雨丸路子
そっか、8年前に葛根湯達は居たんだね!今、いつの時代に居るんだろう?っうか、彼等の今っていつなんだろう?僕が今って思っている、平成6年ってホントに今なの?
日記を読んで、ゾウさんとちーちゃんに話しを聞いて余計解らなくなった。正路は、
「手稲のばあちゃんち、小さい頃行った事ある筈だけど、なんにも覚えて無いな。」
正路が、元の時代で住んでいた団地はもう建っているけど、別の人が住んでいて、その前に住んで居た記憶は無いそうだ。
高校生の路子さんなら話しをしてみてもいいかな?まだバイトもして無いし、学校に通う訳でも無いけど、平日にウロウロする訳にも行かないので、土曜日を待った。やっと週休2日になっていて、生活パターンがちょっと元に戻れるように思えた。
土曜日の朝、バスを乗り継いで正路のお母さん、路子さんに会いに出掛けた。高校2年生の彼女が土曜日に家にいるかどうか解らないし、ピンポン押して呼んでいいのかも考えものだよね。取り敢えず、ピーさんの日記にあった住所に行って見ようと思う。
住所は、西区から手稲区に変わっていたけど、場所は変わっていない。地下鉄はまだ琴似迄だったので、JRかバスか悩んで、バスを乗り継いで向かう事にした。札幌駅は高架になっていて、線路を越える陸橋は無くなって高架下を通って南に行けるようになっていた。バスターミナルで乗り継いで、手稲に向かった。
最寄りのバス停で降りると、コンビニがあって、ちょっと寄って見る。バイトのお姉さんが、高校生風なので、お喋り出来そうな人なら、キキコミっぽい事も出来るかな?
「いらっしゃいませ!」
迎えてくれたバイトのお姉さんは、マサミのコピーだった。
「あまるみちこさんですか?」
思い切り不審者扱いの視線が痛かったけど、正路を見て何か感じたのか、もうすぐバイトが終わるので、近くのファミレスでお話しようと、先に行って待つ事になった。
コンビニの数件先の『あひるの水兵さん』に向かった。世界一有名なあひるキャラが青いセーラー服もそのまま看板になっていて、映画やテーマパークで世界をリードするあの会社が経営しているのかと思ったら、全然関係なくて、後に著作権の関係で、看板をかけかえるみたい。僕等の時代の『ドッキリびっきー』だね!内装や、メニューがこの頃から確立してたんだ!
10分も待ったかな?人気のパフェ『回転木馬』を食べながら自己紹介。正路は元の時代の生徒手帳を見せて、緊急連絡先に記載された『母 雨丸路子』を指差した。
「ジョークじゃ無さそうね、正路を見て不思議な気持ちになったの、信じるわ!あと、『雨丸』をちゃんとあまるって読めたから、何かワケアリだと思ったのよね!」
タイムスリップの話しをして、『坂下 雪』が悪さをするかも知れない事を伝えた。
「坂下さんって正君の親戚かしら?お姉さん達はいるけど、葉子さんと紀子さんあと、妹さんは明子ちゃんだから、、、」
「えっ?もう親父と付き合ってるの?」
路子さんの顔が真っ赤になった。明日、初デートとの事。楽しそうにノロける路子さんを見ていた正路が、
「ゴメン、先に謝っておく。」
皆んなが『?』を撒き散らすと、
「クソババアって言ってゴメン、あと若い頃美人だったってウソだと思っていてゴメン!」
路子さんは、嬉しそうに笑って、正路の隣に立ってギュッとハグしていた。
「なんだろう?母性本能ってヤツかしら?」
正路は、居心地悪そうに振り払い、
「やっぱ、クソババアって言うぞ!」
ニッコリ笑って隣に座る路子さんは、駄々っ子をあやすママの顔だった。色々お喋りして、路子は幸せいっぱいの様子だったけど、正路はどんどん沈んで行った。
「あのさ、親父と結婚して俺を産むんだけどさ、離婚してさ、シングルマザーで俺を育てるんだぜ、苦労するのが目に見えてるからさ、親父はやめといたら?」
「そんな事したら、君、産まれて来ないよ?」
「死ぬのは怖いって言うか、嫌だけどさ、産まれて来ないんなら、別に何も思わないんじゃ無いかな?」
正路の耳に入っている情報では、親父さんの実家で暮らしていて、姑、行かず後家の姉二人との折り合いが良くなかったらしい。2人で暮らしていて困った話しをしていた。
「ありがとう、親孝行ね!でもね、君に会ったらね、別の人生なんて選択肢は無くなったわ!『母は強し』って言うでしょ!それに、『雪』って娘の思う通りって面白く無いでしょ!」
居心地悪そうな正路を挟んで色々お喋り8年前、ピーさんラヴと公園でバスケした事を覚えていて、その後ダンクシュートを真似て自転車から飛び付いたりして怪我をする子が出たり、リングに届く子がぶら下がって壊したりして、ゴールが撤去されたそうだ。
ランチも食べて、
「いつまで今の時代に居られるのか解らないのね?」
「うん、5月19日には居るはずだけど、それも確実かって言えば怪しいけどね。」
正路の生年月日や、記憶に残っている暮らしの情報を伝えると、
「今度はお腹の中かな?待ってるわね!」
バス停で、バスが来るまでまたまたお喋りして、バスに乗ってもずっと手を振ってくれていた。
「待ってるって言ったってさ、ちゃんとスル事シテくれなきゃ俺は出来ないんだけどね。」
「正路のシモネタ久しぶりだね。」
「懐かしいだろ?」
「イヤ、ただのセクハラ!」
正路は、マサミになった心境を話し始め、男女の考え方や、立場の違いから、男尊女卑についてとか、正路っぽくない真面目トークだったけど、
「こんなに早く戻れるんなら、もっと女子を堪能しておけば良かったな!ん?何って?ああ、言ってもいいけど、またセクハラって怒るから止めておくよ。エイミーも茂雄も今度スリップした時には同性になるかもしれないから、今のうちだぜ!」
茂雄は正路の話しを飲み込む迄ちょっと掛かったみたいで、一拍置いてから真っ赤になっていた。多分僕も真っ赤だろうけど、気付かないフリをして、受験の話題に振って上手く誤魔化した。




