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不死身の少女とSCP  作者: 白髪 九十九
カオス・インサージェンシー編
58/80

Case54 世界で一番の宝石④


カオス・インサージェンシーの支部長であり、今回の計画の立案者であるルー・シチュワート及びアルデド・スコッチは殺害された。

本来であれば確保が望ましかったのだが、それほどまでに危険だったという事だろう。


その他、カオス・インサージェンシー内には盗まれた物を含め大量の異常物体が発見され、全て収容される事なった。

だが、燃え盛る死体の中にはSCP-049の死体は無く、今でも捜索が続いている。


そして、大量の犠牲者は弔われた。

財団側にとって最高クラスのエージェントを4人も失い、そのうち3名は殺害されているという事態は大きな誤算であり、早急に解決すべき事案である。


「あ、ミアさん」


財団施設から離れたところにある墓地。

身寄りのなかった人物の遺体はここで埋葬されると夏華さんは言っていた。


「あぁ……友梨ちゃんか」


そこで出会ったのが花束を手にしているミアさん。

目の下は腫れ上がっており、それが涙によるものだということは想像に難しくなかった。


「友梨ちゃんは…誰に…?」

「王さんとシャネルさんと…あまり関わりはなかったですけどブロアさんに」


三つの花束。

勇敢に命を落とした3人のエージェントを弔う為にここにやってきたのだった。


「そっか……シャネルの事知ってたんだ」

「シャネルさんとお知り合いなんですか?」

「うん……僕達は友達だった」


私は、何も言えなかった。

慰めの言葉なんて浮かばない。

私は3人の元へと花束を捧げて、瞳を閉じる。


結局私は一人じゃ何もできなかった。

守られてばかりだった。

それはこの新しい力を手にしても同じ事。

最後の戦いでもSCP-120-JP-1がいなければ私はアルデドに負けていた。


もっと強くならなきゃ。


ただの道具じゃない。

もっと皆んなを守る為の力を。


世界を救う為の力を。



********************



流の自室。

かつてのようなエージェント特有の武器は置かれておらず、代わりに一台のパソコンと塔のように重なっている報告書。

そして、部屋中に貼られたイケメンアイドルのポスターと床に散乱している大小様々なクッション。


「あのな……エージェントじゃないからって部屋を好きにしていいってわけじゃないからな」

「え?そうなん?」


クリスはその部屋を見て苦い顔をする。

流美郷は片足の切断及び下半身の火傷。

そして、あの絵……SCP-1753の異常性によりエージェントの職を辞した。

SCP-1753の異常性は研究の結果、被爆者が段差を降ろうとする場合、高所から落下したかのように死亡するというものだった。

しかし、逆に言えば段差を降りなければ関係ないという事だ。


流のエージェントの経験は貴重であり、実際本人も財団から脱退するつもりはなかった為、改めて財団職員としての起用となったのだ。


「しかし、危なかったなークリスが脚を切ってくれへんかったら死んでたわ」

「……すまん」

「ん?なんで謝るん?」


流は不思議そうな顔でクリスを見つめる。

クリスにはまだ後悔が残っていた。

足を切らなくてもどうにかできたのではないか。

もっと早く流の場所についてればもしかしたら……。


「あーもー!難しく考えすぎや!!」


流は何処からか持ってきたハリセンでクリスの頭を叩く。

きっと部屋の何処かに置いてあったのだろう。


「クリスは凄いエージェントや。師匠と同じくらい」

「そんなわけないだろ……俺はまだアイツに…」

「いいから!私の方が長いこと弟子やってたんやから!私の方が師匠のことは知っとる!」


流はニコリとクリスに微笑みかける。

伝説のエージェント、アルダート・クレイナ。

彼と同じくらいなんて見えすいた嘘だ。

不必要な嘘は不愉快なだけだ。


「……ありがとう」


しかし、クリスから無意識に出たのは感謝の言葉だった。


「なんや、ずいぶん正直やな」


ニコニコと笑う流がクリスの背中を小突いた。



********************



「久馬様大丈夫ですか?!私久馬様が救護室いると聞いてすぐさま駆けつけたんです?!?!なんでもよくわからないハムスターにやられたとか!すぐ殺してきます!!久馬様の目を食べた害悪糞鼠とか死ぬべきです!なんならこの世の中から全てのハムスターを……!!!」

