8年前の日記
食堂に降りると、ゾウさんが日記帳を持って待っていた。
表紙には【葛根湯日記】と書かれていた。中を見ると・・・、
1970年9月14日
(が、いつの間にか?)
1986年2月1日(葛)
バイトが押してタイムスリップの時間が間に合わないかも。慌てて帰ると、6時にはギリ間に合ったけど道場には師範、ゾウさん、ちーちゃんだけ。
1時間程前にスリップしたそうだ。取り敢えず俺たちも、荷物を持ってスタンバイ。3人で手を繫ぐとぐらりと揺れた。
気が付くと1986年2月1日だった。昭和61年、11年経っていた。エイミー達は居なかった。色々探して見たけど、見つからない。日記を残してゾウさん達に託して置けば片道だけど連絡出来るかも知れない。師範は今年55歳になるそうだ。初めて会った昭和44年の時、まだ38歳だなんて驚いた。あの頃で今の歳位かと思ったけど、その頃のオジサンってそんな感じが、普通だったのかもしれない。三十代になったゾウさん、ちーちゃんも、よく言えば大人、悪く言えば老けている。英太の父さんが、1年生。一応稽古には出ているけど、お絵描きの方が好きみたいで、ノルマをさっさと済ませ、チラシの裏の白いのを束ねた落書き帳に漫画を描いていた。今回は編入じゃなく、入試で入る予定。中学の成績とか内申書が無いので、師範の口利きで、ムリヤリ受験させて貰う。
ずっと隣の部屋に居たエイミー達が居ないのはかなり寂しい。取り敢えず、学校、稽古を頑張って、4月からはバイト頑張ろう。
やっぱりピーさんは頑張り屋だね。ゾウさんに聞くと、3人は9月14日までその時代に居て、同じ様に消えてしまったそうだ。
1986年2月2日(根)
エイミー達の手掛かりは全く無い。ここには、75年以降現れた形跡は無いから、もっと先にスリップしたんだろう。
師範はまた光谷高校に連絡して、受験させて貰えるようにしてくれた。69年の時も75年の時もそうだったけど、どんだけ顔が効くんだろう?戸籍も何とかならないかな?令和で入学した公立高校がもう出来ていたけど、そっちじゃ無かったのはやっぱり公を誤魔化すのは無理なのか?このままで卒業って出来るのか?そのあとどうなるんだ?まあ心配しても仕方がないか。
クールなラヴも不安なんだね。僕等のスリップ先の推測の仕方も的確でラヴらしいな。
2月4日(湯)
昨日、日記の当番を忘れた。いや書く事を考えてるうちに寝ちゃったみたい。
学校の事を聞いたらまだ男子高だって。学校でドキドキするのも悪く無いっておもったんだけどなあ。
セブンらしいね!でも隣の女子高で騒ぎになる位だから、共学なんて大騒ぎ必須だから、結果オーライだと思うよ。
2月19日(湯)
今日は高校入試。筆記試験だった。一応高校1年を経験しているので、中学生レベルなら楽勝だね。明日は面接だからちょっと緊張するな。16年前に居た先生が居たら不味いかな?
2月20日(葛)
面接終了。まあ問題無いだろう。面接官のオッサン先生、絶対に16年前にも居たな。て、言うか44年から50年にスリップした時も、前に居た先生いっぱい居たのに何の反応も無かったのって何なんだ?結構気になる。
確かに不思議だよね!大星では担任の森先生はちゃんと覚えていたし、織田さんや、むっちゃんも覚えて居たのにね。
2月27日(根)
合格発表。3人とも合格。受験票を見てしみじみ思う。『根岸 光一』エリーに付けてもらったこの名前も、やっと慣れたかな?結構気に入っているし、『愛梨』も『ラヴ』も女子感強いからな。本名と関わり無さそうだけど、どっから来てるのかな。
「ねえエリー、何か由来はあるの?」
『宇宙飛行士から頂いたんだよ』
ピーさんが葛西 衞、セブンが湯原 隆雄。なんとなく似合っている気がするな。
その先を熟読した。部活はせずにそれぞれ別のコンビニでバイトをしていた。次にスリップすることを考えると、1箇所のバイト先で一気に3人抜けると大変だろうと、ラヴの提案だった。
頻繁に逆ナンに会っていたみたいで、
「女の子が積極的になって来たのかな?」
なんて漏らすと、
『あなた達が抑止力になってたのよ!』
ペンを持つ事すら奇跡の乳児が、漢字入りの筆談で反応した。
「お喋りより文字が先って不思議ね!違和感アリアリよ!」
『コントラバスで、おネエ言葉の方がよっぽど違和感!』
「うん、僕も思ってたんだ!あと名前、またエリー付けて貰う?」
「私、いやオ、俺、考えていたのがあるの!って、あるんだ!」
一生懸命、男っぽく?男らしく頑張って、
「俺が男だったら、『茂雄』にしてたってパパ、いや、オヤジが言ってたんだ。」
薬師 茂雄、うん似合っている!
「もしかして候補の中に『貞治』って無かった? 」
正路が聞くと、
「えっ?そう、2つが最終選考に残ったらしいよ、でも何で?」
僕は気付いたけど、野球に興味の無い花音、いや茂雄は不思議そうにしていた。タネ明かしすると、更に気に入ったようだった。




