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Run Run Run  作者: 涼汰浪
12/23

5.激突 ②

 日本では車が左通行で、ハンドルは右にあって、最初は戸惑ったが、警察に極力お世話になりたくないから、トラブルを起こす前に覚えた。自転車も軽車両だから扱いは一緒。律儀に車道の左側を疾走していたが、車道または交通の状況からみて、やむを得ない場合はその限りでないので、歩道も走るとする。


 自転車で歩道を爆走する俺を、通行人達は狂人を見る眼で迎えてくれるが、一緒になって銃を持った男が身を乗り出しているパトカーがついてくれば、否が応でも道を空けてくれる。何なら通報してここにガンガン警察を送り込んで欲しい。ここで死ぬのと、刑務所で暮らすのなら、断然後者を選ぶ。外人差別を受けないと良いが。


 こうして既に獄中生活をどうやってエンジョイするのか妄想することで、9㎜弾の恐怖と、下肢の疲労をどうにかごまかしているが、精神力だけでは溜まった乳酸はどうにもならない。日本に来てから両手で数えきれる程しか運転をしていなく、徒歩ばかりの生活だ。おかげで祖国にいた頃よりも体力がついたし、身体も引き締まった。今なら暇なときに練習しているブルース・リーやサニー千葉のアクションシーンもなかなか様になっている筈だ。


 それでも、さすがにこの全力疾走はかなり()()()()。そもそも聞いた話では、自転車を漕ぐ筋肉は日常生活では鍛えていないような部位も使っているとかなんとか。ニュースを見たか、何かの記事か、マンガに書いてあったか覚えていないが、そうらしい。だから、俺が映画映え重視の回し蹴りを披露できるからといって、このカーチェイス? に勝てる訳ではないのだ。


 ジリジリではなく、グングン差は縮まって(日本のオノマトペは豊富過ぎて記憶に苦労するよ)、とっくに有効射程距離に入っている。弾に当たる確率も、当たった場合の致死率も抜群に高い。それでも、俺にできることは合流地点に向かって走ることだけだ。自転車を漕ぎながら銃を撃っても当たりはしないし、転倒のリスクの方が大きいから、おとなしく漕ぐ。いや、必死に漕ぐ。


 先ほどから進行ルート上のオブジェクトがガンガン破壊されていく。街路樹が爆ぜるのはもちろん、黄色い点字ブロックが砕け、路駐の車に穴が開き、店舗のガラス戸が木っ端みじんになって、通行人が倒れていく。それでもどうにか、俺の肉体にはその現象は及んでいない。一応不定期に左右へ振りながら漕いでいるおかげで、いまいち狙いが定まらない様子だ。とはいえこのラッキーが何時までも続くはずは無い。また、路地裏に逃げ込みたいところだが、生憎この辺りに詳しくないので、行き止まりに入ってしまう危険は犯したくない。という訳で、実行したのはこの作戦。俺は、車道に飛び出した。それも反対車線だ。


 突然こちらに向かって飛び出してきた自転車に一般ドライバー達はクラクションを浴びせつつ、左右に避けたり、急停車したり。そのせいで、十数メートル先で玉突きを起こした。俺は鋼鉄のサンドイッチの具と化した車両たちの中へ入り込む。ドライバー達には本当に申し訳ないが、ドアやガラスがある分、歩行者や自転車を漕いでいる俺よりも防御力は高い。そこで大人しく嵐が過ぎ去るのを待っていてくれ。マシンガンズのクラウンは車線からはみ出て停車した車両達を避けるのに、徐行運転を強制されている。今がチャンスだ。俺は、急停車した車両の間を縫うように走り抜ける。


 これで被弾のリスクが低減されたように思えるが、蛇行して走る分、ペースが落ちるので、一概に安心できる訳ではない。弾に当たらずとも、車と衝突する可能性は増しているし、油断できない。丁寧に車を避けつつ、早急に走り抜ける。丁寧と早急を同時に行わなければいけないとはなかなかハードな要求だ。特に車のへこみ具合を心配して、降車しようとするドライバーが仕掛けてくるドアパンには要注意。くらえば綺麗に宙返りすること必至だ。


 不規則なスラロームに苦戦しながらも、どうにか前へ前へと進んで行くが、突然足下と数歩先の地面、近くの車体に点々と穴が空く。一瞬だけ振り向いて確認すると、連中は障害物ゾーンを既に抜けて、スピードを上げて来ていた。慌ててスラロームを止めて、先ほど走っていた方とは逆側の歩道へのぼって逆走を継続する。マシンガンズと俺の間には、玉突きで動き止めた反対車線の車達が存在するが、果たして連中がそれを気にするかどうかは、考えるまでも無かった。


 さながらスペースインベーダーのUFOの気分だ。こちらに弾をぶつけようと撃ちまくっているが、間の車両に阻まれて、当てられない。しかし、UFOの立場である俺も、画面端が遠すぎて、消え去れない。


 こちらの歩道はすでに歩行者たちが避難済み。そりゃあ乱射しながら向かってくる車が見えたら、発砲事件の少ない日本の市民だって、ヤバい事態なのは一目でわかる。おかげでまっすぐ走れるわけだが、マシンガンズにとっても俺を見失うことがないので、嫌なWin-Winだ。


パトカー(クラウン)のエンジンと俺の両脚の耐久性なんて、比べるでもない。時間は俺の敵だ。過ぎれば過ぎるほど不利に働く。

 

 俺は今、どこを走っている? 停車している車のボディや、歩道のタイルが弾き飛ぶのに思考の邪魔をされながら、走り出す前に見たGoogleMapを必死に思い出して、現在地のアタリをつける。


 そう遠くないな。


 俺は合流地点へのラストスパートをかけた。




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