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Case17 世界で一番の宝石

半壊した橋。

倒れ、火を吐くトラック。

高層ビルほどありそうな巨大な蟹のような化け物。


そして、赤いワンピースを着た少女。


「ヤドカリさん何をしてるの?」


ヤドカリさん。

そう呼ばれた怪物は暴れるのを止め、静かに少女を見つめる。


「アイリ。私の名前は『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』だ。ココのものは私の価値を知らない。なんとも愚かなサルたちだ」


怪物は重鈍な声を響かせる。


「怖いから大きいの出したらダメって言ったじゃない」

「アイリ。ここはお前の家ではない。私は罰を与えねばならない」


そういうと、化け物は大きくその手に備えたハサミを振り上げる。

しかし、少女は臆することない。

少女は、化け物は自分に危害を加えないことを知っているからだ。


「おじさんたちがあなたが貝に戻るまで話してって言われてるの。マリ○カートやりたいから早く戻って」

「アイリ。お前にはまだわからないだろうがココのものどもに私の価値を…」

「早くして」

「はい」


化け物はすごすごと小さくなり、手のひらほどの大きさとなって、少女の手にしている貝殻へと戻った。



…………いやなんだこれ。


こうして、SCP-120-JPの再収容は成功した……



********************



「というわけで、この子をしばらくお願いね」


夏華さんが連れてきたのはつい最近出会った中学生ほどの幼い少女。

名前はアイリ。

別名SCP-120-JP-2。


「よ、よろしくお願いします…」


赤いワンピースを着た少女は深々と頭を下げた。


つい先程の輸送の際に出現した巨大な化け物。

SCP-120-JP-1が唯一言うことを聞く人物。

それが、この少女であった。


「さっきも言ったようにこの子自体に異常性はないから」


この子用の部屋。

まあ、私と同じような人型収容施設が必要なのだが、ちょうど今空いてるところがなく、その間私と一緒に過ごして欲しいとのことだった。


「私とか、ミアとかは部屋にいない事が多いし、部屋に危険なものとかも置いてあるからさ」


無論、断る理由もない。

というか、話し相手はむしろ歓迎だ。


「ありがとう。じゃあ私は急ぎの用事があるから……!よろしくね!」


そういうと、夏華さんはアイリを置いて私の部屋から出て行ってしまった。




残された二人。

沈黙が辛い。



「「あの!」」


…………気まずい


「あ、ごめんそっちからいいよ」

「いえ、そんな。そちらからで大丈夫です」


なんだろう。

今まで天才とか変態とかばっかりと会話してきたから、こういう普通の人と会話するのは新鮮だな。


「じゃあ……アイリちゃんは何歳?」

「えっと……中学1年生です」


中1…私と3つ差か。


「あの……お姉さんのお名前って……」


ああ、そういえば名前を言ってなかったな。


「私は御館 友梨。普通に友梨って呼んで!」

「友梨…ですか?」

「敬語もなしでいいよ。固いの苦手だからさ」

「わかりまし……わかった」


これで少しは距離が縮むといいけど。


「アイリは、好きなものとかある?」

「えっと……ヤドカリさんが好き!」


彼女が言うヤドカリさんとはSCP-120-JP-1のことだろう。


「ヤドカリさんとはどうやって出会ったの?」

「えっとね、海で拾ったの」


SCP-120-JP-1は普段貝殻の中に掌ほどの閉じこもっていると聞いている。

きっと貝殻のことを言っているのだろう。


「そっか。ヤドカリさんってどんな人?」

「ヤドカリさんはね!凄く偉くて!凄く賢くて!凄く強いの!」

「偉い?」

「うん!ヤドカリさんには24800人の家来を持ってるの!」


それが本当だとしたらとんでもないことなんだが……


「それ、本当?」

「うん!」


すごい純粋な目をしている。

とても嘘ついてるような目には見えない。

…嘘であって欲しいんだけど。


「ねぇ、ヤドカリさんには会えないの?」


アイリは少し寂しそうに下を俯く。

当然だろう。こんなに若いのによくわからないところに連れてこられて。


「ちょっと聞いてみるね」


ヤドカリさん。

SCP-120-JPが彼女の心の支えだと言うのなら会わせてあげたい。

私は携帯電話を手に取った。



********************



「時間は20分。絶対にSCP-120-JPを刺激しないように」

「ありがとうございます。優希さん」


SCP-120-JPとの面会は優希さん監視の元、20分だけ許可された。

条件はSCP-120-JPを刺激しないこと。


「しかし、凄い収容施設ですね…」

「まあ、SCP-120-JPの特性上ね」


その収容施設は今までに見たことがないほど大きく、頑丈であった。

事前に説明を受けたところによると、SCP-120-JPの異常性は、自身を高価だと思わない人間を認識した場合、SCP-120-JP-1という巨大な化け物が出現し、暴れ回るというもの。

全くもって危険極まりない。


「じゃあ、僕はモニター室から見てるから」

「わかりました」


そうして、収容室のロックが外れる。


収容室の中はゲームの中で見たような宝の山。

金銀財宝の山があちらこちらにあり、その中心で一際存在感を放っている宝石が散りばめられた金色のケース。

その中に不自然とばかりにその貝殻は飾られてあった。


「ヤドカリさん!」


アイリはSCP-120-JPを見るなり、収容ケースの近くへと駆け寄っていく。


「アイリ。私の名前は『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』だ。……ところでその小娘は誰だ?」


その声は貝殻の付近から発生しているようだった。

明らかに私に向けて敵意を放っている。


「この人は友梨だよ」

「よろしくお願いします」

「…………ほう」


いや、怖い怖い。

なに私嫌われるようなことした?


