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不死身の少女とSCP  作者: 白髪 九十九
アメリカ支部編
72/80

Case65 サイボーグの少女

今日のアメリカ支部は朝から忙しいようだった。

メアリスさんとレオンさんが急遽任務でいなくなり、私は暇を持て余していたのだ。

なんでも、SCP-1264が現れたらしいとか。

戦艦のSCPらしいのだが、実はよく知らない。


というわけで、私はアメリカ支部に一人でいるわけだが………。


「アウェイ感……」


当然、職員に知った顔はいないし、職員達からしても無闇にSCPに話しかけようとは思わない。

その結果腫れ物のような扱いをされて私がいるのだ。


「アイリ、メリー、アイリス、マーガレット、みんな元気かな」


私が祖国の友人に想いを馳せながら廊下を歩いていると、足に感触を覚える。

私がその方を見てみると、少女が尻餅をついていた。

どうやら、私にぶつかってしまったようだ。


「あぁ、ごめんね。ちょっとボーッとしてて」


こんなところになぜ少女が?

そんな疑問は手を差し出した途端に解消された。


「……機械?」


彼女の腕は鋼鉄でできていた。

義手…というにはあまりにメタリックなその腕は私の差し出した手を取らずに自分で立ち上がる。


「………………」


少女は私の顔をマジマジと見つめると、何も言わずに何処かへ駆けて行ってしまった。

もしかしたら、怖がらせてしまっただろうか。

だとしたら悪いことをした。


「…ん?」


私は床に光っているものが落ちているのに気がつく。

それは、ゲームディスクのパッケージ。

彼女が落として行ったのだろうか。 

どうせ二人が任務に出ている間、私は暇なのだ。

ならば、この落とし物をあの子に届けよう。


私はゲームディスクを手に取り、再び施設内をぶらぶらと歩き回り始めた。


アメリカ支部は日本ほどではないにしろ、かなりの大きさを誇っており何より人が多い。

扱っているSCPは場所系などが多い為、ここの施設にはほとんどいないが、それでも時々不思議なものがあったりする。

一通り施設内を回った後、私は最後に屋内温室に足を踏み入れていた。


中には見たこともないような植物たち。

だが、おそらく非異常のものだろう。

他のSCPに感じた不可思議な雰囲気はしない。


温室の中央のベンチ。

そこに男が座っていた。

メガネをかけた痩せこけた男。分厚い資料をペラペラとめくりながらブツブツと何かを呟いている。


「博士…かな?白衣着てるし」


博士なら、少女の居場所を知っているかもしれない。

そう思い、私が彼に声をかけようとすると。


「ひっひぃ…!!なんだ……なんだ………!?!?」


男はあまりにも滑稽にベンチから転げ落ち、私から逃げるように距離を取る。


「あ……脅かすつもりはなかったんです…私は……」

「SCP-________。オブジェクトクラスはEuclid。財団と協力姿勢を持ってはいるが、多数のSCPと協力関係を結び、将来財団と敵対関係になる可能性アリ…!」


