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バックトゥザ令和  作者: グレープヒヤシンス
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課題

 道場に帰り、花音の仕切りで、呼び方についてのミーティング。僕が『エイミー』で、姉ちゃんが『エリー』と説明した。みんな、すんなり受け入れてくれた。凜のピーさん、愛梨のラヴ、菜々美のセブンは、女子の時からのニックネームだが、まあユニセックスな感じなのでそのままでいいかな?

「ピーさん達は、正路の事はなんて呼んでるの?」

花音の問に、3人が声を揃え、

老師(ろうし)!」

正路本人も満更じゃなさそうだ。

「じゃあ、私も『老師』って呼ぶから、『花音』でお願いね!」

そう言えば、『薬師さん』、『雨丸君』だったな。それぞれとは小さい頃からの仲だけど、直接二人が仲良しだった訳じゃ無かったもんね。


『エイミー』の違和感が残っていたが、『老師』のインパクトでなんとなく、しっくり来た感じがした。皆んなの呼び名も決まった事だし、これからの生活と言うか、令和に戻る方法をどう調べるのか話し合った。

 この時代には僕達の戸籍は無いので、公には存在しないことになる。身分証明書は無いし、健康保険証もない。正式に働く事や、学校に通う事など出来ない事がいくつもある。カードやスマホは元々使え無いので問題ないけど、健康保険証は病院にかかる時に困りそうだ。


「何年か前に、未来から来たって言う人がいて、調査資料が、市立図書館にあるそうだよ!」

英造さんが調べてくれていた。

「図書館って、南二十何条かの西十何丁目かの市電の所かしら?」

エリーはたまに用事があったので、地の利があるみたいだ。

「いや、その住所なら大学があるよ、大学の図書館はあるだろうけど、そこじゃなく、植物園の向こう側なんだ。」

英造さんは、バスと路面電車を乗り継いで行くルートも教えてくれた。

 僕は、玉葱のバイトがまだあるので終わってからにしようと言ったが、働けないエリーは明日にでも行くと張り切っていた。流石に未就学児が独りでウロウロってのも不味いので、老師が付き添う事になった。


 その後も帰る方法に付いて語り合ったが、結局はただのお喋り。青いネコのロボットが使うタイムマシーンは、学習机だってので、英造さんの机を見せて貰ったが、ただのちゃぶ台で、引き出しも付いていなかった。ガッカリよりもやっぱりで道場に戻った。

「今夜は、カレーよ!」

千鶴さんの声と美味しい香りに誘われて食堂に向った。

千鶴さんと待っていたカレーは、間違いなく、母のカレーだった。ご飯が全部隠れるよう掛かっていて、ラッキョウも福神漬けも無し。具は玉葱と豚肉だけ、鶏ガラスープが美味しさの秘訣。

「母さんのカレーだ!」

千鶴さんは嬉しそうだった。

炊事遠足の時、他所の家では、ジャガイモとニンジンがほぼレギュラーで、それぞれの家ではその他の野菜が入る事を知って驚いたんだっけ。

「そんなの入れたら、カレー味の豚汁じゃない?」

素直な感想なのに、ギャグだと思われて、結構ウケたんだよね。皆んなには、物足りないかも知れないけど、美味しそうに食べていた。ピーさん達は、3杯ずつ飲み込むように平らげていた。


 部屋に帰って、布団を敷いた。

「ねえ、そんなにピッタリ敷き詰めなくてもいいんじゃ無い?」

「イヤ?」

エリーは2文字で会話を終了させた。お風呂はクリア出来たから、大丈夫かな?

やっぱり両側から抱き枕代わりにされていたが、昨日の分の寝不足も手伝って、あっという間に眠りに付いた様だった。


 朝、目を覚ますとエリーはもう起きてお出かけ用のおめかしに余念が無かった。遅れて目覚めた花音に、髪を結わせていた。

準備万端のエリーは老師を起こしに行った。

「ちちち、ちょっと待って!」

野太い叫びが4色。慌ててエリーを呼び戻した。あの様子だと、朝の生理現象で変形した股間の件であたふたしているんだろうな。食堂に行っていると、少ししてやって来た4人の表情を見ると、まあ正解だろうな。


 エリーと老師は、図書館に向った。残った僕等は今日も玉葱農家のバイト。すっかり仕事にも慣れて、どんどん片付いていった。少し早めに上がってエリー達を待った。

「うん、参考になるかな?ならないかな?」

先ず問題なのは、実話の記録では無く、小説のような形式だった。なんだフィクションかって思ったけど、未来からスリップした感じが、自分達の体験と酷似していた。違うのは、誰も変身していなかった事。内容を見ると、平成になったばかりの頃から戦後にスリップした二人を描いた物語で、エンディングで二人は消えてしまう。平成に帰れたのかどうかは解らない。

戸籍の問題や仕事の事等、気になる事は描かれていなかった。消えたきっかけも解らない。

北海道が当時のソビエト連邦に呑み込まれるのを阻止したヒーローとヒロイン。ソビエトの政府機関へのテロ事件を未然に防ぎ、マッカーサー元帥に恩を売って、北海道が分割されずに済んだというストーリーだが、そんな事でマッカーサーは動くんだろうか?元々、東側に睨みを効かすのに必要だから、マッカーサーは手放さなかっただけじゃなかったんじゃ無かったっけ?

