Case46 "バーバ・ヤーガ"
東施設。
星影とブロアは先程取り逃がした梟の絵のSCPを捕まえるため、施設内を奔走していた。
「ちっともいやがらねぇ……。別々に行動したほうがいいんじゃねぇか?」
「いや、奴の異常性は第三者に見られていることで防げる可能性が高いので二人でいるほうが安全です」
たしかにブロアに鋭い爪が伸びた時、星影がその様子を視認することによって攻撃は止まった。
少し楽観的だが、そう解釈するのが正しいだろう。
「しかし奴は実態のないSCP。既に施設の外という可能性も……」
星影が言葉を止めたのには理由があった。
それは、廊下に佇む少年。
明らかに普通ではなく、ボロボロの服には土が異常なほどに付着している。
「ブロアさん」
「あぁ、わかってる」
ブロアは少年に銃口を向ける。
明らかな殺意を向けられているのにピクリともしない少年。
やはり異常だ。
「お前さん何者だ?」
「大人……」
「あ?」
「大人……!!!大人……!!!!大人………!!!!!」
瞬間、ブロアの銃が少年の頭を吹き飛ばす。
それは驚異的な速度で襲いかかってきた相手への反射的な行動だった。
だが。
「あは……ははは……!!!!痛くない……!!!大人なんてもう…!怖くないよ!!!!」
少年……マイクは狂ったように笑い声を上げた。
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南施設
「また分かれ道……なにここ?迷路過ぎない?」
「せやな」
ヴァルト、シュレン、流の三人は二手に分かれた道の前で立ち止まっていた。
「私が職員ならこんな場所絶対に住みたくない」
〔財団も似たようなものだけどね〕
「けど、外から見た通りやとここら辺が中央に繋がってるはずや」
一つずつ回ってもいいがエージェントが三人も揃ってそれはあまりに非効率的だ。
ここは二手に分かれるべきだろう。
「私こっち行く」
シュレンが指差したのは左の通路。
「じゃあ、ウチは右に行くわ。ヴァルトはシュレンについて行ってあげてな」
「なにそれ?もしかして本部からしばらく離れてたからって馬鹿にしてる?」
「本部とか今関係ないやろ。単純に私はヴァルトと気が合わんだけや」
「うわ、ヴァルトかわいそう」
廊下の隅でいじけるヴァルト。
隅で床をいじっている。
「じゃあ、私はヴァルトと左に行くよ」
「……死ぬなや」
「こっちのセリフ」
シュレンは気づいている。
戦闘経験なら流の方が数倍上だ。
その上でヴァルトと私を組ませたのだろう。
舐められたものだ。気に食わない。
「ほな、またな」
流が右の通路に行くのに合わせてシュレンとヴァルトも左の通路に進んでいく。
先ほどの道と何ら変わらない真っ白な道。
途端、ヴァルトが膝をついて倒れる。
「は?」
シュレンの行動は速い。
ヴァルトが倒れた位置から後ろに飛び数歩距離を取る。
「ねぇ、大丈夫?」
シュレンは少し焦っていた。
明らかに何者かに攻撃された跡。
だが、それが霊的実態なのか空気感染なのかそれとも異常性の範囲内に入ったものなのかわからない。
〔どうにか〕
ヴァルトは文字を書き後退するが、その震えた字からして明らかに大丈夫ではない。
毒……致死性のものではない。
それなら流石のヴァルトでもひとたまりもない。
なら混乱、脱力……そんな所だろうか。
とりあえず外見では異常は見られない。
「てか、なんでヴァルトだけ?」
範囲系のオブジェクトだとしても歩いていたのはほぼ隣。
感染系だとしたら後退したくらいで避けられるもんじゃない。
霊的実体なら追撃が来ないのはおかしい。
なら条件がある?
男性。身長。出身。状態。心情。障害。
……ピンと来ないな。それなら。
シュレンは胸のボタンを引きちぎり、床へ投げつける。
一度静止したボタンが……微かに揺れた。
「……床に何かある。動いてる」
それは一般的な人間には捉えられないほどの矮小な物体。
シュレンが光の反射によって見つけられた事も奇跡に近かった。
「髪の毛……?」
廊下の奥から老婆の呻き声がする。
その不快な声に思わず二人は顔をしかめた。
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中央施設。
私は王と二人で真っ白な廊下を進む。
「しかし、どこを見ても真っ白。頭おかしくなりそう」
「まだなってなかったんですか?」
「なにそれ?一丁前に皮肉のつもり?」
まだ彼への嫌悪感は拭えない。
一度殺された相手だ。そう簡単に仲良くするのは無理だろう。
しかし、一度救われた相手でもある。
「……あの、さっきは」
「お礼なんて言うなよ。気色悪い」
「なっ……!」
こいつ……!
私がせっかくお礼を言おうとしているのに……!!
