Case37 カリカリくん
「……しかし、無茶苦茶するよね」
王は皮肉気味にクリスに告げる。
クリスと王。
そして王の部隊は炎を纏った男たちを部屋に閉じ込めることに成功していた。
「確かに、相手が実体のない炎だとしても普通突っ込むかなぁ?」
「逃げ出したとしても何の解決にもならないだろう」
王は小さく舌打ちをする。
確かに炎に対して王達は有効な攻撃手段がなかった。
その上で炎を突っ切って進むというクリスの豪快な作戦は悪くなかった。
寧ろ最善策だったと言えるだろう。
「……脳筋」
だとしても何か一言言ってやらないと気が済まないのは王の性格ゆえだった。
炎を消すには水が最も有効的だが、それができない場合、酸素の供給を絶つのが最も良い。
クリスはそれを即座に判断し、自分達の部屋の出口を封鎖し、炎を纏った男達を閉じ込めたのだ。
クリスは即座に反応できたものの、王も含め他の人物が火傷一つなかったのは奇跡だったと言えるだろう。
「……行くぞ」
「はいはーい」
王は不満そうにフラフラと立ち上がると、クリスと共に中央へと向かっていく。
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「またこりゃあ……酷ぇな」
ブロアと星影は巨大なカタツムリの通路を抜け、随分と散らかった場所に出ていた。
通路には撒き散らされたありとあらゆる物品。
壁には爪の跡や罵詈雑言がスプレーで描かれており、道端には多くの死体が並んでいた。
「この死体……少し変ですね」
星影は一つの死体を前にしゃがみ込むと顎を持ち上げ、首のところを確認する。
そこには青い痣が残っており、何者かに強く首を絞められたという事を表していた。
「絞殺ね……殺した奴は大層趣味のいい事だ」
「趣味がいい……じゃ済まなそうですけどね」
星影はそういうと、くるりと周りを見渡した。
「やっぱり。こんなに死体があるのに血が一滴もない」
「あぁ?……確かに」
死体の数はざっと十数個。
それなのに床や壁に一切の血痕は残っておらず、死体の喉には全て絞められた痕があった。
「不気味だな。拘りってやつか?」
「確かに、サイコパスなどには殺しに拘りのある奴がいるって聞きますけど……ん?」
星影は歩みを止め、近くにあった死体をまじまじと見つめる。
その死体はやはり首に絞められた痕があったが、星影が見たのはそこではない。
「メモ…ですかね」
男はメモのようなものを手にしていた。
「これは…!」
……財団には度々要注意団体の襲撃がある。
その目的は職員の殺害や施設の占拠など様々な理由があるが一番の理由はSCPオブジェクトの強奪だ。
盗まれたSCPの中にはどの要注意団体に盗まれたかわからないものがある。
その度に財団は失われたSCiPの動向を様々な方法で追い求めるのだ。
しかし、その中でも財団が最も捜索に力を入れているのがKeterクラスのSCPである。
『財団から強奪したオブジェクト『SCP-029』がセクター7から脱走。速やかに回収せよ』
星影は紙をポケットにしまい、死体の上に掲げられた数字を見る。
「…7……ここですね」
「……マジかよ」
死体の列は廊下の奥……西の方向。
クリスと王の元へと向かっている。
二人は奥へと進むしかなかった。
SCP-029 オブジェクトクラス Keter
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久馬の部隊はシャネルとSCP-________と別れた後にとある部屋にたどり着いていた。
「ここは……研究室か?」
その部屋は清潔感のある白に包まれ、薬品や様々実験道具なのが几帳面に並べてあった。
「この道はここで行き止まりか」
久馬はチラリと後ろを振り返る。
まだ、二人と別れてからそんなに時間は経っていない。
あっちの道に何があるかわからない以上、加勢に行く方が良いのだろうが……。
少しこの部屋を探ってからの方が良いだろう。
「とりあえずこの部屋を探索する。何かあれば報告しろ」
久馬が指示を出すと、隊員は四方八方に分かれ、それぞれ薬品棚や資料に目を通し始めた。
研究室。
やはり気になるのは研究データだろうか。
それにこの部屋にSCPオブジェクトの存在があるかどうかも気になる。
「……ん?」
色々と考え込んだ久馬が目に止めたのはハムスター。
至って普通のゲージに入ったハムスター。
「ハムスター?実験動物か?」
通常、実験動物にはラットが使われる。
わざわざ何故ハムスターを使っているんだ?
