イケメン
しばらく、平穏な日々が続いた。白昼夢も本当に夢だった気もするが、25年後の僕がくれた紙袋と異世界から来たみーくんの金貨が実在しているのが不思議でならない。
僕達は早起きして、お弁当を作ってから登校。授業を受けて、帰宅。道場で稽古。残っている内職をして晩ごはん。1日おき位で銭湯に行って、ちょっとお喋りして早寝。
ピーさん達は、朝稽古、学校、部活、早寝早起き。
正路とエリーは、朝稽古、勉強、稽古、勉強のようだ。
放課後、クラスのコがバタバタと教室に駆け込んで来た。確か、むっちゃんだったな、竹田睦美さん
「光谷のハンサム君達って、あなた達の道場辺りに住んでいるみたいなの、何か知らないかしら?」
なんの事か解らずに、
「ごめんね、話しが見えないから、落ち着いて説明してくれる?」
なぜか、大ウケ。笑い転げたむっちゃんは、
「話しって、聞くもので、見るものじゃ無いでしょ?」
この言い回しってココより後の時代からなのかな?笑いが収まって詳細を聞くと、
光谷高校に3人のハンサム君が現れ、バスケ部に所属している。身長は見た事もないくらいに高く、筋肉隆々、顔はもちろんハンサムって言うプロフィールで昨夜、銭湯から、僕等の住んでいる道場方面に帰る姿の目撃情報が有ったらしい。それで追加の情報が無いか飛んできたようだ。こんな事も想定していたので、師範が僕等を学校にねじ込んだ時に考えた設定で説明するように口裏合わせをしていた。
東京の専門病院で、記憶障害の治療を受けてた仲間で、記憶については治っていないし、治る見込みも無いが、全くの健康体なのでいつまでも入院している訳にも行かず、僕の遠縁が見つかって、今の道場に来る事になり次いでに皆んなも居候している事になっていて、そんな説明をした。
「いや、そんな事は無いよ!同じ境遇で妙な連帯感はあるけど、恋愛感情なんてないな!」
あの中の誰かと付き合っているのかを聞かれ、特に設定していない事は基本、正直に話す事にしてあるので、そう答えると、
「エイミーはね、ちょっと鈍いの!3人ともエイミーが好きなの気がついて無いの?それとも気づかないフリ?」
結局、僕の回答はピントがズレていると言う事で、花音が捌いてくれた。
花音の話しが本当なら、彼等は3人とも僕に気があって、お互いに牽制したり遠慮したり、今後も一緒に居候する仲間の関係性を考えて、『友達』をキープしているそうだ。
「このコがこんなんだから、しばらく3人とも脈なしよ、このコが誰かを選んだら、2人は変わるかも知れないけどね。」
3人のファン達はそれでも、見るだけでもいいからと、道場に来ると言い出した。
「居候の身なもんで、道場にご迷惑だから、遠慮してもらったほうがいいんだよね。」
一応納得してくれたようで、バスケ部のロードワークのコースで見物するそうだ。
「ピーさん達ってそんなにイケメンかな?キモくはないし、背が高いのは間違いないし、程々のマッチョだからかな?」
『イケメン』『キモい』『マッチョ』が通じなかったようで、
「エイミーが住んでいた地域の方言なのかな?」
花音がフォローしてくれて、なんとか下校に漕ぎ付けた。
道場に帰り、稽古をしていると、ハンサム君達が帰って来たので、ファンがいる話を教えてあげた。
「クラスの女子がね・・・」
老師はプっと吹き出し、
「そりゃ女子だよね、女子高なんだから!頭痛が痛いみたいな?」
いじわるなツッコミは無視して話を、続けた。
「なんか、俺達が入ってから見物客が来るようになったんで、なんとなく気不味いんだよね。顧問の先生が、大星にクレーム付けるって言ってたよ。」
「あれれ、道場に来たいって言うからさ、居候の身で道場に迷惑掛けられないって言ったら、ロードワークの見学にするって言ってたんだよね!モテモテ君は困ったものだね!」
ちょっと冷やかしてみたら、
「俺達も、エイミーと花音の事は毎日、何回も聞かれてるよ!お互い様だよね。」
ラヴは厶っとして呟いた。
「それに、そのうち男の子に告られるから、心の準備するといいよ、男の子に告られたことなんて無いでしょ?」
セブンは心配してくれた。
「どうしたのエイミー?顔が、真っ赤よ!」
花音も心配そうだ。
墓場まで持っていくつもりの黒歴史を思い出した。中3の2月13日・・・
クラスの真田君に誘われてソイツの家に行った。正路も掃除当番が終わったら来るって言うので、2人で先に行った。大体、誰かのうちに遊びに行くと、ゲーム三昧か、親がいなければ、エロサイトの動画をこっそり楽しむのが普通だったが、クラスの女子いや、学校中の女子に大人気の彼でも、エロサイト見るのかな?サッカー部のキャプテンだから、ゲームでもサッカー上手いのかな?なんて部屋で待っていると、真田君は紅茶を淹れて、お菓子を出してくれた。
「騙してゴメン!雨丸は来ない、誘って無いんだ。」
事態が飲み込めず、代わりにチョコクッキーを飲み込んだ。
「俺、お前が好きだ!」
想定外の一言にフリーズしていると、真田君が、ゆっくり話し始めた。
「お前が薬師の事が好きなのも知ってるし!男に告られたって迷惑なのも解るけど、どうしても言いたかったんだ。振られるのはわかってるから、チョコもこうだったら食べて貰えると思って。」