「エージェントっていうのは人と仲良くなっちゃいけないんだ」
王の表情はいつもの薄っぺらい表情ではない。
どこか神妙な。
どこか悟ったような表情。
「何の話ですか?」
「先輩からのアドバイス。君はこれからたくさんの人の死を見るだろ?その度に泣いてたら脱水症状になる」
何だこの人…?
一体何が言いたいんだ…?
「わからない?アイリちゃんの事だよ」
「はぁ?!」
胸から突然声が飛び出る。
王は少し驚いたように声の主を見つめる。
SCP-120-JPを。
「………あ」
「何やってんの!?」
「だってアイリが……」
「だってじゃないでしょう!」
本来SCP-120-JPを連れていることは収容違反。即罰則行為。
今この状況で撃たれても文句は……。
「あ、やっぱりいたんだ」
「へ?」
「やけに胸ポケットに膨らみがあったからもしかしたらなって思ってさ」
普段は膨らみがないと言いたいのか……?!
「大丈夫、ここで捕まえたりはしないよ。後で報告はするけど」
「はい……」
「それよりさっきのはどういう意味だ!チビ!」
チビて……。
確かに小柄だけど……。
「どうもこうも。そのままの意味だよ。覚悟はしとけってね」
「なに……?」
「SCP-________。お前は親しすぎる。人間にもSCPにも。彼らが死んだら君はどうするの?」
「ッ……!死なせない!」
「無理だよ。君に何ができる?今この施設では僕らのいないところで何が起こってるかわからないんだぞ?全滅の可能性だってある」
反論できない。
確かにその通りだ。
私はここで何が起きてるかなんてわからない。
アイリだって……もしかしたら。
「そんなの決まっているだろう。人間はいつか死ぬ。死者に対して出来る事などその決意を繋ぐことしかあるまい」
SCP-120-JPの発言に私は少し驚いた。
子供っぽいって思っていたから。
なんだ。私よりずっと大人じゃないか。
「そういう事言えるんだね」
「どういう意味だ?まぁ、アイリは死ぬはずがないがな。この私がいる限り」
「………と、話してる間に着いたよ。ここが終着点かな」
扉。
巨大な扉だ。
脇には近未来的なパスワードを打つ装置が配置してある。
「パスに関しては心配しないで。流がシャロット博士のウイルスをばら撒いてるはずだから」
扉の奥から嫌な予感が漂ってくる。
殺気。臭気。障気。
その全てが私に冷や汗を誘う。
SCP-120-JPを胸ポケットに戻し、王はパスワードを適当に入力した。
「それじゃあ行こうか」
扉が……開いた。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「シュレン・マスチット。よろしく」
「よろしくお願いします!」
「はいはい。SCP-3160『お前の電子レンジの中にはスズメバチがいるし、今まさにお前を刺している』オブジェクトクラスはEuclid。後は自分でやって」
「名前長ッ!いやてか雑!」
「こんだけ名前が長いんだから推理できるでしょ推理。じゃ、私忙しいから」
「あ、これ久馬さんから手紙です」
「なに?!……………仕方ないなぁ」
(何が書いてあったんだろう)
「SCP-3160は簡単に言うと概念の蜂。現在129匹のSCP-3160を財団では収容してるわ」
「概念の蜂ってどう言う事ですか?」
「SCP-3160は物理的な状態から概念的な状態に変化して付近にある物体の概念的枠組みに自らを付着させることができるの。まあ、『取り憑く』って思うと考えやすいかも」
「取り憑く……なるほど」
「そんでもって、SCP-3160は半径10km以内で同一の概念的枠組みを有する全ての物体に存在することができる。例えば一つの電子レンジに付着した場合、半径10kmの全ての電子レンジにはSCP-3160が存在している」
「増えるってことですか……?」
「増える……ってわけではないだろうけど。難しいところね。さらにSCP-3160は付着した物体の半径1m以内にいる生物に物理干渉できる。まあ、刺せるってこと」
「うわ……見えない蜂に刺されるんですか?」
「なに?蜂は嫌い?」
「蜂が好きな人なんているんですか?」
「私は好き。健気だし、可愛いし。女王蜂の為に集めてきた蜂蜜を人間に食べられるって言うのが愛くるしいじゃん」
「何この人……Sとかそういう次元じゃない……」
SCP-3160
「お前の電子レンジの中にはスズメバチがいるし、今まさにお前を刺している」
「SCP-974のツリーハウスの人喰い」はDrewbear作「SCP-974」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-974 @2011
また、一時的に名前をつけさせていただいております。
「SCP-352のバーバ・ヤーガ"」はDr Gears作「SCP-352」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-352 @2008
「SCP-120-JPの世界で一番の宝石」はZeroWinchester作「SCP-120-JP」に基づきます。
http://ja.scp-wiki.net/scp-120-jp @2014
「SCP-3160のお前の電子レンジの中にはスズメバチがいるし、今まさにお前を刺している」はTanhony作「SCP-3160」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-3160 @2018