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Case5 ぬ號実験体

「う……ううん……」


私が目を覚ました時、昨日の気持ち悪さはすでに抜けており、吐瀉物の匂いもすっかり消え去っていた。

私が寝ている間に処理してくれたのだろうか。

ここまでくるとちょっとしたホテルに泊まっているような気持ちになる。

名前は、ホテル Whiteってとこだろうか。


私はベッドから起き上がり洗面台の鏡の前で首筋に手を当てる。

そこには縫った跡どころか傷一つない。

やはりおかしい。


私は、たしかに首をはねられて……

死んだんじゃないの………?




…………わからない。


私が出した結論はたったの五文字だった。

自身の頭の悪さが嫌になる。


とりあえず今日また夏華さんが来たら話してみよう。

あの人なら何か知っているに違いない。


そう決めると、私は再びベットに横になる。

色んなことが起きすぎて、頭の中で整理する必要があると思ったからだ。


私になにが起こったのか。



********************


「どうでした?」


クリスはコーヒーを飲みながら夏華を見つめる。


「どうっていうのは?」


夏華は意地悪な笑みを浮かべながらそう返す。


「あいつは、人間でしたか?」

「……クリスがいう人間ってなに?」


クリスは夏華の問いに口を紡ぐ。

夏華は意地悪な笑顔をしながらその反応を楽しんでいるように見える。


「まあ、彼女が異常性を持ってるってのは間違いないだろうね。SCP-4975にはあんな性質ないし、あの建物にも異常性は見られなかった。それに、あの子にはおかしなことが多すぎる」

「住居から見つかった偽装された身分証のことですか?」

「んー。まあ、それもあるんだけど」

「けど?」

「なんか知ってそうなんだよね」


クリスは夏華の発言に首をかしげる。

夏華はニヤリと口角を上げ、机をトントンと指で叩き、一定のリズムを刻む。

これは彼女が考え事をする時の癖であり、それだけにクリスはことの深刻さに気づいた。


「彼女のインタビュー、何か変なんだよ。まるで何処かで聞いたことがあるみたいな」


そういうと、夏華はクリスの方を見つめる。

クリスは夏華の言葉に緊張を覚える。

財団のことを元から知っている?

もしそれが本当だとしたら大問題だ。


その時、何者かにドアがノックされる。


「クリス、そろそろ出かける準備をしな……いと?」

「あぁ、星影。今行く」


そのガタイのいい優しそうな顔をした人物。

星影 優希はこの妙に静まった空間に君悪がっている。


「え、どうしたんですか?」

「んー。こっちの話ー」


夏華のタイピングの音がカタカタと響く


********************



時計は2時半を指している。

私は真っ白な天井を見ながらぼんやりと考え事をしている。


ふと思い出すのは友達の顔。

美奈子と玲奈。

きっと心のどこかで受け入れられていないのだろう。

涙が出てこない。

ただ、強い絶望と後悔。

そして、恐怖。

私は、一旦自分を落ち着かせようと水を飲みに席を立つ。


その時だった。

私の視界は真っ白から真っ黒に覆われる。

唐突に模様替えでもしたのだろうか?

いや、これは


「停電?」


やがて、その暗闇にも目が慣れてくる。

こんな秘密組織的なところにも停電とかあるのか。

私はベットから立ち上がり、周りを観察してみる。

あたりは暗闇に覆われているが、さっきまでの退屈な部屋とほとんど変わらない。

変わっていることといえば。


「ドアが開いてる?」


デジタルキーで固く閉ざされていたドアは何故か開かれている。


…………逃げてしまおうか?