彼はぶつくさと早口で呟き、私の方をジロジロと見る。


「わ、私のことを殺しに来たのか!?君のことを疑っている私を?!」

「違いますよ!これ!」


私は先ほど拾ったゲームディスクを博士に見せる。


「これは……SCP-191の……?これをどこで……まさか…君……彼女を!?」

「いや、何もしてませんって。あの子がこれを落としたから返すために探してるんです」


SCP-191……。

やはりSCPだったのか。

野放しにされているということは、おそらくそこまで危険な子ではないのだろうが。


SCP-191は私の持っているゲームディスクを見ると、ペコリとお辞儀をしてからそれを受け取った。


そして、トコトコと歩くと、博士にそれを見せて父親に笑いかける娘のようにニコリと笑った。


「好かれているんですね」

「あぁ……そのすまない。取り乱してしまった」


この人は案外悪い人ではないようだ。

彼は自身を「泉」と名乗り、私を近くの茶席まで案内してくれた。


「泉博士は……日本人ですよね?」

「私かい?あぁ、そうだとも。色々あってここにいるがね」


まあ、日本支部にもアメリカ人の職員はたくさんいる。

逆があっても何らおかしいことではないだろう。


「それより、あぁ…そうだ。君の名前は?」

「御館友梨です」

「あぁ、そうか。御館。友梨。友梨か」


泉博士は何度かその言葉を反芻すると、ふとこちらの顔をマジマジと見つめる。


「リリー。聞き覚えは?」

「リリー?」


リリー。百合っていう意味だ。

そんなことはわかってるんだが、どうもこの人の言う意味は何か意味ありげに感じる。


それに。


リリー?どこかで。


「あぁ、別に知らないならそれで良い。知り合いによく似てたようでね」

「私がですか?」

「あぁ、いや。よく見たら似ていない。だが……まあ、気にしないでくれ」

「いや凄く気になるんですけど」


兎にも角にも。

泉博士は私にあまり心は開いていないようだが、話は面白かった。

彼が行った実験記録はとてもユーモラスだし、一人の職員としてもとても勉強になる。


そして。


「泉博士って優しい人なんですね」

「私が?冗談だろ?いや、冗談か。そういうのはあまり得意じゃなくてね」


彼が卑屈だが、SCP自身のことをよく考えている。

そういう人だ。SCP-191もだからこそ彼に懐いているのだろう。


「冗談じゃないですよ」

「やめてくれよ。本当に。彼女の様だ」

「彼女?」


泉さんは私がその言葉に興味津々ということがわかると、小さくため息をつく。


「リリー博士だよ。さっきの」

「そのリリー博士ってどんな人なんですか?」

「あー、なんていうか。変人だ。そう変人。変人だった」

「……だった?」

「あぁ、そうだ。だったんだ。過去形が正しいだろう。すまないね。日本語は長らく使っていないから正しくないかもしれない。そもそも日本語なんて覚えるなら他の言葉を覚えたほうが……」


彼はまた一人でにぶつぶつと呟くが、正直どうでもいい。


「だったっていうのは?」

「あぁ、死んだんだ。彼女。悪名高い嘆きの水曜日でね」


一瞬の沈黙。

そして、それを破ったのは嵐の様な女性。


「ハロー!泉!と!友梨!」


大きな胸を流動させ、こちらに走ってきたのはアルティ博士だ。


「アルティ博士……そんな大声出さなくても」

「いいじゃない泉!私とあなたの仲でしょ」

「別に対して仲良くもないでしょ」


心外ね、とばかりに鼻を鳴らすアルティ博士。

しかし、私は、先程の言葉が頭に残ったままだ。


「あの……嘆きの水曜日ってなんなんですか?」


その言葉に二人は顔を合わせる。


「あ、名前は知ってるし、どんなことかも知ってるんですけど、詳しくというか」

「10年前のことだからね…私はまだ子供でわからないのよ。それこそ、泉なら知ってるんじゃない?数少ない生き残りだし」


生き残り……?

ふと、泉さんの方を見ると、彼は顔を青くして俯いていた。


「まあ、色々あったから話せっていうのは酷だと思うけど」

「あ、そうですよね……ごめんなさい」


早々に話を変えようとした私を止めたのは誰でもない泉博士だった。


「いや、折角だし話すよ。そうだ話しておいた方がいい。きっとそのことに意味がある」


彼はそういうと、ポツポツと話を始めた。



10年前。


泉博士が20代後半の若い研究員だった時。


それは起こった。


その頃は、財団の中心はアメリカ支部であり、各支部は自身の担当地域で確保されたSCPを収容するという、いわば地域分担制を採っていたのだ。

もちろん、いくつかの例外はあったが、それで何も問題なかった。はずだったのだ。


とあるKeterクラスオブジェクトの脱走。

収容サイトは全壊。


大急ぎで、財団は対処に向かってのだが、わずか数時間後に日本のとあるKeter級オブジェクトが新たな異常性を発現させ脱走。

さらに、要注意団体の攻撃。便乗して脱走を行うEuclidクラスオブジェクト。


そして、いくつかの支部の連絡が取れなくなった。


O5が緊急事態宣言を発令するが、時すでに遅い。


機動部隊の全部隊が無力化。

すべての支部との連絡が途絶える。


当然、多くの人間が亡くなり、世界は大きく変貌していった。


残されたものたちは、死を選ぶか、ただそれを見ていることしかできない。


しかし、まだ諦めていない人がただ一人。

彼女の名前こそがリリー。


彼女は仲間を奮い立たせ、友好的オブジェクトの力を借り、なんとか収容システムの再建まで託けた。


「残念ながら、彼女はその途中でSCPに殺されてしまったがね」


そして、彼は最期に

「収容施設の中心が日本へと移り変わったのは、島国という特徴上。いざとなったら、どうにでもできるからだ」

と、付け足した。


リリーさん。

凄い人だ。私だったらきっと、そんな状況だったら諦めてしまっていた。


「だから、泉はずっと反対なのよね?」


彼は首をコクコクと頷くと、私を見つめる。


「私は、嘆きの水曜日はSCP達の協力関係によるものだと思っている。だってそうだろう?タイミングが完璧なんだ。脱走も新たな異常性の発見も。ありえないことじゃないが、とても一日二日で同時に起こるようなものではないはずだ。確実に何者かの意思が入っている。だから……」


