婚約指輪
晩ごはんの後、父の日仕様に包装して貰ったお財布を持って、ジくん達の部屋に行った。
「そんなに貰え無いよ!これだって自分で払うつもりなのに!」
ポッケから出したお財布を奪って、
「大人の持ち物じゃ無いでしょ?」
代わりに、受取拒否されていた紙包みを押し付けた。
「シール見てね、ジくんしか受け取れ無いでしょ?」
『お父さんありがとう』季節外れのシールをお店のお姉さんが探し出してくれていたので、しっかりアピールした。
「明日のデート楽しみってアキちゃん言ってたよ、きっとおめかししてくるんだろうな。いいから開けてみて!」
渋々リボンを解いて、包みを開けた。
「あっ!アキちゃんとおんなじブランドだね!」
女子目線も残っている茂雄が速攻チェックしていた。
「ハイ、中身入れ替えてね!」
古いお財布を返してあげた。
「あ、ありがとう。遠慮なく頂くね。次、賞を獲ったらばっちりお礼するから期待しててね!」
「うん、先ずは明日のデートしっかりね!」
部屋に帰ってエリーとお喋り。
「賞金が出る賞って、今年続けて貰った3つだけの筈なんだよね。」
ちょっと寂しく思って呟いた。
「『孝行をしたい時には親は無し』なんて言うでしょ?本来、英太にピッタリの言葉だったのが、今日叶ったんだから素直に喜んでおきなよ!」
それもそうだよね、元々その積りだったんだしね。またまた他愛のないお喋りをして灯りを消した。
翌朝、しっかり変身したジくんが現れた。ちーちゃんが驚いて、
「英司だよね?人並みの格好すると、中々の男前だね!父さん程じゃないけど。」
目をパチパチさせていた。
それじゃあと、玄関まで見送ると、靴を買っていなかった事に気が付いた。サンダルとボロいスニーカーしかなくて、大ピンチ。
「靴のサイズは?」
「26だよ。」
「じゃあ、俺のローファーが一番マシじゃないかな?黒だけど。」
うん、他に選択肢は無いな。二人とも水虫じゃないしね。出来れば茶が良かったよね。取り敢えず、ジくんを送り出した。
何となく落ち着かない感じで、ジくんの帰りを待った。意外な事に、昼過ぎアキちゃんが一人で帰って来た。
「あいつ、算数からやり直しが必要ね!」
かなりの御立腹。理由を聞くと、
「給料3ヶ月分って言うけど、原稿料不安定だから、お手頃のにしようって言ったのに、準グランプリの50万と佳作の5万2つ分で、60万の指輪買うって聞かないの!」
アキちゃんは、普段の原稿料から算出したら2、3万だけど賞金の事も考慮して、もうちょっと上積みあるかなって予想だったみたい。アキちゃんが不満をぶちまけ終わった頃、ジくんが帰って来た。アキちゃんは持っていた紙袋をジくんに押し付けてさっさと帰って行った。
紙袋の中身は茶色のスリッポンで、今日のジくんにピッタリだった。アキちゃんが怒った理由もちゃんと理解していない様子で、エリーが子供のフリを忘れて説教をしていた。
「ちゃんと言っくれたら良いのに。」
ジくんがボソッと言うと、
「稼ぎが少ないアピールになるから、言わなかったの!ちゃんとわたしの話、聞いてたの?」
エリーがキレてやっとジくんも納得した様子だった。
「アキちゃんの言いたい事は解ったけど、アキちゃんが反応していた指輪は15万位のだったんだ、アレにしないか交渉して見るよ!」
コードレスフォンの子機を持って固まったジくんに、
「代わりに話そうか?」
「いや、甘えるなってもっと怒りそうだから頑張る。地下鉄もドニチカだからもう一回行って来るよ!」
ジくんは、手短に電話をして、スリッポンを履いて出掛けていった。
次に二人が帰って来たの夕方で、ジくんが言っていた指輪に決めて来たそうだ。サイズ直しがあるので、お披露目は来週迄お預けみたい。アキちゃんの説明を聞くと、元の時代の母さんが大切にしていた指輪に間違い無さそうだった。
「婚約前祝いだね!」
エリーの音頭で、パーティーの準備が始まった。
「エリちゃんって、ホントに小学生なの?母さんより大人に見えたよ。普段から、上級生の面倒も見てるしさあ。」
そう言えば、エリーの正体って言うか、令和から来た事は言って無かったんだね。流石に誤魔化すのも可笑しいので、ネタばらし、納得の様子だった。
大人はビール、僕らはサイダーで乾杯、急なパーティーなので、取り敢えずジンギスカン。前は火力不足?葛根湯達の胃袋に対応出来ていなかったので、カセットコンロが2つに増えていた。
主役の1人のジくんだけど、ビールをグラス1つ開けると、
「急に描きたくなったんだ、ゴメン、今のうちに描かなきゃ!」
と、アトリエに籠もってしまった。
「じゃあ、アキちゃん、二人分飲んでね!」
ちーちゃんは、アキちゃんのグラスをビールで満たしてニッコリ。アキちゃんも負けずに注ぎ返していた。二人ともかなりの酒豪なんだよね。おめでたい席だし、楽しそうなので、放っておきましょうね。田中家に挨拶しに行く計画とか、トントン拍子に進んでいるけど、ジくんがいないうちに決めちゃっていいのかな?お肉もビールも無くなって、お開きになった。アキちゃんは、至って当たり前の行動の様に、僕の部屋にお泊まり。結構飲んだようで、おやすみ3秒で熟睡していた。シングルベッドの残り半分をエリーとシェアして、僕らも眠りについた。




