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Case12 置き傘②

「おい、流。俺はこの辺りで奴を探す」

「じゃあ私はもうちょっと聞き込みしようかな。噂話とか意外と役に立つ時あるし」


雨が降り始めてから、二人のエージェントはすぐさま行動を開始した。


かく言う私はと言うと、


残された。


確かに、この首輪がある以上逃げたりすることはできないが、こうも簡単に残していいのだろうか?


………まあ、捜査とかそういうのはプロに任せるとして、私は、、


私何をしよう?


雨の日に出てきて人目のないところで首だけ持ってくSCPに対してできることなんて私にあるか?想像もつかない。


私は頭の中にモヤモヤと河童の姿が現れる。


まあ、とにかく私に何ができるかはわからないが、少しでもヒントを探してみよう。


私はレインコートを着用し、さっきの死体のところへと戻ってくる。


そこには明らかに警察ではないだろう男の人々がせわしなく動いていた。

そこには、美郷さんの姿もあった。


「あ、美郷さん」

「ああ、友梨ちゃん、どしたの?」

「いえ、私にも力になれることないかなって」

「うーん…」


そういうと美郷さんは少し困った顔をした。


「とりあえずここは自由に見ていいから。まだ片付けには時間かかるみたいやし」


そういうと、美郷さんは奥で他の人と話をしに行ってしまった。その服装からクリスに連れ立った財団の職員だとわかる。

私に構っている余裕はないのだろう。


自由に見ると言われても、何を見ればいいのだろうか。

とりあえず、私は死体を見てみることにした。


「うぇぇ……」


やはり、死体なんて何度見ても慣れるものではない。


死体は首から上が何かに噛みちぎられており、他に目立った外傷はない。


私はブルシートを再び被せ、辺りを見渡す。

周りは特におかしなところはなく、壁や床にも目立った傷はない。

落ちている学生鞄も特に傷は付いていない。


(抵抗せずに襲われたってこと……?)


いくら不意打ちだったとしても、何と抵抗もなしに殺されるものか…?

私がもし雨の日に襲われたらどうする?


そこで、私は一つの違和感を覚える。



「すみません」

「はい」


私は近くにいた黒服の男性に話しかける。


「ここって、他に何か落ちてませんでしたか?」

「いえ、現場の様子は初発見時と同様になっております」


てことは……


「あ、友梨ちゃん」


私の肩に美郷さんが手をかける。


「どうしました?」

「今からもう一人の被害者の方に行くけど、来る?」

「はい!行かせてください!」


美郷さんは、私の勢いのある返事に少し驚いた表情を見せる。


「そっか。ほな行こか」


美郷さんは私をいつのまにか来ていた黒塗りの車の助手席に乗せた。


********************


美郷は助手席に座るSCP-________を横目で見る。


財団に対して友好的な、SCPに対抗できるSCP。


正直言って私はこの子に恐怖心を抱いている。

この子はどこから来たのか?

どうやって異常性を手に入れたのか?

何故両親は存在しないのか?

高校へ入学する際の偽装された書類はこの子が書いたものなのか?

何故そのことを覚えていないのか?

考え初めてはキリがない。


「ねぇ、友梨ちゃん」

「なんですか?」


友梨は真っ白な髪を靡かせて、私の方を向く。


「………なんでもない」

「?」


……まあ、それを考えるのは私じゃない。

私の任務は今、4人もの命を奪ったこのSCPを捕まえることだ。


********************


「着いたで」


車が向かった先は、駅の線路下であり、黄色のテープの先には先程のような黒服が色々と駆け回っていた。


「私はちょっと話があるから、自由に見ててな」


そう言うと、美郷さんは黒服のリーダーらしき人のところへ行ってしまった。


私は死体の周りを見渡す。

やっぱり、アレがない。


2人が襲われたのは、雨の日だった。

……なのに、傘が無い。


もし、私が雨の日に襲われたら……きっと傘を武器にする。

その連想で生まれたひらめき。


私にとってそれは大きな違和感だった。


(犯行後、傘を盗んだ……?というか、そもそも抵抗なく殺されたのは何故だ?、頭を噛みちぎられるなんて相当至近距離に近づかないとダメだ…雨の日にしか行われない犯行……まさか)


