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不死身の少女とSCP  作者: 白髪 九十九
カオス・インサージェンシー編
51/80

Case47 ツリーハウスの人食い


扉の中は開けた空間で、その奥には沢山のモニターが立ち並んでいた。

その前に佇む一人の男。

そして、その傍らでは一人の少女が手を縛られ、ぐったりとしている。


「アイリッ!!!」


思わず走り出そうとする私を王が手で制した。


「落ち着けよ、二人とも」


王が見遣る先には男。

鋭い目つきでこちらを睨んでいる。

今まで気にしなかったのが疑問に思うほどの威圧感。存在感。

私はもう一人を落ち着かせる為に、軽く胸を撫でる。


「やぁ、君の名前を教えてよ」


王は軽い口調で男に話しかける。

だが、油断ではない。

一本一本、繊維のように繊細な殺気を放っている。


「アルデド・スカッチ」


男はそう名乗ると体を完全にこちらに向ける。

モニターの明かりに照らされ、男の化け物のような筋肉と無機質な表情が露わになる。

その姿ははっきり言って異常であり、彼がこちら(SCP)側の人間であるということは明らかであった。


「アルデドね………僕は王。王軍陵。よろしく」


男からの返事はない。

ただ、こちらをじっと観察しているように思える。


「ところで……交渉しない?正直、僕らもこれ以上失うのは少々キツい。君達もこれ以上続けたらあんまり良くないだろう?」


男は答えない。

ただ、こちらを観ている。


ふと、私とアルデドの目が合った。

無機質な瞳、表情。

それはまるで彫刻のようで、心の底から不気味さが漂ってくる。


「お前は何だ」


その言葉は私に向けられる。

鋭く冷たいナイフのような言葉。

心臓に深く突き刺さる。


「どういう意味?」

「お前は何故人の味方をする」


一切トーンの変わらない言葉。

それからは一切の感情が感じられない。

私は、チラリと王を見遣り王も同じようにこちらを見遣る。

話を続けろということだろう。


「私は……友達を守りたいだけ」


男はその回答に満足がいかなかったのか、一歩前に進み出る。


「では、この娘を解放したら貴様は我々の邪魔をしないのか」

「それは……違う。貴方達を止める」

「何故だ」

「何故って……SCPを使って悪いことをしようとしてるから!だから止める!」


男はまた一歩前に出る。


「わからないな。我々が我々の力を使って何がおかしい?」

「おかしいよ!それで人を殺すなんて!」

「人を殺す事になんの問題がある?」

「……は?」


男はまた一歩前に出る。

近づいてきた事によって改めてその体の異常さを認識させられる。

まるで顔だけ貼り付けたように隆々とした筋肉。


「彼らは我々を閉じ込め、実験を行い、時として殺す。我々がやっているのは同じ事だ」

「違う!それは異常性を明らかにして危険な行動を避ける為!!」

「何故我々が彼らに縛られなければならない?そんなもの誰が決めた?優れた我々が劣等種である彼らに何故支配されなければならないのだ」


一歩近づく。

手を伸ばせば届く距離。


「カオス・インサージェンシーはただ利用しているに過ぎない」

「どういう事?」

「嘆きの水曜日。あの日以来、多くの我々は自由を手にした。しかし、それは仮初に過ぎなかった。真の自由を手にするには戦わなければならない。我々は財団や世界オカルト連合(GOC)を滅ぼす為に彼らと手を組んだのだ。逆らう者を皆殺しにして理想の世界を作る為に」


