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Case2 時間切れ②

体が動かない。

あまりにも受け入れられない現実と、現実離れした化け物に。

逃げないといけない。そんなことはわかりきっている。

しかし、私の体は金縛りにでもあったように動かない。

その化け物は私たちを見ると、首を不気味にくねくねと動かしながら、私達へとゆっくりと近づいてくる。

逃げなくちゃいけない。

頭で警鐘が鳴り続ける。

しかし、私の体はあまりにも重く、指の一つも動かすことができない。


化け物は首を捻じ曲げ、その嘴は私のすぐ目の前に迫っている


(やばい……逃げなきゃ…逃げなきゃ…!)


そんな私を嘲笑うかのように、化け物はその大きな嘴を開く。


私が恐怖によって強く瞳を閉じた時、私は強い力で後ろに手を引っ張られる。


「友梨!」


私は玲奈の声でようやく束縛から解放され、教室から一目散に逃げる。

化け物の物音は聞こえない。どうやら追いかけてはきていないようだった。

玲奈は私の手を取ったまま走り、気づいたら昇降口までやってきていた。

私はすぐに扉へと手をかけるが、何故か扉には鍵がかかっている。

慌てて体当たりで扉を破ろうとするものの、運動部でもなんでもないただの女子高生の私ではあまりにも力不足だった。


「嘘だよね」


玲奈の声に私は後ろを振り向く。玲奈は力なく床に座り込んでおり、その青白い顔に生気は残っていない。


「あれは、美菜子じゃないよね?」


私は玲奈を少しでも落ち着かせようと肩に手を当てる。


「大丈夫。大丈夫だから」

「違うよね。美菜子じゃないよね。美菜子が死ぬはずないもんね。だってあんなに元気だったんだから。美菜子が死ぬはずないよね。いつも馬鹿みたいに元気で、怪我したってすぐ治るんだもん。あいつが死ぬわけない。美菜子は死んでない。だってそんなのありえない。あのキーホルダーだって何かの間違いだよ。きっと落としちゃったんだ。そうだよ。美菜子はドジなところあるから。そうだよ。間違いない。あれは美菜子なわけない…」


玲奈は死んだ目でブツブツとつぶやきを続ける。

このままじゃ、玲奈がおかしくなってしまう。

私がなんとかしないと……!


「玲奈ちゃん!」


私は玲奈の肩を引き寄せて、強く抱きしめた。

とりあえず、玲奈を落ち着かせないと。

もう、私は美菜子の事とか、あの化け物の事とかを考えてる余裕はなかった。

ただ、玲奈を守らないといけない。私の頭の中はそれだけだった。


「ずっと聞こえるの…」

「……何が?」

「時計の音……チクタクチクタクって、頭の中でずっと…」

「時計?」


私には時計の音は聞こえない。

それに、時計なんてここにはない。


「ずっと……アレを見た時から、チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク、って。ずっと頭が痛いの…。怖いよ…」


私は玲奈を強く抱きしめる。

きっと玲奈は混乱してるんだ。

早くここから……


「あっ」

「え?」


突然、玲奈は私を右へと突き飛ばした。

バランスが取れなくなり、私は倒れてしまう。


「玲奈ちゃん…なにを……」


私はすぐに玲奈の方を振り向く。



最後に

私が見たのは、その凛とした立ち姿。

私がいつも見る委員長としての背中。

そのストレートな黒髪が揺れる。




玲奈は靴箱ごと、吹き飛んだ。



「え……?」


玲奈は思いっきり壁に叩きつけられ、その左足は本来曲がるはずのない方向へと曲がっており、クラス一のマドンナとも言われたその顔は鼻血と頭からの出血で汚らしく染められている。

そして、何よりも友梨の目を引いたのは、玲奈が何者かに掴まれているかのように、壁に押さえつけられているのだ。


「ゔぁ…………げ………」


玲奈は潰れたカエルのような声を捻り出す。

その様子はあまりにも痛々しく、何度も吐血を繰り返していた。


「玲奈ちゃん!」


私はようやく今の状況を理解し、玲奈の元へと駆け込む。

やはり玲奈は見えない何かに壁に押さえつけられているようだった。

玲奈はその何かを剥がそうと暴れるが、その何かは玲奈の衣服を破り、腹部の筋肉を無理やりちぎった。


「あがっ……あぁぁぁ!!!……」


玲奈はいつもとお淑やかな彼女からは想像もできない奇声を放つ。

どうにか移動させようと手を引っ張るが、力を込めるたびに、玲奈は悲痛な叫びをあげる。

痛々しいその声に思わず顔を背けてしまうが、それでも私はその手を引っ張り続ける。


私が守らなきゃ。

玲奈を助けられるのは私だけなんだ。

私は何度もその手に力を込める。

次第に玲奈の唸り声も消える。

友達なんだ。

大切な人なんだ。

だから、失いたくない………!


