Case41 イタチごっこ③
「そろそろ中央に着くみたいだね」
クリスと王。
それから、二人の隊員達は西側探索を終え中央部へと向かっていた。
「隠し通路の可能性含めて僕の部隊が探してるけど、SCP-120-JP-2や敵の首領が見つかってない。てことはやっぱり中央部にいるのかね」
ケラケラと笑いながら話す王の行先をクリスが手で制した。
「何か来る」
「…OK。みんな警戒」
通路の奥から感じる嫌な感じ。
それに王も気づき始める。
隊員達は拳銃を構え、王とクリスもそれぞれ臨戦態勢に入る。
「…………避けろッ!!」
その速度に反応できたのは二人。
敵の攻撃に合わせてしゃがんだのだ。
対してクリスと王以外の人間。
二人の隊員は既にその場にいない。
遥か後方の壁に叩きつけられ、首を絞められている。
「マジかよ………SCP-029」
SCP-029 オブジェクトクラス Keter
その少女は二人の生命活動の停止を見届けると振り返りこちらを見つめる。
黒い肌をしたインド系の少女だ。
真っ黒な瞳でこちらを観察している。
「チッ……しかもこれは…」
強い強制力。
魅了……といったところか。
頭の中がかき乱される感覚。
しかし、それでも自ら命を差し出さない二人に少女は首を傾げる。
「何者だ?貴様達は」
至って簡潔な言葉。
この世は自分の思い通りになって当然とでも言いたげな。
「クリス、勝ち目がない。隙をついて逃げるよ」
勝ち目がない。その通りであった。
向かい合っただけで強い洗脳。
高い精神力を持つ彼らにとっても正気を保つのがやっと。
それに加えてSCP-029の異常性は強い殺人衝動と常人の4倍の器用さ、肉体的反応。
二人で真正面から戦うのはあまりにも無茶だった。
「嫌だ」
しかし、クリスは逃げない。
「は…?馬鹿じゃないの?!敵うわけないだろ」
その言葉を遮るようにクリスは自分の仕込みナイフを自らの腕に突き立てる。
「何やってんの?!ついにイカれちゃった?!」
「これで洗脳は効かねぇ」
確かに、体の痛みによって洗脳を解く方法はあるにはある。
だけど、このレベルのものはそんなに簡単に外せるものじゃない。
強い執念……クリスを動かしているのはそれだけだった。
「お前はここの奥に進め」
「チッ……わかったよ」
「逃すと思うか?」
王の体が動いた瞬間。
SCP-029は一瞬で距離を詰める首元に手を伸ばす。
「させねぇよ」
しかし、その手に喰らわせたのは銃弾。
異常な銃身の長さを誇る超火力の銃弾だ。
「とりあえずお前を無力化させてもらう」
「思い上がりが過ぎるぞ」
********************
「えっと……大丈夫?」
メリーは袋からネズミを取り出し、そのネズミは近くを元気に駆け回っていた。
「うわー……これもうどうしましょう」
「……なるほどね」
呆気にとられる私の横でシャネルさんは合点が入ったように頷いている。
「何がですか?」
「ここのネズミ。いくらなんでも数が多過ぎると思ってね」
言われてみれば確かに小動物の死体にはネズミしかなく、その数も明らかに異常だった。
だって普通ネズミの死体で山なんてできるか?
