Case67 ベニー②
あたりは炎に包まれていた。
ついさっきまで、安全だったこの村が一瞬で焼け野原へと変貌していく。
SCP-1486は頭上の存在にただ向き合うことしかできなかった。
「よう、なんだあんた?これでも俺の故郷でね。燃やされちゃ困るんだが」
そこに立っているのは、20代ほどの若い銀髪の青年のように見える。
しかし、その体は人体のものとは違い、炎が反射して金属光沢が見られるのだ。
また、その両腕はありとあらゆる金属を付属させていることによって肥大に膨れ上がり、身体中の至る所から金属でできた触手のようなものを伸ばしている。
「SCP-1486。共に来い」
SCP……その言葉を聞いて、SCP-1486は一瞬さっきの奴らと仲間と思ったが、すぐさまにそれを否定する。
仲間ならば、彼の背後に眠っている白衣を着た死体に説明がいかないからだ。
「……なにをしようってんだ?」
青年の蒼い瞳が月夜に光る。
「人間の殲滅」
当然のように述べたその青年の表情に一切の曇りはない。
まるでそれが天命であるかの如くただ冷酷に告げる。
「殲滅……一人残らず……?」
「そうだ」
混乱する思考を蹴破るように、どこかから銃声が聞こえる。
どうやら、先程の白衣の連中の仲間のようだ。
青年に向けて放たれたそれは、職種によって弾かれる。
「連絡…!正体ふめ……」
白衣の男がそれを言い終わる前に、口が塞がれた。
いや、貫かれたと言った方が正しいか。
白衣の男は血飛沫を舞って、その場に膝から崩れ落ちた。
首より上は原型すら残っていない。
青年は、触手をゆっくりと戻し、再び視線を戻した。
「SCP-1486。興味がないというなら強制はしない」
青年はそれより先を言いはしなかったが、「だが、殺す」というのは嫌というほど伝わってくる。
人間の殲滅……。
生憎、人間に恨みはある。
何度捨てられ、何度堕され、何度暴力を振るわれたか。
「その話……」
……言葉が詰まる。
昼間の男の言葉がフラッシュバックする。
「お前は可愛い赤ん坊じゃない。SCP-1486という害でしかないんだよ」
正直、確信をつかれたような。
悔しいが、何も言い返せなかった。
心のどこかでわかってた。俺は望まれた存在じゃない。
女の体に蔓延る癌だ。
「どうした?」
癌だ。そうだよ。
それでも愛されたかったんだ。
こいつはきっと、俺の母ちゃんも殺すのだろう。
そして、俺はこいつに逆らえばこの場で粉々になるのだろう。
「俺はよ……」
例え、俺が癌だとしても。
この気持ちは本当だ。
「親不孝者にはなれねぇよ」
嫌われ者の癌にだって愛する権利くらいはあるはずだ。
「そうか」
一言。
そう告げると、青年の目が変わる。
興味が失せたという目。
軽蔑でも憤怒でもない。
そんな瞳が見下ろしてくる。
「くそったれ」
悪態と同時に、触手が大きく動く。
だが、青年の視線はSCP-1486ではなく、白髪の少女に向けられた。
「見つけた……!!正体不明のSCP!!」
********************
私が目を覚ましたのは一人の悲鳴。
やがて、それはすぐに伝播していき、町中は炎が形となって現れた。
私は街を駆ける。
目標はただ一人。
街の中央に聳え立っている異常な少年。
その姿は財団の写真で見たものと瓜二つであった。
鉄製の不細工な触手が辺りを蹴散らし、ところ構わず殺戮を繰り返す。
「見つけた……!正体不明のSCP!」
チラリと、SCP-1486の方を見た。
彼のしていることがどういうことなのか、私には判断できない。
ただ、母親への愛。それだけは本当なのだろう。
それが聞けただけで、私は彼を守ろうと思えた。
一方。
その声に、青年はゆっくりと振り返る。
「……」
そして、たった一言も発さない内に、触手の一つを私に向けて伸ばす。
金属製のそれは、目に負えないほどの速度で私の体を貫こうとした。
「っぶない!」
反射的に体を逸らしたが、それでも確実に肩に触手はぶつかり、鈍い音を立てる。
「ぐっぅ…!だけど……!!」
私は伸びてきた触手に左手で触れる。
異常性を喪失させる私の武器。
アルデドの時と同じ、体が変形する異常性に対してこの能力を使った時、体は現在の形から変形できなくなる。
案の定、青年は触手を戻そうとしたようだが、動かない。
「なにをした?」
「教えてやんない…!」
私は腰のホルスターから拳銃を取り出そうと、右手を腰に当てる。
相手の動きを止められたこと。
相手の困惑。
それでどこか慢心していたのだろう。
一瞬、手を離した隙だった。
私は横からの凄まじい衝撃に体が吹っ飛んだ。
「ぁ…?」
青年の触手の変形は不可能。
だから、一本封じただけで油断していた。
彼の背中にあるのは無数の鉄屑でできた触手。
喪失……してない……?
そんなことはないはずだ。
少なくとも触れている間は異常性を止められるはず。
いや、止められていた。
現に一つの触手は動かなくなった。
効きが悪いのか?
一部しか止められないほどに…?
触れているとき以外は異常性が一切喪失しない…?
そんな思考を止めるかのように襲う激痛。
触手に横に叩きつけられた私は、近くの民家に激突する。
そして、さらに追い討ちをかけるように民家の一部が崩れ、私に覆い被さってきた。
「痛……ぐっ……!」
変な受け身を取ってしまったせいで、左手が変な折れ方をしてしまっている。
これじゃ動かせない…!
