7.準備 ③
「見返りを考えておいて」
「そろそろ、おいしいラーメン屋情報はネタ切れだ。駅の近くを探すのはもうキツイよ。タクシーはイヤなんだろ?」
「絶対無理!」
「歩いて行ける場所は探しきったと思う。マズくても良いならあるよ?」
「それのどこが見返りになるのさ」
「ラーメン屋巡り以外に、どんな趣味が?」
「映画に詳しかったよね。知ってるの全部教えてよ」
「全部?」
「全部!」
「OK。カクゴして聞いてくれよ。これは時間が掛かるぞ。……君の知識欲は相当だな」
「情報強者が真の強者。そのあたしにあなたは助けられるんだよ。それくらい安過ぎるくらいでしょ?」
「確かに知ってる映画を教えるだけで、命を救ってくれるなんて天使のようだよ」
「知ってる映画だけじゃないよ! 映画に関すること全部だよ。撮影技法とか映画監督とか配給会社とか全
部!」
「……ソウテイガイだ」
「お金は取らないんだから、どっちにしろ安いでしょ」
「……これならマズいラーメン屋の情報でもいいんじゃあないのか?」
「それは食の好みの話だから別」
「ムズカしいな」
「じゃあ、一応教えて? 行かないけど、嫌いな人を誘導するのに使う」
「それは、相手にも嫌われるよ」
「そうなっても良いから、嫌いな人なんだよ」
「なるほど。じゃあ、まずは……」
「あっ、待った。先にヘリについて教えて。今追って来てるのはなんてヘリ?」
「ごめん、ヘリの種類は詳しくない。軍用ではないのは分かる。ホウドウ用ってヤツじゃあないかな?」
「じゃあ、武器や車は調達できるけど、軍用ヘリは無理なレベルってことね。米軍の横流しは受け取れるけど、正規のバックアップは受けられない」
「正規のバックアップを受けられない正規組織だってあるぞ。他国にいるスパイなんかはそうだ。自国のカンヨした証明になるモノは残せないからな」
「……CIAのスパイがオカルト案件を扱う?」
「この脳みその力が本物なら扱うかも。でも、警察を殺すやり方は違うと思う。反米政府の国にならやるかもしれない(映画の見過ぎか?)けど、日本でそれはデメリットが大きい」
「アメリカ政府が日本の警官を殺してまで手に入れたい物とは、言いに難いか。確かに、不確実が過ぎるブツだからね」
「なら、どこだ?」
「お金があって、米軍に顔が利いて、オカルトに本気になる人たち」
「……日本に駐留してオタクになった退役軍幹部?」
「違う、たぶん……。これだ!」
「……宗教団体?」
キスマークのラップトップに映し出されていたのは、聞いたことの無い教団のホームページ。キリストっぽくもあり、ユダヤっぽくもあるパクり感満載のシンボルに、教祖なのだろうか、高齢の白人男性と黒人女性のカップル写真。他には教義や活動内容や予定へのリンクが貼ってある。
「みたところ、よくある弱小宗教みたいだが」
「HPは今風で、そこまで違和感はないね。でも」
キスマークが開いて見せたのは、教義の掲載されたページ。
大抵教義なんてのは、信者になればこんなに良いことがありますよって事が書いてある。その例に漏れず、この宗教もそれらしいことが書いてあるが、内容はなかなか面白い。
「……『人間は神様になれる』って言っているな」
「人間の脳が覚醒すれば、聖書の奇跡も誰でも出来きるようになるだって」
「それは素敵だな。ところで、このページ英語だぞ? 読めたのか」
「知らなかった? でも、この手の作業は英語ができないとお話にならないでしょ」
「それもそうだ」
確かに納得できるが、それなら初めて会ったときに言って欲しかった。いきなり日本語で質問攻めにしてくるから、答えるの大変だったのに。
「脳の覚醒なんて言っている団体なら、超能力者の脳に興味があって当然だな。でも、なんでこの団体だと思う? 証拠があるのか」
「ん」