「なにやら、親しい様だが……友人か?」

「……えっと」


アイリは少し困った様な顔をしている。

多分、私が友達だということをSCP-120-JPは快く思っていないのだろう。

ここは私が否定するべきだろう。


「友達じゃないですよ。さっき会ったばかりですし」

「えっ……」


その言葉にアイリは顔を青くさせ、アイスを落とした赤子の様な瞳でこちらを見つめている。


「貴様……」

「嘘嘘嘘!友達!超友達!」

「本当?」

「うん!本当!」

「えへへ…」


その言葉にアイリはようやく笑顔を取り戻す。

だが、SCP-120-JPは不機嫌な態度を取るばかりだ。


「そうだヤドカリさん、さっきここの人がケーキをくれたの。凄い美味しかった」

「ケーキはいいが、甘味は程々にしておかなければ体に毒だぞ。あとアイリ。私の名前は『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』だ」


アイリとSCP-120-JPはそんな他愛もない会話を広げている。

私は少し離れた位置で二人の会話を見守っている。

会話だけ聞くとまるで二人は親子の様だ。

実際は貝殻と話している少女なのだが。

親子……?

私の父親はどんな人だったっけ…?



……というか、私は気づいてしまった。

これだけ周りを豪華にしているのはいいが、本人の価値は変わってなくないか?


「おい、小娘」


私のことだろう。変なこと考えたのがバレたか?

私は返事と共に収容ケースへと近づく。


「貴様、何者だ?」


戦慄が走る。

その静かな言葉は空気を震わせた。


「どういうことでしょうか…?」

「そのままの意味だ。私の前で隠し事はできないと思った方がいい」


SCP-120-JP(こいつ)…私の異常性に気付いている…?


「友梨は私の友達だよ?」


その時、アイリが不思議そうにそう答える。


「アイリ、こいつは……」


その時、優希さんの放送が収容室に鳴り響いた。


[20分が経過しました]


「あ、ヤドカリさん。私たちもう戻らなきゃ」

「そうか。アイリ。私の名前は『深き海とそびえる山を統べる偉大なる王』だ」


その答えも聞かずにアイリは収容室の外へと出て行ってしまった。

事前に言うことを聞かないと二度と会えなくなると脅しておいたのが効いたのだろう。


私も外に出ようと思ったその時。


「これ以上、アイリに近づくな」


SCP-120-JPのその声が私の耳にかすかに届いた。


********************


私の部屋。

真っ白な部屋は真っ暗になり、少し大きめのベッドで私たちは顔を見合わせる。


「やっぱり私布団で寝ようか?」

「ううん、これがいいの」


アイリは幼い笑顔を見せる。

なんだこの子。天使か。

財団には天使が何人もいるのか。


私達は少し大きめのベッドで共に眠りにつく。


「ねぇ、アイリ」


なんの理由もない。

ただ、なんとなしに声をかけてみる。


「どうしたの?友梨?」

「ううん、呼んだだけ」


そういえば、ここに来てからこんなに気を抜いて話せる人は初めてかもしれない。

まだ会ったばかりなのに。

この子はすごく安心する。


「……?」


……まるで…………みたいだ……


私は気づかないうちに眠りについてしまった。

いつもより少しだけ窮屈な部屋に二人の寝息がすやすやと聞こえていた。



*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*


「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」


「こんにちは、星影 優希です!」


「優希さん!お願いします」


「了解。今回紹介するのは、SCP-524 『雑食ウサギのウォルター』だよ。オブジェクトクラスはSafe」


「雑食ウサギってことはウサギのオブジェクトですか?」


「正解。SCP-524はウォルターって呼ばれる見た目は普通のウサギだよ」


「見た目はってことは…」


「もちろんただのウサギじゃない。ウォルターは雑食の名の通り、なんでも食べることができるんだ」


「なんでも……?」


「ああ、なんでも。人参や豚肉などはもちろん。鉄もガラスも放射線物質もね」


「そんなの食べたら死んじゃいません?!」


「大丈夫。ウォルターはなにを食べても体に影響はないからね……まあ、そのせいで過去に発電施設の設備を食い漁られて停電が起きて大変だったんだけどね」


「へぇ……(いや、待てよ。なんでも食べることができるなら、この前の私のフランス語のテストも…!)」


「ちなみにテストは全てデータで記録してるから用紙を食べさせても無駄だからね」


「バレてる!?」




SCP-524

『雑食ウサギのウォルター』



「SCP-120-JPの世界で一番の宝石」はZeroWinchester作「SCP-120-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-120-jp @2014


「SCP-524の雑食ウサギのウォルター」はDr Gerald作「SCP-524」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-524 @2009

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