ハムスターは愛くるしいつぶらな瞳で桐生を見つめている。
「まあ、いい」
久馬は興味がないとばかりにハムスターに背を向ける。
だが。
「待て」
ハムスターは頬を膨らませて久馬の方を見つめている。
「……お前何を食べている?」
さっき見た時は何も食べていなかったはずだ。
それに、ゲージの中に食べ物はない。
ましてや、その頬に入っているものはピンポン球程で普通のハムスターじゃあり得ないくらいに大きく、その分頬は膨らんでいた。
……次の瞬間、視界の半分が暗闇に覆われる。
「あ……?え……?」
暗闇に覆われた左目。
何故か生温かいような不思議な感触が残る。
「なに……?」
暗闇に光が刺す。
光の先には檻があり、その奥にいたのは、左目を押さえた久馬自身の姿だった。
「なんだ…?」
そして何かが光を遮るように現れる。
それは鋭い前歯。
齧歯類特有の鋭利な歯。
「…………」
久馬は残された右目で机の上のハムスターを見遣る。
嫌な予感。
背筋に寒気が伝う。
ハムスターの口の中には自分の左目があった。
「待っ……」
ハムスターはその鋭い前歯を瞳に突き立てた。
「がっ………あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
激痛。
今まで味わったことのないような激痛。
瞳に針が刺さったなんてものじゃない。
瞳が針に貫かれたような。
「うぁぁぁぁ!!!!あぁぁぁぁ!!!!」
久馬は言葉にならない叫びをあげる。
瞳から血液とも涙とも取れない液体が流れ続ける。
瞳が喰われている感覚が脳に直接伝わってくる。
「久馬さん!!」
久馬の隊員が叫びを聞き、左目を押さえ蹲る久馬の元へと駆けつける。
「こっちに来るな!!!!!」
だが、遅い。
「久馬さん!!どうし……!!きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
腹を空かせた小さな猛獣は満腹という言葉を知らない。
瞳を舌で転がしながらその前歯で齧り付く。
僅か数分。
研究室に侵入して僅か数分で久馬の部隊は全滅した。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「久馬蓮だ!!よろしく頼む!」
「久馬さん!よろしくお願いします!」
「ああ!今回紹介するのはSCP-059-JP『頭が高い小人』オブジェクトクラスはEuclidだ」
「頭が高い…?小人…?態度がでかいって事ですか?」
「頭が高いっていうのは通常そういう意味で使われるが、今回は違うな。SCP-059-JPは5歳ほどの少女だ。彼女の異常性は生物が近づけば近づくほど、上から圧力がかかる。しかし、SCP-059-JPの等身より低い位置にいればその影響は受けないというものだ」
「なるほど……?つまり彼女より身長が高いと体重が増える……ってことですか?なんかそれ女性として許せないんですけど?」
「体重が増えるで済めばいいがな。少なくとも30m以内で彼女より身長が高くて、下が床に遮られてるものがいれば圧死する」
「あ……体重とかそういうレベルじゃない…」
「そのため、財団はSCP-059-JPを高い塔の上に収容されている」
「でも、本人に悪意はないんですよね?」
「ああ、寧ろ罪悪感を感じているらしい」
「それなら近くの人間がしゃがめばいいんじゃないんですか?5歳くらいの女の子なら身長が低い人ならどうにかなりますよ!」
「もし転んだらどうするんだ?」
「あー……」
SCP-059-JP
『頭の高い小人』
「SCP-457の燃え盛る男」はagatharights作「SCP-457」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-457 @2008
「SCP-075の腐食性カタツムリ」はAelanna作「SCP-075」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-075 @2008
「SCP-029の闇の娘」はAdminBright作「SCP-029」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-029 @2010
「SCP-1616のカリカリくん」はfaminepulse作「SCP-1616」に基づきます
http://www.scp-wiki.net/scp-1616 @2012
「SCP-059-JPの頭が高い小人」はdoragon akitsuki作「SCP-059-JP」に基づきます
http://ja.scp-wiki.net/scp-059-jp @2014