「なるほどな」
青年はどこか満足そうな顔をすると、全ての触手を私へと向ける。
まるで、鉄塔。
それらは、寄せ集めの金属で固められてはいるが、その先端は鋭い。
きっと、食らったら打撲では済まされないだろう。
「くっそ……」
私は立ち上がろうとするが、左手の痛みがそれを阻害する。
変に折ったせいで治りが遅い。
ここから逃げられない。
青年は冷めた目で私を見下ろしている。
まるで、興味を無くしたおもちゃを見る子供のように。
「何が目的なの…?」
それを聞くと、青年は一言。
口を開いた。
「殲滅」
瞬間、全ての触手が殺意を持って私に向かってくる。
思わず、想定される痛みに備え目を瞑ってしまう。
刺殺。
撲殺。
圧殺。
だが、そのいずれもが訪れることはなかった。
その代わりに響いたのは鈍い金属音。
まるで巨大な鉄塊を蹴飛ばしたような。
「おい、目開けろ」
慣れ親しんだその声に恐る恐る目を開ける。
そこに映ったのは私に背中を見せるレオンさん。
そして近くの民家に吹き飛ばされている青年。
「な、何をしたんですか?」
その答えを聞く前に、青年は持っている触手を伸ばし、レオンさんを串刺しにしようと襲いかかる。
だが、レオンさんはそれを見事体一つで避け、やがて青年の前に立った。
「……よくもやってくれてんな」
回し蹴り。
特殊な異常性も。優れた兵器もない。
その一撃が青年の体を吹き飛ばした。
「なっ……?!」
ガラガラと瓦礫を崩して、なお立ち上がる青年。
彼はレオンさんを瞳に捉えると、静かな口調で言った。
「支部長か」
「認めてないけどな」
青年は触手で自らの体を支え、立ち上がる。
「部が悪いな」
青年はそう呟くと、突如、大きく口を開ける。
「なんだ?」
声は一切発さない。
ただ、口を開けただけの不恰好な姿に、レオンさんの動きが一瞬戸惑う。
「」
その一瞬。
私の中には不快な金属音が流れ始める。
頭がおかしくなるような騒音。
機械同士で削り合い、絡み合うような不快を形にしたような音。
「ぐぅ…?!」
レオンさんも同じようで、頭を抱え苦しそうな表情をする。
あたりは静寂なのにも関わらず、人間の脳内にだけ音が流れているようだ。
青年はそんなレオンさんを一瞥すると、どこかへと去ろうとする。
「くそ…!待てよ!!」
だが、レオンさんもこの音に耐えるの限界のようで、これ以上近づくことができない。
私達の目の前で、青年は堂々と去っていったのだ。
「………なんなんだあいつはッ!!」
私達の頭の中の音が消えた時、既に青年はそこにはいなかった。
「大丈夫ですか?レオンさん」
既に腕の修復が完了した私はすぐさまレオンさんの場所に駆け寄る。
「あぁ…怪我はねーよ」
「どうしますか?方向はわかりますし、追いかけます?」
「それより、メアリス達に連絡して増援よこしてもらった方がいい」
なるほどと、私が返事をした瞬間。
レオンさんの携帯の着信がなる。
「……タイミングバッチリですね」
「こういう時のバッチリは碌なことじゃねーんだよな」
レオンさんはすぐさま携帯を取り出すと、私にも聴こえるようにスピーカーにしてくれた。
「メアリス。丁度よかった。未確認のSCPを発見したが、捕獲失敗。逃げた方向はわかるから増援を頼む」
……だが、答えはない。
「メアリス?」
……電話の先から悲鳴が響き渡った。
「大変申し訳ございません、支部長。敵の侵入を許しました」
「敵……?」
メアリスは理路整然とした声で告げる。
「もう一体の未確認のSCPです」
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「い、泉です。よ、よろしく」
「泉博士!よろしくお願いします!」
「え、あっと、はい。今回紹介するのはSCP-191「サイボーグの少女」です。はい。オブジェクトクラスはSafe」
「サイボーグの少女ってそのままの意味ですか?」
「あ、うん。そう。番号からもわかる通り、初期のSCPだからね。異常性もシンプルで、特に敵対的ではない。から、かなり人気がある、と、思う。ファンアートとかは多いと思う。他のと比べたことはないけど」
「なるほど。その異常性というのは?」
「SCP-191は体が改造された少女で、とある博士の人体実験の被害者……だとされてる。肉体がコンピュータに繋がっているとき、高速データ解析と、コミュニケーションが可能で、です。会話もできるけど、あんまり、いや、あんまりは抽象的だな。知能がそもそも低いように思える」
「人体実験の被害者ですか……」
「人型のSCPはそういう場合が多いよ。それと、SCP-191は常に憂鬱な状態にある。それも、実験と関係してるのかもね」
「それでも、泉博士にはすごく懐いてますよね?」
「え?あぁ、同じオーラを感じ取ったのかもね。僕も鬱病だし」
「それだけじゃないと思いますけどね」
「?」
SCP-191
「サイボーグの少女」
「SCP-1486のベニー」はSalman Corbette作「SCP-1486」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-1486 @2013
「SCP-191のサイボーグの少女」はDrClef, Sylocat共同作「SCP-191」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-191 @2010
「SCP-???」は???作「SCP-???」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-???




