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不死身の少女とSCP  作者: 白髪 九十九
カオス・インサージェンシー編
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Case52 ペスト医師②

「あぁ……クソ。寝てた」


クリスは眩しい室内灯によって目を覚ます。

手は動く。先程切り裂いた左腕は既に血液が固まっている。眠る寸前に強く押さえていたおかげだ。

足の方も辛うじて動く。

大丈夫だ。痛みは回復してきてる。


「……あぁ、クソ」



隣には同じくグッタリと瞳を閉じているSCP-029。

気を失っているものの、心臓は動いているようだ。


「生きてんのか…」


財団の信念。

確保、収容、保護。

SCPを殺さない理由は、より悪化した事態を防ぐ為だったり、SCPと友好的な関係を結ぶ為だったりする。

中には即座に破壊命令が下されるような例外も存在するが。


「とりあえず…縛っとくか」


クリスは持っていた強化ロープでSCP-029を近くの柱に縛りつける。

悪意のある人型オブジェクト。

しかし、その異常性は即座に殺害に至るほどではない。


「どうするか。真ん中に向かわねーと」


今回の第一目標はSCP-120-JP-2の奪還。

この施設の構造からして中央に彼女がいる可能性は高かった。


「あー、クソ。どっから来たんだ俺は」


運の悪いことに、その部屋は四方に扉があり、その他には何もない。

自分がどこから来たのか。どこに行くべきなのかは分からない。


偶然、彼が南の施設へと向かったのは、偶然か運命か。



********************



「逃げても無駄ということがわからないか」


一人の死体が流の足を掴むが、壁を思いっきり蹴り付けその拘束を外す。


「いっ……!」


痛みに耐えながらも流が向かう先。

そこは一つの部屋であった。


「はぁ……はぁ……ここやね」


死体が山のように積まれた部屋。

中央には倒された扉が置いてある。


「なんだここは」


SCP-049は周囲を見渡してそう呟く。

彼からしてもこの光景は異質なのだろう。

とはいっても感じているものは流のそれとは違うかもしれないが。


「もう逃げんよ。ここで倒す」


流は腰に下げた拳銃を再びSCP-049へと向ける。

先程の表情とは違う。覚悟を決めた人間の顔。


「私を倒す……全く持って理解不可能だ!」


SCP-049はその両手を下ろす。

まるで指揮者のように振るう腕に合わせて死体達は襲いかかるが、流はそれを避けつつ死体の山の頂上からSCP-049に弾丸を放つ。

しかし、その弾丸は突然二人の間に現れた死体によって拒まれる。


「ちっ……そう上手くはいかんか」


流は悪態をつきながらも、死体の攻撃を左右に流す。

如何に強かろうと死体。知性は無い。

攻撃を避けるだけなら簡単だ。


だが、それは通常の地形であればの話。

高所からの銃撃のため死体の山へと登った流の判断がここで足枷となる。


「あっ……!」


死体の山から飛び出た手。それが流の足に引っかかり、そのまま流は床に倒れ込む。

慌てて立ち上がろうとするが、一人の死体がそれを拒んだ。


「シャネル……!」


その死体は流の腹部に強烈な一撃を加える。

その一撃はあまりにも鈍重で、あまりにも鮮やか。

一瞬気を失いそうになる流だったが、歯を食いしばりどうにか立ち上がる。

向かい合うのはシャネル・カール。

エージェント最高クラスの戦闘能力を誇る。


「どいてくれへんかな。シャネル」


勿論、聞こえるわけもなくただ虚な瞳で流を見るシャネル。

流はぎこちない笑顔を向けながらも、再び逃走する。

しかし、一般的な死体ならともかく。彼女は元の肉体構造が一般的なそれとは大きく異なる。

一瞬で流の足を掴み、死体の山から叩き落とした。


「ぐっ……!!あっ…!」


辛うじて受け身を取るが、そのダメージは少なくは無い。

身体中が同時に殴られたような感覚。

立ち上がろうとする流に一つの影が覆い被さる。


「くっ……!シャネル……!!!」


シャネルは仰向けに倒れている流に馬乗りになると、何度も顔を殴る。

両手でそれを庇おうとした瞬間、ガラ空きになった腹部にもう一度強烈な一撃。


「うぉぇ……」


腹部が潰されて、内臓が飛び出るかと錯覚するほどの一撃。

身体中の力が抜けて動かなくなる。

それを見たシャネルは流の首に手をかけた。


「………ゔ……ぐ……」


言葉にならない喘ぎ声。

首への力が強くなる。窒息じゃない。骨を折る気だ。

シャネルの力は次第に強くなり。


やがて手を離した。


「なんだと?」


SCP-049はその様子に戸惑いの声を上げる。

かつて死体が命令に背くことなどなかった。

そんなことありえない。


そして流は笑う。

これは不確定な友情や信頼という奇跡ではない。

ただ、流は待っていた。シュレンが言っていたこの瞬間を。


「耳を澄ませてみいや」


SCP-049は聞いた。

どこからか聞こえるノックの音を。

そして、SCP-049は見た。

中央で立ち上がる扉とそれに群がる死体達。


「なんだ……これは……?!」

「知らんよ。けどこっちの方が強いみたいやね」


流が逃げに転じていたのには理由がある。

シュレンとヴァルトに聞いていた謎の部屋。

死体が起き上がり扉を抑える部屋。

もし、その強制力がSCP-049より強かったら?

