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Case11 置き傘

「急に降ってきたなー雨」


私は突然の雨にコンビニへと避難する。


「天気予報は晴れって言ってたのに。やっぱりテレビって信用ならん!」


コンビニで雨宿りしてればそのうち止むだろうが、目の前の雨に私の心は憂鬱になるばかりだった。


「今日、見たい番組あったんだけどなー」


今日の6時からの歌番組。

録画してはいるものの、やはりファンの一人としてリアルタイムで推しの顔を拝みたいものだ。


「……あ」


ふと視線に入るのは、青い柄のビニール傘。


(安物っぽいし……後で返せばいいよね)


私は罪悪感より推しへの気持ちが勝り、青いビニール傘を持つ。


「よし、行っちゃえ」


私は、傘を差すとコンビニを駆け出す。


今の時間は5時50分。

普通に走っては間に合わない。


「確か、ここの路地を抜ければ近道だったはず」


お母さんからは人目が少ないところを通るなと言われているが、今はそんなこと気にしてる場合じゃない!


私は青いビニール傘を差しながら、少し薄暗い路地へと駆けた。



********************



「あれ?忘れ物かな?」


深夜12時。雨はまだ止まない。

とはいえ、コンビニには客はおらず中にいるのは、私と他のバイトの子の二人。


「長谷川君、この傘君の?」

「いや、違いますよ。僕折りたたみなんで」


レジからこちらを覗き込んだ長谷川は怪訝そうに答える。


「忘れ物じゃないですか?ふつーに」

「そうかなぁ。こんな雨の中、傘なんて忘れるかな……」


まあ、なんにせよ長谷川君のものではないなら、少し借りるとしよう。


ちょうど今日傘を忘れてしまって困っていたんだ。


私は赤い透明な傘を手に取った。


********************



「これで4件目か」


夏華は地図に赤い円を記入する。


「犯行は全てこのS市付近で行われており、これといった証拠も見つかっていない。死体は全て頭部だけが何かに喰われたかのように消えている。……どう思う?」

「十中八九SCPの仕業だと思います」

「私もそう思う」


テーブルを挟んだ向かい側にはコーヒーを飲むクリスの姿があった。


「頭部が消えるという派手な殺し方にも関わらず、何も証拠が見つかっていないっていうのは、SCPの仕業と見て間違いないでしょう。それも、捕食系の」


やっぱりクリスは話が早くて助かるなと夏華は思った。

エージェントの中では恐らく1番多くのSCPに携わっているであろう彼の経験はとても貴重だ。


「そーだね。頭のおかしい殺人犯を逃すほど警察は馬鹿じゃない。それに…」

「それに、なんですか?」

「この死体が見つかった日、全て雨の日なんだよね」

「てことは、雨天がこのSCPが活性化する条件であると?」

「その可能性は高いってこと」


そういうと、夏華は足を組み直して言った。


「てことで、クリスには調査を頼みたい」

「わかりました」


クリスはそういうと、もう話は終わったとばかりにコーヒーを飲み干す。


「……ああ、そうだ。ついでにお願いがあるんだよ」

「何ですか?」

「この調査、あの子も連れて行って」

「…………あの子というのは?」

「わかってるくせに」


クリスの顔には明らかな嫌悪感が浮かぶ。

よほどSCP-________のことを毛嫌いしているのだろう。


「お断りします」

「彼女の力は財団にとって大きな戦力になる。今のうちに少しでも経験を積ませておきたいんだよ」

「あんなやつの力なんて借りなくても俺一人で!」

「人間の力には限界がある。たとえ君みたいな凄腕エージェントでも。それは君が1番よく分かってるだろう?」


クリスはますます嫌な顔をする。


「………次からは他の人に回してください」

「善処するよ」


彼のSCP嫌いは他の職員の比ではない。

が、彼女とは仲良くやってほしいものだ……



********************



私は、空を見上げる。

私の頭上に広がるのは、真っ白な天井

……ではない!


「外だぁぁ!!」


そう、私は数週間ぶりに日の光を浴びているのだ。


「うるせぇ」


何故かクリス(こいつ)と一緒に。


「もう一度言うが、お前についている首輪にはGPSが搭載されていて、逃げようとしたらすぐにわかるし、何か不審な行動を取った時には首輪を爆破することもできるからな」


私は自分の首に手を当てる。

この鉄の首輪はここから出る際に付けられたものだ。

細く作られており、息苦しさは感じない。


「そんなことしなくても逃げ出さないよ!」

「化け物の言うことなんて信用できるか」

「私には御館友梨という立派な名前があるんだけど??」

「そうか、SCP-________」

「聴いてますか??耳ついてますか??」


いちいちこいつ気にくわないな!!


そんなこんなで歩くこと10分。

そこは人通りの少なそうな路地裏で、黄色いテープが張り巡らされている。

テープの中には何人かの警察官が屈み込み何かを見ている。


「ここなの?調査するとこって」

「まあな」


そういうと、クリスはあっさりとテープを跨ぐ。


「ちょっちょっ、いいの?」


クリスは私の制止を無視してそのままズカズカと入り込んでいく。

それに気づいた若い男の警察官がクリスを止めに入る。


「ちょっとちょっとダメだよ君。あー外人さん?ここは入っちゃダメ!キープアウト!」


ほらー、やっぱり!

私はクリスを睨むが、当の本人は一切怯むことはない。


「あー、その子はええの」


その男を止めたのは若い女性。

その身長は小柄だが、スラットした引き締まった体型で、袖から覗くスラリとした腕や脚は日焼けという言葉を知らないほどに美しかった。


「いや、美郷(みさと)さん、幾ら何でも部外者を入れるってのは……」

「本部から許可は得とる。あー、それから他の人ら、もう帰ってええで」

「なっ……いくらなんでもそれは…」

「ええってええって。うちが上手くやっとから」


そういうと渋々、その男は下がり、他の警察官と撤退の準備を始めた。


「久しぶりやな〜クリス。3ヶ月ぶり?」

「元気そうだな。(ながれ)


え?この二人知り合いなの?


