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Run Run Run  作者: 涼汰浪
18/23

7.準備 ④

「OK。確定だな。こいつらが敵だ。もう一度東京支部のアドレスを見せてくれ」


 示された住所は、歩くには根性が要る距離で、俺の身代わりになって撃たれて自転車を失った今、自分の足以外に移動手段がない。


「キッス、ありがとう。これで大丈夫だ。御礼はいずれ必ず。最後に電話を貸してくれ」


「自分のは? っと、探知されるのか。ちょっと待って」


 キスマークは足元にある鞄を膝に乗せて、ガサゴソとあさり出す。中身は若い女性の持ち物として、例に挙がらない機材が乱雑に入っている。


「はいこれ」


 出てきたのは、懐かしの折りたたみケータイ。日本に来て直ぐの頃、デザインに惚れて直ぐに購入したっけなぁ。今じゃ、iPhoneだけど。


「ありがとう。これプリペイド?」


「そうだよ」


「ちょうだい」


「今日は貸すよ。後で返して」


 頭を下げて御礼を示し、すぐさま活用。連絡相手は主に二つ。


「……レナードです」


「おう、レオ! 早かったな、どうなってる?」


 当然、組には連絡をいれる。これからどうするか決めないといけないからな。でも、今は完結に済ませる。ここを早く離れてあげるのが先決だから。


「プリペイドのケータイを手に入れた。これからはこれを使う。マッさん、敵が分かったぞ。これから住所を言う」


 例の宗教団体日本支部を伝えてあげる。電話の奥で数人が慌ただしく動く音がする。


「こいつらで決まりなんだな、レオ?」


「決まりだ。そいつらのホームページにある写真に写っていたヤツに襲われた」


「良し、良くやった。後は任せて、隠れろレオ」


「そっちは任せる。こっちも移動するぞ。まだ、ヘリに追われている」


 本丸を攻めるのは組に任せて、こっちは対ヘリ戦だ。


 とにかくここからは離れるとして、あれとやり合うには武器が必要だ。キュートな9㎜弾を弾き飛ばす拳銃ではなく、軍用小銃が要る。それには俺の『店』に向かわないと。


 組への連絡を終えて、次に連絡するのは、大きい貸しのあるアイツだ。


「・・・・・・はい、妻夫木です」


「ブッキー! レナードだ。直ぐに来てくれ。みぃちゃんのカフェにいる」


「ええ? レオさん? 今、銃撃事件が起きてるの知ってる? それでそこら中、道が通個止めされてるんだよ。その辺りに怪しいヘリが飛んでるって話もあるし、車で近づけるか分かんないよ」


「分かってる。そのヘリからオレを逃がしてくれ」


「はぁ? どういうこと?」


「借りを返すときだぞ」


「ええ、今その話!」


 ブッキーは表向きには無許可のタクシードライバー。所謂“白タク”行為で稼いでいるが、裏では声に出せない物品の宅配や、声に出せない行為を行ったヤツの長距離輸送なんかをこなす、裏社会の運び屋・逃がし屋だ。表も裏も声に出せないことをしているイカしたヤツ。俺の商品を運んでもらうことあるし、俺自身を運んでもらうことも良くある。


 そんなことをしているヤツなので、トラブルを起こしたくない相手とヤバいトラブルを起こしてしまうことも時々起きる。ブッキーはルール厳守で特殊部隊に在籍した経験のあるスキンヘッドの凄腕運び(トランスポーター)ではないから、そういう時に太客である俺なんかが間を持ってやることも。


 少し前に、積み荷が壊れたのが誰のせいかで、客ともめちらかして、ブッキーの前と後に運んだ運び屋たちと殺し合いになりかけたのを、俺の商品を持たせて穏便に済ませてやった。ナイフと金属バットが、ひ弱な武器とは言わない。どっちもまともにもらったら致命傷だ。それでも、これ見よがしに脇のホルスターに収まった、彼らが名前も知らない拳銃が視界に入れば、それらを振りかざしたりはしない。この時ばかりは、未来予知さながらに高確率で訪れる未来を予測して、皆が武器を抜かずに事が済んだ。


 結末としては、ブッキーよりも前に品物を運んだヤツが、荷受けの場面を監視カメラに撮られていたおかげでハッキリした。その時にはもう箱が凹んでいるのが映り込んでいたため、カメラに撮られた間抜けな彼の信用問題が新たに生じたたけで、運び屋達は無罪判決となった。