キスマークが素早く操作をして変更された画面を見せてくる。見えるのは拠点・アクセスのページ。そこを見れば、日本人なら弱小宗教なんて失礼しましたと頭を下げたくなるような拠点の数々が。アメリカに至っては支部が無い州を数える方が早いし、海外支部がいくつもある。なんで俺は知らないのか逆に不思議なほどだ。そしてアジアの欄には当然、日本・東京支部の名前がある。
拠点数から見て、それなり以上の資金のある団体であり、その教義から脳みそケースを狙う理由も在って、ここ東京に支部が在るので、即応してくる現状にも当てはまる。
「でも、これだけでは弱い。まだ、日本に銃と軍人を準備できて、ヘリまで使えるなら、金のある宗教団体よりも在日米軍のイカレたオタクほうが、可能性が高いだろ? 金だけでどうにかできる動きじゃないぞ」
財力があってもここまでの武力を動かすには、権力も必要だ。そこまでのパワーがこの団体に在るのか? 現役か元か分からないが軍人に外国の警官を撃たせるなんて、結構な強制力を発揮できる人物がこの団体にいるのか。俺だったら、ヴィトー・コルネオーレくらいじゃないと言うことは聞きたくない。マイケルじゃダメだ。
「ん」
続いてキスマークが見せたページは活動報告だった。何年か前のイベント報告で、教祖とおぼしきカップルと、同年代であろう男が談笑している写真が掲載されている。何故か男の顔には、黒線で目元が隠されている。よほど大物なのか、男の周りにはボディガードが直ぐ近くに二人、見えにくいが奥の方にもう一人。
「こいつは?」
「よく読んでみ」
画面に顔を近づけて、目をこらす。なになに?
これは、五年前の親善イベントで、信者とその家族友人を集めてのBBQ。半期の活動報告も交えて、楽しく過ごしましたとさ。ちなみに写真は、毎年多額の寄付をしてくださる元州議員で、退役将官でもあるMr.J氏。プライバシー保護の観点から実名等々は伏せさせて頂きますと。このJ氏は、軍役時代に負った身体的、心的外傷を我々との活動を通して、改善の兆候が見られ(本気か?)、以降、同じく軍役で傷を負った人々とその家族友人と共に、日夜活動を後押ししてくれておりますよと。今回の会合で久しぶりにお目にかかれて大変嬉しいです。以上。
「やばいのは、この教祖よりこいつか」
「この宗教団体に繋がりがあって、個人的にもお金持ちで、軍人に顔が利いて、言うことも聞かせやすい」
「将官で宗教だからな」
狂信者たちのリーダー。実際、教祖よりも顔が利くんじゃないか?
「極めつけは、SPだよ」
「エスピー?」
「……SPって日本だけか? じゃあ、シークレットサービス」
「シークレットサービスは役人だ。こういうのはただのボディガード」
「いいから、顔!」
「ん?」
談笑する警護対象の正面に一人。後方に一人。正面のは流し目を向けて、カメラマンの動きに注意を払っているし、後方のは視野を広くとって、正面のとは別方向に注意を向けている。こいつは遠いが顔が正面を向いて、視線は別に走らせているのが写真からも分かる。
……確かにこの顔は見覚えが。
「前にいるこいつ、パトカーから撃ってたヤツでしょ? 出回ってる動画と同じ人だよ。たぶん」
言われてみれば、確かにこの栗色じみた髪をしたグラサン男は、あのナイスミドルな警官を撃った憎き茶髪野郎その人だ。よくぞサングラスで目元を隠した白人の見分けがついたものだ。俺は、アジア人の見分けに未だに苦労しているのに。なんで、チャイナとコリアンとジャパニーズは互いの見分けが付けられる? 俺は相手の国籍なんて検討もつけられないぜ。移民国家の民だからな
「ねぇ、合ってるでしょ?」
「ん? ああ、正解だ。こいつは警官を撃ったやつに間違いない。それと」
「と?」
「後ろのこいつ。ビルで最初に攻撃されたとき、あそこにいた。ビルで倒したから覚えている」
この後方ボディガードは、俺に首を撃たれたヤツだ。ばっちり目が合ったからいずれ夢に出てくることだろうと思っていたが、先に液晶ディスプレイに出てきた。待ちきれなかったらしい。