「落ち着け」


財団救護室。

そのベットの一つには片目を眼帯で覆った女性がいる。


「とりあえず、救護室だから静かにしよう」

「わかりました。でもハムスターは殺してきます」

「勝てないからやめるんだ」


久馬の人を奪ったハムスター。SCP-1616とナンバリングされた奴は我々10人のうち7人もの命を奪った。

目を奪われた私はまだ幸運だったのだろう。

中には舌や腕を食べられ出血多量で死んだものもいる。


「シュレン……誰が死んだ?」

「……王、シャネル、ブロア。それと102人のエージェントです」


とても少ない犠牲とは言えない。

対立する事もあったが、彼らは勇敢なエージェントだった。

いくら相手が強大だったといえど、死体を減らすことはできたかもしれない。

それに、カオス・インサージェンシーに手間取っているようじゃとても……。


「落ち着きましょう?久馬様。私達は勝ったんですよ」


シュレンの手が震える久馬の手を握る。


「確かに、私達の敵は強いです。このままじゃ100%勝てません。けど、とりあえずはこれで喜んどきましょうよ」


シャネルが納得しているわけがない。

あの時、一番辛かったのは彼女だ。

それなのに気を遣わせてしまっている。

それほどに私は生き急いでいるように見えたのだろう。


「確かに私は復讐がしたいです。けど、それよりも久馬様が大切なんですよ」


シュレンの手を握る力が強くなる。

もう誰も行って欲しくないという強い願いの印。


「あぁ、わかってる」


久馬もシュレンの手を強く握り返した。



********************



「こちら……です……」

「ありがとうシロツメ」


シロツメが荒戸に渡したのは一つのチップ。

荒戸はそれをパソコンに挿入して映像を流し始める。


『違う……異常性とかそんなの関係ない。貴方のその考えが異常だよ』


映し出されたのはSCP-________とアルデド。

このカメラの映像はもう一人の男。

王の目線で撮られている。


『そうか……ならもう必要ない』


アルデドがSCP-________を吹き飛ばし、王に対峙する。


『それが君の異常性?』


アルデドは答えることなく両手を振るう。

王はそれを辛うじて避けながら銃弾を放つがまるで液体のようにそれを避けられる。 


『違うよね?それは君のものじゃない』


アルデドの動きが止まる。


『どういう意味だ?』

『いや、何処かで聞いたんだけどさ。ただの人間を化物に変えてるやつがいるらしいって』


その言葉にアルデドは明らかな動揺を見せる。

荒戸は映像を止める。

それだけで十分だった。


「彼はいい仕事をしてくれたね」


ただの人間が異常性を与えられた。

今まで数件しかない情報からは真偽の程がわからなかったが、これで確信する。

何者かによって人間とSCPの融合が行われている。


「荒戸……博士……これ…は………報告すべき……では?」

「いや、いい。黙っとこう」


荒戸はチップを抜き取り、机の引き出しへとしまう。

相変わらず表情の変わらないシロツメと対照的に荒戸は何処か不安げだった。



********************



巨大なスクリーン。

映し出されているのはそれを埋め尽くさんばかりの報告書のデータ。

しかし、所々抜け出ており完璧なデータは一つとしてない。


「やっぱり……いない」


カオス・インサージェンシーから押収したSCiPのほとんどは盗まれた物だったり、嘆きの水曜日に脱走したり、その際の破損したデータの中にある。


久馬を襲ったSCP-1616なんかは破損したデータ群の中にあり、ハムスター、捕食、視認、体内……そういった単語を組み合わせて異常性と合致したものを修復し改めて登録していく。


