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Case13 エノキひとつを友にして

「SCP-424-JPは無事収容。オブジェクトクラスはEuclid。特別収容プロトコルとして、常に強力な風を当てひっくり返した状態にすることになったよ」


夏華はそういうと、手にしていた紅茶を飲み干した。


「っていっても、君は興味ないか」


夏華に向かい合うように座るクリスは肘を机に突っ伏している。


「随分と不服そうだね」

「……別に」


クリスは不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「今までSCPと協力して他のSCPを収容する事例はあったし、Thaumielっていう前例もある。それに実際、彼女は役に立っただろ?」


……たしかに、あいつの推理や、自らの身を犠牲にするような大胆な行動がなければ、収容するまでにもっと多くの犠牲者が出ていたかもしれない。


けど、わからない。

怒ってるわけでも恐れているわけでもない。


ただ、俺はあいつが気にくわないのだ。

化け物が人間面をしているのが堪らなく腹ただしい。


「……そっか」


夏華はクリスの回答を待つまでもなく、彼の心情を理解したようだった。

無理というなら強制はしない。

確かに、SCP-________の能力はこれからの財団を大きく変えるだろう。

しかし、彼もまた財団を変えた、英雄の一人。


「…………」


気まずい沈黙が流れる。

確かに、彼をSCPと共に仕事させるのは少々酷だったかもしれない。

尊敬する人をSCPに殺された彼にとって、SCPは恐怖でも快楽の対象でもなく、憎悪でしかないのだ。



********************



皆さん、こんにちは。御館友梨でございます。


昨日、傘のSCPとの激闘を繰り広げ、そのお給料でテレビを買いました。

すごく小さいやつです。


いや、そんなことはどうでもいいんですけど。


なんやかんやあって、私の髪の毛はエノキになりました。





…なんでかって? 知らないよ!!


私は、再び鏡を見る。


「いやいやいやいや!なんで?!なんでエノキ?!」


私の白髪の髪の毛は一本残らずなエノキに変わっている。

いきなり頭からエノキが生えてくる世界。

これがSCP財団か……


「と、とにかく!」


私はポケットからスマートフォンを取り出し、すぐに電話をかける。


「夏華さん!」

[ん?どうしたの?]

「頭からエノキが生えてきました!」

[………ああ]

「え、なんでそんな冷静なんですか」

[昨日、何かテレビで見たりしなかった?]


私は、昨日の記憶を辿る。


たしか……帰ってきて……優希さんに手伝ってもらってテレビ設置して……あ、シロツメさんも手伝ってくれて……荒戸は拒否して…。


「あ、見ました!みんなが帰った後、よくわからないDVDが置いてあったので!」

[なんでよくわからないDVDを見るかなぁ…]


もっともである。

けど見ちゃう。それがわたし。


[内容は覚えてる?]

「えっと……たしか、エノキがなんか、よくわかんないことになってました」

[ああ、やっぱり]


私の説明が下手なわけではない。

それほど内容が意味不明だったのだ。


[それはSCP-1199-JP。見ると髪の毛がエノキタケになるSCP]

「なんじゃそりゃ」


意味不明である。


「え、私一生このままですか?」

[普通ならそうなんだけど、友梨ちゃんにはSCPへの抵抗力がある。だからそのうち治るよ]

「治るって……もしかして髪の毛全部抜けたりしないですよね?!元に戻るだけですよね?!」

[………]

「なんで何も言わないんですか?!」


こんな私でも女の子である。

ハゲというのは流石に耐えられない。


[……まあ、そうなっても髪を生やすSCPはあるから]

「本当ですか?!」

[まあ、その後うさぎになるけど]

「ちょっとその話詳しく聞かせてください」


本当に意味がわからない。

なんなんだSCPって……


[ちなみに、そのDVDを置いた人に心当たりは?]


……まあ、あいつだろう。


「荒戸ですね。多分」

[………はぁ。了解]


電話の向こうから夏華さんの溜息が聞こえる。

きっとあの人も今まで散々苦しめられてきたのだろう。


[ところで、そのSCPには異常性がもう一つあった]

「なんですか?もうなんでも言ってくださいよ」

[友梨ちゃん、エノキタケしか食べれなくなるよ]