男が手を伸ばす。

ゴツゴツとした手。

握手を求めるように手を軽く開いている。


「お前も来い。異常な者同士。新たな世界を築こう。もちろん彼女も解放する。我々と共に異常者達の世界を…」

「違う……異常性とかそんなの関係ない。貴方のその考えが異常だよ」


男は伸ばした手を下ろす。


「そうか……ならもう必要ない」


身体中に衝撃が走る。

ダンプカーをぶつけられたような衝撃。

何をされたのかもわからないまま、私の小さな体はその威力に耐えきれず羽虫の様に壁に叩きつけられる。


「あ………ぁ………あ…?」


身体中から力が抜けていく。

いや、どういうわけか力を入れられない。

体の感覚がない。


「ぅ……」


腹部が抉られている。

まるで初めから無かったかのように丸い円のような穴が空いている。


「あぁぁ……あぁぁぁぁぁ……!!」


痛みは実感と共に現れた。

想像を絶する痛みが身体中に流れ込んでくる。

割れた骨や千切れた筋肉が私の神経をすり潰すように襲いかかる。


私はあまりにも壮絶な痛みに気を失った。



********************



東施設。

ゴミだらけの通路を抜け、30メートル平方ほどの部屋。

星影とブロアは突如現れたマイクに対して一方的な戦いを強いられていた。


「銃が効いちゃいねぇ……少しくらい怯えてくれてもいいだろうに」

「あの様子から見るに極度の興奮状態です。痛みを感じているのかも……」


星影の言う通り、マイクは二人を殺そうと動いてはいるもののその動きは乱雑で、周囲の物に無差別に攻撃しているように見える。

まるで子供の癇癪のようだ。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」


飛びかかるマイクを二人は間一髪で躱す。

二人が先ほどまでいた床が発泡スチロールのように砕かれた。


「正直……このまま戦うのが得策とは思えませんが」

「んなことわかってる!だがどうすりゃいいんだよ」


星影はマイクの様子を改めて観察する。

見た目では子供に相違ないが、その表情からは正気が伺えない。

土で汚れた服の下から所々見える体には幾つかの銃跡が残っている。


誰が抗戦したのか。

だけど、こいつが生きていると言うことはおそらく……。


その時、マイクが再び飛びかかろうとする。

二人は左右に回避しようとするが、マイクは二人の元へ到達することもなく足から崩れ落ちた。


「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!!!あの女ァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


……ダメージが入っている?

先ほど抗戦した人物が与えていたのか。

女……シャネル・カールか?

