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不死身の少女とSCP  作者: 白髪 九十九
カオス・インサージェンシー編
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Case49 闇の娘②

「ほら、毒抜けた?」

〔まだ〕


震えた字でヴァルトはスケッチブックに文字を書き込む。

普通なら動けるような毒ではない。手が動かせるだけでも彼の強靭さは明らかに異常であった。


「しかしまぁ、相変わらず不気味なことで」


脊髄を裂かれたはずの老婆はまだ息を引き取っていない。

血を吐き出しながらも心臓は動き続けているようだ。

その様相はエージェントであっても嫌悪感を隠し切れないほどでシュレンは顔を苦く歪める。


「あ、そうだ」


シュレンは老婆の元へと近づくと、その肌に触れる。

ヴァルトの元からはシュレンが何をしているか見る事ができない。

しばらくすると、何事もなかったかのようにヴァルトの元へと戻ってくる。


「早く久馬様に会いたいなー」


呆然とした呟き。

その声に反応したように二人の元に一人の人影。


「久馬様!?」


しかし、そこに現れたのは久馬ではなかった。

身体中に怪我を負った財団の部隊の一人。

その格好からするにシャネルの部隊だろうか。

彼はフラフラと歩きながらも、シャネル達を見つけると微かに希望の表情を見せた。


「シャネ……!」

「チッ」


男の声はシャネルの舌打ちによって掻き消される。

それを見たヴァルトが呆れながらもスケッチブックを手に男の方へと向かった。


〔なにがあったの?〕

「は、はい。未知のSCPに襲われて、部隊が散り散りに!シャネル隊長が現在SCPを抑えています!」


男はヴァルドに早口で状況を話している。

ゆっくりと近づこうとするヴァルトをシャネルが手で制した。


「ちょっと待ってね。君、シャネルの部隊なんだよね?」

「は、はい」

「SCP-________に関しての情報は?普通最初に話さない?」

「あ、いえSCP-________も散り散りに……」

「シャネルがSCP-________を手元から離すとは思えないけど」


沈黙が流れる。

男の額から一筋の汗が流れて、落ちる。


「それに、逃げてきて怪我をしてる割にはその服に血や損傷どころか擦り傷や埃ひとつないなんて流石に無理があるよね?」


困惑の表情を浮かべるヴァルトに沈黙を貫く男。

シャネルはさらに続ける。


「それに私、記憶力は良い方なんだ。全部隊の隊員の顔と名前くらいは把握してる。君……花形大和は随分と訛りが酷かったはずだけど?」


鋭く男を睨みつけるシャネル。

男はやがて大声で笑い出した。


「あぁ……なんだバレちゃったか」


男の皮膚が泥のように溶け落ちていき、やがてその姿は美しい美少年へと変わっていった。


「やあ、初めまして。僕はルー。ルー・シチュワート」

「聞いてないけどね」


シュレンは数歩後ろに下がり、逃げ道のルートを探る。

相手は変身系の能力。きっと身体能力はそこまで高くない。それならわざわざ騙し討ちなどする必要がないからだ。


「花形大和はどうしたの?」

「え?殺したよ?」


ルーは一切悪びれる様子もなくそう告げる。

人の死になんとも思わない。

シュレンはその表情に明らかな嫌悪感をのせる。


「まあ、そうだろうけどさ」

「そうそう、あいつも殺したよ!シャネル・カールも」

「……へー」


意外だった。

肉弾戦で負ける相手ではない。

騙し討ちできるほど甘い相手ではない。

奴が本当の能力を隠している。それか、シャネルが思ったより甘かったのか。


「まあ、どうでもいいんだけどさ」


逃げ道は確保できているが、問題がヴァルトだ。動く事はできても走る事はまだできないだろう。

別に一人で逃げてもいいのだが、何もせずに逃げるというのも心地が悪い。

毒が抜けるまでの時間稼ぎだけでもしようか。もっとも、死にそうになったら逃げるが。


「ところで、変身能力があるSCPは見た事ないわけじゃないけれど。君は見た事ないね」

「そう?報告書に残ってないんじゃないかな?」

「あー、そうね」


嘆きの水曜日。

多くのSCiPの収容違反と共に、多くの報告書も失われた。

報告書が残っているSCPのほとんどは再収容に成功したものの、報告書が失われたSCPがどれだけいるのかも明らかになっていない。


「てことは、嘆きの水曜日で逃げたって口だ?」

「爽快だったねあれは!!!!血の海って見てみたかったんだよ!!」


ヴァルトはまだ動けそうにない。

これ以上話を引き延ばすのも難しそうだ。

相手が興奮してきている。


「最後に聞かせてよ。カオス・インサージェンシーに協力してどうする気?」

「え?」

「カオス・インサージェンシーが行っているのは異常物質を私利私欲の為に利用し、一方では全国で戦争を引き起こして金を稼いでる。君が協力するメリットは何?」


ルーは悩むこともなく一瞬で答える。


「それだよ」

「……それ?」

「私利私欲。戦争。最高じゃない?たくさんの人が死ぬんでしょ?」

「あー」


シュレンは理解した。

こいつとは分かり合えないと。


「あと、協力してるんじゃないよ」

「…どゆこと?」

「僕達がカオス・インサージェンシーなんだ」


ルーが笑う。

懐から取り出したのは一本の包丁。

シャネルはすぐさま逃げ出そうとするが。


(……あれ?)