「最近、バカみたいに仕事出てるらしいけど、本当に大丈夫なん?」

「バカ言うな。自分の事くらい自分で解決できる」

「え〜、ほんまに?」

「お前こそ、色々と活躍してるみたいだが」

「うちの技術めっちゃ上がってんねん。見る?」

「嫌だ」

「何やそれ、酷いわ〜」


やけに親しげに話している二人。

女性は私に気づくとニコリと笑う。


「おー、君があの御館友梨ちゃん?本物見るとごっつかわええなぁ」

「えへへ、それほどでも……」


この人いい人だ。


「おい、無駄話はその辺に…」

「ええやんええやん、こういう時こそ落ち着いて自己紹介でもするべきやろ」


そういうと、その人は私を見て笑顔を向けた。


「私は(ながれ) 美郷(みさと)。そこのクリスと同じ財団のエージェントや」

「貴方も、SCPを捕まえてるの?」

「せやで。クリスとはタイプ違うけどな。私は潜入専門のエージェント。こうやって警察に回されたSCP事件の捜査を担当しとる」


そういえば、あんなに化け物がいるのに私達がなにも知らないというのは変な話だ。

なるほど。こういう人たちが事件を揉み消していたのか……


「今回の件も世間には流れないようにしとるから、安心せえな」

「たしかに、SCP(あんなの)が世間に公表されたらまずいですもんね」

「そゆこと」


なるほどなるほど。

私がそう感心していると、クリスがいないことに気がつく。


「あれクリスは?」


そういうと、美郷さんは奥の青いビニールシートを指差す。


「……アレですか」


おそらくあれが被害者の死体だろう。

クリスはなんのためらいもなく、ブルーシートをめくる。


「うぇ……」


私は込み上げてくる吐き気をすんでのところで抑える。

その女性は、首から上が乱雑に噛みちぎられており、その制服には大量の血が付着している。


「やはり、SCPの仕業で間違いない。市街地に虎でも出ない限りな」


クリスはそういうと、ブルーシートを戻し、手を合わせる。


「これと同じ被害が4件ほど出とる。その内2件は一週間前の雨天日に。もう二つは、この子と40代のおじさん。全てこの付近で起こっているんや」

「被害者に共通点は?」

「特に。ただ、襲撃時、雨が降っていることは共通しとる」

「殺されたところを見た人はいないんですか?」

「誰も見てないどころか、監視カメラにも写っとらん。うまく死角に回られてるみたいやな」


私は周囲をくるりと見渡す。

たしかに、見える範囲にコンビニは見えるものの、基本的にあたりは民家ばかりで監視カメラは見つからない。

そこで私はとある疑問が浮かぶ。


「親御さんには伝えるんですかこれ?」

「伝えへんよ」

「…へ?じゃあどうやって」

「カバーストーリーを流すか、記憶処理剤で忘れてもらうか……。今回は前者やな」

「カバーストーリー?」

「あー、簡単に言うと嘘や。通り魔に刺されたって言ってる。遺体は偽物を渡した」

「……………」


それって、あんまりじゃないか。

私がそう言おうとした時、


「気持ちはわかるで。けど、あんまり甘いことも言ってられへんのは友梨ちゃんもわかるやろ?」

「………はい」


私は自分に無理やり納得させる。

これは必要なことなのだ。


その時だった。

私の額に冷たいものが当たる。


「………雨?」


やがて雨は少しずつ強くなり、私たちは屋根のあるところへと避難した。


「死体の撤収頼んどかないとな。流石にこのままじゃかわいそうや」


美郷さんは電話を取り出し、誰かと連絡を取っている。おそらく警察の人だろう。


一方クリスは、


「……上等だ。俺は運がいいな」


突然の雨に頬を緩ませていた。

*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*


「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」


「こんちは!流 美郷やで!」


「てことで美郷さんよろしくお願いします!」


「任せとき!今回紹介するのはSCP-529『半身猫のジョーシー』や!オブジェクトクラスはSafeやで!」


「私知ってますよ。オブジェクトクラスは収容難易度であって危険度ではないと!」


「まあ、そうなんやけど、このSCPに限ってはめちゃくちゃ安全やで」


「なんで!?」


「危害と言えば、可愛すぎて困っちゃうくらいやね」


「でも、ほらSCPだから何かの異常性があるんですよね?」


「下半身がない」


「お?」


「だけ」


「だけ?!」


「下半身は見えないんじゃなくて、完全にないんや。けど、排泄行為は普通にする」


「どういうことなんですかそれ……」


「さあ?私直接見てないからな。ジョーシーがウ○コするとこ」


「ちょ、汚い言葉使わないでくださいよ」


「あ、でもクレヨンとか近づけるのはダメや」


「ほら、やっぱりなんか危険な異常性が…」


「食べたらお腹壊すからな」


「…………」


「あ、あと定期的にチーズあげないといかんな」


「ほら、チーズをあげないと大変なことが……!」


「チーズあげないと機嫌悪くするからな」


「……………」


「てか、別に平和に過ぎたことないやろ」


「………たしかに。私どうしたんだろ……」


SCP-529 『半身猫のジョーシー』



「SCP-424-JPの置き傘」はALBNo273作「SCP-424-JP」に基づきます。

http://ja.scp-wiki.net/scp-424-jp @2014


「SCP-529の半身猫のジョーシー 」 は「SCP-529」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-529 @2008


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再生能力がある人型オブジェクトに爆弾首輪つけて意味あるんでしょうか。
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