Case63 ペンは自動小銃よりも…②
そこは、想像していたような荒野ではなく、コンクリートの建物が連立する人気のない市街地だった。
鼻につく硝煙の匂いと、遠くから聞こえる銃声、それに窓の外からところどころに見える破壊跡がなければ普通の廃れた街…というようにも見えただろう。
「ここが、紛争地域ですか?」
「はい。戦闘は約2時間前から開始。SCP-400-JPの出現は1時間半前に確認されました」
結構時間が経っているんだな。
と言うことは、犠牲者もかなり出ているのだろう。
「よし、これから機動隊はA、B、Cに分かれてSCP-400-JPの殲滅。だが深追いはするな。俺とメアリス、それからSCP-________の三人で本体から逸れたSCP-400-JPの確保を行う」
機動隊はそれを聞くと、ただちに3つの隊に分かれ戦場へと飛び出していった。
あまりにも自然な動きに呆気に取られていると、メアリスさんが私の手を強く握る。
「御館様、我々も向かいましょう」
「え、あ、はい!」
レオンさんとメアリスさんの後に続くように私も車内から飛び出すと、先程の光景がありありと瞳に映る。
映画のワンシーンを切り取ったような、非現実的な景色。
「俺たちは、本体から離れたSCPを確保する。その為には、お前の異常性の無効化が必要になってくる。わかるな?」
「えっ、あ、はい」
「おい、大丈夫かよ」
つい、この光景に目を奪われていた。
しっかりしなければ。
意識の戻った私の瞳を見ると、レオンさんは私に背を向け、奥へと進んでいく。
私もメアリスさんと共にそれについていく。
「このような場所は初めてですか?」
「…はい」
正直、キツい。
道端には原型を保っていない死体が散乱しているし、建物の中からは時々呻き声が聞こえてくる。
片目に穴が空いた死体が、恨めしそうに此方に手を伸ばしている。
死体なんて本部でいくらでも見てきた。
見てきたが、これほどまでに残虐な光景は「SCP-480-JP」……あのバグった公園以来かもしれない。
あの時の、救えなかった命が脳裏に浮かぶ。
これでも立ち止まったり吐き気を催したりしないのは、財団の経験ゆえと言えるかともしれないが。
「止まれ」
レオンさんの合図で、私たちは立ち止まり、近くの瓦礫に身を隠す。
「そこの建物。2階だ。奴らがいる。数は3人。二人は定規持ち。一人は衛生兵。治療中だと思われる。恐らく、仲間がやってくれたやつだ」
私は瓦礫から少し顔を出し、建物を覗き込む。
たしかに、2階で何かが動いているような気はする。
あれが何かわかったのか。マサイ族なのだろうか。
「俺とメアリスで定規持ちを抑える。お前は衛生兵を抑えてろ。いいな?」
「はい」
戦闘部隊ならともかく、衛生兵ならどうにか押さえ込むことができるだろう。
レオンさんとメアリスさんは非常に慣れた動きで建物に侵入して行く。
非常に機敏ながら、一切の物音を立てない。
流石、このような場に慣れている。
私はそれになんとかついていき、2階に上がる階段付近で伏せている。
なんとか隙をつければいいのだが。
「突撃3秒前」
「えっ」
無理矢理に行くのだろうか。
それは少し危険すぎるのでは。相手武器持ってるし。
そのように考えて行く間にもあっという間に時間は過ぎる。
「2…1…」
瞬間、何かの爆発音と共にガラスが弾ける音が響く。
SCP-400-JP達はその音に惹かれ、窓を見遣り完全に視線が私たちから外れた。
「GO!!!!!」
二人はそれをあらかじめ知っていたかのようにSCP-400-JPに襲いかかる。
いや、あらかじめ知っていたのか。
いつかはわからないが、爆発物を仕掛けたのだろう。
二人は完全に奇襲に成功し、定規を窓の外まで弾き飛ばし、SCP-400-JP達に乗り、地面に這いつくばらせている。
私は少し反応が遅れたが、二人に気を取られているSCP-400-JPの衛生兵の腕を捻り、背後に回した。
「うぐっ……」
流さん直伝の確保技だ。
これなら弱い力でも強い相手を抑えることができる。
対人に対してこれを使えばほぼ制圧可能という。
「よし、拘束しろ」
レオンさんとメアリスさんは何処からか取り出した鎖を気絶させたSCP-400-JPに巻き付け、私が抑えていた衛生兵に銃を向ける。
「御館様、離していいですよ」
「えっ…あ、はい」
あまりにもスムーズな動きに目を奪われてしまっていた。
私が手を離しても、SCP-400-JPは抵抗することなく、ゆっくりと両手を頭の上にあげた。
「お前達はなんの目的で現れた?」
「平和の為だ……他に何がある…?」
SCP-400-JPはこんな状況においても、尚力強い声だ。
やはり、彼らにも力強い信念があるのだろう。
「貴様らは…奴らの仲間か?我らの平和の為の戦いを急に邪魔し始めた」
きっと、先に送った機動隊の人たちの事だろう。
レオンさんはその言葉に一切反応することなく、一歩近づいた。
「質問をしているのはこっちだ。まず、お前らの親玉と話がしたい。指揮官を出すように連絡しろ」
「貴様らは何を勘違いしている?我らの平和の為の戦いは順調に進んでいる。我らが貴様らに屈する理由などない」
SCP-400-JPとレオンさんは互いに睨み合っている。
私はそれよりも順調という言葉が気になった。
あれだけの機動隊を送っても攻略されているのか…?
