Case9 瓶コーラ
今回、SCPの世界観の説明が多めになっております。
「…やります。私を仲間に加えてください」
その言葉がなんとも愚かな事だったか。
SCP財団……世の中の異常な物質を収容する秘密組織。
陰から世界を守るスーパーヒーロー達。
よくよく考えれば、そこに天才しかいないというのは当然だろう。
「…………え?なんでわからないの?」
「うぐっ……」
白い部屋、講習室。
ホワイトボードの前に立ち、教鞭を振るう夏華さんは私の方を不思議そうに見ている。
「私たちの活動は全国に及ぶ、だから最低限、英語やドイツ語、フランス語、中国語、あとはスペイン語、イタリア語、オランダ語くらいは覚えとかないと」
いや、理屈はわかるのだ。
そりゃあ、ここにいる人たちには外国人も多いし、むしろ日本語を話している今の空間がおかしいというのはわかる。
けど!
つい先週まで普通の女子高校生が!
英語を話せる前提で話を進めるのはおかしくないだろうか!
いや、それはここの人たちに言ったら
え?普通じゃない?小中で何やってたの?
って顔をするのだろうけど。
「困ったな……英語も使えないとなると…」
夏華さんはなんとか笑顔を保っているが、瞳の奥底には焦りが見える。
なんか、すいません…
「こんにちは。」
「あ、優希さん」
講習室に入ってくる大きくて、優しそうな顔をした男性。
星影 優希は愛想のいい笑顔を浮かべる
「あぁ、もう交代の時間か」
そう、博士たちは多忙な身であるので、私に交代で勉強を教えてくれているのである。
「お疲れ様です、夏華博士」
「どうも。勤務外なのに任せちゃって悪いね」
「いえ、どうせやることないので」
「趣味でも作ればいいのに」
「私はそういうのはあまり……」
「あはは、まあそういうところも君らしいか」
そうやって2人は談笑している。
私は蚊帳の外だ。
優希さんは財団のエージェントの一人だが、同じエージェントのクリスとは大違いだ。
「じゃあ後は任せたよ」
「はい」
夏華さんはそういうと講習室を後にした。
「んじゃ、始めようか」
「あ、はい」
優希さんは私の方へと向き、ホワイトボードの文字を消す。
「英語できた?」
「あんまり……」
「あの人たちはちょっとペースおかしいからね」
「ですよね!」
そう!私はおかしくない!
私がバカなんじゃない!周りの頭がいいのだ!
「普通に義務教育受けてる分には対人の英会話なんて学べないし」
「ちょっと馬鹿にしました?」
「してない、してない」
優希さんは焦って首を横に振っている。
この人、本当に真面目なのだろう。
きっと冗談が通じないタイプだと思う。
「それで、僕は英語とか人に教えるのは苦手だからね、ここの事について教えようと思う」
「ここの事って?」
「SCPたちについて」
その言葉に思わず体が萎縮する。
SCP……その言葉だけで私の体には緊張感が漂う。
「あぁ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。リラックスして聞いてね」
「はい」
散々痛い目にあってリラックスなどできないが。
「まず、オブジェクトクラスについて」
「オブジェクトクラス?」
「これは、SCPの収容難易度を表すんだよ。その多くは三通りに分けられる」
「多くはってことは例外もあるってことですか?」
「そうだね。それも後で話すよ。まずは、基本の3つのオブジェクトクラス、Safe、Euclid、Keterについて」
優希さんはペンを手に取り、ホワイトボードに文字を書き込む。
「収容方法が確立されてればSafe。不安定だけど、収容できてればEuclid、一応収容できているけど、どうなるかわからない。もしくはできていなければKeter」
「できていないって、そんなことあるんですか?」
「……残念ながら」
優希さんの横顔に影が差す。
きっと彼もひどい体験をしてきたのだろう。
「ところで、友梨ちゃん。例えば、核爆弾がSCPだとしたらどのクラスだと思う?」
「えっと……Safeですか?」
「飲み込みが早いね。そう、核爆弾はとても被害が大きいけど、収容自体は簡単だ。だからSafe。じゃあ、核爆弾が意思を持って動き出したら?」
「それは、Euclidですか?檻に閉じ込めればいいので」
「そうだね。自爆でもしない限りそれはEuclid。じゃあKeterだとすると、どんな異常性がある?」
「…………意思があって、瞬間移動できるとか?」
「それは……どうやって収容するんだろうね」
「………さあ?」
「そういうのがKeterだよ。まあうちの博士たちならどうにかしそうだけども」
博士。
私があったのはまだ二人だが、あの二人そんなに凄い人なのだろうか?