彼は私の瞳をマジマジと睨みつけ、息を大きく吐いた。


「私は君を認めていない。君が新たな災悪を呼ぶ。私にはそれが恐ろしい」


彼はそういうと、フラフラと立ち上がり、どこかへと歩いて行ってしまった。


「んなこと言われても……」


だが、私は彼に直接それをいう勇気はなかった。

SCPの恐ろしさはよくわかっている。ましてや、それが同時に脱走したりしたらどんな悲惨なことになるのかも容易に想像できてしまう。

いや、実際は遥かに想像を超えるだろう。

そんな仕打ちを受け、多くのものを失った人間に、私が何を言えるというのか。


「いい人なのよ。彼。だけど、どうしてもトラウマを克服できないみたいで」

「わかってます。あの子の懐き具合を見れば」


彼は優しいのだ。

SCPには悪意のない者がいるのも、知っているだろう。

何も誤解などしていない。

私を恐れるのは当然なんだ。



********************



深夜。


泉はふと、目が覚めた。

寝る前に飲んだコーヒーが原因か、それとも別の何かだろうか。


「明日謝らなくては」


彼女には何の罪もないと言うのに、強く当たってしまった。

SCPの友好関係の構築に反対の立場は変わらない。

それでも、やはりあのように一人の女の子を非難するのは、人間として違うだろう。


泉はベットから起き上がると、水道の水をいっぱい飲み干す。

そして、ふともう一つのベットを見た。


そこにある小さなベットは、SCP-191のもの。

見かけ通りの年齢でありながら、精神的に脆弱だ。

彼女の身体のほとんどが機械であるという異常性は、おそらく改造されたものとされている。それならば精神の弱さも当然だ。

痛いげな少女を改造するなんて、考えただけでも虫唾が走る。


「おや…?」


部屋の暗黒にうっすらと目が慣れて行く。

そして、次第に明らかになって行く視界。

そこに映ったのは誰もいないベッド。


「SCP-191……?」


いない…?


「SCP-191…!!」


空のベット。彼女の姿はない。


泉は部屋を一目散に抜け出し、長い廊下を見渡す。

だが、彼女の姿はどこにもない。


とはいえ、一人でセキュリティの扉を破るのは不可能だ。

そうなると、室内庭園か?


