Case14 ブルーレディ煙草
「よーしよしよしよし」
うさぎとは癒しである。
エノキ地獄を終えた私に対する初めの任務がうさぎの世話というのは、夏華さんには感謝しかない。
「手、噛まれないように気をつけてね。基本的には無害な子だけど、噛む力は強いから」
「だいじょーぶですよー、こんな可愛いんですし!」
少し離れたところで小屋の掃除をしている優希さんが私に呼びかける。
こんな可愛いうさぎちゃんの何が危険だというのか。
このうさぎ、ウォルターは大人しく撫でられている。
「ねー?」
ウォルターは綺麗な白い毛をしたおり、今私の手元にある人参をカリカリと齧っているところだった。
「そういえば、この子はなんなんですか?実験用……とか?」
「違う違う。普通使うのはマウスだしね」
「じゃあなんで?」
「それは………あっ」
優希さんは私の手元に目を向ける
「どうしました?」
私も優希さんに合わせて私の手元を見る。
ウォルターが丸まって自分の尻尾を齧っていたのだ。
「あ、自分の尻尾食べてますよ!可愛いですねー」
ウォルターがはカリカリと尻尾をかじり続け、その口は既に尻の辺りまで到達していた。
「……へ?」
それからウォルターは更に丸まって、自らの口で顔部までをも捕食していき、口を丸めてひっくり返して、自身の全てを飲み込んだ。
「えぇ……」
そこに残ったのは何者でもない。
無である。
「なんでも食べるうさぎ、SCP-524。もちろん自分も食べれる」
「…いや、どうなってんですか」
仮に腹まではまだ理解できる。
だが、頭はどうやってたべたんだこの子。
いや、見てはいたが、到底頭では理解できなかった。
「ていうか、これダメですよね!SCP-524いなくなっちゃいましたけど!」
「ああ、それは大丈夫。すぐそこにいるよ」
「へ?」
優希さんが指差す先には、たしかにさっきと全く同じ姿のうさぎがいた。
「SCP-524は自らを捕食した後、近くにまた現れるんだよ」
「なんでもありか!」
もうなんでもありなんだと思う。
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ウォルターの世話を一通り終えた後、私は手持ち無沙汰で施設をうろついていた。
「お、いたいた!」
ちょうど廊下の向かい側を歩いてきた美郷さんが軽く手招きをする。
「どうしたんですか?」
「いや〜それがな、これからSCP-013の実験するんやけど、友梨に来て欲しくて」
「……なんか怖いです」
朝の一件から私はSCPの気分では無くなっていた。
「まあ細かいことは置いとこうや!友梨もSCP慣れんといかんし!」
「あ、ちょ……」
私は半ば強引に手を引かれ、渋々美郷さんに従うことにした。
美郷さんが案内する実験室に入ると、そこにはカレナさんの姿があった。
「あ、友梨ちゃん」
カレナさんは私のことを見つめ、ニコリと微笑む。
「よかった。貴方の異常性の実験をしてみたかったの。夏華ちゃん、ありがとね」
カレナさんは少しワクワクした表情で両手を合わせている。
「ところで、このSCP-013ってどんなものなんですか?」
「今から実験をやってみるから、見ててね」
そういうと、カレナさんはマイクらしきものに話しかけた。
その音声は、ちょうどガラス越しに見える場所につながっているらしい。
ガラス越しにはオレンジ色のつなぎをした30代ほどの男性がいる。
Dクラス職員…というやつだろうか。
「D-5742、そのタバコを吸ってみてください」
「ああ、これを吸えばいいんだな」
そういうと、その男は青いパッケージのタバコを取り出し、火を付け口に咥えた。
「…あ?あ?!なんだこれ!俺!女に!!!おいどういうことだこれ!!!」
………と、30代のおっさんが叫んでいる。
「落ち着いてD-5742、そこに鏡があります。貴方は自分がどう見える?」
「ああ…わかった。黒い髪だ。長い。……後は目が緑になってる。あ、あとは唇が青くなってる……それに……む、胸が……!勘弁してくれ!!俺は女恐怖症なんだ!!」
男は鏡の自分に向かって震えている。
「今回も特徴は一致してるね。だけど、女性恐怖症とは……悪いことをしちゃった」