失礼だが、夏華さんはとても優しい人。というイメージしかない。
荒戸はただの変人。
「それで、他のオブジェクトクラスというのは?」
「ああ、そうだったそうだった」
優希さんは続けて文字を書き出す。
「Neutralized、Thaumiel、Explained、Anomalous」
「……たくさんありますね」
「まあ、そこまで複雑なものじゃないよ」
優希さんは私に笑いかける。
「一つずつ説明するね。まず、Neutralized。これは異常性が無力化されたオブジェクトのこと」
「無力化?」
「壊れたり、死んだり、異常性が喪失したり……。本来、信念の一つに保護を掲げる財団にとってNeutralizedは失敗によって生み出されたものが多い。まあ、たまにどうしても破壊しなきゃまずいやつとかは、破壊してNeutralizedになることもあるけどね」
「ふむふむ」
あんまりいいものではないんだな。
SCiPを破壊すること自体危険なことだと夏華さんは言っていたし。
「次にThaumiel。これは、Keter級オブジェクトに対抗する力を持つ財団の秘密兵器」
「秘密兵器なのにSCPなんですか?」
「そうだね、SCPにはSCPで対抗って感じ。って言われても僕はよく知らない。本当に一部の人しか知らないんだよ」
なるほど。
上の人しか知らない正真正銘の秘密兵器ということか
「Keterに対抗するって例えはどんな?」
「僕は名前しか知らない」
「まあ、確かに機密にしとかないとマズイですよね………ところで、私はThaumielだったりしないんですか?一応不死身で、財団に協力しますけど」
「それはすっごくありがたい。けど、それだけじゃThaumielとは言えないかな。Keterっていうのは不死身だけじゃどうにもならないし」
「Keterってどんな化け物なんですか……」
「知りたいの?」
「いやぁ……」
「まあ、ほとんど出会うことなんてないよ」
願わくば一生関わらずに生きていきたい。
あれ以上の化け物とか想像もしたくない。
自分で言っててフラグにしか聞こえないが。
「じゃあ次。Explained。これは、異常性が解明された、もしくはそもそも異常性なんてなかったってやつ」
「ふーむ?、Neutralizedとは違うんですか?」
「ちょっと違うかな。Neutralizedは異常性がもともとあったけど無くなったやつ。Explainedは異常性がそもそもなかったやつ」
「?、異常性のないものを収容するんですか?」
「まあ、そう言われればそうなんだけどさ。例えば、今はどうして雷が起きるかわかるだろ?」
「たしか……雲の中の静電気がどうちゃらこうちゃらって」
「まあ、そういう感じ。けど、昔の人からするとそれは全く理解できない異常だったんだよ」
「あー、なるほど。それじゃ、もし雷がSCPならExplainedってことですね?」
「まあ、大雑把にいうとそういうこと。もしくは、異常性があると思ってたけど実は普通のことだった。マジックを見たけど、よく見たらタネがあった。みたいな」
「そんなことあるんですか…」
「偶にだけどね」
異常性があるように見える普通のものってなんなのだろうか。
後で聞いてみるか。
「そして最後にAnomalous。これはまあ、オブジェクトクラスではないんだけど、一緒に覚えちゃおうか」
「はい」
「Anomalousっていうのは、異常性はあるけど、SCPにするほどでもないものだね。収容とか研究の必要が認められないもの。よく博士たちの遊び道具になってる」
「え、それ大丈夫なんですか?」
「まあ、Anomalousだし。洗うたびに色が変わるTシャツとか、どんなに叩いてもチョークの粉が出る黒板消しとかね」
「あー。それはくだらないですね。だいぶ」
「まあ、収容難易度も危険度もない。ただの不思議アイテムくらいで覚えてくれてればいいよ」
「なるほどなるほど」
7つのオブジェクトクラス。
Anomalousは違うんだっけか。
また、覚えることが増えたな……
「まあ、基本の3つを覚えてれば大体どうにかなるよ」
「まあ、7つくらいならどうにか……」
「あぁ、でも他にもたくさんあるけどね。代表的なものが7つってだけで」