もし、その言葉が本当ならば急いで助けにいかなければいけない。
「……埒があかないな。こいつを連れてくぞ」
そういうと、レオンさんは銃身を使って首を強打する。
SCP-400-JPはまるで体から力が抜けたかのようにスルスルと崩れ落ちる。
本当にアレをできる人っていたんだな。
「待ってください。先に機動隊の人たちの方に」
「ダメだ。こいつを財団内で確保してからだ」
財団内で確保……?
片道は最低でも30分以上はかかっていたように思える。
往復1時間。そんなことしてる間に何人の人が殺されるのか。
SCP-400-JPは平和を謳っているものの、敵対組織に対しては容赦なく殺害を行う。
「SCP-400-JPは気絶してます。機動隊の人たちを助けてからでも確保はできるはずです!」
「御館様。その間にSCP-400-JPが目を覚まし、抵抗された場合、任務遂行が非常に困難になります」
「でも……」
この二人は…見殺しにするっていうのか?
機動隊の人たちを。あんなに慕っていた人たちを。
「お前は、カオス・インサージェンシーの襲撃作戦に参加したんだよな?」
「えっ、はい」
突然、カオス・インサージェンシーの話が出てきて、私は予想外の声をあげる。
「あの作戦では多くの人員を失った。王軍陵、ブロア・バッチ、シャネル・カール……その他にもたくさんだ」
シャネル・カール。
その言葉が私の胸に強く突き刺さる。
彼女は私をSCP-049から逃し、命を落とした。
SCP-049の能力「触れたものを殺害し、その死体を操る」その条件が私に触れるものかという懸念から逃した可能性が高いと言われた。
私がいなければ、シャネルさんは生きていたかもしれないのだ。
「それがどうかしたんですか……?」
アレがあったからなんだというのだ。
私は無力だった。
私のせいで救える命を落とした。
だから、今度は一人も殺させない。
「お前、あいつらの死にどんな意味があると思う?」
「意味…?」
意味…?
死んだ意味…?
そんなの私が弱いというだけだ。
私の無力さの為に彼女は死んだのだ。
だから意味なんて……。
「意味なんてないです。私が救えなかった。それだけ」
それを聞いたレオンさんは、途端に表情を変えた。
先程の怖い顔とは違って呆れたような顔だ。
「あいつらが死んだのは平和の為だ」
「平和……?」
「財団の理念。確保・収容・保護は、一般人から超常的なものを遠ざける……ってのがまあ一つの理由だ。それは殆どの場合、一般人にとって危険だから…っていうのはわかるよな?」
突然、この人はなんの話をし始めたのだろうか。
そんなことは十分わかっている。
「わかってますよ、そんなこと」
「だろうな。俺らの任務は、そのまま全人類の存亡に直結する。俺らが失敗すれば、それだけで何億人の人が死ぬ可能性がある」
億……。
確かに、財団の中にも悪用すれば国の一つや二つ消せそうなものはいくらでも存在する。
「だから……全員助けるって言ってるんじゃないですか……!」
「無理だ。いくらお前が不死身で、異常性を無効化できても全ての人間を守ることはできない。そんなに優しいものじゃないことはわかってるだろう?」
……わかっている。
そんなこと、何度も死んだ私がわかっているんだ。
何度も何度も私は殺された。
そして、他の人が目の前で死ぬのも見てきた。
だから、何としてても皆んなを守ると思うしかないんだ。
「でも……だったら………私は何のためにここにいるんですか?」
「平和の為だろ」
平和……?
