Case62 ペンは自動小銃よりも…
「着きましたよ。ここが、我らの財団アメリカ支部です」
私は、浜辺に突然現れた巨大な建造物に度肝を抜かれていた。
突然現れたといっても異常なものではなく、周囲の植物や地形でうまく隠していたのだろう。
これならよほどのことがない限り、一般人には見つからない。
財団施設に入り、車庫から中央のエントランスまで行くと、そこでは日本とは比べものにならないほどの多くの人々が縦横無尽に駆け回っていた。
「こんなにたくさんの人が…」
日本支部も職員が少ないというわけではないのだが、施設が広い分、食堂などの公共施設以外ではほとんど人とすれ違わない。
「アメリカ支部は本部に比べて敷地面積は劣りますが、職員の数は約5倍です」
「どうしてそんな大人数が?」
支部、本部として比べるならば、本部の方が人は多そうなものだが。
「俺たちは物質や人型SCPを扱う日本支部とは違って場所や現象を扱うのが多いからな。必然的に必要な人員も増えんだよ」
たしかに、物質や人型のSCPは閉じ込めておけば大半はうまく行くのに対し、場所や現象系のSCPは動かすことができないので管理や一般人が立ち入らないようにする為の監視、他にも緊急時に急行する機動隊なども必要だ。
そのようなことを考えていると、職員たちが私たちに気付いたようで、その場に立ち止まり敬礼をする。
「レオン支部長!メアリス副支部長!お帰りなさい!」
一人の声に続き、全員が口々に言葉を続ける。
そしてそれは、事務的な挨拶というよりは心からの信頼が感じられる。
色々と鈍い私でさえもそう感じるのだから、この二人は本当に信頼されているのだろう。
「ところで御館様。是非あなたにお会いしたいという方がいらっしゃいますので、ついてきていただけますか?」
勿論、断る理由はない。
私とメアリスさんは、そこでレオンさんとは別れてエレベーターで2階へと進んでいた。
やはり人数が多く、廊下で人とよくすれ違う。
そして、その度にメアリスさんへ敬礼が行われるのだ。
「御館様にとっては新鮮な光景でしょうか?」
「そうですね…挨拶くらいはしますけど、敬礼はしないので。まるで…軍隊みたい」
「あながち間違ってはいませんね。本部が「質」ならば支部は「量」。ですが、完璧に指揮できる環境でないと意味がないので」
だから、軍隊のような敬礼をするのか。
日本では、個性が強い人が多くて纏まりがなかったからなぁ。
荒戸とか。荒戸とか。あと、荒戸とか。
「…御館様。こちらでございます」
メアリスさんが止まった場所は研究室の前。
私に合わせたい人物というのはこの中にいるのだろうか。
メアリスさんは扉の横に立つ。自分で開けろということだろう。
「じゃあ、おじゃまします…」
私が扉を開き、中に入った瞬間。
「キタキタキタキタキター!!!」
女性の胸が飛び込んでくる。
「ぐぇ」
その女性は私を強く抱きしめた。
というか、顔面が胸元に埋まり呼吸ができない。
「ようこそ!!アメリカ支部へ!!!あなたが噂の友梨ちゃんでしょ!会いたかったのよ!!!」
「むぐ……むぐぐ……」
その女性はハイテンションで捲し立てるが、私は胸に潰されて一切言葉を発することができない。
「アルティ博士……そろそろ死んじゃいます」
「えっ?あ、ごめんなさい!!」
部屋に入ってきたメアリスさんの一言で、ようやくその女性は私から離れる。
「大丈夫ですか?」
「胸が……迫ってきた………」
