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不死身の少女とSCP  作者: 白髪 九十九
カオス・インサージェンシー編
43/80

Case40 イタチごっこ②

マイクの速度は人間のそれとは違う化け物じみたものだった。


「くっ……」


それは財団によって鍛えられた私であっても凌ぐのは簡単なものではない。


「いただきっ!」

「あぁぐ…………!!!」


強い爪痕が右手に残る。

肉が裂け、骨があらわになり、思わず握っている拳銃を落としてしまった。


「いっ……ぐ………!」

「無駄無駄無駄。子供が僕から逃げられるわけがない」


それは今まで敵対してきたどのSCPの速度をも超越するものだった。

目で追えたとしても体が追いつかない。

追いついたとしてもメリーを守れない。


私は、骨を塞ぎ始めた右手を握りながらマイクの動きを追う。


「くそっ……」

「そんな汚い言葉使わないでよ。飯が不味くなる」


再び凄まじい速度での直線移動。

メリーを抱きしめ左へと倒れるが、一瞬遅く。

私の足は根元から切り裂かれる。


「あがぁ……!!!ぐぅぅ…………!!!」


血が止まらない。

筋肉繊維がビリビリに破け露出した肉が私の瞳に残る。

腹の中から液体が逆流してくる。


「い…だぁ……い……くそ……!!!」


既に無くなった足を抑え、私は精一杯の力でマイクを睨みつける。

しかし、彼の姿はどこにもない。


「どこに…?」

「ここだよ」


私は身体中に衝撃を浴びる。

四肢が抑えられ、上から降ってきたマイクによって馬乗りの形になる。


「いちいちうるさいからまず殺しちゃおうかな」


マイクの手が首にかかる。


「やめ……!」

「お断りだ」


私の言葉を嫌らしげに返し、マイクは勝ち誇ったような顔をする。

首に強烈な力が入り、徐々に体の感覚が失われていく。


「あ……ぁ………」


死ぬ。

殺される。

虚になった瞳から涙がこぼれ落ちる。


「ばいばーい」


マイクの笑みが歪んで映る。




その時、拳銃の発砲音が響いた。



「あ……?」


首を締める力が引いていく。

マイクは不審そうに後ろを向いた。


「メリー……?」


そこにいたのは拳銃を手にしたメリー。

震える手で。

泣きそうな顔で。

拳銃を構えている。


「うぜぇうぜぇうぜぇ!!!お前から殺してやるよ!!」


立ち上がり、走り出すマイク。

メリーは何度も何度も弾を打ち込むが擦りはすれど一度も当たらない。


「死ねよ!!!!!!」


マイクの爪がメリーの首にかかるその瞬間。

もう一つの銃声が響く。

銃弾は的確にマイクの瞳を貫き、思わずマイクは数歩後退する。


「あぁ?!」


マイクは瞳を抑え、恨めしそうに梯子の方を見つめる。


「銃っていうのは相手の弱点に撃つものよ」


マイクの表情が、怒りから恐怖へと変わる。


「シャネルさん……」

「ごめんね友梨。待たせた」


シャネル・カール。

怒りを露わにした女性がそこには立っていた。


「お……お……大人……大人……?!」

「弱いものいじめは楽しかった?」


じりじりと距離を詰めるシャネル。

マイクの背中がついに壁に当たる。


「う……うぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「シャネルさん危ない!!!」


シャネルさんの首にマイクの爪がかかる。

しかし、シャネルさんは一切の表情も変えず寧ろマイクに近づいた。


「この距離じゃ当たらないでしょ」


そして顔に裏拳を一撃。

ただの一撃ではない。

日頃からSCPと戦う財団。

そのトップクラスの一撃。


「あが……ご……」


下腹部への蹴り。

顎へのアッパー。

足払い。

そして全体重をかけた拳を振り下ろす。


「だ……ぁ………」

「私、こう見えても素手なら一番強いから」


財団エージェントにはそれぞれ得意とするものがある。


刀の扱いに長けた久馬 蓮。

洗脳や精神汚染に長けた王 軍陵。

体力や筋力に長けたヴァルト。

重火器の扱いに長けたブロア・バッヂ。

生存に長けたシャネル・カール。

潜入や諜報に長けた流 美郷。

集団戦術に長けた星影 優希。

対SCP戦全般に長けたクリス。


そして、呪術や占術。

及び対人戦闘に長けたシャネル・カール。



女性でありながらも素手での戦闘で彼女に勝てる人物は今では財団にいなかった。


「くそ……!くそ……!!!」


マイクはフラフラと立ち上がる。

しかし、その表情には最早恐怖しか残っていない。


「………くそが!!」


突然、マイクは壁に向かって体当たりをする。

壁は思ったより簡単に砕け、そこには道が現れた。


「隠し通路……!」

「逃がさない」


シャネルさんは急所に向かって何発か銃弾を放つが、マイクは苦い顔をしながらも隠し通路に逃げてしまった。


「ダメだったか……」

「シャネ…!げほっ……げほっ……」


私は声を上げようとするが先ほどの首絞めが原因で言葉が思うように出ない。


「友梨、大丈夫?」

「私は平気です…不死身なので。それよりあいつは?」

「深追いはやめておいた方がいい。この先もあいつの巣だ」


シャネルさんが指差す先は木の板で舗装された道路。

明らかに手が加えられている。