「……これは?」
「SCP-013。そのタバコを吸った者は自分自身を女性と認識する。他人からはただのおじさんにしか見えないけどね」
一体なんのためのSCPなんだ……
「じゃあ、友梨ちゃんこっからお仕事。あの人に触ってみてもらえる?」
「?、わかりました」
私は奥の扉を開けると、ガラス室への中へと入った。
鏡を見て叫んでいる男の背中に、私は恐る恐ると手を当てる。
「変化なしか……。次はちょっと抱きついてみて」
「ええ?!、なんでですか!」
「一瞬だから一瞬!」
私は、渋々男に後ろから抱きつく。
しかし、叫ぶばかりで男の様子に変化はない。
「も、もういいですか!」
「うん、大丈夫、もう出てきていいわよ。ありがとね」
カレナさんは、手元のキーボードに何かを打ち込んでいるようだった。
私は言われた通りに、ガラス室を後にする。
「はい、これ」
出てくるや否やカレナさんに渡されたものは男の吸っているものと同じものだった。
「いや、私未成年……ていうか、あれ見せられて吸いたくないですよ!」
「大丈夫よ。貴方にはSCPへの抵抗力があるから。それに、貴方くらいの歳ならちょっとくらい悪いことしないと。……ね?」
笑顔で非行を進めるカレナさん。
正直怖い。アメリカではこれが普通なのか?
というか、お腹の中の赤ちゃんにも同じことが言えるのだろうか?
「…わかりましたよ」
私はタバコを受け取り、火を付けて、咥えた。
「……うわ!本当に女になってる」
「いや、元から女やろ」
いや、もちろんそうなのだが、先ほどまでの体とは違く、髪は濃い黒色をしており、視線がいつもより少し高く感じる。
そしてなにより……
「下が見えない……」
いつもは真下を見ると見えたつま先が、見えない。
なんとも女性らしい乳房によって私の下部への視界が塞がれる。
「カレナさん、私胸が…!」
そう言って、自分の胸を触ろうとした瞬間、その手は空を切った。
慌てて胸元を見ると先ほどまでの立派な乳房は跡形もなく消え去っており、残っているのはただの板。
よく見ると髪の毛も短い白髪へと戻っており、視線もいつも通りの高さとなっている。
「……被曝時間30秒といったところかしら」
「……なんか、どんまい」
それから、散々慰められたが、私の心の傷が癒えることはなかった。
*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*
「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」
「こんにちは、カレナ・クレイナです」
「カレナさん!よろしくお願いします」
「ええ。今回紹介するのはSCP-207『瓶コーラ』よ」
「最近瓶のコーラ見ないですよね」
「瓶だとすぐ割れちゃうから自販機とかで使えないからかしら?まあその話は置いといて。SCP-207は名前そのままビンに入ったコーラよ」
「でも、流石に何もないってことはないですよね?」
「まあね。このコーラを飲んだ人は睡眠や休息が必要なくなって、運動能力や精神機能、また頭脳指数の増加が確認されているわ。簡単に言うとドーピングね」
「何それ最高じゃないですか!……あ、こんなところにコーラが」
(これを飲めばクリスを見返せるんじゃ……)
「けれど、体はそのままだから2日も経てば疲労死しちゃうわね」
「えっ……」
「えっ……?」
「あ、なんか、疲れがなくなってきた……」
「えっと……どんまい?」
SCP-207『瓶コーラ』
「SCP-524の雑食ウサギのウォルター」はDr Gerald作「SCP-524」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-524 @2009
「SCP-013のブルーレディ煙草」はDexanote作「SCP-013」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-013 @2012
「SCP-207の瓶コーラ」はAeish作「SCP-207」に基づきます。
http://www.scp-wiki.net/scp-207 @2010