「えー……意地悪しないでくださいよ」
優希さんはニヤリと意地悪な顔を見せる。
どうしてここの人たちはこうも悪戯好きなのだろうか。
「あと、覚えておくことは……職員のクリアランスについてかな」
「クリアランス?上下関係みたいな?」
「そうだね。クラスにはA〜Dまでがあって、…まあ、Dクラスは君も知ってるよね」
「そうですね」
あんまり思い出したくない。
「改めて説明しておくと、死刑囚や自殺志願者で形成されたのがDクラス。基本は危険性が未知数のSCiPに対しての仕事だね」
「………つまりそれって使い捨てってことですよね?」
「………まあ、否定はできないかな」
優希さんは困ったような顔をする。
私も頭ではわかってる。あれだけの化け物を収容するのだ。危険性の高い仕事を誰に任せるのかってくらいは。
「それで、次のCクラス職員は、僕達みたいなSCiPに関わる仕事。実験とか、収容とか監視とかね。Bクラスはほとんど関わらない。勿論、上に行けば行くほど偉い人が配属されてる。まあ、僕達が今いる『サイト-8113』は、ほとんどCクラス以下だけどね」
「ここって意外と末端だったりするんですか?」
「まさか。1番たくさんのSCiPを収容してるのがここ。だからこそBクラス以上はほぼいないのさ」
「なるほど」
死んでもそこまで痛くないってことか。
酷いな。
「んで、Aクラスっていうのは別名O-5って呼ばれてる、財団の最高機関。とても重要な問題とかはO-5が決めるんだ」
「へぇー。O-5っていうのは5人なんですか?」
「いや、人数は知らない。どこにいるかもわかんない。そもそも連絡を取るのも博士たちだからね。僕は関わったこともないや」
流石秘密組織の最高機関。
トップシークレットってわけか。
なんだそれどちゃくそかっこいいな。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「こんにちは。星影優希です」
「ということで、優希さん!よろしくお願いします!」
「了解。今回紹介するのは、SCP-279-JP『ぬ號実験体』だよ。オブジェクトクラスはEuclid」
「SCP-279-JPは複数体いるんですよね?」
「そう。SCP-279-JPは1〜3が収容されていて、それぞれ巨大な犬、猿、雉の生命体となっているよ。まあ、ただ巨大化したわけではなくて、それぞれ頭や顔が陥没していて、驚異の再生能力を持っているよ」
「私の能力パクられましたね!」
「どちらかといえば、君がパクってるんだけどね。それで、さらに彼らの特徴は全身の皮膚からSCP-279-JP-Aを発生させること」
「なんですかそれ?私は見てないですけど」
「どうやら友梨さんは見なかったみたいだね。SCP-279-JP-Aは白い蛆虫状の未知の生物だよ」
「うげ、気持ち悪い……」
「SCP-279-JP-Aは集まって球体になる特性があって、SCP-279-JPが食べると負傷した際に傷を癒す効果があるらしい」
「食べるんですか……?蛆虫を……?」
「もちろん、Dクラス職員にもSCP-279-JP-Aに加熱処理をして食べさせる実験をしたんだけど…」
「お腹壊しますよ!口の中でうねうねしますよ!」
「カビた畳のような匂いが気になるが、味はいい、と答えたみたい」
「カビた畳の匂いって恐ろしく食欲削げますよね………ん?犬、猿、雉……?それと白くて、球体になりたがる蛆虫……?」
「どうしたの?」
「…………このSCPって本当にそれだけですか?」
「えっ、そうだけど」
「そ、それならいいんですけど」
「あ、ただSCP-279-JPが収容された廃墟の資料には4匹の生物の収容方法が書かれてたみたいだけど。あくまで呪術的なものだから財団は参考にしないけど」
「………その4匹目って収容されてます?」
「いや、発見もされてないけど」
「……主人公が捕まってないんですね」
SCP-279-JP
『ぬ號実験体』
「SCP-279-JPのぬ號実験体」 はdr_toraya作「SCP-279-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-279-jp @2014