「……は?」



********************



エノキ、エノキ、エノキ。

私の前には様々な味付けをされた大量のエノキ。


「うぅ……」


最低でも1日中。

私は彼らと面を合わせなければならない。


「肉が食べたい……チキン、ピザ、ケーキ…」


チキン、ピザ、ケーキは私がいつもお世話になっている昼食だった。

何故か、その三つは激安なのだ。

チキンとケーキに関しては無料で配っている。理由は知らない。怖いから知りたくもない。


その時、食堂に入ってくる二人の影が見える。

その二人は楽しそうに談笑している優希さんと美郷さんだった。

二人は私に気づくと、近くの席に座った。


「どうしたん?その頭。ハロウィンにはちょい早いで?」

「やりたくてやってるわけじゃないですよ」

「SCP-1199-JPかな?それは多分」


優希さんはじっと私の髪を見つめるとそう答えた。

やっぱりこの人頼りになるな。


対する美郷さんは手を伸ばし、エノキを取ろうとしていた。


「なっ、やめてくださいよ!」

「ええやんええやん、一つくらい」

「戻った時に十円ハゲみたいになったらどうすんですか!」

「それは……嫌やなぁ」


納得したのか、満足したのか、美郷さんは手を下ろした。

愉快そうな目で私の頭をジロジロと見つめる美郷さんに不満そうな顔をしていると。


突如、背後から可愛らしい声がかかる。


「き、君!大丈夫!?」


私が振り向くと、そこに立っていたのは女性。

ショートカットの青い髪に、モデルのような体型。

その瞳は薄い緑色に光っていた。


「あ、ミア博士」


二人が軽く会釈をする。

ミアという名前らしい。


「その症状、SCP-1199-JPだね?大丈夫、エノキタケ以外にもサプリを食べれば栄養は保存できる……あとは」

「あ、いや大丈夫です」


私はワタワタしてるミア博士を止めるが、それを聞いて余計にミア博士は早口になる。


「大丈夫!、そのSCPに致死性はないから、落ち着いて。早まらないで」

「別に死のうとしません」


側から見ている美郷さんは面白そうに笑っている。


「ミア博士、その子が例のSCP-________ですよ」


流石にいたたまれなくなったのか、優希さんがミアを止める。


「え、あ、そうなの?」


ようやく落ち着いたようなので私は挨拶をする。


「初めまして、御館友梨です」

「あはは…ごめんねなんか。僕はミア・クルス。よろしくね」


私はミアさんと握手をする。


「それで、それはどうしたの?」

「あぁ、これ置いてあったのを間違って見ちゃって…」

「……荒戸くん?」

「多分そうですね」


すぐに名前が出てくるあたりあいつは色々やってるんだろうなぁ…


「ごめんなさい、僕が注意しとくから」


そう言うと、ミアさんは頭を下げる。


「なんで、ミアさんが頭下げるんですか!」

「同じ科学者として謝らせて!」


頭を下げるミアさん。

困っている私。

優希さんは苦笑いでこちらを見ており、

夏華さんはいつの間にか、たこやきを食べている。


ちょうどその時、シロツメさんを連れた荒戸が食堂に入ってきた。

それを見るや否や、ミアさんは荒戸の方へ走っていく。


「荒戸くん!」

「あ、ミア博士おはようございます。今日の日替わりランチってなんでした?」

「えっと今日は生姜焼きだったよ」

「へぇー、僕生姜焼き好きなんですよ」

「そうなんだ!生姜焼き美味しいよね!」


ミアさん、早速話逸らされてますけど…?


「あ、そうじゃなかった!荒戸くん!」

「チッ…誤魔化せなかったか」


思いっきり舌打ちをする荒戸。


「SCP-1199-JPを友梨ちゃんの部屋に置いてったのは君だよね?」

「…………覚えがないでーす」

「嘘つかないで!」


すごい振り回されてるミアさん。

正直言って可愛い。


「とりあえず友梨ちゃんに謝って」

「ごめんごめん。TV買った記念に何か映画のDVDをあげようと思ったんだけど間違えちゃった」

「嘘つけ」


絶対わざとだ。

そのヘラヘラした顔にエノキ投げつけてやりたい。


「てか、エノキタケって……」


荒戸が吹き出したように笑い声を響かせる。

その甲高い笑い声に、私は思わず立ち上がった。


「おまえー!」


私は椅子から降りて、荒戸に飛びかかろうとするが、二人の間にミアが割って入る。


「友梨ちゃん、暴力はダメだよ暴力は」


ミアさんの顔は先ほどとは違い、少し真剣な顔をしている。


「てことで、もう行くね」


荒戸はこちらに背を向け、この場を去ろうとする。


「荒戸くん!」


慌てて荒戸を呼びかけるミアの瞳には僅かながら涙が浮かんでいた。


「喧嘩は……ダメだよ……」


その表情を見て、荒戸はギョッとした顔をする。

その表情はミアに向けられたものではなく、辺りの空気に向けられたものだった。


「あーあ」


夏華さんは呆れたようにそう呟く。

ミアさんの涙によって、食堂中の職員の目が荒戸へと向けられたのだ。


「あ、そうだ急ぎの用事を思い出した!じゃあね!」


荒戸は居心地悪そうにその場を去った。

ざまぁみろ!

