Case42 三助の像
顔を赤らめ、騒ぎ立てる友梨を見てシャネルは一種の落ち着きさえあった。
他人の焦っているところを見るとかえって落ち着くというのは本当だったのだなと考えながら螺旋の像に銃弾を放つ。
が、鈍い音を当て銃弾は弾かれる。
どうやら奴の材質は金属のようだ。
「うーん……」
シャネルはその像に見覚えがあった。
きっと何処かで報告書を見たのだろう。
でも何処で……?
服を脱がすSCPなんて……。
「あぁ……もうこの変態が!」
友梨が螺旋の像に殴りかかる。
「待って!友梨!」
異常性が服を破るだけと決まったわけではない。
にも関わらず何の策もなく殴りかかるのは余りにも危険だった。
しかし、その制止を利かず友梨の腕と螺旋の像の腕が触れる。
「……な……なにこれ」
友梨が下着を破かれたわけではない。
いや、寧ろそれならどれだけマシだろうか。
友梨の皮膚は螺旋状にめくられている。
「ぎ………!!!ぐぅ…!!!!」
あまりの痛みに友梨は呻き声を上げその場に倒れ込む。
全身の皮膚がめくれたのだ。痛みというレベルではないだろう。
「が……!!!あぁぁ!!!!」
そして、普段は分厚い皮膚に守られた神経が床に倒れたことによって痛みが直接伝わってくる。
その痛みは想像を絶するものだった。
「友梨!!」
シャネルは友梨を心配しながらも、拳銃を構え距離を取り冷静に頭を回していた。
そうだ。思い出した。
SCP-1126-JP オブジェクトクラスEuclid。
触れたものの表面を螺旋状に剥ぎ取り……そして。
「模倣品を作る……」
友梨から剥ぎ取った服が。皮膚が。
謎の力によって起き上がり、まるで意思を持つように動いている。
しかし、それは私たちに襲いかかる気配はない。
模倣品にSCP-1126-JPと同様の異常性はないが、それでも素手での戦いを得意とするシャネルにSCP-1126-JPは相性が悪かった。
だが、シャネルの硬い表情のワケはもっと別にある。
SCP-1126-JPは嘆きの水曜日以降に見失われていたSCPだったのだ。
「もしも他にもいるとしたら…?」
嘆きの水曜日。
財団はどうにかして再収容を行なったが全てのSCPを捕まえられたわけではない。
勿論、その中には凶悪なSCPも多数存在していた。
「こいつはマシな方……捕まんないなと思ってたらカオス・インサージェンシーに匿われてたのね」
額に嫌な汗が浮かぶ。
頭の中に次々と嫌な考えが浮かんでくる。
「シャネルさん!」
友梨の言葉でシャネルは現実に引き戻された。
「あいつを知ってるんですか?」
「知ってるよ。確か弱点は……熱。熱が苦手だったはず」
報告書にはそう書かれていたはずだ。
SCP-1126-JPはとある温泉宿に飾られていたところを収容。
収容の際にはSCP-1126-JPはサウナの熱によって動けなくなっていた……と。
「熱って…!どうするんですか?」
「どうしようか……な!」
迫るSCP-1126-JPを銃で迎撃する。
だが、少しよろめくくらいでダメージにはなっていない。
「友梨!あいつを抑えられる?」
「抑えるんですか?!」
「友梨にはもう異常性への耐性ができている……はず」
正直、確率は半々。
友梨の異常性耐性の生成速度にはまだ法則性が見つかっていない。
けどSCP-1126-JPはそこまで強力なSCPじゃないからあるいは……。
「えぇい!!ままよ!!!」
友梨はSCP-1126-JPに組み伏せる。
……異常性は発動していない!
「シャネルさん……こいつ力強い!」
「大丈夫……今!離れて!」
シャネルが投げたのは火炎瓶。
友梨はシャネルの合図で手を離し後ろに退いた。
火炎瓶は見事にSCP-1126-JPの頭部にぶつかりSCP-1126-JPは炎に包まれる。
「雛染博士に言われて持ってて良かった…」
作戦前に雛染博士に言われていたのだ。
生物は全般的に炎を怖がるものだと。
その名前を口にした瞬間、一瞬友梨が嫌な顔をした気がしたが……気のせいだろうか?
