5.激突 ③
合流地点といっても普通の駐車場にすぎない。
機関銃でも仕掛けてあれば確実だが、そこにいるのは武装したヤクザが五、六人。決して数で押している訳じゃあないし、持っているのも奴らと同じようなマシンガンだろう。決定的な差は無い。それでも、今の状況を打開するには十分な戦力。少なくともボンネット狩りにあった警官隊よりも良い仕事ができる。どうにか彼らに状況を説明できる程度には先に到着して、一斉射でお出向かいしたい。
そんなことを考えている間に、駐車場が見えてきた。黒の日産キャラバンに群がる同僚達も見えた。
「ヘイ! くるぞ!」
大声で敵の襲来を伝えると、ビクリと身体を振るわせてこちらに気づいてくれた。
これで、どうにか迎撃ができると思い、安堵したのもつかの間、真後ろから轟音が鳴り響いて、銃弾やら何やらいろいろなモノが飛んできた。
あいつら徐行に飽きてぶつかるのも気にせず、突っ走ってきた。砕けた車のボディやガラスなんかが一緒になってこちらに押し寄せる。
やはり車と自転車では無理があったか。大したアドバンテージも無く邂逅してしまった。
さらに最悪なことに、ここに来てとうとう被弾してしまった。
俺では無く、自転車に。
9㎜の弾丸はスプロケットの端を捕らえて、ギアの歯と一緒にチェーンを断ち切った。急な空転により、余った力は車体のバランスを崩し、俺はこれから敵味方が撃ち乱れるであろう戦場の中心で、地面に膝蹴りをかまして悶絶する事態に陥った。これはマズい。死ぬ。
「おいっ! レオ!」
俺の転倒に同僚達は気が付いてくれるが、鉄塊をばらまきながら突っ込んでくるポリスマンベンツを前に、駆け寄ってきてはくれない。俺を特等席に残したまま、事は始まってしまった。
我が同僚六人は憎きパンダクラウンに向かって、UZI(本来はイスラエル製のサブマシンガンだが、これは中国製)で穴開け作業を開始。対してマシンガンズは、なんと走行したまま後部座席側のドアを開き、左右から一人ずつ下車。綺麗に前転を決めて、射撃姿勢を取り、UZIに対抗する。そして、クラウン本体は空気を読まずに、俺に向かって歩を進めて来た。
UZIによって通気性抜群になるのを構わず、布を振られた闘牛のごとくこちらに向かってくるのを止めない。そのような場面で甚だ不謹慎なようだが、俺はこの時、臨死体験、日本でいうところの走馬燈のように自身の知識が巡り、『スペインの闘牛士が赤い布を振るうのに、色は関係なく、牛は揺れる布に興奮している』というトリビアを思い出して、ほんの数秒にすぎない間に本当に思考が高速化したような体験をするんだなぁと感心していた。
俺が死に瀕する場面で、感動を覚えていた間にも事態は動く。
必要にクラウンへ穴を開ける同僚達に、下車した二人が斉射を加えて三人が倒れた。それに気が付いた残る三人が、そいつら二人を仕留めてくれる。
その隙を突くように加速してくるクラウンに、俺は覚悟を決めて、身を強張らせたが、俺とクラウンの間に立ちはだかった救世主の手によって、クラウンのタイヤは跳ね上がり、フロントが浮き上がった。
その救世主こそ俺をここまで運んでくれた英雄様、盗んだ自転車様。
クラウンに乗り上げられて、もはや本来の用途で運用することは不可能となってしまった悲劇の主人公は、それでも、俺のために(?)もう一役買って出てくれた。
ここからは、思考の高速化がより顕著となり、まさにスローモーションの世界と化した。
すでに死に絶えているであろう下車した二人に向かって、未だに打ち続ける三人。こちらには目を向けること無く、懸命に射撃を続けて、俺のピンチに気が付かない。
一方で目の前の穴だらけクラウンは、自転車に乗り上げて、タイヤがあらぬ方向へと向きを変えてしまう。運転席のサングラス男の口が「oh shit!」と動くのがよく分かる。そのまま、向きを変えてしまったクラウンはあろう事か、死体にこれでもかと弾を喰らわせ続ける愛すべき同僚達へと進路を取ってしまった。
俺の口元も「oh shit!」と動いているのを俯瞰で感じながらも、地面にニー・ドロップをかました衝撃から立ち直れずに動き出すことができない。
無情にも速度を緩めず突き進む虫食いパトカーの存在を彼らが察知したときには、もう回避動作は間に合わない。
三人は狙ったのか偶然なのか的確にフロントガラスへ銃弾を集中させて、運転席と助手席に残る二人のマシンガンズをデッドマンズにジョブチェンジさせることに成功するも、悲しきかな彼ら三人も迫り来る巨体に身を砕かれ、ヒットマンズからデッドマンズへ変身を余儀なくされた。
いや、待て。まだ生きている! まだ生きているぞ! 一人、小さい声だが確かに声を上げている。良かった。一人でも生き残りが居てくれた。
がくがくと膝を震わせ、生まれたばかりの四足獣のごとく立ち上がった俺は、生き残ったブラザーの誰かの元へと早く駆けつけてあげようと必死になっていた。警戒しておくべき事象が残っているのをすっかり忘れて、自分も銃を持っているのも忘れて、ノコノコ歩いて近寄った。
それは、先ほどまでのスロー映像が嘘のように高速で進行した。突如として、沈黙していたクラウンの後部座席側から一人の黒人が降りてきて、無防備で立ち尽くす俺と、銃を持って倒れた彼を見比べた。
ここでの判断が命運を分けた。黒人のマシンガンは、より脅威である倒れた彼へ先に引き金が引かれ、素早く俺へと銃口が向けられる。だが、その時間は決定的で、俺が無意識に銃を抜くには十分の隙で、もう一度引き金が引かれるよりも先に、俺の銃が火を噴いていた。五秒と経過していない間に新しい死体が二つ増えていた。
ああー。ああーー。ああーーー。
俺はなんて間抜けだ。連中が追って来たときにも、奴らが五人組だと分かっていたじゃないか。
トヨタのクラウンは五人乗りだから、全員乗車しているかも知れないと考えていたじゃないか。
なんで、忘れてしまった。こんな重要な場面で重要なことを忘れてしまったのだ。
敵の人数なんて、把握し続けなければ意味が無い。
なんて間抜けだ。おかげで要らない犠牲を出した。俺を助けに来てくれた仲間を全員失った。
俺を助けるために、一人を救うために五人散った。とんでもないマイナスだ。彼らに申し訳ない。彼らのために何かしようにも、事態はここで終息してしまった。ここで終わり。取るべき仇のほとんどは彼ら自身で取ったのだ。こぼれ球を俺が拾っただけだ。もう何もしてやれない。
パトカーのサイレンがどんどん近づいてくる。分かっていても動き出せない。その必要もないか。ここで捕まって罪を償うべきなのかも。それが筋ってものなのかもしれない。
そう考えて、潔くここで捕まってしまおうと心に決めて警官の到着を待つことにしたが、意外な方向から全く予想していないモノが襲来した。
サイレンでは無い轟音が近づいていることは、気が付いていた。それでも、もうどうでも良いと思って無視を決め込んでいたが、音が真上から強襲してくれば、嫌でも眼を向ける。
見上げれば、小型のヘリコプター。そこから身を乗り出して銃を向けるサングラスの白人男性。
悲しむべきか、はたまた喜ぶべきか。事態は終息せず、新たな展開へと歩を進めてきた。
仲間の仇があちらからやって来てくれた。
うわーい。




