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バックトゥザ令和  作者: グレープヒヤシンス
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夏休みの締めくくり

 お盆が過ぎると、あっと言う間に夏休みは終わってしまう。あっちの時代と比べると遊び足りない感じは否めないけど、ちーちゃんに借金返済してまだ余るくらいバイト頑張ったし、小樽遠征も楽しかった。遊び過ぎた人なのか、急にバイト希望が増えて、夏休み中はもう仕事は回って来ない。花音とちーちゃんを誘って、お買い物に出かけた。

 最近気になっていた『パンタロン』を穿いて見ようと思っている。パンチラ上等って感じのお姉さん達ばかりかと思っていたが、最近急に目立って来た。

「エイミー達だったらカッコよく穿けるよ!私の脚に合わせると裾が広がる前に切っちゃうから普通のズボンと変わらなくなりそうね。」

ちーちゃんは僕のスカートをちょっと摘んで笑った。遠い方(安い方)のバス停まで歩き、のんびりバスを待った。周りの畑には深緑のネギ坊主がニョキニョキ生えていた。バスに揺られてバスターミナルについた。何件か回って、何着も試着したけど合わせるトップスも買わなきゃならないし、イマイチピンと来なかったので、夏物のバーゲンを狙った。秋口まで着られそうなワンピを3人で色違いで購入した。

「エリーの分は無かったね、子供服で似たの探そうよ!」

花音の提案で、子供服売り場を梯子した。ほぼソックリのピンクを見つけた。早速飛びついたら、さっきの3着分より高かった。バス賃をちーちゃんに頼る事にして、ふたりの財布をほぼ空っぽにして購入。普段お金を使う機会はほとんど無いし、もう少しでまたバイト代も入るしなんとかなるでしょ?

「私、自分の分払うよ!」

ちーちゃんはそう言ってくれたけど、お礼のつもりでプレゼントしたかったので、なんとかそれは避けた。こっちの時代に来て、色々揃えた時に貯金を叩いて助けてくれた。僕等が借金返済と言っても、

「買ってあげたんだから気にしないで!」

なんとか受け取って貰って、お礼に何かプレゼントってムリヤリ誘ったのに、また気を使わせてしまった。取り敢えず、お言葉に甘えて、バス賃は借りずに貰う事にした。


 道場に帰って、エリーにお土産を渡して、着替えて来るように言って、エリーが部屋に行っているうちに、僕等は急いでちーちゃんの部屋に飛び込んで着替え、お揃いになって待ち構えた。

「ちょっと、可愛すぎじゃ無い?」

そう言いながら、登場したエリーはかなりのご機嫌だった。

「おっ、オソロ!」

更にご機嫌になった。

 葛根湯達がビール工場から帰って来て、皆んなのワンピを褒めてくれた。

「結構したんじゃ無い?」

すっかり男子になりきっているピーさんだけど、お洋服の目利きは女子の感性が残っていた様だ。ちーちゃんとエリーの分の割り算に加えて欲しいと言い、5人で割り勘することになってバイト代が入るまで安心して過ごせそうな残高になった。

「老師は誘わなくて良かったかな?」

「老師は高給取りだから、今日の事を聞いたら別にプレゼント用意すると思うよ、何がいいか俺達に相談する筈だから、そのワンピに合う靴がいいって言っておくよ!」

セブンはそう言って、どんな靴が合うのか会議を始めていた。

 帰って来た老師は、セブンの予言通りの行動で靴屋に行く打ち合わせが始まった。


 数日前に開通したばかりの黒電話が鳴り響いた。キャラメル工場からの電話で、予定していたバイトが急遽来られなくなったので、明日、明後日出て欲しいとの事。夏休みの宿題でバイトどころじゃ無いって人がいるそうだ。僕達は前半で片付けてあったので、快く引き受けた。今回も期末試験の時みたいに、割増してくれるみたい!結局バイトに明け暮れてしまった夏休みのフィニッシュもバイトで締めくくる事になっていた。2学期が始まれば、学校祭の準備でしばらく働け無いと思うから丁度よかったかな?子供服が想定外の高額だったし、結果オーライだね。

 

 夏休み最終日、いつものようにキャラメル工場に通い、1日働いて夕方は5時のチャイムでキッカリ終わる。

「学校祭終わったらまた働いてくれるよね?」

総務のおじさんがニコニコと寄って来た。元々しっかり働くし時間は当然守るし、シフトの危機をまた救ったので、とても喜ばれているようだ。9月上旬までは学校祭の準備でバイトに出られない事を話して置いたら、本来末締めの5日払いのバイト代を今日の分まで先払いしてくれた。封筒に書かれた明細には、今月分全部が割増の金額になっていた。

「学校祭なら臨時の出費有るかもしれないでしょ?日当上がるのはバイトだとホントは3年目からなんだけど、他の高校生が急に来なかったりしたんでね、あのコ達ほとんど3年生だけど昇給無しにしたんだ。だから、絶対にナイショだよ。」


 いつもは真っ直ぐ進む交差点を、左に曲がり、ビール工場の前を通る。門の所で葛根湯達が待っている。ちょっと遠い商店街の靴屋さんで老師達と街合わせていた。高校の近くにあるお店で、映画スターの似顔絵が手描きポスターみたいになっている目立つことこの上ないお店なので、待ち合わせ場所としては間違えようの無いお店だった。

 到着すると、エリーの見立てで3足に絞られていて、僕達の多数決で決める事になっていた。僕は棄権しようと思ったけど、自分が履くならどれって基準で選べばいいって言われ、一斉に指差した。皆んな同じ靴を選んで即決。エリーのイチオシもこれだったそうだ。

「あと、23半と24ですね!」

店主らしきおじさんが2箱運んで来た。蓋を開けると、花音と僕の前に揃えてくれた。

「靴は絶対に試着してからじゃ無いとダメですよ。」

箱の蓋を戻す手の爪には絵の具?ペンキ?の汚れが付いていた。

「あの看板、おじさんが描いたんですか?」

「うん、そうですよ!画家じゃあ喰えなくて、家業を継いだんです。でも、どうして気づいたの?」

「爪の所、カラフルだから!」

「名探偵ですね!」

おじさんと笑っていると、

「早く履いてみてよ!」

老師が急かした。

 先が丸くて可愛らしい割に少し踵があるせいか、子供っぽ過ぎない。第一、おニューのワンピにピッタリだった。サイズもピッタリだと言うと、老師が4人分プレゼントしてくれた。自分で買うと言おうとしたらセブンに止められ、

「このタイミングなら、素直に受け取った方が無難だと思うよ。」

アドバイスを聞いて有り難く受け取った。老師の財布から旅立った二人の聖徳太子は、伊藤博文に変身して帰って来たようだ。

ご機嫌のエリーは、遠慮して困った顔のちーちゃんに、

「こういう時は、素直に喜んだ方が、老師も買った甲斐があるって言うもんだよ!」

それぞれ手提げに入れて貰うと、ちーちゃんは宝物のように大切に抱えた。この時代ではサイズが合わなくなるかボロボロで履けなくなったら次を履く感じが主流派らしいので、オシャレ用に靴を買うなんて、かなりの贅沢に感じたようだった。1キロ程ある道場への帰り道は、夏休みの締めくくりに相応しい軽やかな足取りだった。

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