8.回想 ④
日本に上陸すると、相手のヤクザがお出迎えの車を用意してくれていた。至れり尽くせりとはまさにこの事。くたびれたビジネススーツでステッカーだらけのトラベルバックを転がした胡散臭い外国人集団を、黒のレクサス達が文句も言わずに運んでくれた。
俺も運転は好きだ。車でもバイクでも、整備された高速道路でも、荒れたオフロードでも問わずだ。よく中古のカワサキでツーリングに行ったものだ。
ツーリングと言えば、例の予知夢の同業者。あの人とも走りに行ったことがある。新車で買ったらしいピカピカのハーレーと並んで田舎道を何度か転がした。
その時にその同業者からこんな話を聞いた。
「俺の爺さんもな、予知夢じゃあないけど、変な事が起こる人でさ。初めて行く場所でも、どこに何の建物があるのか何となく分かるんだ。地図を見なくても、適当に歩いて目的地に着いちまう。逆に近づいたらマズいところも、勝手に避けちまう。それもほとんど無自覚でさ」
「へぇー、そりゃ便利ですね。ナビ要らずだ。危ないところを避けれるのは、サツから逃げるのにも良いなぁ」
「まさにそれで、何度も事なきを得たらしい。飲酒運転の帰りに検問を全部避けれたり、ねずみ取りをやってる通りの一本前で曲がったり、逆に銀行に入る寸前で靴紐がほどけて、しゃがんでる間に、強盗が入っていて逃げれたり、しかも、逃げようとしてぶつかった相手が非番の警官で、めちゃくちゃ早く解決して、銀行の用事も済ませられたそうだ」
「・・・・・・そこまで続くと本人も自覚があったでしょう? うまく使いこなしてた?」
「そうは言っても、自覚してできる事なんて、地図を買わないとかカーナビを付けないくらいで、意識的に
できる事なんてそんなになかったさ。俺だって、好きに夢を見るわけじゃあないからな。その時だけうまくやるだけだよ」
「それでオレ達は命拾いしたわけなんで、その心がけに感謝しきりですよ」
「あれだって、自分の身の危険に繋がるから、きっと夢に見たのさ。あのままだと奪われたブツでこっちがヤられてた。悪い予感とかの延長線にあるんだと思うだよな、この夢って」
「なら何も見ないほうが、一日幸せってサインってことだ」
「そうでもないんだよなぁ。夢を見なくても財布スられたし、金属片踏んでパンクしたし、スロットで大負けしたし、命に関わらないと、全然で機能してくれない予感なんだよなぁ」
「スロットで大負けは、命に関わりそうだけど?」
「直前にブラックジャックでそこそこ勝ってたんだ。最終的にその五割増しで負けた」
「飢えるほど負ければ、事前に分かるかもですね」
「確かめたくは無いがな」
「そりゃそうだ」
その時は、笑い話として聞いていたが、身の危険に繋がると起こる予知夢とは、なかなか脅威的な力だ。その日に起こることは、狙撃だろうが毒殺だろうが、朝に目を覚ました段階でわかってるなんて、荒事に対して怖い物知らずじゃあないか。
それで言えば、今日はこの脳みそケースとドッキングしてから、何度も命の危機に瀕しているが、どうにか致命傷は負っていない。振り返ってみれば、本当に危ない瞬間は、この脳みそレディが超能力で守ってくれたのではないかという場面が何度かある気がする。彼女にも危険予知ができるのだろうか? できるのだとしたら、きっと頭の上にあるRPGも、今から乗り上げようとしている砕け散った道路もどうにかしてくれるだろう。
そうであるに違いないと信じて、俺にも身の危険に対して何か超能力が発動しないものかと現実逃避に洒落込んで心を落ち着かせることにする。