体が動かない。

恐怖や緊張によるものじゃない。

もっと不自然な……。


「さて、殺すよ」



********************



SCP-029がクリスの元へ駆け出した。

クリスはそれを転がるように避けて銃を発泡する。


「……小賢しい」

「そうかよ」


クリスは持っている銃を捨て、腰回りのホルスターに手を伸ばす。

そこにあったのは異様な姿をした銃。

異常なほどに銃身が長い。


「……む?」


クリスが銃を構えて撃つ。

SCP-029は当然のようにそれを受け止めようとするが。


「ぐっ……!」


構えが衝撃によって吹き飛ばされる。

今までのとは明らかに違う一撃。

これを食らうのはまずい。そう思ったSCP-029はクリスの喉元へと手を伸ばすが、クリスは再び血だらけの右腕を振るう。

SCP-029は顔をしかめながら後方に飛び跳ねて避けた。


「はぁ……逃げてばっかじゃ俺は倒せねぇよ……はぁ……」


クリスも決して優勢というわけではない。

右腕から流れ続ける血液は彼自身の首を絞め続ける。

右腕の握力はほとんど残っていない。そのため、クリスは銃の反動を全体で受けることになる。

一般的な銃ならともかく、彼のは特別性。

撃つたびに全体の骨が軋む音がする。


「そうか。ならばこうしよう」


SCP-029は近くの絞殺死体から銃を二丁取り出し、クリスへと構えた。


「二丁拳銃なんてそう簡単にできるもんじゃない……ぜ!!!」


踏み込み。

拳銃を相手にした場合、最も有効的な手段は相手の懐に入ることである。

とりわけ、銃を初めて手にした相手に対しては困惑や焦りを生じさせ正面から突破に対応できない事が多い。

だが、それはあくまで一般的な話。

勝負を焦っていたクリスにとってそのミスは致命的だった。


「……が……なに…?」


SCP-029の構えた二つの拳銃は見事にクリスの両足を捕らえる。

しかも、的確に腱を潰しておりクリスは前屈みに倒れてしまう。


「お前達がいう異常性……。私が示すというのならばこれだ」


SCP-029は両手に持った拳銃で的確に死体の顔を挟むように撃ち込む。

それはまるで精密機械のようで一種の不気味ささえあった。


「万物は我の思うままに動く。それが世の摂理。そして……」


SCP-029は血を見ないようにゆっくりと瞳を瞑ると、クリスの眉間へと銃を向ける。


「さらばだ」


クリスは……諦めなかった。


「おらぁぁぁ!!!!」


左手だけの筋力でクリスは飛び上がる。

突然の叫び声にSCP-029は目を覚ますが、既に遅い。

クリスはその体重をかけてSCP-029を押し倒し首を潰すように右腕で押さえつけた。


「な……なにを……!」


クリスの全ての体重が右腕にかかり、SCP-029の首の骨を折ろうとする。

気道が塞がれ呼吸ができないSCP-029はクリスを退かそうとするが力がうまく入らない。


「死んでも……逃がさねぇよ」


首にかかる力がより大きくなる。

呼吸ができない。

SCP-029の足にクリスの血が滴っている。


「……!!!ぁ……!!」


SCP-029はもう言葉を紡ぐこともできない。

奇しくも自分の最も得意としていた絞殺を現在見舞われている。

身体中から力が抜けていく。

意識が遠のいていく。


「……くたばれ」


最早、抵抗する力は無くなった。

クリスは立ち上がろうとするが、足に受けた銃弾のせいで再び倒れ込んでしまう。


「ざまぁみろ……ははっ……」


クリスは仰向けになり、天井を見つめる。

人工的な光が眩しくて、クリスは思わず目を瞑った。

身体中が痛む。もうボロボロだ。

手を握る力も残っていない。


クリスは、そのまま気を失った。


*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*


「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」


「……クリスだ」


「よろしく」


「今回紹介するのはSCP-029「闇の娘」オブジェクトクラスはKeterだ」


「029……だいぶ最初のナンバーだね」


「SCP番号は完全に作られた順ではないけどな。まあ、初期に作られたことに間違いはない。それだけに異常性もシンプルな部類だ」


「というと?闇の娘というからには厨二病だったりするの?」


「SCPだぞ?ただの厨二病を収容するわけねぇだろ」


「…………」


「とにかく、SCP-029はアジア系の少女で体の80%が完全な黒。残りの20%白化症でメラニンが全くないせいで真っ白だ」


「80%が黒の白黒……。パンダ?」


「パンダなら割合的に逆だろ。SCP-029は猛烈な殺人癖を持っていて普通の人間の四倍の肉体反応を持ってる。また、あらゆる道具を武器として扱う器用さと男性に対する強い魅了能力も持っていて非常に厄介だ」


「うわ……とんでもない化け物」


「だけど弱点もある。流血に強い抵抗感を持っている他、光を当てれば異常性が弱めることができるらしい」


「殺人癖を持ってるのに血が嫌いなの?」


「あぁ。だからSCP-029は殺し方として絞殺を望む傾向にある」


「うぇ……あれ辛いんだよね」


「やっぱり殺され方にも楽とかあるんだな」


「あるよそりゃあ。といっても溺死とか電気ショックとかで死んだ事はないけど」


「……どうせならコンプリートするか?」


「馬鹿じゃないの」


SCP-029

『闇の娘』



「SCP-352のバーバ・ヤーガ"」はDr Gears作「SCP-352」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-352 @2008


「SCP-029の闇の娘」はAdminBright作「SCP-029」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-029 @2010


「SCP-668の13インチの包丁」はDrClef作「SCP-668」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-668 @2008

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