「罠が仕掛けられている可能性もあるし、仲間がいる可能性もある。何より今は他にやることがある」

「アイリを助けに行かなくてはならないしな」


シャネルさんの肩にいたSCP-120-JPが腕を伝い、私のポケットに入る。


「ありがとう。えっと……『不快な海とソビエト連邦を守る王』だっけ?」

「違う!『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』だ!!!まあ、いい。貴様が死んだらアイリが悲しむからな」

「私は死なないけどね」

「そんな軽口が聞けるくらいなら大丈夫そうだな」


実際、傷口は既に治りきっている。

自分のことながら恐ろしい体だ。


「シャネルさんも助けてくださってありがとうございます」

「気にしないで。それにお礼を言うならこの子にもでしょ」


シャネルさんが指差す先には少し離れたところでちょこんと座っているメリーの姿があった。


「メリーも助けてくれてありがとう。あの時少し遅かったら……まあ、死にはしないんだけどさ」


メリーはそれを聞くとトコトコと私の元へ歩いてくる。

どっからどう見たって可愛らしい女の子だ。

とてもネズミに見えない。


「………」


メリーはこちらをじっと見つめると、私にそっと口づけをした。


「………ん!?」

「あらら…」

「何の真似だこれは」


奪われた……?!

私のファーストキス奪われた?!

いや、まあ可愛い女の子に奪われるなら…。

じゃなくて!

でも、女の子同士はノーカンって何処かで聞いたことある気が……!


「……!!」


突然、メリーが腹を抱えその場に蹲る。


「ちょっとメリー?!」


メリーは苦しそうに喘ぐと腹をさすり出す。

シャネルさんも驚いたようで鞄から薬を取り出そうと探り始める。

私も慌てて背中をさすり服でシャネルさんから口元を隠す。


「………おぇ」

「吐いちゃったか。大丈夫?」


シャネルさんが薬を手にこちらに尋ねる。


「……友梨?」


シャネルさんは私の肩をつつく。

しかし、私は今頭が真っ白で動くことができない。


「何?どうしたの?」


シャネルさんが私の肩から吐瀉物を覗く。

いや、そこにあったのは吐瀉物ではない。


「………ネズミ?」

「これって私の子供になるんですか……?」


そこにいたのは胎盤に包まれた七匹のネズミ。


「んー……。まあそうなるかなぁ」


私は今日、お母さんになりました。


*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*


「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」


「…………」


「メリーです!よろしくね!」


「…………」


「今回紹介するのはSCP-1638-JPの『イタチごっこ』オブジェクトクラスはEuclid。一般的なハツカネズミのSCP……であってる?」


「…………(頷く)」


「SCP-1638-JPは潜在的にハツカネズミに対し好意を持った人間を視線に捉えると10歳程度の女の子の姿になるんだよね?」


「…………(頷く)」


「また、SCP-1638-JPは女の子の姿になると近くの人にキスをしようとして……実際するとお腹の中にネズミの成体が即座に出現して、それを吐き出す……痛くないのこれ?」


「…………(首を傾げる)」


「まあ、それは置いていて。SCP-1638-JPはとある街でハツカネズミが大量発生して、しかも女の子になるところがSNSに投稿されたことから財団の注目を集めた……メリーの仲間ってたくさんいるの?」


「…………(指を折り始めるが、既に5周目に突入している)」


「あぁ……もう大丈夫!!捜査を続けた結果、SCP-1638-JPを意図的に増やしている人がいたの。理由を聞くと猫が異常に増えていて直ぐに食べられちゃうからって……」


「…………(近くを飛んでいる蝶を見つめている)」


「それから同じ能力を持つ猫が見つかって……それを増やしている人に話を聞くとネコの天敵であるトビやカラスが増えているし保健所に連れていく人間も増えているからって……」


「…………(突然、口づけをする)」


「ちょっ…!待って急に!」


「…………おぇ」


「あっ!!ちょっとカメラ止めて!!!」




SCP-1638-JP

『イタチごっこ』





「SCP-974のツリーハウスの人喰い」はDrewbear作「SCP-974」に基づきます

http://www.scp-wiki.net/scp-974 @2011

また、一時的に名前をつけさせていただいております。


「SCP-1638-JPのイタチごっこ」はVideoGameMonkeyMONO作「SCP-1638-JP」に基づきます

http://scp-jp.wikidot.com/scp-1638-jp @2019

また、一時的に名前をつけさせていただいております。


「SCP-120-JPの世界で一番の宝石」はZeroWinchester作「SCP-120-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-120-jp @2014

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