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不死身の少女とSCP  作者: 白髪 九十九
アメリカ支部編
62/80

Case55 欲望カメラ

 


「はい、チーズ」


シャッター音が実験室に響く。

SCP-978……人間の欲望を写し出すインスタントカメラ。

流さんがカオス・インサージェンシーで発見したSCiPの一つだ。


「何が撮れました?」


私……御館友梨はカレナさんとの実験のためにSCP-978の被写体となっていた。


「あー、これは…」

「え?なんですか?見せてくださいよ」

「うーん、見せない方がいいかも」

「私の欲望そんなにやばいんですか?!?!」


待て待て待て待て。

そんなに変な欲望はしてないはずだ。

せいぜい、美味しいもの食べたいとか、素敵な男性と出逢いたいとかそんな感じだろう。


「とにかく、これは重要な実験記録として保存しておかなければ……」

「……うぐぐ。なんかそう言われると無理矢理見るわけにはいかない」


私とて組織の一員だ。

上がNOと言われたものを見るわけにはいかない。


「そうだ。その代わりにこれ!」

「えっと……SCP-978を?」

「私の代わりに色んな人を撮ってきて欲しいの」


なんだその楽しそうなことは。


「私でいいんですか?セキュリティとか……」

「貴方も財団の一員だしね。それに、Safeクラスで危険性も低いオブジェクトだし」


確かに、SCP-987。

悪用こそせど、武器になどはとても使えるものではない。

だからといって、SCPの実験を私に任せてくれるのはカレナさんとミアさんくらいだろう。


「本当はいくつかサンプルを集めるのは私の仕事なんだけど、ちょっとそろそろみたいだから…」


カレナさんは優しい手つきでお腹をさする。

今月で9ヶ月だっただろうか。いつ産まれてもおかしくない時期だ。


「わかりました!財団職員として、サンプルを取ってきます!」

「うん、よろしくね」


こうして、私のSCP-987サンプル獲得任務は始まったのであった。

標的〈ターゲット〉を探し回っていると、廊下の向かい側から流さんが少し不格好に歩いてくるのが見えた。


「あっ!流さん!」

「おっ、友梨やん。久しぶりやな」


彼女はカオス・インサージェンシーへの侵入の際に片足を失っており、義足として生活している。

まだ義足になってから一週間も経っていないのにも関わらず、ある程度の動きができているのは彼女の素の運動センス故だろう。


「あ、それ例のカメラやん」


流さんは私の持っているSCP-987に気がつくと、ニコリとピースサインをした。


「抵抗とかないんですか…?」

「まあ、見られて困るもんはないしな」


強いなこの人。

私は彼女の全体を画角に入れて、シャッターを切る。

現像された写真には流さんと超人気アイドルが抱き合っている姿が写っていた。


「……!!友梨!それ貰っていい?!」

「サンプルを撮ってくるように言われてるので……」

「2枚撮って片方送ればええやろ!!な?頼む!!!一生のお願い!!」


未だかつて見たことのない熱量で迫ってくる流さんを断ることができず、2枚目の写真を撮ることとなったのだが。


「あれ…?」


そこに写ったのは先ほどの写真とは違い、たこ焼きを美味しそうに食べる流さんの姿だった。


「どういうことなんだろう」

「多分、複数の欲があった場合はランダムで選べるんちゃうかな?人間、欲望なんて数え切れないほどあるだろうし」

「なるほど……」

「てことで、さっきの写真くれん?」


本当は持っていた方が良いのだが。

まあ、いいや。サンプルなんて他にもいくらでも撮れるだろう。


流さんと別れ、続いて向かうは食堂。

入り口の扉から中を覗くと、そこにはミアさん、ヴァルトさん、そしてシュレンさんの姿があった。

それぞれ他の職員達とご飯を食べているようで、私に気づいた素振りはない。


欲望を見るカメラだ。

普通に頼んでは断られる可能性が高い。

だけど、今私にはサンプル採取という大義名分がある。


私は扉の影から三人の姿をそれぞれ写真で捉える。


まずはミアさん。

ミアさんの写真は……。


「なんだこれ……」


羊?だろうか。不思議なふかふかとした生物に囲まれて気持ちよく睡眠をとっている。

何ともファンタジーチックな欲望だ。

その寝顔からは悲哀や憎悪などの感情は一切汲み取れない。可愛い。

てか、これ売ればなかなかの値段に……。


次はヴァルトさん。

写真が現像されていくが、そこに写っていたのはヴァルトさんではない。


そこには顔に傷が残っているものの、優しい表情をした男性が写っていた。

これがヴァルトさんだろうか…?