えっ?バレンタインのチョコ、受け取った事になっちゃたの?スポーツ万能のイメージが強くて、頭も良かったの忘れてた。
「キモいと思うけど、材料はちゃんとしたものだから心配しないで!」
「真田君が、焼いたの?」
彼は済まなさそうに頷いた。そう言えば、家庭科の調理実習でも女子を差し置いてリーダーシップを発揮してたよね。
「絶対に付き纏ったり、お前に迷惑掛けたりしないから、何でもいいから思い出になる物くれないか?」
目を潤ませて懇願されると断り辛い。バレンタインのチョコも食べちゃったし。
急に思い付かず、ポケットに入っていたハンカチを渡した。
「これでいい?普通のハンカチだけど。」
嬉しそうに受け取ると、机の引き出しの鍵を開けて、丁寧にしまった。チラッと見えたのは、球技大会の写真、1年の時だよね?今年じゃないし、2年はクラス違ったから。試合に勝って、誰かとハグしたのは覚えてたんだけど、真田君だったんだ。皆んなで大騒ぎして忘れてたけど、この写真、誰が撮って、どうやって手に入れたんだろう。
さっき迄、自分でキモいだろって言ってたけど、流石にコレは引くな。さっさと帰る算段を考えていると、スマホが鳴り正路からだった。
『真田君のうちに来てる、正路を誘いそびれてたから、今から来いよ!』
GPS付きで返信した。程なく正路が到着して、サッカーのゲームで盛り上がった。
「お宝チェック!」
正路はそう叫ぶとベッドの下や、本棚の裏を漁って、エロ本を発掘した。見つけ出したお宝は見た事が無いくらい過激だったけど、こんなのが好きなのに僕の事が好きってどういう事?
正路は更にBL漫画を見つけた。
「女にモテ過ぎてコッチ?」
正路が冷やかすと、
「普通に女の子が好きだよ、ただ初めて好きになったのが男子だっただけ、男が好きなんじゃ無くてその人が好きなだけだよ。」
いきなりのカミングアウトに正路はフリーズした。僕も初めて聞いたフリでフリーズを装った。
「男も惚れるいい男っていうだろ?真田ならあり得るかも知れないから、そんな萎んだ顔すんなよ!」
正路は慰めながら、DVDのチェックを始めた。いつの間にか、鑑賞会の約束をして、
「明日、真田を専有したら、女子達に呪い殺されるからね、明後日来るよ!」
暗くなってきたので2人でお暇した。
その後、正路はDVDをコンプする迄通い、真田君はサッカーの強豪高に進んだのでそれまでの付き合いだった。
正路は真田君の想い人が僕だとは思わずに、色々聞いたようだ。若干ぼかしているが、あの時あげたハンカチや、球技大会の時の写真をオカズにしているらしい。そんな事を聞くと、不思議な嫌悪感が湧いてくる。思い出すと背筋が寒くなった。
「ねえ、エイミーったら!」
花音が肩を揺すっていた。暫しの回想中、妙な百面相をしていたらしい。
「ゴメン、僕やっぱり自分は男だって認識だから、男子にコクられるの想像したら、なんか嫌な気持ちになっちゃってね。」
心配してピーさん達も顔を覗き込んでいた。改めて見ると、ファンのコが言うとおりイケメン、ああ、彼女達が言うハンサムだった。
「改めて見ると、3人ともイケメンだよね!クラスのコが騒ぐのも解る気がするよ。」
「いきなり変な事言うなよ!よし稽古再開!」
ラヴがサンドバッグを蹴りに行った。
翌日、むっちゃん達にロードワークの見学も学校にクレームが入るかも知れないから、ほどほどにするように伝えた。ガッカリしたのと、校風的に、男漁りみたいな事は許されないだろうから、現行犯逮捕にならずに安心してくれたようなので、一応は一件落着。
「会えなくなった分、色々教えて!」
『会えない』じゃ無くて『見られない』だと思うけど、まあ気にしないようにして、当たり障りの無いことを話した。意外に喜んでくれて、お礼と言って、メモを渡してくれた。10人程の氏名、クラス、部活、学校の場所?玄関とか体育館入口とかが書き込まれていた。
「貴女に告白しようと、狙ってるコを纏めておいたわ!それ出没する場所ね!」
まあ、不意討ちよりはマシかな?でも、僕だって、ここでは女子で過ごしているのに、女子からの告白ってよく解らないな。そんな話をするとむっちゃんは、
「貴女が、花音ちゃんを好きって言うのがバレバレだから、他のコも脈アリだと思っちゃうのよ!」
えっ?僕のせいなの?
戸惑っていると、むっちゃんは、僕の両手で自分の胸を包みその上から手を重ねた。
「ほら、真っ赤になった!だから女の子に狙われるのよ!」
花音に助けを求めて視線を送るが、楽しそうに笑っている。花音の目の前で他の女の子といちゃつくなんて!
「彼女に浮気がバレた男の気分かしら?」
むっちゃん、僕の心そんなに読まないでよ!どう切り抜ける?さっぱり解らない。
「ゴメンゴメン、そんな可愛い顔でウルウルしたら、私、極悪人になった気分だよ!花音ちゃんに返してあげる。」
開放されると、無意識に花音の後ろに隠れた。
「ゴメン、もうイジメ無いから、そんなに逃げなくていいから!」
それからもガールズトークっていうのかな?恋バナメインの他愛もない話をして、下校のチャイムで帰路についた。