そしたら奴の異常性はその手だけとなる。


「さて、万が一の事があるからな」


流が取り出したのは手榴弾。

ピンを抜き、扉へと投げつける。


「待て……!何を…!」

「弔いや。守れなかった人々への。勇敢な人々への。そんで、仲間への」


手榴弾は死体達の間を転がり、やがて爆ぜた。

死体達を炎が包み込み、周囲の山の死体達も街頭に向かう虫のように炎に向かって進んでいく。


「何をしたか分かっているのか?!医学への侮辱だ!!君達はいつもくだらない事に拘って大局を見ようとしない!!」

「うる……さいわ!!!」


流の右手がSCP-049の顔を捉えた。

SCP-049は不意打ちで強力なパンチにフラフラと後退する。

それを睨む流瞳には怒りの表情が残っていた。


「何人殺した?!何の罪もない人を無残に殺して!!」

「殺した?!?!君は大きな勘違いをしているよ!!医学に犠牲はつきものだ!!」


流は銃をSCP-049に向けて放とうとするが、出たのは空気だけ。

先程の一発で使い切ってしまったようだ。

流は銃を捨て、SCP-049へと殴りかかる。


「君たちは全く理解していない!!!私だけが悪疫を治すことができるというのに!!!」


流はもはや聞く気すらない。

彼がどんな理由で人を殺そうと、財団は収容する。

ただ、それだけだからだ。

しかし、流の拳がSCP-049に届かない。


シャネル・カールによるダメージ。

それは確実に流の体内を蝕み壊滅的なダメージを与えていた。


「ぐ……こんなとこで……」


流は膝から地面に崩れ落ちる。

下半身が動かない。シャネルの腹部への一撃がここになって効いてきたのだ。


「は……はは……!!まあ、いい!君も治療してあげよう!!悪疫から解き放つのだ!!!」


SCP-049の手が迫る。

触れたものを殺害する悪魔の手。

パチパチと聞こえる炎の音だけが流には聞こえていた。


「さあ、もう大丈夫だ!!今その痛みから救ってあげよう!!」


SCP-049の手が。

流に。


届く事はない。



クリス・ストレイト。

彼の拳がSCP-049の顔を捉え、吹っ飛ばす。



SCP-049は吹っ飛ぶまま炎の元へと消えていく。

呻き声を上げ、やがて大きな炎に包まれ見えなくなった。


「怪我ないか?」

「ないわけないやろ。あほ」


クリスは流に手を伸ばし、立ち上がる。

流はあまりにもボロボロな自分の姿を見て笑ってしまう。

クリスの質問と自分のあまりのみすぼらしさに。

そしてようやく解けた緊張とクリスの姿への安心で。


「怪我って……!アハハ……!!ないわけあるかいな!!!」

「あぁ……大丈夫そうだな」


クリスは笑っている流に呆れている。

いくら脅威逃れたと言ってもここは敵施設のど真ん中。

笑っていられるわけがないのだが。

それも流らしいとクリスは思った。

だが、その油断が流に襲いかかる。


「なっ……!?」


死体の中。

燃えている炎の中。

そこから一本の手が流の足を掴む。


「なんで…?死体は封じたはずや…」


だが、そこで気づいてしまった。

既にノックの音は聞こえていない。

代わりに見えたのは炎に映る男の影。

指揮者のように両手を振るうペストマスクの男。


「うぐ……!」


強烈な力。

流は一瞬にして炎の中に引き摺り込まれそうになるが、クリスがすぐに流の手を掴む。


「クリス!」

「絶対離すんじゃねーぞ」


クリスは流の体を引き揚げようとするが、微動だにしない。

いや、むしろ死体の手を支える数が続々と増えていき流の体が炎へと引き込まれていく。


「ちっ……クソ。力が足りねぇ……」

「……なぁ、クリス」

「なんだ?今忙しいんだ!!」

「私のこと離してや」


