25年ぶりの白昼夢
あの時の記憶が確かなら、今日は昭和44年の僕と、ちょっとだけ違う令和からと、異世界から来る、僕のソックリさんに会えるはず。
前のときはちょっと歩いて乗るバスだったけど今回は、地下鉄東豊線でサクっと着いて、『セキレイ』には地下から直接入る事が出来る。因みに、今は次の『豊水すすきの駅』迄だけど、秋には『福住駅』迄、延伸する予定。
『セキレイ』の前に来ると、グラリとタイムスリップに似た感覚。えっ?また?と思って振り返ると、時代は変らず、ショーウィンドウに映った僕に変化は無かった。
道行く人達は何事もない様子だったけど、僕の様にキョロキョロ街並みを確認して驚いている人が3人。タイムスリップのメンバーだった、今通用するお金をほとんど持っていない3人は、ドーナツ店に入ろうとしている、慌てて追いかけて、
「ああ、間に合った!」
不思議そうに僕を見る3人に
「お金もってないでしょ?今のお金!」
4人で店に入って、異世界から来たみーくんのオーダーと4人分のお会計を済ませた。
空いたテーブルを見つけて席に着いて、
「今日は、1994年の5月19日だよ、エイミーは25年前から、もみじは25年未来から、みーくんは異世界から来てるんだよ。」
戸惑う3人に、
「25年前、あなたとして、ここに参加してたの。ちょっとお財布見せて!」
昭和の僕のお財布の中身は、伊藤博文の千円札と小銭だけ。令和のもみじちゃんは、福沢諭吉、樋口一葉、野口英世と充実していた。僕は、夏目漱石の千円札を出して、
「もみじのお金は使え無いよ、エイミーは3人分には足りないでしょ?」
もみじちゃんは青い千円札を見比べ、
「ヘアスタイル変えたんじゃなくて、違う人なんだね!」
令和を知る3人は大笑い。蚊帳の外だったみーくんは、金貨らしき物をテーブルに積んで、記念にと1枚ずつ配ってくれた。
僕が仕切りで、それぞれ自己紹介して、しばらくガールズトーク。『花田松太郎くん』、姉達や、幼馴染に強制的に男の娘の『もみじちゃん』でいるそうだ。ただ、居心地のいい環境なので、『もみじちゃん』で居続けるのも悪く無いと、思っているそうだ。
「ヒゲとか筋肉とか、段々と『もみじ』で居られなくなるよね。」
もみじちゃん、口で言うよりも、このままを望んでいるように見えた。
困った事を報告し合う。
「一番困ったのは、幼馴染で初恋の相手で今でも好きな娘と同性になっちゃった事かな?女同士でラクな事もあるけど、やっぱり恋愛対象なんだよね。」
もみじちゃんは大きく頷いたが、みーくんは、
「あたしの世界では、魔法で都合良く解決してるよ!」
『みーくん』こと『川端ますみさん』は50年以上前にこっちの世界から転生して、魔法で男の子に変えられたまま半世紀を過ごし、本来の女の子に最近戻ったそうだ。男性でいた時の想い人と結婚して、現在は実質的に同性婚になっているそうだ。ただ、変身過程で男性でいると時に、奥さんが妊娠、お嬢ちゃん1人と奥さんの卵子と自分の凍結精子で、現在妊娠中との事。50歳は越えているはずなのに、見掛けは高校生。不思議に思って尋ねると、魔女は歳をとらないそうだ。一応僕は、司会進行役で自分の事は話さなかった。25年経って髪が伸びただけって可笑しいよね?過去の時代の僕に、今(未来)の事を知らせて良いものかちょっと迷っていたんだよね。
話に花が咲き、あっという間に夕方だった。
「そろそろでましょうか?」
ゾロゾロと引き連れてと『セキレイ』の前でサヨナラの挨拶をして、
「賭けは正路の一人勝ちよ!」
昭和の僕に耳打ちして紙袋を渡した、またグラリとタイムスリップの感触を味わった。目眩が収まって辺りを見渡すと3人は居なくなっていた。
地下鉄で道場に帰って、茂雄と正路に報告しようと思ったら、
「エリーのお母さんが迎えに来て、当たり前の様に連れて帰ったんだ!ゾウさんもちーちゃんも何も不思議にと思わないみたいで、約束通りって感じだったんだ!」
ちーちゃんに確かめると、元々エリーのお母さんが入院する間、道場で預かっていたらしい。僕等がスリップして来た時に入れ替わったと言うか、融合?エリー本人もコッチにいた乳児の記憶は無いようなモノなので僕等とスリップした自分しか把握していなかったみたい。
「それなら、このまま僕等が産まれる迄ここにいたら、新しい身体に融合するのかな?それなら25歳の経験で赤ちゃんって、チート生活かもね!」
ある意味、帰れるって事だよね?ちょっと安心かな?
みーくんから貰った金貨を握り締めてて、昭和の僕に会えたのが夢じゃない事を確認した。昭和に貰った金貨を出し、さっきのと比べて見た。同じ種類の金貨だった。『お守りよりはましな魔法』が掛かっていて、前の時は海水浴の時、ナンパ撃退に葛根湯達を呼び出してくれたんだったよね?今度は何が起きるのかな?エリーがいなくなった独りの部屋は寂しく感じて遅くまで隣の部屋で過ごすと、
「花音もあっちで寝たら?」
正路がとんでもない事を言い出した。
「別に、何かスルのが前提じゃないんだから、二人してそんなに真っ赤になる事もないだろ?エリーみたいに詮索したりしないからさ!今日また歴史を変えたかも知れないからさ、今を楽しんだらいいと思うぜ。」
二人で部屋に戻って、一緒に布団を被った。
迫って来たらどうしよう?拒む自信は無いな。排卵日ってどうやって判断するんだったかな?そんな心配する事になるとは思ってもいなかったので脳内を検索したれどヒットする訳が無かった。花音に聞いたら解るかも知れないけど、そんな事をすれば、誘っている様に思われるよね?緊張で一睡も出来ずに外が明るくなっていた。茂雄も同じ様な感じで、カーテンを通した薄いお日様でも、寝不足なのがハッキリ解った。
朝、正路と顔を合せるのがちょっと気がひけたけど、
「何もせずに、緊張したまま一睡もしなかったんだろ?」
僕等が頷くと、
「やっぱりね!」
やけに嬉しそうに笑っていた。




