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バックトゥザ令和  作者: グレープヒヤシンス
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遭難

 暖かい毛布の中で目を覚ました。薪の燃えるゆらゆらした火が見えるので、山小屋に辿り着いたんだろう。沼からの記憶が無いので、気を失って運んで貰ったらしい。


セブンの背中に貼り付いた僕は、全裸だった。セブンも僕の背中に貼り付いたラヴも裸。火の番をしていピーさんもブリーフ一丁に毛布を纏っていた。

「良かった、気付いたんだね!」

僕を挟んでいた裸の2人もブリーフと毛布の姿になった。

僕も慌てて毛布に包まった。

「昨夜、先生が低体温症の処置教えてくれたから、実践したんだ!一応俺達も元は女子だったから、なるべく嫌に思われないように気を使ったんだけど・・・」

3人は一斉に頭を下げた。

「ゴメン、本当に救命の為にしたんだけど、カラダが反応しちゃって!」

そう言いながら、彼等のブリーフはしっかりと盛り上がっていた。

「うん、助けてくれて有難う。僕も元は男子だから、その反応は理解できるから気にしないで!」


 素直な気持ちでお礼を言って、元男子の経験から、極めて普通の反応なのを理解していることを伝えた。

「でも、3人ともすっかり男子だよね!僕はまだ、女子になりきれてないよ。やっぱり戻りたいと思っているしね。」

ほっとした表情で3人は、サバイバルの経過と言うか、これからの予定を話し始めた。あとから3人に聞いた内容を精査すると、上の沼で気を失った僕をピーさんが背負い、ここ迄運んでくれたそうだ。先生に聞いていた低体温症の処置で、濡れた衣服を脱がして、肌を直接密着させて温めてくれたそうだ。

「もう、乾いてると思うよ!」

セブンが指した所は、洗濯物を干す様に作ったスペースだった。バスタオルで遮っていて、中を見ると僕の下着が干してあった。乾いていたので、急いで着けた。体操着も着て、出掛けた時の状態まで戻った。振り返ると、3人も体操着姿。短パンでは、下半身の反応は隠せていなかった。

「ちょっと考え事があるから、30分くらい、一人にして貰ってもいい?」

1階の休憩スペースに移動した。それ位の時間があれば、彼等の反応は収まるだろう。隠そうとする彼等を見るのも気が引けるので、上手く対処してくれるといいな。実は僕も、ドキドキが止まらない。花音やエリーとのお風呂や添い寝に慣れたせいか、逆に過剰に反応するようになっちゃったのかな?


 僕のドキドキが収まったし、時間が来たので2階に上がると、3人とも体操着の違和感は消えていた。自然に収まるのを待ったのでは無く、ピークを迎えた後のようだった。全然目を合わせない彼等は話し掛けると耳を赤くした。きっと、僕をオカズにしていたんだろうな、微妙と言うか正直な所、不快な気分だけど、男子としては普通の行動だし、命の恩人なので、目を瞑っておこう。既に日は落ちていたし、雨は降り続いていた。食糧は米は余裕あるが、あとは、調味料とお菓子くらい。

飯盒2つにいっぱいのご飯が炊けていたので、味噌味の焼おにぎりを作った。薪の火で炙ると、焼き上がりと共に、3人の胃袋に消えて行った。

 悪天候での消耗、人命救助での緊張、性欲との葛藤ですっかり擦り減っていた3人は、胃袋が満たされると、布団か人間か解らないくらいに熟睡していた。


 一人になると、雨風の音が大きくなった気がした。1階でインスタントコーヒーを啜っていると、また雷が光、山小屋の扉が開いた。一瞬、ホラー映画のシーンかと想ったけど、

「四月一日さん、無事なのね?男の子達は?」

森先生が救助に来てくれた。3人とも無事な事と、昨夜の武勇伝のお陰で命拾いした事を報告した。

 警察、消防、自衛隊がスタンバイしているが、二次遭難を危惧して明るくなってからの出動との事。先生は、コッソリ一人で来てくれたらしい。カッパを脱ぐと、無線機を操作し、麓に無事を伝えていた。

先生もコーヒーを飲んでから、2階で眠った。僕が元男子なのは先生は知らないので、暖を取る為に一緒に寝ようと、二人で毛布に包まった。ドキドキで眠れないかと思ったけど、セブンに抱きついていたのに気が付いた時のドキドキの方が強烈だったので、たいしたインパクトを感じなかった。多分あっという間に眠りに付いた様だった。


 朝日よりも早く目を覚まし、先生が持って来てくれた缶詰をメインにして、汁だけの味噌汁を作った。ご飯はまた飯盒2つ炊いておいたので、お昼の分も含めおにぎりをたくさん作った。3人が起きて来て、地味な朝食を済ませて、雨上がりの山を下った。

途中、増水で山道と小川の区別が無くなっていたり、ロープを張ってあった沢渡りも来たときは、水の無い所を選んで渡れたが、くるぶし迄浸かって何とか渡りきった。


 登山口には、救急車と消防隊員が2人、それと教頭先生が待っていた。森先生は、凄い勢いで駆け寄り、凄い勢いで謝っていた。夜間の捜索は危険なので、立入禁止にしたはずなのに、先生はコッソリ登ってくれたそうだ。しかも、消防の無線機を勝手に借りて来たらしい。結果オーライなので、消防士さんたちは怒るどころか、労っている雰囲気だった。教頭先生の方が渋い顔だな。僕等の時代でこんな騒ぎが起きたら、保護者からのバッシングとかで酷い事になっているだろうけど、こっちの時代なら、それ程心配は要らないようだ。織田さんの怪我も軽い捻挫なのと応急処置とおんぶのお陰で回復も早そうだとお医者さんが言っていたそうだ。驚いた事に、今日から普通に登校している。

