Case8 少女の決意-O
「ここ……は……?」
見知らぬ天井。
いや、見知った天井だ。
牛乳みたいに淀みのない白。
今まで嫌という程見てきた白。
「お目覚め……ですか?」
私は頭上から聞こえる声にベットから起き上がる。
私の隣に座っていたのは、シロツメさんであった。
随分と煮え切らないような話し方をする方だ。
「おはよう……ございます」
「えっと…おはようございます」
あれ?
私はなんで寝てるんだっけ?
確か、荒戸さんにここを案内されて、それで……?
記憶が混乱している。
それで、私は……
私は雄太さんと……?!
「荒戸はどこ?!」
「荒戸博士には……貴方が目覚めたことを連絡……しましたので……まもなくいらっしゃいます」
いつのまに連絡したんだ……?
いや、そんなのはどうでもよくて!
あいつには聞きたいことがたくさんある!
ちょうどその時だった。
ベットの向かい側の壁の扉が開き、中に入ってきたのは、夏華さんと荒戸だった。
私は夏華さんと再会した喜びに勝る荒戸への恨みにより、ベットから飛び起きる。
「荒戸!!」
私は荒戸へ飛びかかろうとするが、すぐさま、私と荒戸の間にシロツメが現れ、私の事を背負い投げる。
「ぐっ……!」
投げられた衝撃で、思わず変な声が溢れる。
その後、シロツメは私の上に乗り、腕を後ろに固めた。
「いいよ。シロツメ離してあげて」
そういうとシロツメは私への拘束を速やかに解いた。
「いやぁ、悪かったね。まさかあんな事故が起こるとは思いもしなかっ……」
「うるせぇ!」
私は自信ありげに話している荒戸の顔面を殴り飛ばす。
荒戸はなんの防御もしていないため、拳をモロに喰らい、後方へ吹っ飛ばされる。
「痛っ!!こいつまだ凶暴性残ってんじゃないの?!」
「大丈夫って言ったのはアンタでしょうが……」
夏華さんは呆れたように首をすくめる。
「あの子は何なんだ?!というか、雄太さんはどうした?!」
「雄太ぁ?誰それ」
「永田……雄太……D-1462の名前です」
「あー。最後まで残ってたやつか」
私は倒れている荒戸の襟元を掴む。
「答えろ!」
「実験に使ったDクラスなら全員終了したよ」
…………は?
終了?
終わらせたってこと?
つまり……?
荒戸の表情は一切変わらず、むしろ不思議なものを見るような目で私を見ている。
「殺した……の……?」
「うん。どうしたの?喋り方がシロツメみたいになってるけど」
なんで、そんなに平気でいられるんだ……?
人が死んだんだぞ……?
「ふむ。友人に対しての悲しみは然程でもないのに、死に対しての怒りは人一倍。いや、これは正義感か?」
「あの人は!帰らないといけなかったんだ!お母さんが待ってるって!!」
私の襟を掴む手に力がこもる。
「おいおい、殺人犯が帰ってきて喜ぶ母親なんているのかよ」
「あの人は誰も殺してない!!冤罪だったんだ!!」
「…じゃあ、教えるけど、あいつ自分の母親殺してるぜ?」
「…………え?」
何言ってんだこいつ……?
私は夏華さんの方を見るが、夏華さんは申し訳なさそうに目をそらす。
本当ってこと……?
「ついでに教えるけど、あいつは8人の女性を強姦の末に殺害して、さらにその死体を食べてるカニバリストだぜ」
「いや……そんなこと……」
「証拠は山程見つかってるし、そもそもあいつの腹の中から行方不明だった女子高生の指が見つかってる」
「そんなわけ……」
「あいつの手口はお前にやったみたいに同情を誘って親しくなった上に路地裏に誘って……」
「嘘だ!!」
「本当にそう思う?」
「………」
私の頭にフラッシュバックしたのは、雄太さんの横顔。
アレは、とてもいい人には見えなかった。
「いくら、SCP-053の影響を受けているとしても、人間の真髄は変わらない」
SCP-053。
ワンピースを着た幼女が私の頭の中をぐるぐると回る。
「あの子は……なんなんですか……?」
「SCP-035のこと?彼女の異常性は、周囲にいた人間の暴力性を引き出し、殺人衝動を生ませる。それは周りの人間すべてを殺すまで終わらない」
「それは……私が止めないとあの女の子も死んでたってことですか?」
「死なないよ。人間が彼女に触れた瞬間、心臓発作が起こる」
私は急な脱力感を感じ、床に崩れ落ちる。
「どうして……こんなことしたんですか…?」
「君を見定めるためだ」
「私……?」
「もういい荒戸」
荒戸を止めたのは、夏華さんだった。
「まず、友梨ちゃんに謝りたい。私達の勝手な都合に巻き込んでしまって、ごめんなさい」
夏華さんは私へ頭を下げる。
「そして、とてもめちゃくちゃなお願いだとは思うけど……私たちの力になってほしい」
「………どういうことですか?」
私は座り込んだまま夏華さんを見つめる。
「貴方の異常性は得意な再生能力だと思ってた。けど、それだけじゃなかった」
「え?」
「貴方には、SCiP達に対抗する力がある」
スキップ……?