流石アメリカ。
ナイスバディだった……。
「ごめんごめん。そうだ!自己紹介をしてなかったわね!!私の名前はアルティ・マーケット。博士をやってるわ!よろしくね!!」
アルティと名乗った彼女は、Theアメリカ人とでもいうべきなダイナマイトボディの女性だ。
白衣を上からでもその巨大な胸がありありとわかる。
黄色い髪と青い瞳はどこかアイリスを思い出させる。
血縁者…ということは流石にないだろうが、金髪青目の人は巨乳だというジンクスでもあるのだろうか。
「私は御館友梨です。よろしくお願いします」
小さくお辞儀から顔を上げると、これ以上ないほどの至近距離で顔を凝視されている。
「あ…あの……?」
「あぁ!ごめん!!君のことが気になりすぎて!!!」
アルティさんは私の身体中をベタベタと触り、ぶつぶつと独り言を繰り返している。
かなり変わった人だ。悪い人ではなさそうだけれど。
「メアリスさん…これは…?」
「アルティ博士は貴方の存在を聞いてから、並々ならぬ興味が湧いているようでして」
並々ならぬというか……まるで初めておもちゃを与えられた子供のようだ。
そして、結構お構いなしに触ってくる。
女性だからまだいいものの……。
もし、アルティさんが男性だったらセクハラで訴えていた。
「アルティ博士。御館様がお困りです」
「あぁ!ごめんごめん!つい夢中になってしまって」
アルティさんはパッと私から手を離す。
すごいボディタッチだった……アメリカ人ってやっぱりこういうのが多いのだろうか?
「それでさ!よければ私にその異常性を調べさせてくれない?!」
「異常性ですか……」
「SCPの異常性を無効化する異常性なんて、科学者として興味が尽きないでしょ?!」
日本にも多種多様な博士がいるが、ここまで研究熱心なひとは初めてだ。
熱血…といえばいいのか、狂気的といえばいいのか……。
「私はいいですけど」
「やった!!それじゃあ早速…」
アルティさんの言葉を遮るように、施設中にアナウンスが響き渡る。
『SCP-400-JPが発生。場所は○○○○。担当職員は直ちに配置についてください』
SCP-400-JP?
日本支部では聞いたことがない。
「間が悪いなぁ」
「そういうことですので、残念ですが日を改めてください」
メアリスさんはそういうと、私の腕を取る。
「行きましょう」
「えっ!?私もですか?」
「はい。御館様には全てのSCPの対処に参加していただきます」
全て?!
今サラッと全てって言いました?!
疲労で死にますけど?!
「とはいっても、このようなアナウンスは日に4、5回ですので、ご安心を」
「全然安心できませんよ!?」
そして、私はメアリスさんの思うがままに連れられ、財団用の巨大車両に乗り込むのであった。
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巨大車両。
その中は小さなミーティング室のようになっており、部屋には所狭しと機動隊が控えている。
そして、その一番奥にはレオンさんの姿があった。
「来たか。おせーぞ」
だってそんなに急に言われても……。
メアリスさんは、小さく頭を下げると、近くの椅子に座って私を横に座るように促した。
そして、レオンさんはそれを確認すると任務の説明を始めた。
「SCP-400-JP。オブジェクトクラスはEuclid。ふざけた武器で戦う軍隊だ」
ふざけた武器……?