「あのグロック(オーストリアの武器メーカ。ここで言いたいのはそこの拳銃)で命拾いしただろ? 今日はオレの命を救ってくれ」


「ええぇ、ヘリから逃げるの? うーん、じゃあさレオさん。あの銃、俺に売ってよ。相場の値段のままで良いから」


「気に入ったのか? 良いよ、売る(同じのいくつかあるし)。じゃあ、直ぐ来てくれ」


「はい。一〇分ください」


 今どこにいるのか知らないが、通行止めされているのに一〇分と言い切れるのはさすがだ。


 こちらもブッキーが来たら素早く乗車して、この場所から離れられるように準備をしておかないと。


「キッス、裏口どこ?」


 キスマークに案内されてカフェの裏口に向かう。途中、厨房を横切ったので、みぃちゃんに一睨みされたが仕方が無い。


「ここだよ。でもここだと表が見えないよ?」


「しょうがないから、壁に張り付いて外で待つよ」


 あまり意味があるとは思えないが、音を立てないようにゆっくり扉を開けて、静かに出て行く。


「? なんで出てくる?」


「ヘリ見てみたい」


「危ないぞ」


 好奇心旺盛なキスマークは、俺になぞるように静かな足取りで後をついてきた。引きこもりのわりに、こういう場面ではアクティブになるらしい。怖い思いをしなければ良いが。


「・・・・・・全然普通のヘリだね。ミサイルとか見えないよ」


「そりゃあ民間のヘリに武器なんて吊せない。軍用のヘリには武器を付けるハードポイントがある。そこに

ミサイルや爆弾なんかを吊すんだ」


「なるほど。じゃあ、あのヘリってそんなに怖くない?」


「ヘリは怖くなくても、乗ってる人間がライフルやマシンガンでこっちを撃ってくる。それに、こっちの弾はヘリまで届いても、有効なダメージになりにくい。こっちもライフルがいる」


「映画みたいにヘリを撃ち落とせるの?」


「軍用のヘリなら、無理だ。めっちゃくちゃ強い銃が合っても一対一は無理。自信は無い。只の民間ヘリなら、どうにか出来ると思う」


 器用にホバリングを続けているが、何かアクションを起こす様子もない。このまま燃料切れで帰ってくれないだろうか。


 外に出ているこちらに気がついていないことを祈りながら、ひたすら壁に張り付き続けていよいよその時が来た。小気味良いエンジン音と共に、勢い良く黒のホンダ車が走り込んで来る。ブッキーが逃がしの仕事の時に使っているシビック・タイプRが、店の入り口では無く、こちらに近い店の端に調度良く止まる。こういう場面で空気が読めるのが、ヤバい仕事を続ける上で重要なセンスだとつくづく思う。


 すぐに駆けだすのと同時に、助手席の扉が開いてブッキーが手招きしてくる。そこに向かって急いで飛び込もうとするが、そんな俺の駆け足よりも遙かに速い弾丸が、足下で何発も地面に飛び込んできた。ビビって一瞬、立ち止まりそうになるが堪えて進む。ここで止まってしまえば良い的だ。的は的でも、動き回る悪い的でいなければならない。そんなことを考えながら足を前に出そうとすると、突然後ろから「イヤァァァァ!」と叫び声が聞こえてきた。隠れていたキスマークに弾が当たってしまったのかと、慌てて振り向いたがそこには誰もいない。その代わりに俺の横をとてつもない勢いで駆け抜けていく何かの存在に、体が揺さぶられ、すぐに前に向き直ると、俺が飛び込もうとしていた助手席に収まる女性の姿が。


「レオさん! 早く!」


 意味の分からない状況になったが、構わず進んで、後部座席にどうにか収まる。


「出せ、ブッキー!」


 屋根に数発当たった音が響いて、ブッキーの舌打ちも響いたが、無事に走り出した。


「キッス! 何で着いてきた!」


「好きで着いてきたんじゃないよ! 怖くてとにかく走ったら、車の中だったの!」


 最悪だ。


 キスマークをこのまま無事に帰そうが、怪我をさせてしまおうが、確実にみぃちゃんともう一人の姉にぶん殴られるだろう。あまりの出来事に存在を忘れていたジュラルミンケースの重さが、これまで以上に負担に感じられる。繋がっている手首がジンジンと痛みを伝えてきて辛い。


「撃ってきてないけど、上にいるよ」


 ブッキーが前をひたすらに見つめながらも、窓を少し開いて、音で感知している。ここはプロの逃がし屋の腕前に任せて、一息吐きたい。


「とにかくオレの店に向かってくれ。商品を使ってケリを着ける」


「了解。キスマーク、シートベルトしないと吹っ飛ぶぞ」


「はいぃぃ!」


 キスマークが慌ててベルトを締めようとガチャガチャと音を立てている最中に、それとは明らかに違う、「ヒュ~」という感じの風切り音のようなノイズが混ざって聞こえた。嫌な気配で背筋がざわつく。この音は聞いたことがある。


「ブッキー、止ま・・・」


「うおおおぉぉぉっ!」


 突如として、進行方向の十メートル先の道路が火をあげた。正確には、アスファルトに直撃したロケット弾が地面をえぐる爆発を起こしたのだ。


 FUCK! あのヘリはロケットランチャーを積んでいやがった。

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