泉は駆け出す。

深夜だから人通りはほとんどない中、ドタバタといった足音が施設中に響き渡る。


「SCP-191!!どこだ?!」


室内庭園。

そこには、SCP-191の姿があった。


彼女は怯えている。


泉にではない。

彼女に今でも手が届きそうなロボットに対して。


「何者だ!?なにをしてる!?」


そのロボットは音に反応してこちらを一瞥する。

その姿はロボットというよりかはアンドロイドという方が正しいかもしれない。

鋼鉄に覆われた体を持つその人型実態は狂ったようにボツボツと何かを呟いている。


「ミスター……アンダー……ソン。私も……さらに……あなたのために……な……るならば……」


アンドロイドが指の一つを捻ると、中から出てきたのはメス。


「彼女の……機能……を……得ることが……でき…れば……!!」


泉は理解する。

このアンドロイドは、SCP-191の部品を分解して、自身を改造しようとしているのだ。


その瞬間、泉は駆け出し、二人の間に立ちはだかった。


「ま、ま、待ってくれ。彼女には痛みがあるんだ。人間なんだ!無理やりいじくりまわしたら死んでしまう!」


必死な問いかけも答える様子はない。

ただ、メスを近づけるだけ。


「く、くそ…なんだよ……博士なのに……なんでSCPに…………あぁ!もう!やるなら僕からやれよ!!!!死ぬ覚悟くらいできてるさ!!!」


アンドロイドがメスを振り上げたのを境に、泉は目を瞑る。

だが、いつまで経ってもその痛みが来ることはない。

恐る恐る泉が目を開けると。


「大……丈夫ですか?」


そこにいたのは御館友梨。

アンドロイドの腕を掴み、押さえている彼女の姿だった。


「流石に…ロボットは力が強いですね……」


御館は今にも膝を地面につきそうになっている。

しかし、ふと、アンドロイドの動きが鈍くなる。

その現象に一番驚いているのはアンドロイドの本人のようだった。


「ロボットに使うと、活動が鈍くなるんですね……良いことを知りまし……た!!」


御館はこれが好機と見ると、すぐさま、腕を担ぎ、その場に投げた。

確か……日本の技。柔道の技だったはずだ。


その後、御館は慣れた手つきで近くにあったロープでアンドロイドを締め上げた。


「大丈夫でしたか?」


御館は腰を抜かして動けない泉に、手を伸ばし、その後ろのガタガタと怯えている少女を抱きかかえた。


「あぁ、あぁ、すまない。いや、ありがとう。あぁ、それと。すまなかった。今朝私はひどいことを…」


そのような泉を御館を遮る。


「泉博士の言ってることは正しいと思います。SCPの結託……それは恐ろしいことです。けど……」


御館ははにかんで笑った。


「やっぱり私は色んな人を助けたいです」


泉は。

自分の考えが間違っているとは思えない。

SCPの結託。それは危険だ。


だが、それ以前に彼らは人間だ。

人間だからこそ、心があるんだ。

私はどこかで、彼女達を特別視していた。


いや、それが間違いではない。

だが、SCPで一括りにするというのも、それはまた違う。


ふと、泉のズボンの裾をSCP-191が握った。

彼女の手にはいっぱいの花束。


「これを摘んできてくれていたのか?」


だが、何故。

そういえば、この子は私があげたゲームディスクをどこかに落としたという。

もしかしたら、そのお詫びなのかもしれない。


「御館友梨。私はSCPの交友関係の構築には反対だ」


泉は、SCP-191の花束を受け取る。


「だが、君は我々の仲間だ」


深夜の屋内庭園。

月光を受けた花束が艶やかに煌めいていた。

*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*


「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」


「い、泉だ。よろしく頼む」


「泉博士!今日はよろしくお願いします!」


「あ、ぁぁ。今回紹介するのはSCP-432-JP『自殺ビル』だよ。オブジェクトクラスはEuclid」


「自殺ビル……物騒な名前ですね」


「あぁ、実際物騒で、恐ろしい。シンプルだかね。SCP-432-JPの異常性は建物の100m以内に近づいたものに精神的ダメージを与え、屋上まで登らせた後に……」


「……ドーンと?」


「結構真剣な話をしていたのに、随分とコミカルな擬音を使うね?」


「ごめんなさい!泉博士の話怖くって!」


「まあ、いいさ。SCP-432-JPの飛び降りには一つ不審な点があってね。飛び降りた瞬間から、地上に落ちるまでの観測が不可能なんだ」


「透明になるってことですか?」


「あるいは、別次元に飛んだか。さらに厄介なのが、このSCPは五人ごとに標的のビルが移る。財団は今こそSCP-432-JPを確保できているが、その前は各地で自殺が起きていただろうね」


「それは何とも救われない話ですね…」


「まあ、止められただけ良しと考えよう。……ところで、君も何かとストレスが溜まるだろう。夏華博士のセラピーは受けたことあるか?」


「実は何回か……。夏華さんにはいつもお世話になりっぱなしで。夏華さんこそ色々溜め込んでないといいんですが…」


「そうか……。実は私は彼女と飲みに行ったことがあるんだが……」


「どうしたんですか?」


「いや、やめておこう。とにかく、彼女のストレス解消は任せてくれ」


「どうしたんですか?!」


SCP-432-JP

『自殺ビル』



「SCP-432-JPの自殺ビル」はmary0228作「SCP-432-JP」に基づきます

http://ja.scp-wiki.net/scp-432-jp @2013


「SCP-1264の蘇った残骸」はLurkD作「SCP-1264」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-1264 @2013


「SCP-191のサイボーグの少女」はDrClef, Sylocat共同作「SCP-191」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-191 @2010


「SCP-1153-JPの一人去るとき」はlocker作「SCP-1153-JP」に基づきます

http://ja.scp-wiki.net/scp-1153-jp @2016


「SCP-1360のシュード31号」はJacob Conwell作「SCP-1360」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-1360 @2012


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― 新着の感想 ―
[良い点] 久々の更新おつかれさまです!今回も面白かったですが、自分の記憶があやふやなのでもう一度一から読み直してきます。お体に気をつけてください。次の更新を待ってます! [一言] SCiPの中にはク…
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