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Run Run Run  作者: 涼汰浪
16/23

7.準備 ②

 そう広くはない店内の一番奥まった席で、目的の彼女は砂糖と蜂蜜たっぷりのラテを啜りながらPCとにらめっこしている。


「キスマーク! お願いがある」


「何だよ、犯罪者」


 キスマークとは彼女のニックネームの様なモノだ。このギークガールはいつも頬に真っ赤なキスマークを付けて日常を過ごしている。付けた相手は彼女の姉だそうだ。つまり、みぃちゃん。……では無いのだ。彼女たちは三姉妹で、みぃちゃんが長女。キスマークが三女。キスマークにキスマークを付けるのが次女。この次女にはまだ会ったことが無い。相当なシスターコンプレックスをお持ちらしく、実の妹にマーキングして悪いモノを近づけないようにしているらしい。

 

 確かに、頬にそんなマークを毎日付けた女性に近づくには覚悟がいるだろう。俺は覚悟が出来ていた。


「どこまで知ってる?」


「犯人に追われているのが、君だって事は知ってる。追っているのは米国の人間の様だけど、政府系かアンチ政府系かはまだ不明。軍事関係者が関わってるのは確か。今のところ半々だね。狙いはそのケースなのかな? 中身は知らないけど、資金や情報ではなく、兵器そのもの可能性が高い。時限爆弾とか言わないでよね。そんなの解除できないから」


 素晴らしい。まだ事が始まって一時間強なのに、俺がヤバいブツを運んでいて、追われていることをしっかり掴んでいる。


 この情報強者ぶりが彼女の頼れるところだ。カフェでダダ甘のカフェラテを飲みながら世界をのぞき見る半引きこもりの女に勝るモノなどそういないのだ。彼女の力で俺は、観光客を装って、古き良き日本映画の男優女優の居場所をサーチして貰い、サインをコレクションしまくっている。


 そういえば、こんな仕事絡みの内容で彼女を頼ったのはこれが初めてだ。最初で最後であることを願う。


「アメリカ大使館に行って、どうにかなると思うか?」


「まだ止めた方が良いよ。拘束されちゃうかも知れないし、引き渡されちゃうかも」


「それは困る」


「で? 中身は?」


「見てくれ」


 俺は手錠で繋がった脳みそ入れの脳みそを、みぃちゃんや他の客に見えないように気を使いながらそっとキスマークに見せる。


「ちょっ、グロッ。……もういい、しまって」


「アフリカ系魔女の脳みそだ。何か分かるか? 生前の彼女は、超能力を使えたらしい。こうなった後も、ケンキュウ施設を吹っ飛ばしたそうだ。それを珍しがったお嬢が、オークションで競り落とした。ゴウインにだ。それを引き取りに行ったらこうなった」


「魔女の脳みそ……。去年騒がれた建物消失の話? 政府所有の敷地にあった建物が、一日で衛星写真から消えたってやつ」


「今でもグーグルアースで見れる?」


「見れる見れる」


「じゃあ、それだ」


「そこで研究していたのが、超能力に関することで、魔女とか超能力者って言われた人達が集められてたってネットで騒いだ人がいて、一時話題になった。その人が出した証拠が、否定しきれない物で、信じた人も結構いたよ」


「お嬢もその一人だ」


「それで、脳みそを競り落とした」


「それで、追われてる」


「でも、追い払ったんでしょ? ここに来れたんだし」


「いや、今も追われてる」


「は?」


「聞こえるか?」


「何が?」


「ヘリコプター」


「報道の?」


「いや、これは追っ手だ。車のヤツを倒したら、次はヘリで来た」


「……出てけよ」


「いや、たぶんヘイキだ」


「何を根拠に」


「ヘリで来た時、誰も下に降りてこなかった。きっとパイロットとガンナー、一人ずつしかいない。武装ヘリじゃあないから、パイロットは運転するだけだ。俺を捕まえたくて追っているわけだから、それ用の人員はいるだろう。でも、一人しかいないなら、降りてこない。地面で一対一じゃあ、アドバンテージがないから。上から銃で狙う方が、ユウリだし、わざわざ降りてこないはずだ」


「あれは監視役で、陸路からも追っ手が来てるかもよ」


「なら、ヘリは最初からいらない。相手はオレの場所が分かるから」


「え?」


「居場所はずっとバレてる。一度は撒いたのに、すぐに車で追いつかれた。ヘリだって、空から見えない道を選んでここまで来たのに、今も上でタイキチュウだ」


「どうやって?」


「ヘリは飛行機と違って、その場でタイクウできるんだよ」


「いやいやいや、そうじゃなくて! どうやって追尾されてるのかってこと!」


「たぶん、彼女の脳みそが何か出しているんだと思う。ケータイはきったし、上着も捨てちゃったし。カラダは全部調べたけど、ダメだった」


「捨てちゃいなよ。もう」


「ダメだ。もっとはじめならそれも良かったけど、もう六人ヤられたんだ。カタギも巻き込んだ。今さら手放すのはゼッダイダメだ。モウシワケが立たない」


「……ここが安全ってことじゃあないでしょ?」


「少なくとも、オレが見えない状態で撃ってくることはない。連中も彼女の脳みそが欲しいから、うっかりで撃ち抜くのを怖がっている。この店のスミにいれば、しばらくはヘイキだろう。爆弾もミサイルもこない。……後一〇分くらいは」


「? 根拠は?」


「……オレならそれ以上待てない。降りてトツニュウする」


「……あたしにどうして欲しいの?」


「この脳みその詳しい情報と追いかけてくるヤツらの詳しい情報だ。特に連中のリーダーが、今どこにいるのかが分かればベスト。ゼッタイにトーキョーにいるハズなんだ。これだけ素早く状況に追いつけるのはそれしかない。だから、逆にコッチから攻撃してやる」


「……わかったよ、やるだけやってみる。ダメでも一〇分で出てってね」


「OKだ」


「…………何か手がかりはある?」


「最初は七人で襲ってきた。全員、日本人じゃあない。品物を持ってきたチュウカイのオッサンを追ってきたらしい。銃はアメリカ製のサブマシンガン。屋上からロープで下りてきて、閃光弾を投げ込んできた。ゼッタイに軍人。そういう動きをしてた。その後すぐに、トヨタのバンでオレを追って来て、大勢の前で撃ちまくりだ。バンがダメになった後は、パトカーを盗んだ。パトカーがダメになった今、ヘリと追加の追っ手を持ってきた」


「銃と車にヘリまで事前に用意できるなんて、相当だね。落札したのが日本人だって分かったところで、それだけ準備できるんだから、よっぽど大きい組織か、前から東京で活動している人たち。米国関係で絞ればある程度は見えてくるはず」


「一〇分でできる?」


「五分でやる」


 本当に格好良いヤツ。

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