「俺たちはスーパーヒーローじゃない。だけど、SCPの隔離によって平和を望んでる組織だ。その為に沢山の人が死んだ。これからも死んでいく。だけどその死を無駄にすることだけはあっちゃいけない」
私は、レオンさんの瞳を覗き込む。
真っ直ぐな瞳だ。何も疑うことなく、自分の信念を信じてる。
「勿論、救える命を救うっていうお前の考えは否定しねーよ。だけど、死んだ奴らは世界を守る為に死んだんだ。だから、全力で任務に臨む。それだけだ」
かつて、ミア博士に言われた言葉を思い出す。
『僕達はいつだって死ぬ覚悟で任務に挑んでる。世界を守るために。彼らだってそう。世界を守るために死んだんだ。貴方を殺すためじゃない』
そうだ。
私は何処かで、自分を責めていた。
私は無力で、知識不足だ。
私は強くなる必要がある。
だけど、シャネルさんや他の人たちの死を無駄にしてはいけない。
「……ごめんなさい。生意気なこと言って」
「あぁ?別に構わねぇよ。他のやつでも度々ぶつかる壁だ。それより………」
私の視線が、レオンさんから左に逸れる。
そこには先程まで気絶していたSCP-400-JPが私を睨みつけていた。
「平和の為に……私がどうなろうとも……」
彼はそう呟くと、ゆっくりと光を漏らし始める。
その光はまさしく爆発前の強い光の発光。
「待っ……」
私は左手を伸ばす。
私の信念は変わらない。
確かに、全員を救うことはできないかもしれない。
だけど、一人でも多く。世界を守る為に。
私はどうなろうとも構わない。
私の左手に触れた瞬間、光はたちまち止む。
SCP-400-JPはその様子に混乱したようだが、すかさず舌を噛むことで自害を図ろうとしている。
「させ…ない!」
私は、彼が舌を噛みちぎるより先に右手を手に突っ込んだ。
本気の男性の噛む力の痛みは想像を絶する。
まして、SCP-400-JPは人間の身体能力を凌駕する。
「ぅ……ぐ………!!」
痛い。
だけど、私は死なない。
だから、私ができることは。
絶対にこのSCPを確保する。
「よくやったッ!」
レオンさんがSCP-400-JPの口を抑えながら、私から引き離す。
そして、メアリスさんは足に麻酔弾を打ち込んだ。
SCP-400-JPはゆっくりと意識を失って行く。
確かに、私はこれから沢山の人たちが死んでいくのを見るかもしれない。
だけど、彼らの死を無駄にすることだけはあってはいけないんだ。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「こんにちは御館様。アメリカ支部、副支部長を勤めております。メアリスです」
「メアリスさん!今日はよろしくお願いします!」
「はい。今回紹介するのはSCP-400-JP『ペンは自動小銃よりも…』です。オブジェクトクラスはEuclid」
「あれ?なんか聞いたことあるような…」
「御館様がおっしゃっておりますのは、エドワード・ブルワー=リットンが1839年に発表した『リシュリューあるいは謀略』で登場した『ペンは剣より強し』ではございませんか?」
「あぁ、それかもしれないです……詳しいですね?」
「その質問は想定していたので」
「へぇ……」
「SCP-400-JPは二つの勢力が争っている地域に現れる集団で、第三勢力として他の2勢力が完全に撤退するまで戦闘を行います。彼らは人間を上回る身体能力を有し、事務用品で戦います」
「事務用品っていうと……ペンとかってことですか?」
「三角定規、ボールペン、ステイプラー、プラスチック糊、鋏、セロハンテープを扱う姿が目撃されており、SCP-400-JPの中には消しゴムの形をした爆弾があります」
「おもちゃの兵隊みたいですね……でも、実際、事務用品で戦うことってできるんですか?」
「SCP-400-JPの所持している事務用品は特殊ですが、拷問用としてホッチキスが使用された例はありますね。情報を得るというよりは…趣味的な面が強いようですが」
「何でそんなこと知ってるんです?」
「その質問は想定していたので」
「……なるほど。そうですか。ところで、SCP-400-JP。400といえば400番目の素数ってなんでしたっけ?」
「2741ですね。ちなみに、西暦400年には高句麗の侵攻により倭軍は新羅から撤退していますし、某海賊漫画の400話のタイトルは『解放の鍵』です」
「うぐ……」
SCP-400-JP
「ペンは自動小銃よりも…」
「SCP-400-JPのペンは自動小銃よりも…」はSenkanY作「SCP-400-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-400-jp @2014
「SCP-480-JPの未完成の山間公園」はrkondo_001作「SCP-480-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-480-jp @2014
「SCP-049のペスト医師」はGabriel Jade作その後djkaktus および Gabriel Jadeによって改訂「SCP-049」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-049 @2009




