けたのが初めてだ。これまでも、胡散臭いのはあったかも知れない。それでも、続けてんだから、当たり外れはお嬢も承知だろう。……横やり入れて悪かったな、閉まってくれ」


「承知致しました」


 一瞬、ドキッとした顔をしてたオッサンだが、安心したように脳みそをしまい出した。ソレを見て、若い二人も表情を正して真剣そうにオッサンの動きを眼で追っていた。本当に仕事を覚えに来たみたいだ。この二人への警戒レベルは一つ下げておく。


「後で御頭(ミスター)に怒られないよな?」


「……多分な」


 そこはハッキリと否定して頂きたい。




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