 早朝からの下山だったが、雨上がりの足元の関係で11時を過ぎていた。おにぎりはあるけど、次のバスは14時なので、かなり時間を潰す事になる。あきらめて、お茶でもと思ったら、途中まで救急車で送って貰える事になった。消防署が定鉄の真駒内駅のそばなので、そこまで乗せてもらえることになった。もうすぐ廃線らしいので、特に『乗りテツ』って訳じゃないけど、嬉しかった。途中の豊平駅なんかは、1つの街になっていて、狸小路でも驚いたけど、そこにも映画館があった。

 苗穂駅で降りて歩いた方が早いと森先生が言うか、教頭先生はイヤイヤ歩くようなので、実はそんなに便利じゃないのかも知れない。国鉄に乗り換えて、札幌駅から学校迄は、バスなので、運賃や乗り換えの手間を考えると、歩くのも良かったのかも知れない。


 学校に着くと、丁度6時間目が終わった所だった。

「ハイハイ、ホームルーム始めるよ!」

普通に職員室から来たような顔をしていた。いつものように皆んなを送り出すと、隣のクラスに行って織田さんの様子を見に行った。ほぼほぼ普通に歩ける位なのを確かめ、やっと安心した様子だった。


 道場に帰ると、エリーが目を輝かせて待っていた。

「昨夜はお楽しみだったんでしょ?」

僕はピンと来なかったけど、罪悪感があったピーさん達は動揺していた。最初のターゲットになったピーさんが、エリーの尋問に催眠術にでも掛かったかのように、淡々と答えていた。一人ずつ隔離して、エリーの尋問が続いた。3人が終わると、

「詰まらないな!やっぱり元女子だからかな?」

エリーは、ガッカリして大欠伸。

「若い男女が嵐の夜を暗い山小屋で肌寄せ合って温めあっていて、何も起きないなんて、かなり異常だよ!」

実質的には何も起きなかったけど、僕的には、引っ掛かる事があった。エリーに気付かれたら、また尋問されるのは間違いないので、知らんぷりで通すつもりだったが、エリーの嗅覚は誤魔化せなかった。エリーの圧力に屈し、ドキドキの感想を打ち明けた。森先生はそんなに艶っぽくは無いが、中々の美人だし、鍛えたカラダはメリハリがあって魅力的だ。そんな先生と抱き合って眠っても、脈拍も血圧もきっと変わりなかっただろう。セブンの背中の方がドキドキした事は伏せて置いたが、エリーはお見通しなんだろうな。

「ねえエイミー、誰がタイプなの?」

「だだだっ誰って、そそそんな・・・!」

なんて言ったらいいのか解らず、答えを探しながら、言葉と吐息の中間のような音になった。動揺しまくった僕を見てエリーは満足したようで、そろそろ勘弁してやろうって感じの微笑みで開放しくれた。

 道場からいつにも増して、ハードな稽古の音が、響いた。英造さんはムリをするなと、クールダウンさせようとしていたが、師範は、

「除夜の鐘みたいなもんだ、煩悩の数だけ打ち込めばいいさ!百八つじゃ足らんかもな!ワッハッハ!」

今の英造さんは、落ち着いた感じたが、僕等がいた時代で、師範でおじいちゃんになると、ピーさん達の中から僕のお嫁さんを選んで、道場を継がせたいって言い出して、3人とちょっと気不味い雰囲気になった事も有るんだよね。暴走しないといいんだけどな。

 ヨレヨレの3人を老師が銭湯に誘った。セブンが何かギャグでも言ったのかな?急にピリピリ感が消えて、和気あいあい出掛けて行った。

 女子だけ残されると、花音と千鶴さんに挟まれ、エリーに受けた尋問と同じ質問で攻められた。モジモジしているとエリーが、

「さっき確認したから、私が説明するね!」

かなり盛った説明に、2人は目を輝かせていた。結局、目ぼしい事実が無かったの事に落胆の様子だった。僕が彼(女)等と何も無かった事に、花音がガッカリするって事は、やっぱり僕に対しては異性として認識していないようだし、恋愛対象とは見られていない事が身に染みた。変身する前って言うか、元の時代の頃ってどうだったのかな?ほとんど自信は無かったけど、こっちの時代に来たばかりの時、『恋バナ』名目でのエリーの尋問の反応では、脈アリ?って思ってしまったけど、こんな姿じゃムリだよね?友達以上、恋人未満なんて言い方があるけど、このままじゃ、キッカリ友達だよね?どうせなら、花音も男になっていれば良かったのにね。ん?男になった花音と付き合いたい?なんか、日に日に心まで女性化して来たんじゃないかな?イヤイヤ、ピーさん達だって恋愛対象じゃ無いし!そう思っていると『誰がタイプなの?』エリーの言葉が頭の中を駆け巡った。ピーさん?ラヴ?セブン?迂闊にも、それぞれとデートするシーンを想像って言うか、妄想してしまった。

「どうしたの?具合、大丈夫?」

花音が心配そうに顔を覗き込んだ。

「イヤ、変な妄想とかしてないから!」

「エイミー、ちょっと落ち着いて!赤くなって、裏返った声でそんな事を叫んでたら、『妄想していました!』って拡散してるような物よ!」

チグハグな言い訳でなんとか場を凌いだ。


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