という事は彼女はもう……。


「おい、星影!来るぞ!」

「一旦逃げましょう。このままでは弾切れで死にます」


そうは言っても簡単に逃してくれるわけでは無い。

一撃一撃が即死レベル。ただならない緊張感が漂う。


「何か弱点はないのか……」


ふと、匂いがした。

人を焼いたような刺激臭。

あまりもの臭いに鼻を塞ぎたくなる。


「……おいおい」


通気口から現れた炎。

いや、ただの炎ではない。

その炎は明らかに人の形を保っており、異常性質を持つ炎というのは明らかであった。


さらなるSCPの追加。

ただでさえ厄介な奴に追われてるというのに……。


「あぁ……火……」


しかし、意外にも一番の表情を示したのはマイクその人であった。


「なるほど」

「炎が怖いのか」


思ってみれば打撃が通用するような相手だ。

弱点の一つや二つくらい存在するだろう。

炎の男はというと、こちらには興味がないのかただ、通気口から顔を出しているだけだ。


「僕が引きつけますので、火炎放射器の準備をお願いします。……ありますよね?」

「あぁ、もちろん」


ブロアは巨大な装備の背中の方を指差す。

そこにはバーナーのような突起があり、組み立てれば火炎放射器になるようだ。

ブロアの部隊が愛用している戦闘服。

そこには様々な相手に対応できるように武器が詰め込まれている。


「それなら」


星影は銃弾をマイクの頭に打ち込む。

マイクにダメージは与えられていないようだが、鬱陶しそうにこちらを睨みつける。


「先程のゴミだらけの場所。梟の絵を見つけたところあたりです。あそこなら一方通行なので、そこで待っててください」

「おうよ」


マイクは炎への恐怖はもう忘れたのか、一心不乱に星影に突撃してくる。

星影はそれを避けつつ、銃で牽制。

注意を自分に向ける。


「とはいえ……このままじゃもたない」


約束の場所に行くには今来たところを戻る必要がある。つまり、マイクの横を通り過ぎる必要があるのだ。

逃げてばかりでは追い詰められ死ぬだけ。

さて、どうするか。


「アァァァァァァァァァハァァァァァァァァ!!!!!!」


その動きは決して力が強いだけではなく、俊敏でもある。

人間の反射神経などはとうに超えており、正面から横を通り抜けるのは無理と言っていいだろう。

まあ、クリスやシャネルならできそうな気もするが。


「そう考えたら少し楽ですかね」


星影は思いっきりマイクの脇を走り出す。

人間では最高クラス。ほとんどの大会で優勝する事ができるだろう。


「アハハハハハハハハァァァァァァァ!!!!!」


しかし、それはあくまで人間の話。

並外れた動体視力を持つマイクの目にはしっかりと動きが写っている。


だが。

星影は小瓶を懐からマイクに投げつけた。


「あ?」


自分へと向けられた物。

マイクは反射的に小瓶を叩き割る。


「あぁぁ……?アァァァァァァァァァ?!?!」


中身は硫酸。

マイクの表皮が溶け、悲鳴を上げる。


「ちょっとは効くのか。持ってて良かった」


星影はそのまま脇を通り抜け、元の道へと戻る。

マイクは爛れた頬を抑えながらも目では星影を追いかけている。


「コロスコロスコロスコロスコロスコロスッッッッッ!!!」


マイクはまるでマスクのように溶け落ちた顔を捨て、再び星影を追いかける。

だが、既に星影は着いていた。

星影は巨大な火炎放射器を抱えたブロアの後ろに立っている。


「よろしくお願いします」


冷静な声が薄汚れた廊下に反響する。


「おう」


ブロアが火炎放射器を構え、マイクを炎で包み込んだ。


「アァァァァァァァァァァァァァァァァ?!?!?!?!」


少年の悲鳴が辺りに響き渡る。

いや、もはや人間の声ではない。

薄汚い化け物の声。とても人間の喉から出せる声ではない。

あまりにも悍しい、あまりにも不快な声。


「ふぅ……こんなもんか」


ブロアは炎を止め、火炎放射器を床に下ろす。

流石にもう十分だろう。声も聞こえなくなった。

ブロアも安堵したように星影の方を振り返る。


「……!危ない!」


炎の中から手が伸びる。

その手はブロアの左手を握り、やがて奪い去った。


「んぬ……?!?!」


燃え盛る炎から現れた顔は黒く焦げ付いており、目や鼻の判別がつかない。

唯一、半月型に開いている穴が口ということだけは理解ができた。


「死ななぁぁぁい!!!!アハァァァァァァァ?!?!」


枯れ果てた様な声が悪寒を誘う。


ダメだ。

勝てない。

炎を克服している。

きっともうダメージを与えることはできない。


「おい、星影」


星影の目にブロアの姿が映る。

片腕は無理矢理剥がされたように千切れており、出血で断面が隠されていなければ骨や筋肉が露わになっていただろう。


「その手……」

「ああ、もう長くは持たねーよ」


ブロアは残った右手で腰のベルトから手榴弾を取り出した。


「どうすればいい?」


星影は手榴弾とブロアの顔を交互に見る。

その表情は恐怖でも悲哀でもない。

虎視眈眈と頭も回すエージェントの表情。


「打撃による身体の痛みは残っていました。体内へのダメージには弱いと思われます」

「なるほどな」


炎が一層強くなる。

マイクの焦げた顔から瞳がギョロリと現れ、二人を捕らえた。

再び歪な笑い声を上げる。


「最期の先輩からの説教だ。聞いてくれるか?」

「はい」

「相変わらず淡白な……まあ、いい。お前のエージェントの姿勢はスゲェ。だが、お前は人間だ。もっと人を頼れ。人を信用しろ。俺は……お前達の世代が世界を守ってくれると信じてる」