私は美郷さんへの元へと駆け出した。



********************



私の推理はこうだ。

被害者にはもう一つ共通点があった。

それは、被害者の近くに傘がなかったこと。


では、何故傘がなかったのか。

それは、傘が人を襲ったからだ(・・・・・・・・・・)

犯行が雨の日だったのは、傘を使う機会が雨の日しかないから。

なんの抵抗もなかったのは、頭上から襲われたから。


そう考えると辻褄が合う。


あとは、何故この付近でしか事件が起こっていないのか。

それは…


「傘が自分で移動してるから?」


私が言うよりも早く、美郷さんはそれに気づいた。


「流石に無理がありますかね」

「んー、ちょっと待ってや」


そう言うと、美郷さんは腰のポケットから携帯を取り出した。


「あぁ、私やけど。聞いて欲しいことがあって、その人……。あぁ、ありがと。仕事早くて助かるわぁ」

「どうしたんですか?」

「この人、コンビニの店長さんらしいんだけどその日傘を忘れたらしくてな、忘れ物のやつを借りたらしい」


忘れ物の傘?ということは、


「その傘がSCP?」

「の可能性が高いと。しかも、そのコンビニはさっきの女の子が亡くなったところの近くや。もし、このSCPが死んだ人の近くに現れるものだとしたら……」


ここは駅の線路下……


「この駅にSCPが!」



********************



「にしても、助かったなー」


俺が預かっている会社の大事な書類が万が一にも濡れてしまっては大変だ。

そんな中、狙ったように雨。

あまりの絶望にくれていたが、まさか券売機のとこに忘れ物の傘があるとは。


「今日はついてるかもなー」


そんなことを呟きながら、俺は近道の路地裏へと入る。

ここの道も変わらない。

小学生の頃から通ってる道だ。あの頃が懐かしい。

転校したあの子、元気かなぁ。


そんな物思いにふけていると、ふと右腕に激痛を覚える。


「いたっ……なんだよ」


俺は右手を見る。

そこには、俺の手にがんじがらめに絡まった傘の柄。


「……は?」


その瞬間、俺の視界は傘に覆い尽くされる。


どこからか、少女の声が聞こえる。


もう、痛みは感じなかった。



********************


「危ない!」


私はサラリーマンの男性に向かって叫ぶが、その声虚しく、男の頭は傘に噛みちぎられ、水溜りへと体を落とす。

傘は、徐々に透明な色から薄い赤色へと変わっていく。


「血……?」


私は少しづつ、男の死体へと近づく。


(大丈夫。傘は触らなければ安心だ。早く、美郷さんに連絡を……)


私は急いで携帯を取り出すが、何か棒のようなもので手を払われ、携帯を落としてしまう。


「いっ……何?」


私の前に立っていたのは、さっきの男だった。

顔が見えないように赤い傘をさしている。


「そっか。そうやって襲った人を操って傘を移動させてたのね」


私は少しづつ後ずさりをする。


逃げるか?いや、そしたらこいつを逃してしまうかもしれない。

携帯は奴の後ろ……どうにかして取り返さないと。


そう考えている間に、その男は自ら持っている傘を私へと投げつけた。


「なっ……」


傘は開いているにも関わらず、空気抵抗を無視して、私へと直撃する。


「しまっ………!」


私は急いで手で頭を守ろうとするが、私の両手は伸びてくる傘の柄に縛り付けられてしまう。


「いだっ!」


傘の柄は私の腕の皮を貫き、体の中へと侵入していく。


「やばい、これ!」


体内に侵入した柄は表面からもわかるように私の上半身に向かって進んでいる。


まさか、死んだ人間を操れたのって、これが脳まで行ったからじゃ……!!

そんな漫画を見たことがある気がする!

体の一部から脳へと侵入して死ぬまで操られる化け物!