紙袋の中の素顔はこんな……いや、これは欲望を写した姿だ。きっとこれも含めて欲望なのだろう。


その人物は、子供を二人肩に乗せており、その子達はとても楽しそうにしている。


これが欲望。

ヴァルトさんから子供の話など聞いたことない(そもそもあまり自分のことを語るタイプではないが)。

だとしたらこれは……。


私は両手で頬をパチンと叩く。

あくまで、私はサンプル採取をしているだけだ。他人の踏み入れてはいけないところにまで踏み込むようなことはしてはいけない。


続いて、私はシャネルさんの……。


「何してんの?」


しゃがんでいる私の頭上からかかる声。

そこには怪訝そうな顔をしたシャネルさんの姿があった。


「いや、これは、その、」


私が何かいう前に、シャネルさんは現像された写真を奪い取る。

一瞬だけ見えたその写真は、真っ赤に染まっていることしか見えなかった。


「サンプル採取でしょ?私と久馬様以外からして」


そういうと、シャネルさんは手元の写真をビリビリに破り捨てた。

やはり、かろうじて赤い写真ということはわかるが、それ以外に読み取れるものはない。


「私は貴方と仲良くする気はない。かと言って貴方の邪魔をする気もない。ただ、久馬様に何かをしたらどんな手を使ってでも殺す。殺せなくても殺す。死ねないことを後悔させてやる」


そういうと、シュレンさんは立ち去ってしまった。


……おっかねぇ。

あの目は確実に人を殺す目だった。



私は足早に食堂から立ち去る。


本当は先ほどのことで若干体が震えてはいるが、私には絶対に撮りたい人物がいる。


そう、クリスだ。



彼がどんな欲をかかえているかは正直どうでもいい。

だが、もし奴の弱みを握れるとしたら……?


こんなチャンスはない!!!


私は訓練施設へと向かう。

どうせあいつはあそこにいるはずだ。


というか、実験や任務を除いてクリスを食堂と訓練施設以外で見たことがない。


私の予想通り、クリスは訓練施設で特殊なサンドバックを殴りつけていた。


「動いてるから、多少はブレるかもしれないけど……問題ない!」


私は遠く離れた場所でカメラを構える。

幸い、シュレンとは違い、集中しているようなのでこちらには微塵も気付いていないようだ。


「よし……3……2……1……」


私がシャッターを切ろうとした瞬間。

目の前に影が通り過ぎる。

それは小さな猫……の上半身。

ジョーシーだ。


私のカメラは綺麗にクリスと重なったジョージを捉える。


「あっ!」


現像された写真からは一切の欠如のない、至って普通の猫が写っている。

その模様はジョーシーのと同一で、彼(彼女?)の欲望なのだということは簡単に理解できた。


下半身がつくということを知っているなら、昔はついていたのか?

或いは、他の猫を羨んでいる?


ふと、考え込むときに不注意となっていたのか、隠れていた茂みを揺らしてしまう。


瞬間。訓練中だったクリスは腰から拳銃を取り出し、こちらに向かって構えている。


「誰だ?出てこいよ」


やべ……。

別に何か違反行為をしているわけではないが、見つかったらまずい気がする。


「にゃ〜お」


我ながら馬鹿だとは思うが、ここでは猫の声真似しか思いつかなかった。

さっきジョーシーいたし大丈夫だろうか……?