ミッションをクリアして未来に帰ったと筆者は締めていた。

結局、ただの読み物として皆んなで回し読み。もし、何かミッションがあるとしたらなんとか早く見つけ出し、さっさとクリアしたい所だ。

 1969年、昭和44年って何かあったかな?三億円事件は前の年だから、それを捕まえる?来年のハイジャックを阻止すればいい?昭和史に詳しかったら良かったのにな。エリーも高校教師だから一般の人よりは詳しいかもしれないけど、数学の先生だからなあ。でも、過去を変えるのはご法度の筈、大丈夫かな?変えるとすれば、新聞やラジオのニュースでミッションを探そうかな?


 エリーが思い出したのは、アポロ11号の月面着陸。もちろん阻止したりする訳では無く、リアルタイムで見られるのが嬉しそうだった。老師は、有名大投手の400勝が観たいと言い、もしずっとこの時代に生きるなら、72年には地元で冬季五輪が開催される。なんだか令和に帰る話しをしている時より楽しそうだ。老師はご隠居さんの様な風貌なので、昼間うろついても問題ないが、僕等はそうもいかない。玉葱のバイトが終われば、無職の不審者に戻ってしまう。玉葱農家のバイト仲間のオバちゃんが話を聞き付け、内職を紹介してくれた。1日頑張っても200円から、良くて300円程度らしいが、無職よりはかなりいい。

 玉葱のバイトが終わり、稽古と内職の日々が続いていた。

「ごめんください、私でも入門出来ますか?」

真っ白のワンピに大きなツバの帽子を被った少女が門を叩いた。

同世代の英造さんはもちろん、親子程の歳の差がある、英一郎(ひいじいさん)も鼻の下を最大限に伸ばして招き入れた。経緯を無視していきなり現れる美少女になんの疑いも感じないのだろうか?雪子(ゆきこ)と名乗った美少女は、可愛いだけじゃ無く妙に艶っぽい、男心を知り尽くしているかの様な振る舞いだった。こんなケース先ずはハニートラップを疑うのは、令和の日本人だからなのかな?トントン拍子に門下生になった。手続きと言うには大袈裟な作業。名簿に名前と住所を書いて貰い、師範(ひいじいさん)が壁に貼る木札に名前を書いて完了。全くの初心者、他の運動も多分何もやっていないだろう。タイムスリップ前の花音のほうが、まだマシなくらいの運痴に見えた。準備体操で運痴の事実は確認出来た。格闘らしき事までは進めず稽古を終了。

雪子が帰っても、緩みっぱなしの英造さんを睨む千鶴さん。心配しなくても、僕が産まれて来ているんだから、お二人はちゃんと結ばれるんですよ!そう言いたいが、あまり他の人に漏らしたくない情報なので、黙って置いた。

 毎日通ってくる雪子、徐々にデレデレになる英造さん、どんどんストレスが溜まる千鶴さん。

「あの雪子って、この時代の人じゃ無いんじゃ無いかな?」

花音がしかめっ面で切り出した。花音の推理では、『ヤバい』って肯定的に使うのってそんなに古く無いはずだと言う。

「ワトソン君はどう思う?」

それって僕の事?実は気になっていた事があった。『全然OK!』とか、この時代では聞かない使い方をしていた。イントネーションもフラットにしている感じる時も結構あった。

「えっ?気付いて無かったの?」

エリーは何を今更って感じで、

「洋服はこの時代のモノだけど、下着は未来って言うか、私達がいた時代のモノだね、カップが2段階アップするヤツだよ!エイミーに近いサイズに見えるけど、実質は花音よりマシなくらいだね!」

例えに出された僕等は、顔を見合わせて、ついでに、サイズを確かめた。

老師がゆっくり口を開いた。見掛けにあった落ち着いた振る舞いがサマになってきている。

「未来から、色仕掛けで英造さんを落としに来たんだよね?エイミーやエイミーのオヤジさんの誕生を阻止するつもりなのかな?もしくはエイミーの子孫!」


 先ずは、英造さん、千鶴さんを呼んで、雪子が未来から来ている人かも知れない事を伝えた。もしかしたら、英造×千鶴の子孫を産まれ無いようにする為かも知れないと言うと、千鶴さんはキリッと引き締まり、英造さんはデレデレ感を放棄した。あくまでも推測なので、内密にするように念を押した。

「雪子さんて、坂下雪子さんだよね?」

千鶴さんは不思議そうに尋ねるので、僕は壁の木札を見て確かめた。

「そうだね、坂下さん。」

「そうだよね!でも彼女の手提げに『YY』って刺繍してあるんだ、『YS』じゃないとヘンよね?」

新たに偽名疑惑も浮上した。偶然とか色々考えてられるので、一応注意して接する事にした。

「やっぱりあの艶っぽさには秘密があったのか?」

セブンがガッカリした顔で台詞を絞り出すと、ピーさんとラヴも同意と思われる大きな溜息をついた。すっかり、男性目線が身に付いている。女性目線なら、『男に媚びるイヤな女』って写るようだ。僕も比べると女性目線だったかも知れない。変身して数日で、結構変化するものだなあ。


翌日も雪子は稽古にやって来た。指導係を英造さんからラヴに交代。3人の中で1番ポーカーフェイスの筈だが、鼻の下を伸ばさない努力が見え見え。もし、英造さん狙いなら、雪子の方もアクションしてくる筈だ。

 稽古から終わると、雪子のターゲットは師範に移った。師範の後妻になる気?それとも『息子の嫁』と言わせての英造さん狙い?師範には、タイムスリップの事や、僕が曾孫だって言うことは伏せてあるので、注意のしようがない。丁度、英造さんと千鶴さんは、師範のお使いで出掛けていた。

気を揉みながら遠目で眺めていたら、雪子を送り出した師範は、

「英美さん、ちょっといいかな?」

何を言われるんだろう?

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