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バックトゥザ令和  作者: グレープヒヤシンス
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七夕まつり

 カンカンカンカン。

ゾウさんが何か作っている。しばらくすると、窓からエリーを呼んだ。完成したのは、粉ミルクの缶で作った提灯らしい。缶のフタと底に釘でいっぱい穴を開けて、缶の中にロウソクを立てる釘を建て、針金と竹で持ち手。完成品を2つ掲げて鼻高々のゾウさんだったが、それほどの作品とは思えなった。

「おっ、凄いな!」

老師が勤めている電器店の社長が、お嬢ちゃんのあやちゃんを連れて遊びに来た。ゾウさんは、缶の提灯を一つあやちゃんに渡すと凄く喜んでいた。後で聞いた所、あの缶提灯を作って貰えない子が、仕方が無く、玩具屋で紙の提灯を買ってくるそうだ。

 今日は、8月7日、七夕まつり。ちーちゃんは、柳の枝を貰ってきて、七夕飾りを作っていた。竹じゃないの?あっちの時代では、あんまり家で飾る事は無いけど、飾る場合は、スーパーとかで、竹を買って飾っていた。こっちでは、貰って来るそうなので、自生している竹では飾りにならないので、そんな風習になったんだろうね。

 少し暗くなってくると、近所のオジさん達が、酒瓶を手に集まって来て、ジンギスカンパーティーが始まった。

「これも七夕の習慣なの?」

「いやいや、電器屋さんが、プール連れてってくれたとき、ジンギスカンなのに飲めなかったでしょ?その埋め合わせだって。」

プッと吹き出してゾウさんが答えてくれた。

 

「お姉ちゃんも『ローソク出せ』行く?」

疑問形だけど、あきらかに誘っている雰囲気だった。『ローソク出せ』って何?『?』マークいっぱいの顔した僕を見て、ちーちゃんが解説してくれた。七夕の夜に子供達が、近隣の家を回って、ローソクを貰って回る行事との事。ハロウィンみたいなものかな?小学生メインでその弟妹で一緒に歩ける子が参加するようなので、謹んでご遠慮した。エリーは捕まってしまい、渋々参加するようだったが、ちーちゃんが出してきた浴衣を見て、まんざらでもない様子になっていた。

「エリーちゃん、あやとお揃いね!」

柄は違うのでお揃いではなかったけど、だいたいの女児浴衣がピンク系なのでザックリ見ると、皆んなお揃いっぽい。あっちの時代のお姉様達の様な、百花繚乱って感じではないんだよね。

ちーちゃんはエリーに浴衣を着せ、髪をアップにして、ピンクのリボンで仕上げると、

「ピンクいいな、あやもピンクいいな!」

「じゃあ、あやちゃんピンクにして、その赤いおリボン、エリーちゃんに貸してあげようか?」

満面の笑みでピンクリボンのあやちゃんが社長に見せに行った。

「赤の方が、帯に合っていいかしら?」

エリーも気に入ったみたいだった。

 火を扱える、高学年のお姉ちゃんについて『ローソク出せ』に出掛けて行った。オジさん達はもう酔っ払っちゃっていて、恒例行事なので子供達の心配は全くしていない様子だった。

 2時間程で『ローソク出せ』の子供達が帰ってきた。まだ8時を回ったくらいだけど、小さい子供にとっては、大冒険だった様で、興奮気味の子が多かった。ん?エリーがいない?詰まんなくて、バクレちゃったんだろうな。

「そこの公園まで全員居たんです!」

最年長のお姉ちゃんが血相を変えて走り出した。エリーより、その子の方が心配だったので、一緒に走った。公園の手前まで行くと、エリーの下駄が片方落ちていた。周りを見渡すと道路を渡った所にもう片方、少し離れた街灯の所に、ゾウさんが作った缶提灯が落ちていた。心配して追ってきた老師と葛根湯と缶提灯を拾いに行くと、今度はローソクが落ちている。少し離れた所にポツポツ有って、

「これって、ヘンゼルとグレーテル作戦?」

 ローソクを辿って歩くと途中から駄菓子や飴玉に変わっていた。更に歩くと何も無い所で、手掛かりが消えてしまった。

「ここで切れたのって、落とすものが、無くなったのかな?車に乗せられたんじゃ無きゃいいんだけどね。」

そう呟きながら、つい癖でスマホを見た。いつもは仕舞っているんだけど、花火とか撮ろうと思ってバックに潜ませていた。

「エリーのWi-fi届いてるよ!」

電波が『強』になる所を探すと、軟石造りの倉庫がMAX。エリーにメールを送ると、

『私は無事、あやちゃんを守って!ゾクはここに二人、武器は木刀、他にアニキってヤツがいるらしい。』

老師は、猛ダッシュで道場に帰った。

『今、倉庫の前、踏み込んでいい?あやちゃんは、老師が見に行ったよ!』

『それなら、片付けちゃおう。』

エリーの指示で扉を叩くと、直ぐに覗くだけの隙間が出来た。両側からラヴとセブンが指をこじ入れると、自動ドアかと思うくらいにあっさり開いた。隙間から覗こうとした男は、木刀を振りかぶったが間合いを詰めたピーさんに絡め取られていた。素手で挑むが、敵う筈が無かった。呻き声をあげる暇もなく意識を無くしていた。その代わり、奥の方から男の呻き声。その後、派手な音と共にエリーが現れた。

「ゴメンゴメン、流石にこのカラダじゃ2人相手は自信無かったからね!思ったより早くて助かったよ、もうすぐアニキってヤツが来る筈だから、もうひと仕事頼まれてくれる?」

不機嫌そうにノビた男の持ち物チェックしながら手足を縛り上げ、猿轡で準備完了。扉を閉めてアニキを待つこと5分。合図にも反応せず鍵も掛かっていないことを不審に思いながらも、倉庫の奥迄やって来た。

「おかえりなさい!」

ニッコリ迎えるエリーに驚くと、次の瞬間、お縄に付いていた。公衆電話を探して110番。電器屋に脅迫状が届いていて、誘拐事件なのか、誘拐未遂事件なのか微妙な所だけど、被害も無くスピード解決。

「折角貰ったおやつをばら撒いたのが一番の被害かな?」

エリーはプッとほっぺたを膨らませた。

 翌朝、社長が大量のおやつを抱えてやって来てエリーに貢いでいた。取調べの情報も知らせてくれた。どうやら、社長が宝くじを当てたというウワサが流れていてそれを信じた犯人達が、あやちゃんを誘拐するつもりが、赤いリボンを目印にしていて、間違えてエリーを誘拐したそうだ。エリーは、他の子供達に被害が出ないよう、無抵抗で連れ去られたそうだ。

「ヘンゼルとグレーテルのパンみたいに鳥に食べられないか心配だったけど、暗いうちに来てくれたから、カラス達は眠ってたんだろうね!」

エリーは呑気に笑った。

 宝くじが当たったのは事実だったが、当選金は、1万円。身代金には3桁足りなかった。

 誘拐犯達は、余罪がボロボロ暴かれて、しばらくは、塀の中だろう。逆恨みで面倒な事にならないか心配だったけど、取り敢えず当面は気を使わなくてもよさそうだった。

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