入学式
無事に入試を済ませて、僕らはまた高校生になった。僕はまた同じ学校で同じ制服なので、そのままのつもりでいたけど、晶子さんが、
「そんな長いスカート、どこで見つけたの?」
高校入試の時、中学の制服を貸してくれたんだけど、それも結構短かったな。実は母さんって言うことは今の所は内緒なんだけど、何か気付いている様に思える。結局、制服を新調する事になった。
正路と茂雄も制服が必要なので、昭和で貯めたバイト代とにらめっこ。僕の全財産だと、スカートだけで精一杯、膝上のスカートだけにしようかな?茂雄のお財布事情も僕と変わらない筈なので困っていると正路が、
「換金のタイミングだね!」
宇宙から来たヒーローのソフビ人形を数点、買取り点に持ち込んで、3人分の制服と普段着が買える位で売り払った。他は、もう少しで、ネットオークションの時代になるので、その時に売るのがベストとの事。
学校で必要な物を揃えて道場に戻ると、師範が待っていて、
「要るもんは足りたのか?」
前の時代の時から思っていたんだけど、ゾウさんじゃ無い、元の時代のじいちゃんの情報と比べて、お金に困って居ないって言うか、若干余裕が感じられるんだよね。遠慮がちに突っ込んだら、
「44年の時にな、家賃代わりだって正路が色んな事教えてくれたんだ。大雑把な情報なのと、元手が少ないから大金持ちは無理だったがな、衣食住と学校は心配するな。」
歴史変えちゃったんだね?まあ存在自体が本来居ない筈なんだから、変えないほうが難しいんだけどね。もう気にしないでおこう。バブルのタイミングと、地下鉄が開通した時の地価高騰でそれなりの儲けがあったそうだ。父さんは来年、公立高校に入る筈なので、お言葉に甘える事にしようかな?入学したらバイト探すつもりだったけど、次のスリップを考えると、迷惑掛けちゃうかも知れないから、バイト代は安定しないけど、週末の単発のにしようと思った。
さて、入学式。前の2回は転校生って設定で入ったので、職員室経由しての教室だったけど、今回は玄関に貼り出されたクラス分けでクラスを確かめて、教室に向かった。花音が居ないのは寂しいけど、不安は感じない。3回目だし、女子として暮らすのも、合計すれば1年をちょっと超えるからね!一応、自然な感じで溶け込んでいる筈。
チャイムが鳴って現れたのは、織田先生だった。40歳かな?入学式迄に誕生日の人は少ないから、きっと40だよね。当然老けては居るけど、19年前の大学生の時のイメージのまま、クールさが増した感じだった。『担任 菊池 美代子』って札が出ていたので、余計驚いた。
直ぐに体育館に移動して入学式。多分、校長先生の長話しを聞かされるんだよね。耐えるしかないか、、、って、森先生?苗字が変わっていて気付かなかったけど、間違い無く森先生。文字が欠けた訳じゃないよね?林校長?サクサクっと挨拶を済ませステージを降りた。
PTA会長、同窓会会長、生徒会長、新入生代表と登壇して、あっさりした式が終わった。
教室に戻って、オリエンテーション的な時間を過ごし、午前中で下校の筈が、
「四月一日さんは、校長室に寄ってから帰って下さいね。」
前の2回の時には校長室なんて入った事に無かったな。森先生、、、じゃなくて林先生だね、校長先生が待っていた。
「今度も9月迄かしら?」
前回の時で事情を知っている先生は、急に居なくなった事を考えて、入試トップの人が選ばれる新入生代表から外してくれたそうだ。自分の意思でスリップ出来る訳じゃないことを、改めて説明。一応
5月にはまだいる筈って伝えると、
「薬師さんと雨丸さんは、一緒じゃないのかしら?」
興味津々の校長先生の視線に負けて正直に話すと、
「もしかして、あなたも男の子だったの?」
やっぱり突っ込まれた。毒皿状態で、洗いざらい説明。
「ただの『ボクっ娘』じゃなかったのね、苦労した?」
言葉遣いや、友達との接し方に困ったのと、お風呂な更衣室での犯罪者感覚を打ち明けると、校長先生も織田、、、菊池先生も大笑い。
「で、どっちなの?」
校長先生がグイっと迫った。恋愛対象のことだろうな。
「元々、英太の頃から花音が好きで、そのまんまなんだけど、一般に目を向けたら、どっちも同性に思えちゃってドキドキすることは無いですね。」
「花音ちゃん、今は男の子なんでしょ?恋愛のチャンスね!」
菊池先生が小さくガッツポーズ。先生が、生徒の恋愛を推奨するのってどうかと思うけど、まあ僕らの場合は特殊だから気にしないでおこう。
懐かし話(と言っても僕にとっては数カ月前の事なんだけど)で盛り上がって、
「先生達はコトブキタイシャしなかったんですね?」
「そうね、私位の年代から、仕事を続ける人が増えましたね。『森林伐採婚』って笑われましたよ!」
『森』から『林』になって、木が減ったのを森林伐採と誂われたそうだ。
そんな冗談も交えて、次にスリップした時の足跡消しに困らない工夫をするように打ち合わせて下校した。
校門の手前に人垣が出来ていた、何とかすり抜けると、門の外に茂雄が立っていた。どうやら茂雄を見る人達だった様。
「ウチの学校に大星のコが迎えに来てたからさ、わたし、、、オレも来ちゃった!」
「正路は?」
「デートの邪魔はしないって、独りでかえったの。」
照れながら、おネエ口調で話してくれた。担任のお墨付き?なので、思い切って腕を組んでみた。茂雄は、真っ赤になって、
「あ、当たってるって!」
僕の膨らみに反応していた。いつの間にか、男の子の反応するようになってたんだね。
「元に戻っても、花音にこういう期待はしないでね。」
うん、体型的にって事なんだろうけど、返事に困ってしまった。バイトはどうしようかとか、話題を無理矢理変えて、道場に向かった。