虎の威を借る狐のようで、少し自分が情けないが、荒戸の逃げた姿の方がずっと情けなかった。


「大丈夫ですか?」


私はミアさんの元へと寄る。


「いや、大丈夫だよ。ただ、みんなが仲良くないと悲しいなって…」


再びミアさんの瞳へ涙が溜まっていく。


「大丈夫です!仲良くします!」

「本当に!?」


ミアさんはそれを聞くと餌を目にした子犬のような表情を見せた。

控えめに言って可愛い。


「流石、青髪の天使やな」


美郷さんが控えめに呟く。


「なんですかそれ?」

「あまりの可愛さと慈悲深さに男女問わず多くの職員を虜にした、人呼んで青髪の天使」

「へぇー」


私は改めてミアさんの顔をまじまじと見つめる。

確かに可愛い。

彼女が実は天使でしたと言われてもなんの違和感もないだろう。


「最早SCPじゃないですか」

「………?、でもそれなら僕たち一緒だね」


ミアさんは首を傾げて、私に向かって微笑みかけた。

うん。これは天使。


「御館様……サプリを……お持ちしました……」


気づかぬうちに、シロツメさんがいくつかのサプリを持ってきてくれていた。


「あ、ありがとうございます」

「……今回は……御館様の……SCPへの抵抗力のための実験……だから大目に見ていただけると……ありがたいです……」


本当だろうか?

絶対ただの嫌がらせだと思うが。


「でも、一言言って欲しかったな」

「………荒戸博士に……伝えておきます」


シロツメさんはそう告げると、食堂を後にした。


「じゃあ、うちもそろそろ行こうかな」


いつの間にかたこ焼きを食べ終わっていた美郷さんも席を立つ。


「あ、そろそろ僕も」


優希さんもそれに続いて席を立った。


私の前に残されたのはサプリと大量のエノキタケ。


「もしかして、キノコ嫌い?」

「……実は」


正直、そこまでキノコは好きじゃない。

あの食感がダメなのだ。


「好き嫌いは良くないよ。僕も応援するから」

「ありがとうございます」


すぐ横で聞こえる小さな応援コールの中、私はひたすらにエノキタケを食べ続けた。


「ミアさんって博士なんですよね?やっぱり頭いいんですか?」

「うーん。どうだろう。SCPに対しては詳しいつもりだけど他のことはあんまり」


と言っているが、そもそもここは「あんまり」のレベルが高すぎるのだ。


「僕は両親が財団職員だったからね。その影響で博士になったから」

「あぁ、なるほど。博士とかってそういう家系の人が多いんですか?」

「ううん、そんなにかな。結構孤児院出身の人が多いかも」

「孤児院?」

「財団の政策でね。身寄りのない子を集めて、小さい頃からエージェントや博士として育てるの。まあ、色々と思うところはあるけど、救える命を見捨てるよりはマシかなって」


財団の仕事は決して楽なものではない。

いつ死んでもおかしくない仕事だ。


「優しいんですね。本当に」

「……違うよ。ていうか、キノコ!手が止まってるよ!」

「すみません!食べます!」


…ちなみに、髪の毛は翌日には綺麗な白髪へと戻っていた。

*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*


「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」


「こんにちは!ミア・クルスです」


「ということで、ミアさん!よろしくお願いします!」


「任せて!今回紹介するのは、SCP-053『幼女』だよ。オブジェクトクラスはEuclidだね」


「よ、幼女……!」


「多分、友梨ちゃんが思ってるのとは違うかな」


「ですよね」


「SCP-053は3歳くらいの女の子だよ。一般的な3歳児より賢いみたい」


「あ、本当に幼女なんですね」


「そうだね。だけど、この子の異常性として、近くにいる人物に強制的に殺人衝動を発生させるんだ」


「と、いいますと?」


「彼女の近くに複数の人物がいると、その人たちは最後の一人なるまで殺しあうんだよ。そして最後の一人は、SCP-053を殺そうとするんだ」


「その言い方だと、成功はしてないってことですよね?」


「そうだね。これが彼女のもう一つの異常性。彼女に触れた人物は心臓発作を引き起こす」


「うへぇ、それはなんともエグ……」


「すごく可哀想な子だよね…!」


「えぇ……」


「3歳なんて他の子と遊びたいお年頃なのに……その異常性のせいでそれができない……その上、触れることさえも許されないなんてあんまりだよ!」


「あ、あの……」


「我慢できない!僕が遊び相手になってくる!」


「ちょっ!ちょっと!待ってください!!ミアさーん!!」


SCP-053 『幼女』





「SCP-424-JPの置き傘」はALBNo273作「SCP-424-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-424-jp @2014


「SCP-1199-JPのエノキひとつを友にして」はrararain作「SCP-1199-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-1199-jp @2018


「SCP-3802のけはねぐすり」はTheeSherm作「SCP-3802」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-3802 @2018


「SCP-871の景気のいいケーキ」はSeibai作「SCP-871」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-871 @2011


「SCP-558-JPのひよこの山とビッグ・ママ」はlocker作「SCP-558-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-558-jp @2016


「SCP-458のはてしないピザボックス」はPalhinu作「SCP-458」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-458 @2008


「SCP-053の幼女」 は Dr Gears作「SCP-053」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-053 @2008

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