花音の母
しばらく平穏な日々が続いた。体育祭、期末試験、球技大会。僕は無事過ごした。彼等はそれなりに大変だった様だ。
球技大会で、ひと騒ぎあったそうだ。まだまだ成長中の高校生なので、上級生に勝つのは大金星なんだけど、アッサリ優勝しちゃったらしい。しかも普段練習に参加しているバスケじゃ無くって、バレーに出たのに、決勝まで全て圧勝。またまたスカウトに追われる事になったらしい。
昭和に行った時には、スーパーパワーを身に着けていた花音だけど、平成に来てからは、元に戻ったと言うので、一緒のチームなら、しっかり足を引っ張って悪目立ちを緩和するのかと思ったんけど、茂雄の実力は、
「俺達と変わんない位かな?」
ピーさんは、サラッと言うけど、充分に『普通』エリアからはみ出しているよね。戻ったって言うから、もっとダメダメを想像していたのにね。正路も元々スポーツは嫌いなだけで不得意ではないんだよね。確かに腕力とか瞬発力とかが必要な分野は、平均かちょっと劣るかな?本人は持久力も無いって言うけど、心の持久力?やりたく無いから止めたり、手を抜いたりするので、所謂『やれば出来る』って感じなんだよね。このチームならセッターかな?クイックとか時間差とかはムリだろうけど、ノーマルなトスを上げれば、葛根湯達がブロックの遥か上空からスパイクを打ち込みそうだよね。想像通りだった様で、そんな結果。
バレー部が騒ぐから程々って考え無いのかな?
「手を抜くのは相手に失礼だ!」
ピーさんのスタンスは変わらなく、ラヴも負けず嫌いだし、セブンも学校の調和よりもチームの調和を優先して、本気モード。球技大会様に、少し低くしたネットだと、ブロックの時飛び越すんじゃないかと心配されたそうだ。
バレー部とは、『壁』で手を打ったとの事。スパイクの練習の時にブロックする担当らしい。次の球技大会は、サッカーでもって思ってたんだけど、またサッカー部が騒ぐ事になりそうなので、バスケが有る筈なのでそっちにするらしい。
僕は無事に、彼等は何とか一学期を終えた。休みアケにある学校祭の準備も始まっていたけど、ウチのクラスはバザーとか言って、リサイクルショップみたいな事をするので、茶屋みたいなお稽古とかが無いので、売り物を提供してもらうプリントを刷った位で、あとは、休みアケ。
「卯月太夫が見られないのは残念ね。」
校長先生がスカウトに来た。茶道部の顧問の先生が、立会うだけの未経験者で、代わりに指導して欲しいとの事。結局補習みたいな夏休みになってしまった。
夏休みに入ると、午前はお茶のお稽古、午後もお茶?喫茶店でバイトをした。むっちゃんの知り合いのお店なんだけど、40歳位のママさんと、昼間は主婦パート、学校が終る時間と土日は大学生、高校生のバイトが交代で2、3人いるみたい。夏休みはお子さんのいるパートさんが出られないので、学生バイト学生朝からなんだけど、補習で来られなかったり、旅行に行きたいとかで、僕に白羽の矢って話。まあ、丁度いい仕事量だし、バイト代も現金なので即決で働いている。
「四月一日さん、ブラウス、大丈夫?」
バイトの先輩で短大の2年生の岩田さんが心配してくれた。制服の中で一番大きいのを借りたんだけど、ボタンがギリギリでパンパン、下着のレースが浮いて見える位だった。
「うん、ボタン飛びそう。自前で用意しなくちゃ!」
「バイト代じゃ赤字じゃないかしら?ママに頼んであげる!」
岩田さんは気が利く人の様で、僕にだけじゃ無く、交代で会う人とかの事も良く見ていて、髪型やメイクを褒めたり、元気の無い人を心配したりしていた。
バイトが始まって、少しすると、
「その方が、目立つんだけどね!」
ワンサイズ大きいブラウスを持って来てくれた。
「確信犯?」
岩田さんの尋問にママさんは、
「ヘヘッ!」
ペロリと舌を出した。
「フーゾクじゃ無いんですからね!」
「面目ない!スカートが5号って言うからね、そんなに有ると思わなかったのよ!着せてみたら、パッツンパッツンがセクシーでね、大きいのを捜したく無くなったのよね。」
少し暇な日で、ママのお茶目っぷりや、他のバイトさん達の事、常連さんたちの事を教えて貰った。岩田さんの話も聞いて、
「編集社に内定貰ってるの!来年からは東京でね、作家先生に『原稿お願いします!締め切り過ぎてます!』って言ってるのよ!」
???
「もしかして、智子さん?」
「えっ?そうだけど、どうして編集社の話の時に気付くの?」
あらら、また情報を漏らす事になってしまった。上手く誤魔化すストーリーが思い浮かばない。作文だったら、タイトルも決まらずに取り敢えず名前だけ書いてフリーズしている感じだね。
「かなり複雑なお話しなんです。あと、一緒に居て欲しい人が居るので、バイト終わってから、ちょっといいですか?」
岩田さんは不思議そうにしながらもオーケーしてくれた。ピンク電話から道場に電話を掛けて、茂雄とアポ。地下鉄駅の側の喫茶店で待ち合わせた。
待ち合わせの喫茶店には既に茂雄が到着していた。自己紹介すると、
「薬師さんって珍しい苗字よね?鵲編集社って所に、ご親戚いらっしゃらない?私の務める予定の会社でね、面接してくれた人が、北海道エリアを担当している薬師さんって方だったのよ!あと、何だろ?ゴメンネ、不思議な気持ちなんだけど、キミを見たら、なんかすごく可愛く思えて、ハグしたり抱っこしてあげたい気分なの。4つしか違わないのにね、子供扱いみたいでゴメンネ。一目惚れって感じでもないし?」
智子さんの長台詞を聞いた茂雄は、少し間を置いて、
「俊雄はわたしのパパ、ママは智子で旧姓は岩田です。」
最近はすっかり茂雄モードなのに、花音口調に戻っていた。令和の生徒手帳を見せたけど、花音と茂雄が同一人物だとは思わないので『母 智子』を見てもピンと来ない様だ。茂雄は周りを気にしつつスマホを出して、令和の画像で20から25年後のパパとママを見せて、
「タイムスリップの時に、変身しちゃったの。」
茂雄が涙ぐむと、
「隣に行っていい?」
特に回答を待たずに、茂雄の横に座って抱き締めた。サイズ的には『抱き付いた』が妥当に見えるけどね。
「なんか、どっちが抱っこしてるのか、されてるのか解らないわね!」
お約束の確認、
「一応、SFの世界では、未来の事を話すのはNGみたいなので、ナイショですよ!」
智子さんは頷くと、スマホを触って、
「コレ、カメラなの?」
早速、未来の話を聞きたがった。