一瞬。

クリスの時が止まる。

それはとても受け入れ難いことであり、クリスの誓いに反するものだった。


「ふざけんじゃねぇよ……また……お前もいなくなんのかよ……」

「意外と後悔とかないねんで?死ぬ気でこの任務きたし」


流は引きつった笑顔を浮かべる。


「クリスは友梨ちゃんと仲良くしいや?SCPの中にはいい奴もいるって師匠言ってたやろ?」


力が強くなる。

少しづつ引っ張られていく。


「ほら、だから離してや。これは……姉弟子としてのお願いや」


クリスは。


「……絶対嫌だ」


クリスはナイフで流の足を切り落とした。


*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*


「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」


「シャロットよ。よろしく」


「シャロット博士……ですか」


「悪い?」


「いや、最近見ないなって思っただけです…はい…」


「財団に全然戻ってこないのが悪いんでしょ。それで、今回紹介するSCPなんだけど……ないのよね。出てきてるやつは全部紹介しちゃったし。出てきたのに紹介してないやつは後々やる予定だし」


「え?じゃあどうするんですか?」


「仕方ないから要注意団体について説明していくわ。今回紹介するのは如月工務店。作中では『未完成の山間公園』でSCP-480-JPの時に登場したわね」


「うわートラウマ……」


「如月工務店は活動目的が不明の組織で、東北地方で小規模な民間団体を自称しているとも言われているけど真偽は定かではないわ」


「目的が不明……ひたすらに作品を作りたい…みたいな感じじゃないんですかね」


「そういう組織もいるけどね。如月工務店は基本的に誰かから受注を受けたものしか作らないの。そのほとんどは建物。とはいえ、悪意があるかどうかは知らないけど作られたものは異常性……それも良くない物を持つわ」


「SCP-480-JPでは世界がバグってたりしてましたよね?」


「そうね。しかも人間を素材に使っている可能性が高い。財団としても放っておけない団体の一つよ」


「あ、そういえば如月工務店って……鬼がメンバーって聞いたんですけど」


「まあ、そういう文献も多く残っている。直接財団職員が接触した例はないからほとんどが謎に包まれているけどね」


「鬼かぁ……それなら桃太郎とかが退治してくれたらいいのに」


「SCP-279-JP『ぬ號実験体』……」


「やめましょう」





「SCP-029の闇の娘」はAdminBright作「SCP-029」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-029 @2010


「SCP-049のペスト医師」はGabriel Jade作その後djkaktus および Gabriel Jadeによって改訂「SCP-049」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-049 @2009


「SCP-480-JPの未完成の山間公園」は

rkondo_001作「SCP-480-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-480-jp @2017


「SCP-279-JPのぬ號実験体」 はdr_toraya作「SCP-279-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-279-jp @2014

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