プロポーズ
日本史の予習をしていると花音が急に教科書を伏せた。
「ねえエイミー?エイミーって言うより、英太ね!英太のパパって何年産まれ?」
真剣な眼差しが僕に突き刺さった。
「ウール百パーセントだから、1979年だよ!」
「何?その百パーセントって?」
マサミがツッコんだ。
「師範、ゾウさん、父さん、僕、キッチリ24歳ずつ違いの未年なんだ!しかも僕は牡羊座!」
要らない情報で、マサミには結構ウケたけど、花音はホッとした感じ。
「4年あれば大丈夫かな?」
「そうか、父さんが産まれ無かったら僕も産まれ無いよね?花音が焦るの、やっと解ったよ!」
確か結婚してしばらく子供が出来なかったって聞いた筈。『しばらく』ってどのくらいかな?今結婚して、4年後だったら『しばらく』って事になるのかな?
居間に行くと二人が居たのでそれとなくアピールすると、ちーちゃんは、真っ赤になって固まっちゃった。ゾウさんは、モジモジしながら、
「一応、準備はしてるよ、互助会に積み立ててるんだ!」
ゴジョカイ?ゾウさんの解説によると、会員になって冠婚葬祭の資金を積み立てておくと、会員価格で式場が使えたりするそうだ。
「それで、いつ貯まるの?」
花音はノリノリで聞いた。
「どんな式にするかで、変わるけど、3月まで積み立てて、4月に挙げようと思ってるよ。」
「そうなの?おめでとう、ちーちゃん!内緒だったの?教えてくれなかったのって!」
「ううん、初めて聞いたよ!」
「4月って事?」
ちーちゃんは首を振って、
「互助会の事も初耳だよ!」
ゾウさんは、言い出すキッカケが無く困っていた所に僕らが振った話をチャンスだと思って、一気に打ち明けたらしい。バタバタだけど、花音はうっとりして、
「プロポーズは?」
ちーちゃんに聞いたけど、また首を振って、
「・・・まだ。」
花音は視線を急速冷凍させゾウさんを貫いた。ゾウさんは慌て出した。
「これからなら、僕らは部屋に帰るよ!」
「イヤ、居てくれた方がいいよ。ちょっと待ってて!」
ゾウさんは走って部屋に帰って何か持って来た。可愛らしい横長のメモ帳?よく見ると、郵便貯金の通帳だった。通帳ってどの銀行も共通の形だと思っていたので斬新なデザインに思えた。
「指輪買いに行こう!俺、どんなの買ったらいいか解らないし、サイズも解らないから一緒に買いに行こう!予算はこれだけ!」
ちーちゃんは渡された通帳を開こうとせずに、正座をして、
「はい!」
きっと今のがプロポーズだったんだね!
2人は師範に報告に行った。師範は大喜び、バタバタと走って来ると、
「お使いを頼む!」
お酒とビールとマトンを頼まれ、花音とマサミとスーパーに向かった。この時代はお使いなら未成年でもお酒類も問題なく買える。マトンは勿論ジンギスカン。パーティーと言えばジンギスカン。元の時代ではほとんどラムだったけど、この時代はマトンの方が主流。歯ごたえがあって味が濃くて美味しいんだけど、ニオイが気になる人はちょっと大変かな?アレは臭みじゃ無くて、アレこそが美味しさの秘密なんだけど、特に道外の人には不評だよね。
葛根湯達も帰って来て、婚約祝いパーティーが始まった。師範はご機嫌で僕らにまでビールを勧めた。この時代は結構ユルいので、お祝いだからOKって感じ。ゾウさんもちーちゃんも成人しているのけど、普段は飲んでいないので珍しい景色だった。マサミは老師の時にちょっと飲んで居たらしく、1杯位は大丈夫だと涼しい顔で飲んでいた。僕は花音と顔を見合わせ、ふた口でリタイヤ。花音のほうがちょっと多く飲んだかな?葛根湯達は乾杯と同時に飲み干していた。師範は気を良くして、更に注ごうとしたけど、流石に明日も学校なのでストップ。ゾウさんはじいちゃんになってから同様強いみたい。ちーちゃんはばあちゃんの時は、結構強かったけど、殆ど飲んで居なかった。アルコールの分解酵素って途中から増えたりしないそうだから、今でも強い筈なんだけどね。因みに、お酒大好きだったエリーは、自分だけ飲めずにプッと膨れていた。
「楽しみね!孫に祝って貰う結婚式なんて信じられないわ!」
嬉しそうなちーちゃんには言い辛かったけど、今度はいつスリップしちゃうか解らないので、
「実はね、前に25年後にちょっと行って来た事話したでしょ?その時の僕って今の僕と殆ど変わっていなくて、髪が少し伸びた位なんだ。だから、この時代には長居出来ないと思うんだよね。」
そういえば、平成のエイミーはあの時のスリップの事だけしか教えてくれなかったよね?しかも、あの時代じゃない時代に飛ぶのを知っていたから、僕とマサミの下着を用意してくれたんだよね?じゃあ次にスリップする情報も知ってる筈じゃ無いのかな?教えてくれてもいいのにね!謎は深まるばかりで、考えても仕方の無い話し無ので、ジンギスカンに集中する事にした。