私は進んでいく柄を思いっきり握り、止めようとするが、一向に止まる気配はない。


傘の布の部分は、強い力でバタバタと動いており、とても傘を引き剥がすのも不可能だろう。


私は確かに不死身だ。

けど、もしも脳を支配されたら……?

私は……!


「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!離せ離せ離せ!!」


暴れる私を強い力で傘が抑えつける。


「誰か……助けて……!」




次の瞬間、私を押さえつけていた強い力は消える。

肩まで進んでいた柄のような触手もズルズルと抜けていく。


私は目の前に無防備に転がる傘を見て理解する。

吹っ飛ばされたのだ。

しかし何故……?


そこでようやく私は後ろに立つ人影に気がついた。


「化け物同士でなにやってんだ」

「クリス……」


そこに立っていたのはクリスだった。

右足を宙へ晒しており、傘は蹴飛ばされことがわかる。


「ありが……」

「油断すんな。まだ来てるぞ」


私は慌てて傘の方を向く。

傘は一人でに立ち上がり、私達へと殺気を放っている。


「随分と丈夫だな…」

「ねぇ、クリス私に考えがあるの」

「あ?」


友梨は再生していく右手を握りながら、クリスの方を見た。


「私があいつの懐に忍び込む」

「マジで頭おかしくなったのかお前?」


実際、先ほどまで襲われていた少女が相手の懐に飛び込むなどあまりにも愚策であった。


しかし、そうしている間にも傘は迫ってきている。


「とにかく私を信じて!」

「化け物を信用できるわけねーだろーが」


少女には確かに考えがあった。

しかし、それを、はいそうですかと飲めるクリスではない。

そして、それをただ待っているSCPでもない。


傘は二人に向かって飛びかかってきた。


それに合わせて友梨は傘へと走り込む。

傘はまたもや柄を触手のように伸ばして友梨の手に巻きつこうとする。

しかし、その柄は弾丸によって弾かれる。


「なに考えてるが知らんが、しくじるなよ!」

「わかってる!」


友梨は傘の目の前に飛び込み、柄を掴むと、思いっきり振り回した!


「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


広がっている傘を振り回す。

その行為がどのような結果を生むかは小学生でも知っている。


「これで、もう使えないでしょ」


この傘は自分でも動けるにも関わらず、雨の日にだけ活動する。

それは、『自分が使われる時』にしか人を襲えないからだ。

ひっくり返された傘は傘としての仕事を果たせない。


反れて剥き出しになった骨がピクピクと力なく動いていた。


*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*


「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」


「……なんで俺がこんなこと」


「今日の先生はこちら!」


「………………」


「こ・ち・ら!!」


「はぁ…やればいいんだろ。やればどうも、クリス・ストレイトです」


「クリス、苗字ストレイトって言うんだ」


「うっせぇよ。で、今回紹介すんのはSCP-553 『水晶蝶』だ。オブジェクトクラスはSafe。中国のとある洞窟で見つかった蝶で、今はその洞窟ごと封鎖してる。近くの市民には悪魔がいるって伝承流して侵入しないようにしてる」


「意外とガバガバじゃないですか」


「バカ言え、中国の部隊と協力して監視してるぞ」


「それは入れなそうですね」


(なんでこいつ入ろうとしてるんだ?)


(水晶の蝶なんて一回見てみたかったのに)


「で、SCP-553についてだが、まあ水晶でできた蝶だ。足を擦って超高温を出し、仲間と連携を取ってる」


「イルカみたいですね」


「仲間がピンチの時は自身の体で外敵を切り刻み、攻撃する。過去に収容違反があった時は傷口からの壊死性感染も含めて17名が死んでる」


「……意外と怖いんですね」


「当たり前だ。SCPだぞ」


(………ちょっと見てみたかったんだけどな)


「ちなみに、今ここにも125体は収容されてる」


「ちょっと見に行ってきていいですか!」


「………知るか。夏華博士に聞いてこい」


「わーい!」


「…………ガキかよ」


SCP-553『水晶蝶』




「SCP-424-JPの置き傘」はALBNo273作「SCP-424-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-424-jp @2014


「SCP-553の水晶蝶」 はDrewbear作「SCP-553」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-553 @2011

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