「これ……燃えちゃいませんか?」
「いや、金属だから大丈夫。そんなに火力強くないし。それより今のうちに……」
寒気。
死の感触。
「え……?」
廊下に立ち塞がるその人間はシャネルに死を予感させた。
「………友梨。さっきの地下の隠し通路に行って」
「どういうことですか?」
「これ以上、SCPに構っていたらキリがないから。私がこいつは止めておく」
「でも……それならシャネルさんも一緒に…」
「いいからッ!!!」
それは嘘であった。
シャネルと対峙する男。
かつて嘆きの水曜日にて収容違反を起こし、今でも捕まっていないSCP。
「また君達は私の邪魔をするのか」
「そこを通してくれたら何もしないで済むんだけどね」
「それは不可能だ。ここの同士は私に素晴らしい被験体を提供してくれる……それに」
男の後ろに数十の人影が現れる。
中には幼い少女から老人までありとあらゆる人間がいる。
だが、その全ての人間が虚な目をして意志のないような表情をしていた。
「死んでる……?」
友梨の言う通りだった。
彼らは生きた人間ではない。
死して尚、休む事を赦されないゾンビであった。
「君達は悪疫に冒されている」
彼のつけたペストマスクが鈍色に光る。
「友梨……早く!!」
友梨は駆け出した。
シャネルに背を向けて。
それを追いかける影はない。
「追いかけないんだ」
「症状は君の方が進行しているようだ。彼女は後から追いかけるとしよう」
「随分と落ち着いているのね」
「遅いか早いかだけの問題だからね」
シャネルは銃を構える。
相性の良い相手ではない。
寧ろ最悪と言えるだろう。
それなのに友梨を行かせたのはそれ以上に彼女との相性が悪かったからだ。
「SCP-049」
「私のことはドクターと呼んでくれ」
SCP-049 オブジェクトクラス Euclid。
その異常性は触れたものを殺害し、ゾンビにする事。
友梨がどうなるかわからない以上、彼女を近づけるわけには行かなかった。
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「はぁ……はぁ……はぁ……!!」
マイクは狭い隠し通路の中をひたすらに進む。
「クソがッ!!何で僕がこんな目に……!!」
マイクは終着点と思しき場所につくと扉を蹴り破った。
辺りに広がる光景は竹林。
星影とブロアが潜入した東の入り口。
「あの女……絶対に殺してやる殺してやる殺してやる!!!」
マイクは穴を掘り、その中へと潜る。
そしてゆっくりと目を閉じた。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「シャロットよ」
「え……」
「何?私がきたら悪いの?」
「いや……何か本編全然出てきてないし」
「私以上にSCPに詳しい人はいないの。それでも不満があるの?」
「いや……ないです。お願いします」
「今回紹介するのはSCP-2642『ゾウ一頭の顔半分』オブジェクトクラスはEuclid」
「またクセの強そうな……」
「異常性は至って簡単。この物質を表現する時に「ゾウ一頭の顔半分」としか表現できなくなる」
「なんですかその意味わからないSCP」
「これを見た人は表現力の乏しい自分を嘲笑しノイローゼになっていくわ」
「意外と恐ろしかった……」
「しかもSCP-2642は5日観察されないと周囲にテレパシーで罵倒を飛ばす」
「めんどくせぇ……どこで見つかったんですか?」
「ワシントンでGoogleのゾウ一頭の顔半分 解決っていう検索の不審な増加があってね。それで探したら見つかったらしいわね」
「あー、やっぱり調べますよね。現代っ子らしい」
「それと、見つかった時に不審な手紙があったの」
「もしかして……解決方法ですか!?」
「『FUCK YOU!!! さあ、次は貴様の番だぞ。』だそうよ」
「いや完全に嫌がらせの道具にされてるじゃないですか」
SCP-2642
『ゾウ一頭の顔半分』
「SCP-1126-JPの三助の像」はCome_Dream作「SCP-1126-JP」に基づきます
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1126-jp @2019
「SCP-049のペスト医師」はGabriel Jade作その後djkaktus および Gabriel Jadeによって改訂「SCP-049」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-049 @2009
「SCP-974のツリーハウスの人喰い」はDrewbear作「SCP-974」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-974 @2011
また、一時的に名前をつけさせていただいております。