次の瞬間、私の頬を掠め取るように銃弾が放たれる。

幸い、SCP-987は無事だし、私も頬から血が垂れる程度。


「ちょっ……危ないじゃん!!殺す気?」

「お前は死なないだろ」

「私じゃなかったらどうするつもりだったの?」

「そんなアホなことするのお前くらいだ」


んぐぐぐ……。


「とりあえず、邪魔だ。出てけ」

「言われなくてもそうするよ」


私は訓練施設から逃げ帰る。

信じられるか?治るからとはいえ、人間に銃向けるなんて。あいつの方がよっぽど怪物だろ。




……それから。


財団内を駆け回り、色々な人の写真を集めていった。

時にバレそうになった時もあったが、やはりシャネルやクリスクラスのエージェントでない限りそうそうバレることはない。


途中でカレナさんからは明日回収しにいくと連絡を受けたため、私は自分の部屋へと帰ってきた。


「あ、お帰り!友梨!」


そこにはこちらを振り向き、満面の笑みを浮かべる少女。アイリの姿があった。

パソコンを開いており、どうやらSCP-120-JP。もとい、ヤドカリさんとビデオ通話をしていたらしい。


「ねぇねぇ!ヤドカリさん!友梨が帰ってきたよ!」

「アイリ。私の名前は『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』だ。それよりだな、さっきの話の続きを…」

「友梨!今日の話を聞かせて!!」


あまりにも無慈悲。

色々とムカつくところがあるSCP-120-JPだが、私でも流石に哀れんでしまう。


「アイリ。ヤドカリさんの話は……」

「だってもう同じ話3回目なんだもん!」


わお。まさかの追撃。

助け舟を出そうとしたが、どうやら泥舟だったようだ。


「アイリ。私の話を聞いておいた方がいい。お前はこれから様々な困難にぶつかることだろう。その時に私の言葉を思い出せ」

「でも、何かあったらヤドカリさんが助けてくれるでしょ?」

「アイリ。私の名前は『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』だ。もちろん、私の目が白いうちはアイリに苦しい思いなどさせない。だがいつか……」

「いつか?」


アイリの笑顔が凍る。

いつか。その先の言葉は家族を失ったアイリにとってどれほどを意味を持つのか。

SCP-120-JPもしまったとばかりに言葉を曇らせる。


「いつか……いなくなっちゃうの?ヤドカリさんも」


瞳が潤んでいく。


「待っ……違う!そうではない!私はずっとアイリと共にいる」

「本当に?!」


先ほどの表情が嘘のように再び少女は笑顔を取り戻した。


私は遠巻きに二人の写真を撮る。


「あ、これは……」


そこには二人の幸せそうな姿があった。


これはどちらの欲望なのだろうか。

きっとどちらだとしても変わらないと思うが。



********************



カレナは一枚の写真を懐から取り出す。

先ほど、友梨ちゃんをSCP-987で撮った時の写真だ。

そこには、人間もSCiPも仲良く暮らしている。そんな世界が映っていた。

そこには、シャネルや王の姿もある。


「…………」


カレナはもう一度、写真を見つめる。

SCP-987が映し出すのは欲望。

つまり、ここに写っている人物は全て彼女の認知している人間。


だというのに。


「なんで、貴方の姿があるのかしらねぇ」


そこにはカレナ・クレイナのかつての友人。



既にこの世にはいないはずの人物が写っていたのだ。

予定よりも大幅に投稿が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした。

これからは週刊のペースで投稿させていただきたいと思っております。

これからも「不死身の少女とSCP」をよろしくお願いします。





「SCP-978の欲望カメラ」はagatharights作「SCP-978」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-978 @2009


「SCP-120-JPの世界で一番の宝石」はZeroWinchester作「SCP-120-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-120-jp @2014


「SCP-529の半身猫のジョーシー 」 は「SCP-529」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-529 @2008

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初は『欲望カメラ』ですか、欲望カメラの他のscipに対しての実験記録は面白かったので、出てきて嬉しいです(^^) [一言] ずっと楽しみにしてました!これからも頑張ってください。元気付け…
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