Case45 ペスト医師
中央施設。
私は王の後ろに間隔を開けて歩いている。
「そんな警戒しなくてもいいのにさ」
「初対面で刺してくる相手を警戒しないとか無理です」
私は今でもこいつを許してないからな。
痛いんだぞアレ普通に。
「ほら、そんな冷たい事言わずにさ。よくあるじゃんライバルとの激闘の末に仲間になるって」
「貴方とはライバルじゃ無いですし仲間でも無いです。なんならアレは激闘じゃなくて一方的な暴力ですよ」
「そうだっけ?」
「お前本当に……」
王はとぼけたような顔で首を傾げる。
なんだこいつ荒戸よりもムカつく。
……ただ、この人は荒戸と何か違う。
何だろう。この違和感は。
やってる事はどちらも最低なのに。
「ストップ」
「はぁ?!何ですか急に」
「いいから止まれ」
私は王の横顔を覗く。
そこにはいつものような薄ら笑い。
しかし、その中には少し真剣な顔があった。
「……来るぞ」
「来るって何が?」
「SCiP」
王が指を刺す先。
そこにあったのは影であった。
勿論、ただの影では無い。その影は立体としてそこに存在し、犬のような形をとっている。
「なんですかアレ」
「さあね。ただ、友達にはなれなそうだ」
犬の形をした影。
尻尾の部分がゆらゆらと揺れている。
「あ、思い出した。SCP-159-JP。Euclidのやつだ」
「思い出したって……?」
「嘆きの水曜日で消えてたやつ。そういえば報告書を見たことあったような気がする」
嘆きの水曜日……。
シャネルさんも言っていたやつだ。
数年前の大規模収容違反。他にもその関係のSCiPがここにはいるのだろうか。
「それであいつの異常性は?!」
「んー、触ったら死ぬ」
「は?」
突然、犬の形をした影が私に飛び乗ってくる。
私は突然の攻撃に対処できず犬に押し倒される形となってしまった。
「くっ……」
私は慌てて腕で犬を振り払おうとするが、それはできない。
「あ……?」
私の腕がボロボロに崩れていっているからだ。
「がっ……!?」
その時に銃弾が影へと放たれる。
王が放った弾丸だ。
弾は影をすり抜けたが、王の方を向き睨みつける。
「おぉ、怖い怖い」
犬は明らかに敵意を剥き出しにして王の元へと飛びかかる。
しかし、王はそれを間一髪のところで躱した。
「おい、SCP-________いつまで寝てるんだ」
「ぐっ……うぅ……」
私は再生した両目でなんとか立ち上がり、再び犬に対峙する。
犬は腕が修復された事については何も関心を示していないようだ。
「こいつ……どうすれば」
その時だった。
影の犬は軽く飛び上がり、地面へと潜る。
いや、潜ったのは地面では無い。
私の影だ。
「なっ……?!体が動かない……?」
何故か体が動かない。
まるで石にでもなったかのように全く。
「あらら。入られちゃったか」
「……これは………なに?」
「SCP-159-JPの異常性は大きく二つある。一つは飛びかかった相手の体をじわじわと炭化させる事。そしてもう一つがそれ、影に入られると動けなくなる」
なんで今そんなことを言うんだ。
言われていれば警戒もできたのに。
「まあ、でも助かったよ。お陰で僕だけは先に行ける。いいでしょ?君死なないし」
「ふ……ふざけんな!!」
冗談じゃない。
炭化だって体がボロボロになっていく感覚が平気なわけない。
気持ち悪くて身体中が痛いのに。
「わかったよ。ふざけない」
そう言うと、王は天井に銃を向け……放った。
照明が割れ、辺りが暗闇に包まれる。
「何してるの?!」
私への返答はない。
しかし、暗闇で私の手を誰かが引いた。
間違いなく王だ。
「動けるでしょ?自分で走って」
たしかに、身体が動く。
さっきまでびくともしなかったのに。
「何をしたの?!」
「異常性があるからには対抗手段もあるんだよ。光がなければ影もない。影がなければ隠れられない」
確かにそうだけど……。
王は私の手を引いて、廊下の扉を開く。
「どんな奴でも収容方法っていうのはあるのさ。それが特別収容プロトコル」
闇の中に微かに動くものが見えた気がした。
それ先程の影の犬。私達の元へ必死に走っている。
「バイバーイ」
犬がやってくる辿り着く寸前。
王は扉を閉め、室内には一切の光が失われた。
********************
準備が整い、シャネルは走り出した。
SCP-049はその様子に少し驚いた表情を見せる。
「それはあまりにも悪手だよ」
SCP-049がその手で指揮を取ると、数多の死体が覆いかぶさるように襲いかかる。
しかし、その牙がシャネルにたどり着くことはない。
「何?増援だと?」
「違うよ」
シャネルの言う通りそこには増援の姿はない。
ただ、沢山の衣服がまるで人のように死体の動きを阻害しているのだ。
「SCP-1126-JP。幸い、服なら沢山ある」
そこでSCP-049は気づいた。
先ほどまで操っていた患者達には衣服を着ていないものが見られる。
シャネルは動く死体から服を剥ぎ、何度も自分の複製を作り上げたのだ。
SCP-1126-JPによって作られる複製は元の被曝者と同じ動きをする。
つまり、私の複製だ。
「これで貴方の死体は無力化した。諦めて捕まって」
動く死体は私の複製によって抑えられている。
時間が経てば不味いだろうが、数分は問題ないはずだ。
「死体……?君たちは本当に何もわかっていない!治療されたのだよ彼らは!私によって!恐るべき悪疫から解放されたのだ!」
「言ってろ」
一発の銃弾、SCP-049の掌を弾く。
「くっ……何故わからない?!これは治療なのだ!人々を!悪癖から救う!」
「貴方自身の身体能力は驚異的と言うほどではない。その手にさえ気をつければいい」
もう一度銃弾を撃ち込む。
次は右足。念の為に当てることはしない。
あくまで威嚇だ。
「私は……!私は……!」
SCP-049は明らかに動揺している。
一瞬の隙。それさえあれば奴を無力化できる。
手にさえ触れなければいいのだ。
「人々を救うのだッ!!!」
「何…?!」
SCP-049がその手を挙げると廊下の壁は破壊され、そこから溢れるばかりの死体が現れる。
勿論それぞれが私の方へと向かって攻撃をしようと試みている。
その隙に、SCP-049は私に背中を向け廊下の奥へと逃げ出した。
「逃がさない!」
私は銃をSCP-049の足へと向ける。
足さえ動けなくしてしまえば逃げる事はできない。
ゆっくりと狙いを定め、人差し指に力を入れる。身体中が銃と同化する感覚。
視界がより鮮明に写る。
「これで……」
「シャネルさん!」
その声に集中力が途切れる。
SCP-049の近く。手の届く距離。
そこにいたのはSCP-________。御館友梨。
「友梨……?!なんで!」
迷っている時間はない。
もし友梨がSCP-049に触れられたらどうなる?