「SCiP………SCP達の総称です」
話がわかっていない顔をしていたのか、シロツメさんが小さな声で私に補足してくれた。
「対抗する力って……どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ」
それを聞くと荒戸が服の埃を払いながら立ち上がった
「君が最初に出会ったSCP-4975。奴の異常性はストーキングを行なった被害者にのみしか視覚できないようにする力。しかし、エージェントの話によると、その能力を完全に使っていたわけではない。それに、君はSCP-053による凶暴性も途中から見えなくなり、心臓発作も起きなかった」
話の全貌が掴めない。
頭が混乱する。
この人は何を言いたいんだ?
「つまり、君にはSCPの異常性が効かないんだ。完全ではないようだけど」
「異常性が効かない……?」
つまり、そういうことらしい。
私には異常性が効かないのだ。
と、言葉にはできたものの、その重要さがいまいち理解できていない。
「友梨ちゃん……貴方は世界を救える」
世界……?
急に出てきたスケールの大きな単語に私は再び頭を抱える。
世界を救える……。
そんな漫画やアニメのようなことを急に言われても……!
…………でも、何故か答えは分かっていた。
「私が、頑張れば、誰かが悲しむこともなくなりますか……?」
「……全員とは言えない。けど、奴らの被害者を減らすことはできる」
私は……。
「…やります。私を仲間に加えてください」
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「こんにちは。夏華です」
「ということで、夏華さん!よろしくお願いします!」
「おっけー。今回紹介するのはSCP-4975『時間切れ』オブジェクトクラスはEuclid」
「時間切れ……というのは?」
「メタタイトルってやつだね。私たちの外側の世界で使われる名前だよ。名前じゃ分かりにくいからね。基本的にはそのオブジェクトの見た目や異常性を表すものになっているわ」
「…………うん!」
「……まあ、これを見てる人はわかると思うよ」
「あ、あとオブジェクトクラスっていうのは?」
「それはまた今度教えるね。Euclidは一応収容できてるって思ってくれれば大丈夫」
「ふむふむ」
「じゃあ説明。SCP-4975は漠然と人間の形をした、鳥類の特徴を帯びた生物だよ。全体的に細長く、鋭い嘴が特徴的だね」
「キモかったですよ。アレ」
「あんなの可愛い方だよ」
「え?」
「ん?」
(私、ここでやっていけるだろうか?)
「続けるね。SCP-4975は頚椎(首の骨)が連結していなくて、標的を見つけると、その骨を回転させて、時計の音のようなクラッキング音を鳴らし、ストーキングを続けるよ。その音は被害者にしか聞こえないから、見つかる前はただの幻聴で済まされてたね」
「そのストーキングっていうのはどのくらいの長さなんですか?」
「財団で確認されてるのでは、10ヶ月以上のものもあるね。……そして、捕食の際にはその音は止まり、長い爪や尾で対象を殺害してから捕食するよ」
「やっぱ人食なんですか、そいつ……。」
「人1人で3ヶ月持つからマシな方ではあるけどね」
「マシ……?」
「…………、それでね」
(大丈夫か……財団……)
「奴の1番面倒なのは、捕食の際、被害者にしか視認できない……と思われること」
「?」
「実は過去に捕まえていた時、SCP-4975の実体は収容しているにも関わらず、ドイツの森で、クラッキング音が聞こえている男性が見えない実体に襲われたことがあったんだよ」
「てことは、SCP-4975は複数いるってことですか?」
「まあ、そうかもしれないけど」
「けど?」
「被害者の男性が捕食されている間、SCP-4975はその森のある方角を向いて静止していたんだよ。何かを食べているような様子で」
「……………」
「……………」
「……それ収容できてます?」
SCP-4975
『時間切れ』
「SCP-4975の時間切れ」 は”Scented_Shadow”作「SCP-4975」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-4975 @2019
「SCP-053の幼女」 は Dr Gears作「SCP-053」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-053 @2008