ブロアは星影の元へ振り向くとニヤリと笑う。


「まあ、死ぬ気はねーけどよ」


そう言うと、ブロアは駆け出した。

マイクは突然の動きに明らかに反応が遅れる。


「オラァッ!!」


ブロアは手榴弾のピンを引き抜き、自分の腕ごとマイクの口に入れる。

マイクは慌ててその手を剥がそうとするが余りにも近づきすぎているせいか、傷つけるばかりで腕を千切り取ることができない。


「フガガガガガァァァァァァァ!?!?」

「釣れないこと言うなよ。俺の贖罪に付き合ってくれや!!!!」


次の瞬間、閃光のように激しい光と爆風が辺りを包み込む。

星影はわずかに後方に吹き飛ばされ、背中から受け身も取らずに床に投げ捨てられた。


「くっ………」


星影はブロアの元を見るが、爆風の衝撃で天井が崩れ落ちており道を塞いでいる。

下手に動かしては更に崩壊してしまうだろう。

崩れた天井からの太陽の光が瓦礫を英雄のように照らしている。


「お疲れ様です」


星影は、流石に瓦礫に向かって礼をした。

一人の立派なエージェントの死に様に。


「おい、まだ終わってねーぞ」


星影の予想に反して、瓦礫の奥から聞こえる声。


「大丈夫ですか?容態は?」

「あーうるせぇな。まずは生きてて良かったですとでも言ってくれよ。……両腕損傷だ。早く迎えにきてくれ」


星影は小さく返事をすると、どこかに行ってしまった。

きっと、他の道を探しに行ったのだろう。


「こんなゴミ山で死ぬのもお似合いだな……って思ったんだかな」


数年前、ブロアは名を馳せた軍人であった。

一つの国を救い一つの国を滅ぼした。

戦争が終わり人々が彼を称賛した時、彼は泣いていた。

自分の守れなかった沢山の死体に。自分の生み出した沢山の死体に。

財団に入ったのは罪滅ぼしであった。

もし、救える命が一つでもあるのなら。

自分の汚れた手で、沢山の手を汚さずに済むのなら。


「まだ神は俺を赦してくれねーのか」


ブロアはやれやれと首を降り、失った両手を見つめる。

幸い、その断面は炎で止血されている。すぐに死ぬという事はないだろう。

手榴弾での爆風も強硬な装備が防いでくれた。


「さて……星影はまだかな」


ブロアは汚れた廊下の先を見る。

相変わらず汚い廊下だ。

散乱したゴミ、消えかけた電球、壁を埋め尽くさんばかりの罵倒に梟の絵。


「………あ?」


梟の絵。

その絵は梟には本来存在していない引き締まった腕と鋭いかぎ爪が書き込まれている。


血の気が、引いていくのを感じる。


「……………クソがよ」


気がつけば、梟はすぐそこまで迫っている。

絵から伸びた手がしっとりと体に触れる。


「本当、クソッタレな人生だったな」


引き締まった化け物の手がブロアの体を捉えた。

*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*


「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」


「ブロア・バッヂだ。よろしくな」


「よろしくお願いします!」


「今回紹介するのはSCP-974「ツリーハウスの人食い」オブジェクトクラスはEuclidだ」


「人食いってことは……まあ、人を食うんですよね……」


「そうだな。SCP-974は子供の姿をした生物で驚異の耐久力や強靭さ、スタミナを持ってる。奴らは森の中に巣……ツリーハウスを作ってそこで子供達と遊ぶんだ。それから遊んだ子供のうちの一人を二人で遊ぼうって誘い込んで食っちまうらしい。そしてその人間に姿を変える」


「遊ぼうと誘いんこんで食べるって酷いやつですね………ちなみに食べるって変な意味の方ですか?」


「んなわけねぇだろ。eatだよeat。だが、炎を怖がる性質と大人を怖がる性質があってな。すぐにツリーハウスの中に隠れちまう」


「なるほど。でも弱点があるなら対処しようがあるんじゃないですか?」


「そうなんだがな……とあるSCP-974が土の中に潜ったんだ。財団はこの様子を観察してたんだが、1か月に奴は土の中から出てきて暴れまわったんだ。大人に恐怖を抱かず炎にも恐怖を感じねぇ」


「そんなの、どうやって鎮圧したんですか?」


「一人の勇敢な警備員が手榴弾を喉の中に突っ込んだんだ。当然その警備員は命を落としたがな……」


「それは……勇敢な人でしたね……」


「だろ?」


「……?なんでブロアさんが嬉しそうなんですか?」


SCP-974

『ツリーハウスの人喰い』



「SCP-974のツリーハウスの人喰い」はDrewbear作「SCP-974」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-974 @2011

また、一時的に名前をつけさせていただいております。


「SCP-120-JPの世界で一番の宝石」はZeroWinchester作「SCP-120-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-120-jp @2014

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