だが。


「…………アルデド・スコッチ。ルー・スチュワート」


彼らに対応する報告書が存在しない。

勿論、嘆きの水曜日に完全に消滅した可能性もあるが、二人揃って存在しないというのは珍しい。


「それに……あいつも」


SCP-________。

前に荒戸に尋ねられた際、嘆きの水曜日に脱走したSCPの一部と考えていた。

しかし、住民票や家庭の偽造。名前の偽り。

私は要注意団体のスパイを疑い始めたが、それにしてはあまりにも間抜けすぎる。

彼女がいて財団が不利益を被ったことはあったが、利益の方が大きすぎるのだ。


「何者なの……奴らは」


シャロットの中で疑惑が強まっていく。

新種のSCiPという可能性ももちろんある。

だけど、それでも納得がいかないのはシャロットの長年の経験による天才的な勘であった。


********************



「ヤドカリさん」

「アイリ。私の名前は『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』だ。どうした?」


ひとりぼっちの収容室。

友梨は何だかよくわからないけど、検査に出ているようだ。

しばらくの間、私はヤドカリさんと二人っきり。


「ううん、なんだかね。怖くなったの」


理由はわからない。

何を怖がっているのかもわからない。

ただ、心の中にモヤっとした物がずっと残っている。


「そうか。怖いのか」

「どうすればいいの?」

「別にどうする必要もない」


どういうことだろう。

私がヤドカリさんの方を見ると、ヤドカリさんは続けて話し始める。


「未来というのは怖いものだ。我だって怖い。だからそれが当然だ」

「でも……そんなの嫌だよ。私は怖いのは嫌だ」

「安心しろアイリ。お前には友達がいるだろう。あの白髪の女とかな」


ヤドカリさんの口から友梨の事が出るのは少し意外だった。

あれだけ嫌っていたのに、一体何があったのだろうか。


「ヤドカリさん。友梨と何かあったの?」

「いや、何もない。あとアイリ。私の名前は『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』だ」


変なヤドカリさん。

私はヤドカリさんを胸に抱いて、ベットに仰向けになる。

天井の光が少しだけ眩しい。


「ヤドカリさんは……ずっと一緒にいてくれる?」


ヤドカリさんはすぐに答えない。

時計の刻む音が聞こえる。

大きな針が少し動いたところで、ようやくその口を開いた。


「アイリ。私は……」

「ただいまっ!!!」


扉を勢いよく開けたのは友梨。

その声に飛び起きるアイリ。

友梨の後ろには夏華博士が若干呆れたように立っている。


「元気だね……大変だっただろうに」

「いつまで落ち込んでいても仕方ないっていうの学習したんで!」


悲しむのも後悔するのも大事。

だが、それをずっと引きずっていてはまたミアさんに怒られてしまう。


「友梨!大丈夫だったの?!」

「大丈夫っていうか……よくわからなかったっていうか……」


実際、あのタイミングで新たな異常性が発現した理由はわからなかった。

極度のストレスや緊張が原因だと言われているが、よくわかっていない。

記憶にないあの人も。わからなかった。


「アイリちゃんも検査したいんだけど大丈夫?もしかしたら変なものがついてるかもしれないから」


夏華さんはアイリの元へと歩くと、手を差し伸べる。

アイリは元気よく返事をすると、ベットへとSCP-120-JPを置いて共に検査室へと向かった。


「……当たり前のように我を置いていったな」

「検査って裸になるんだけど……見るつもりだったの?」

「我はアイリの裸など見慣れている」

「それはそれでどうかと思うけどね」


私はSCP-120-JPの横へと座る。

とりあえずアイリが無事で良かった。

失ったものは確かに多い。

けど、アイリを助けられた事。それは素直に喜んでおこう。


「白髪の女」

「ん?なに?」

「一つ、頼み事をしていいか?」

「え?どうしたのほんとに?!」


あのSCP-120-JPが頼み事などありえない。

まさか……何かのSCPの影響を……!!


「手紙を預かってくれないか?」

「手紙……?誰への?」

「アイリへの手紙だ」


SCP-120-JPのもとへと私は髪とペンを差し出す。

そうすると、中から小さなSCP-120-JP-1が現れ、器用にペンを握った。


「いいけど……どうして?」

「貴様は不死身なのだろう。歳を取るかは知らんが、少なくともアイリが大人になった時生きているはずだ」


ペンの書き込む音が聞こえる。

私は、それをただ見つめていた。

SCP-120-JPの言葉をただ黙々と。


『きみはいつか大人になる。それを止めることはできない。今、私はきみにとっての世界で一番の宝物だろう』


不思議な字だった。

優しくて、頼もしくて、懐かしい。


『だがきみもいつか別の宝物を見つける。もし、時を止めることができるなら、私はきみの時を止めるだろう』


それは隠してきたSCP-120-JPの本心。

アイリにはいつか大人になる時が来る。

私の元を離れて普通の大人に。


『世界で一番の宝物であり続けることは難しい。きみは大人になる。そうでなければならない』


かつての暴走もアイリの為であった。

SCP-120-JPがいる限り彼女は普通の人生を送る事ができない。

今はそれを受け入れていたとしても、いつか絶対にお別れを告げる時が来る。


『きみもいつか子供を生む。そして、その子供に私との思い出を語るときがやってくる。きっとそうなる』


SCP-120-JP-1の動きが一瞬止まり、そしてまた動き出す。


『思い出の中の私は、今と変わらずに世界で一番の宝物であり、そのとき初めて私は本当の価値を手にする』


それが叶う未来かはわからない。

けど、1匹のSCPは確かに願っているのだ。


『それこそは世界で一番の宝石ーー』


突然、SCP-120-JP-1は動きを止め、紙をくしゃくしゃに丸め始める。


「え?なにしてんの?!」

「やめだ、やめ。実にくだらない」


SCP-120-JP-1は器用にゴミ箱に紙を投げ捨てるとSCP-120-JP(貝殻)の中へと戻っていった。


「あんなもの無駄だ。どうせ貴様に渡したところで検閲にかけられる。勝手に燃やされない保証はない」

「いやそんなことしないって…」

「貴様がしなくても他の連中がするだろう」


急にいつもの態度に戻ったなこいつ。

捻くれ者の頑固。

だが、むしろその方が安心すらできる。


「手紙じゃなくてさ。自分で伝えてあげなよ。……いつかその時が来たら」

「…………ふん」


丁度その時、アイリが帰ってくる。

アイリはすぐにSCP-120-JPを手にすると大切そうに抱いた。



……いつか、彼女は大人になる。


今はここを受け入れている彼女も、いつかはここから出ていくべきだと私も思う。

それが認められるかはわからない。

この世界はあまりにも彼女には厳しすぎる。



けど、きっと大丈夫だろう。



彼女には世界で一番の宝石があるのだから。

「SCP-1753のめまい」はEnresshou作「SCP-1753」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-1753 @2013


「SCP-120-JPの世界で一番の宝石」はZeroWinchester作「SCP-120-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-120-jp @2014


「SCP-1616のカリカリくん」はfaminepulse作「SCP-1616」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-1616 @2012

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