突然、張り合う力がなくなり、私は勢いあまって後方へと尻餅をつく。


「やった!ぬけ………た………」


私が手にしていたものは




……玲奈の右腕。



「れい……な……?」


私は玲奈の方を向く。

玲奈の肩は何度も攻撃され、ボロボロになっており、私が引っ張った右腕に加え、左足も既に根元から崩れ、地面へ崩れ落ちていた。

そして、玲奈の首は、皮一枚で繋がっており、最早それが首としての機能を果たさない事は火を見るより明らかだった。




………玲奈は死んでいた。








チクタク、チクタク。



「何の音……?」


頭の中で反響する時計の音。

これ、さっい玲奈が言ってた……


玲奈は既に殆ど人としての形を保ってはいなかった。

残ったのは僅かな肉片。



チクタク、チクタク。



「う……頭……痛い……」


私を襲うひどい頭痛。



チクタク、チクタク。



「逃げないと。早く、どこかに」


もう私の頭には逃げることしかなかった。

震える足に鞭を打ち、子鹿のように立ち上がる。


「たしか…購買部の近くの搬入用の出入り口が壊れてるって、玲奈が……」



チクタク、チクタク。



逃げなくちゃ。どこか遠くへ。


ここから出れば、助かるんだ。

ここから出れば、またいつもみたいに。

ここから出れば、また3人で楽しく……





…しかし、現実は残酷だ。




チクタク。



「時計の音が…止まった……?」



夜の校舎はあまりにも静かで私を不安へと誘う。

足音だけが闇に反響する廊下で、脳内に絶えず流れていた時計の音は何事もなかったかのようにその姿を消した。





だが、それと入れ替わるように、私の前に現れたのは、あの化け物。


「あっ……あぁ……」


私は腰を抜かしてしまい、腕の力だけで逃げ出そうとするが、化け物は私へとジリジリと詰め寄ってくる。


ダメだ。逃げられない。

化け物はその長い首を捻りながら、私の目の前まで迫っている。

その小さな黄色い目が私をからかうように睨みつける。


死ぬんだ。私。

美菜子も死んで、玲奈も死んで。

そうだよね。私だけ生きてるなんておかしいもんね。

短い人生だったな。

まだやりたいことあったのに…


化け物は大きく口を開ける。


死ぬのって痛いのかな。

痛いのは嫌だな。

でも、皆、死んじゃった。

私だけ生きてても意味なんてないもんね。

だから、私は死ぬんだよ。


……

………

…………


「死にたく…ないよ…」



その刹那、私の視界は黒く覆われる。

それが何かを理解するより先に、銃声が辺りに響きわたる。


「あっ……え……?」


私はようやくそれが何かを理解する。

それは2mほどの長身の男性だった。

その人は気づかないほどの一瞬で化け物と私の間に割って入ったのだ。

化け物は先ほどの発砲により、僅かに後方へ吹き飛び、怯んでいるように見える。

その男は私を一瞥すると、トランシーバーのようなものを取り出した。


「一般人を発見。SCP-4975により襲われていた模様。………現在、発砲により怯んでいる。ああ、目立った外傷は見られない。……ああ。ああ。わかった」


あまりにも放って置かれるので、私は次第に困惑し始める。

この人は誰なんだろうか。

それに、えすしーぴー?とはなんだろうか。

それにそもそもあの化け物は……?


その男は報告を終えたのか、トランシーバーを再び懐にしまう。


私は聞きたいことがたくさんあって、男の瞳を見つめる。

けど、今だに残る不安とこの人に対する安心と不信感で心がぐっちゃぐちゃで、何を聞いたらいいかわからない。


その視線気づいたのか、男は私の頭に手を当て、優しく撫でる。


「もう安心していい」


その人の服の胸元にはエンブレムが付いており、そのエンブレムは、二つの円と、その中央に向かって3本の矢印が伸びている。


「俺はクリス。財団のエージェントだ」

「SCP-4975の時間切れ」 は”Scented_Shadow”作「SCP-4975」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-4975 @2019



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