「………まさか」
私の中で胸糞悪い想像が生まれる。
そして、恐らくそれは正解だろうと脳が言っている。
「無理矢理孕ませて……作らせたんだろうね」
マイクはメリーのキスによってネズミが生まれる異常性を悪用し、食糧としたのだ。
「そんな……メリー………どわっ?!」
私が振り返ると、そこには8人のメリー。
一切の相違もない8人が私の事を見つめていた。
「えっ……どゆこと?!」
「多分だけど……子供にも遺伝するんだろうね。異常性が」
8人のメリーは私のことを不思議そうな顔で見つめると、私の顔に近づいて……
「待って!!ストップ!!ダメ!!」
私が逃げると、すんなりとメリー達はキスしようとするのをやめた。
「なるほど。何が何でも……って感じではないわけね。ねぇ、貴方達。ここで待っていられる?」
メリー達はシャネルさんの顔を見つめている。
それにしても本当に同じだ。
いや、違う。メリーの足には先程の攻撃を避けた際に擦り傷が残っていた。
「私達は貴方達を助けたいの。その為には貴方達に上で待っていて欲しい。いい?」
メリーと7人は私を見つめる。
どうやら判断を委ねているようだった。
「マイクも必ず私達が捕まえる。だからお願い」
メリーと7人はそれを聞くとコクリと頷いた。
私とシャネルさんはメリー達を上の部屋に隠し、もしマイクが戻ってきたらという場合に私の携帯を渡した。
「それ、壊すと色々怖いから絶対壊さないでね」
未だにシャロットさんは色々怖い。
任務の為とは言え他人に携帯を預けて許してもらえるだろうか?
私の顔から恐怖を感じ取ったようでメリー達もコクコクと頷いていた。
「友梨、こっちに来て」
シャネルさんが行った方の道には奥が続いており、やけに広い廊下となっていた。
「恐らくこの先が中心部。通信電波が妨害されてて他の部隊から連絡取れないからSCP-120-JP-2がいるかどうかはわからないけれど」
「でもいる可能性は高いですよね?」
「私なら中央に隠すかな」
眩し過ぎる光に照らされた廊下にはよくわからない像や絵が飾られており、とても統一感というものは感じられなかった。
「にしてもここの物って……」
変なものばかり…。
そう言おうとした私の声がシャネルさんの声に掻き消される。
「友梨!!」
突然の声に反応が遅れる。
私の右の袖に何かが触れた。
「なっ……」
それは動く像。
いや、普通の像ではない。
螺旋が人を形を模したような異質な像。
「しまっ……!!!」
像が私の袖に触れた瞬間、私の上着が螺旋を描くように破ける。
「なっ……!!はっ……!?!?」
上着は重力に従い地面に落ち、私は下着だけの姿となる。
色気のないスポーツブラと無機質な下着が白日のもとに晒された。
「………ここはキス魔とか……服を脱がせてくる奴とか……変態しかいないんですか?!?!」
私の叫びが廊下中にこだました。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「やっほー!王でーす」
「…………よろしくお願いしまーす」
「そんなに嫌な顔しなくても」
「貴方私に初対面でした事忘れました?」
「何したっけ?」
「……もういいです。紹介お願いします」
「はいよ。SCP-1616『カリカリくん』。オブジェクトクラスはKeter」
「カリカリくん……?なんですかそのアイスみたいな名前」
「可愛いよねー。実際SCP-1616は可愛らしいハムスターだよ」
「え?!本当に可愛いじゃないですか」
「そうそう異常性も可愛くて、目にした物体を前もって口に入れているかのように頬に含んで食べちゃうっていうもの」
「頬が膨らむんですか……!私あってみたいです!」
「そうそう。ニンジンとかハムスター用飼料とかキャンディとか、かなりの量の食肉を食べるんだよね」
「あらかわい……食肉?」
「目にした物体をなんでも食べる。当然目とか耳とかも」
「え……え……」
「しかも食べられている時、神経は繋がってるんだって。凄く危険だけど会いたいっていうなら仕方ないね。行こっか!」
「え……?え……?えぇ……」
SCP-1616
『カリカリくん』
「SCP-029の闇の娘」はAdminBright作「SCP-029」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-029 @2010
「SCP-1638-JPのイタチごっこ」はVideoGameMonkeyMONO作「SCP-1638-JP」に基づきます
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1638-jp @2019
また、一時的に名前をつけさせていただいております。
「SCP-1126-JPの三助の像」はCome_Dream作「SCP-1126-JP」に基づきます
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1126-jp @2019
「SCP-1616のカリカリくん」はfaminepulse作「SCP-1616」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-1616 @2012