私が疑問に思ったところ、レオンさんは机上に3枚の写真を出す。
「なに…これ?」
それらは、荒野のような場所で戦う兵隊であった。
ただ、一つ普通の兵隊と違うのは、彼らは文房具を使って戦っているのだ。
巨大な三角定規を盾に、直角定規を剣にして進む重装歩兵。
ボールペンで兵士の首を突き刺すゲリラ部隊。
ホッチキスの芯を銃のように打ち込む近代兵士。
普通の人が見たら、よくできたコラ画像と思ってしまうだろう。
それほどにその写真は違和感があった。
「奴らは、紛争地域に第三勢力として現れ、争っていた二つの団体を打ち負かす。この現象は奴らが勝つか、負けるまで終わらない」
戦場に突如として現れる…ということだろうか。
紛争……という言葉にどこかこの世離れした印象を受けてしまう。
日本に住んでいるとまず見る機会はないからだ。
「俺たちの目標は、SCP-400-JPの数名を捉え、目的や出現条件を聞くこと。いいな?」
辺りから一斉に均一な返事が聞こえる。
この統一力は流石と言わざるを得ない。
「ということで、御館様には、SCP-400-JPの確保を行っていただきたいのです。補佐として私と支部長がつきます」
「確保ですか……」
これでも私は一般的な手ぶらの兵隊とならタイマンで勝てるほどには強い。
SCP-400-JPの身体能力がどれほどかはわからないが、補佐で二人もついてくれるなら大丈夫だろう。
「わかりました。ところで他の人は?」
「SCP-400-JPへの応戦を行います。彼らは敗北した場合は普通に撤退するのですが、勝利した場合には街を形成するのです」
「街?」
復興作業まで行うのか。
ただの兵士ではなく、ボランティアのようなものと兼ねているのか。
「街自体にそこまで問題はないのですが、今回の目標が確保である以上、勝利してから何事もなく街づくり……というわけにはいかない可能性がありますので」
なるほど……こちらは人質を取るわけだ。
彼らに仲間意識があるのかは知らないが、穏便にことが進むことはないだろう。
「和解…とか、話を聞くとかはできなかったんですか?」
「『平和のために戦っている』としか。より詳しい情報を得るために今回の作戦が決行されるのです」
平和……か。
聞いたところ、そこまで悪意のある行動ではなさそうだが。
どちらにせよ、一度話を聞いてみたいことには財団側も不安だろう。
私たちを乗せた車は、やがて紛争地域に着こうとしていた。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「」
「あれ?今日は私一人ですか?」
「」
「えー……じゃあとりあえず報告書を読んでいきますね」
「」
「調子狂うなぁ……今回紹介するのはSCP-2200-JP「そり立つはでっかいクマさんの」オブジェクトクラスはSafeみたいです。えーと、SCP-2200-JPはテディベアで………股間にヒトのものが結合されてる……??????」
「」
「それは性自認が男性の人物のみ視認できて、概ね1ヶ月で………。それは持ち主だった女の子の月経周期と一致する………え?気持ち悪いがすぎない?」
「」
「所有者は母親から買い与えられ……あぁ、見えないからか。父親はそれに気づいていたが周りに信じてもらえずに止めることができず……お父さんが気の毒すぎる」
「」
「持ち主はSCP-2200-JPに『たかし』という好きなクラスメイトの名前をつけていた……あーあ」
「」
「そして、所有者の女の子が大事な日を迎えると同時に異常性が発現し…………いやもう見てられない……きついわ…」
「待たせたわね!!!!雪菜博士の登場よ!!!」
「雪菜さん、もう終わっちゃいまし………何持ってるんです?」
「あぁ、今回紹介するSCP-2200-JPよ!異常性知らないけど、低脅威度物品収容室に収容されてたから問題ないでしょ!」
「何で持ってきたんですか?!?!」
「実際にあった方が紹介しやすいと思ってね!どう?私の天才的アイデア!!」
「お願いですから早くそれを戻してきてください!!!」
「え?なんでよ?見た目は可愛らしいテディベアでしょ?」
「見た目が可愛らしいうちに!!!私に異常性の抗体ができる前に!!!!」
「え?なに?この見た目って異常性でこうなってるの?」
「そうですから早く!!!それが見える前に!!!………あっ」
「えっ、どうしたの?……ちょっと!逃げないでよ!!」
SCP-2200-JP
『そり立つはでっかいクマさんの』
「SCP-400-JPのペンは自動小銃よりも…」はSenkanY作「SCP-400-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-400-jp @2014
「SCP-2200-JPのそり立つはでっかいクマさんの」はsolvex作「SCP-2200-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-2200-jp @2020
「SCP-105のアイリス」はDantensen作「SCP-105に基づきます」
http://www.scp-wiki.net/scp-105 @2008