無効化が働くのか?それとも彼女は死体という位置づけになるのか?
死という概念が曖昧だからこそ彼女に触らせることはあってはならない。
それに、友達を殺させるわけにはいかない。
「友梨!!」
私は友梨を抱え込み、SCP-049の元から離れる。
SCP-049からは逃げられてしまうかもしれない。
だが、この施設にいる以上私か他のエージェントから逃れることはないだろう。
「友梨……大丈夫?」
「…………」
「友梨……?」
「……バーカ」
冷たい感触が肌を伝う。
それは刃物。
どこか場違いな包丁が胸に突き刺さっている。
「なに……それ……?」
「まだ気づかないの?」
友梨は徐々にその姿を変えていく。
粘土のように混ざり合い歪に笑う。
「やあ、シャネル・カール」
体に力が入らず、私はそのままの横に倒れてしまう。
血が見える。止まらない。
早く止血しないといけないのに体が動かない。
「邪魔をしないで欲しかったな。ルー」
「それは失礼。ドクター」
どこからか戻ってきたSCP-049にルーと呼ばれたその男は若々しく美しい少年の姿をしている。
「さて、では治療を始めるとしよう」
SCP-049が手を伸ばす。
逃げられない。体が重くて動かない。
胸に刺さった刃物から身体中に冷たさが伝達していく。
「さよなら。哀れなエージェントさん」
……そうか、私は死ぬのか。
SCP-049の手が今にも私の頬に触れようとしている。
おぞましい死の感触がすぐそこに迫っている。
「……ここで終わりじゃない」
「ん?」
そうだ。
ここで終わりじゃない。
私は最後の力を振り絞る。
「私が死んでも、他のエージェントがいる!博士がいる!友梨がいる!!!貴方達は逃げられない!!必ず私達が収容してやる!!!!」
痛みが身体中に伝う。
床に溢れる血が薄黒く染まる。
「あっそ」
ルーはそう言い残すと、私の元を去った。
後悔がないといえば嘘になる。
まだ、ミア博士の行く先を見れてない。
確保、収容、保護、愛情。
人間もSCPも幸せに暮らせる。
そんな世界があるならどれだけいいだろうか。
それに、友梨も。
まだ、話したい事が沢山あった。
あんなに人に心を許したのはいつぶりだろうか。
思えば、エージェントの皆とももっと話したかったな。
「では、治療を始めよう」
……友梨、私達の夢を任せたから。
シャネル・カール(24)
カオス・インサージェンシー日本施設への襲撃作戦にてその命を落とす。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「シャネル・カールです!よろしくね!」
「よろしくお願いします!」
「今回紹介するのはSCP-049『ペスト医師』オブジェクトクラスはEuclid………」
「えっと……他の人に代わってもらった方が…」
「ダメ!そしたら私の仕事なくなるから!もうここにしか居場所がないの!」
(必死だ……)
「SCP-049は人型をした実態でその特徴といえば何と言ってもその格好。中世のペスト医師のような格好をしているわ」
「ペストって……たしか伝染病でしたよね?」
「そう。沢山の死者を出した伝染病。しかも昔は治療法もかなり間違ったものだったらしい。で、このSCP-049もまさに間違えた治療法を扱うSCP」
「間違った治療法……でもそれだけならそこまで危険ではないのでは?」
「それだけならね。SCP-049は悪疫に冒されていると判断した人物には敵対的になり、その肌に触れることによって対象は即死するわ」
「うわ、危険すぎる……。ところで悪疫って?」
「調べてはいるんだけど詳しいことはわかってないの。SCP-049は生命活動が終わった対象に対して治療と称して荒削りな手術を行うわ。そしてその治療を受けた死体。SCP-049-2はゾンビのように動き出す」
「ゾンビですか…。私には無縁ですね」
「それならいいけどね。ところで、SCP-049はかなり人気のオブジェクトで収デンでは必ず誰かがコスプレしてるわ」
「確かに、ペストマスクかっこいいし元記事の喋り方もフランクな感じで親しみやすいですもんね」
「それでも私は絶対に許さないけどね」
「あ……はは……」
SCP-049
『ペスト医師』
「SCP-049のペスト医師」はGabriel Jade作その後djkaktus および Gabriel Jadeによって改訂「SCP-049」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-049 @2009
「SCP-159-JPの"居ぬ"」はnekomiya _guu作「SCP-159-JP」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-159-JP @2014
「SCP-668の13インチの包丁」はDrClef作「SCP-668」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-668 @2008