いや、逃げてどうするんだ。

ここから出たとしてもそもそもこの施設がどこにあるかわからない。

もし、外国だとしたら通知表で英語2の私ではとても家に帰れると思えない。

私は胡座をかいて、開かれた扉をまじまじと見つめる。

扉の先にはうっすらと光が灯っている。




…………気になる。

出る出ないは別として、ここがどうなってるのか気になる。

昨日、夏華さんが言っていたSCPというものがこの施設にはたくさんいるのだろう。

もし襲われたらひとたまりもない。


……………………うーむ。


「…………やめとくか」


私は好奇心より恐怖が勝るタイプの人間らしい。

そもそも、あんな化け物たちがいるところにわざわざ行くわけがないだろう。

それに…



「キャァァァァァァァ!!!」



突然、扉の外から女性の悲鳴が聞こえる。

まさか、この暗闇で食器を落としたとしてもこんな声は出さないだろう。

何か危険なことがあったのだ。それも命にかかわるような。


私は扉を飛び出し、悲鳴の聞こえた方へと走り出す。

元の場所にいた方が安全なことはわかっているが、私は走る足を止めることはなかった。


いくつもの扉を開き、長い螺旋階段を下る。


「たしか……この辺りから声が……?」


螺旋階段を最下段まで下り、私は目の前の扉に手をかける。

そこはかなり大きな広間だった。

暗闇の中、私は腐臭と避難誘導灯の光で、とあるものを目視する。


「うっ…………」


そこにあるのは内臓がぐちゃぐちゃに晒された死体。

その臓器の中からところどころに血が絡まっている長い髪の毛見えることから、おそらく叫び声をあげたのはこの女性だろう。

死体からはところどころオレンジ色の布が見える。おそらくこの人が来ていた衣服だろう。


「なにこれ……」


こんなの人間の仕業ではない。

いわゆるSCPの仕業であることは明らかだった。

私は死体から徐々に後ずさる。


「とりあえずここから離れないと…」


そう思った矢先、真っ暗な部屋の向こうで、銃声が鳴り響く。

それに続くように巨大な何かが壁や床を殴打するような物音が聞こえる。


ちょうどその時、天井の光が次々とつく。

停電が回復したのだろう。


光のともった広間の奥。

そこにいたのは、


…夏華さんだ。


そこでは、巨大な猿のような化け物と、夏華さんが対峙していた。


その猿は瞳が陥没したように潰れており、頭も一部が凹んでいるように見える。


夏華さんは巨大な相手に対してとても小さな拳銃を握っている。

それではとても敵わない相手ではないことを、知識のない私でも明白だった。


一人と一匹は目の前の敵に必死でこちらには気づいていないようだった。


どうする?

私に何ができる?


巨大猿は夏華さんに対して大きく手を振り上げる。


逃げる?

もし、夏華さんが襲われたら次は私だ。


夏華さんは、足を引きずっており、怪我をしているようだった。

夏華さんは巨大猿の顔に銃弾を浴びせるが、蚊にでも刺されたかのように平気な顔をしている。


猿はニヤリと口角を上げると、その手を振り下ろ……


「うらぁぁぁぁぁぁ!!!」


私は夏華さんに向かって走り込み、思いっきり突き飛ばした。

しかし、そのまま私は夏華さんが元いた位置共に倒れこむ。

猿の手は止まる気配がない。

私はうつ伏せの体制からどうにか避けようとするものの、回避するにはあまりにも遅く、猿の手は私の脚部を叩き潰した。


「うぅぐぅぅぅぅ!!」


私は声にならない悲鳴を口から捻り出す。

骨が砕ける音。

筋の裂ける音

そして、筋肉が潰され、足との神経が剥奪される感覚。


猿は夏華さんの方へ向き直ると、拳を握りしめ、夏華さんへと叩き落とそうと構えている。

夏華さんは私と猿を交互に見ながらも、足が引きずられており、とても避けられる様子ではない


(くっそ……)


私は再び立ち上がろうと足に力を込めようとするも、うまく力が入らず、そうしようとすればするほど、体全体に激痛が走る。

猿はその拳を夏華さんに向けて振り下ろした。

私は死ぬほどの痛みの中、無理矢理に足を床と垂直にする。

そして、夏華さんへ再び走り込み、今度は抱きつくような形で猿の拳を紙一重で躱す。


夏華さんは少し驚いた顔をしたが、すぐさま、広間から、廊下へ、二人三脚で脱出する。

猿は床に叩きつけた拳が勢い余って、めり込んでしまったらしく、私たちから目を逸らしていた。(といっても目は潰れているのだが)


私と夏華さんは広間から3回ほど廊下の角を曲がり、そこで私は膝をついた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


心臓の音が聞こえる。

血管の血の巡りを感じる。

2回目だからといって化け物から逃げるということに関して慣れるという事はないらしい。


「ありがとう。友梨ちゃん。助かった」


夏華さんは私に感謝を述べる。

やはり、足を怪我しているようで、壁に寄りかかり、左足で立っている。


「なんなんですか。あいつは!」


私はヒステリックに叫ぶ。

あまりのヒステリックさに言葉の主である私が驚くいたが、あんな化け物に襲われたんじゃ仕方がない。


「SCP-279-JP-2。簡単に言うと、巨大なニホンザルだよ」


夏華さんは息を整えながら話す


「今、財団の機動部隊が対処を急いでる。私たちの目的は奴らが再び収容されるまで逃げ続けること」

「逃げ続けるって……」

「ちなみに、SCP-279-JP-2はかなり狡猾で、高い知性を持つ上に、不死身だ」


滅茶苦茶なことを言われているが、この状況ではスッと頭に入ってくる。


「どうやって収容するんですかそんなん!」

「代わりに、視力はないよ。音と匂いで獲物の場所を感知する。私、臭ってないといいんだけど」


夏華さんはニヤッと笑ってみせるが、その目はあまりふざけてもいられないというような目だった。


「でも……そんな…」

「クリス君たちが来てくれたら、なんとかなるよ。問題は…」


その時だった、廊下の曲がり角から大きな破壊音が響き渡る。

慌ててそちらの方を向くと、そこにはあの不気味な顔をした猿がこちらを見ていた。


「それまで逃げ切れるかどうか……かな」

「SCP-279-JPのぬ號実験体」 はdr_toraya作「SCP-279-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-279-jp @2014

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