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Case10 瓶コーラ②

「あ、ごめんもう一つ覚えておいてほしいものがあったんだ。K-クラスシナリオについて」

「K-クラスシナリオ?」


もちろん、聞いたことのない言葉だった。

けど、何故かそれはとても危険な言葉のような気がした。

てか、もう何を聞いても危険に聞こえる。


「K-クラスシナリオってのは、簡単に言うと、世界が終わるってこと」

「…………」


ほらね?言ったでしょう?


「まあ、それにもいくつか種類があってそれぞれ名前があるんだけどね」

「世界の終わりに種類なんてあるんですか?」

「ああ、まあね。例えば、イメージしやすいのは核で地球が生存不可能になること。それならまだ火星へとか移住すればいいけど、他にも地球での支配種が変わったり、人間が全員おかしくなったり、あとは宇宙が終わったり」

「????」


宇宙が終わるって何。

ブラックホールでも飼ってるのか?ここは。


「まあ、まだわかんなくていいよ」

「それは後々わかる機会があるってことですか?!」

「………」

「黙らないでくださいよ!!」


本当に大丈夫なのか、この世界。


「よし、これで僕から教えることは全部だよ」

「オブジェクトクラスと、クリアランス。あとはK-クラスシナリオですね」

「そう。随分と飲み込みが早いね」

「ありがとうございます」


こんなこと言うのもおかしな話だが、割とすんなりと頭に入ってきた。

一応、ここで働く者としての適性はあったのだろうか?

あまり嬉しくはないが。


「じゃあ何か質問はある?」

「いえ、とくには」

「そっか、じゃあ僕はこれで」


そういうと、優希さんはニコリと笑って部屋を後にした。

あの人の笑顔はすごい癒し効果があると思う。

ベホ○ミくらいはあるんじゃないだろうか?HPは全回復だ。


「…さて、どうしよっかな」


現在私は普通の財団職員と同じ扱いを受けている。

といっても、あくまで仕事はお手伝いだが。

何か仕事がない限り、施設をぶらぶらすることもできるし、食堂でご飯を食べることもできるし、私の部屋(収容部屋)に戻って勉強したりもできる。




………勉強するかぁ。


全部は無理にしても英語くらいはできるようにしておきたいし。

教育課程なんてすっ飛ばして私の意地だ。


私はポケットからスマートフォンを取り出す。

これは財団から支給された物で、市場に出回っている最新型より数段性能が高いらしい。

今まで古い機種を使っていた私には夢のような話だった。


「広いんだよなぁ、ここ」


私は専用の地図アプリを起動する。

ここの敷地は大きめのテーマパーク5つくらいの大きさがあり、且つ地下や上の階があるので、ちょっと歩くにも地図が必要なのだ。

まあ、全部が見えるわけではなく、私が自由に歩けるのはだいぶ限られているのだが。


「部屋で勉強……したらスマホで遊んじゃいそうだなぁ。食堂は誰か居そうだし。セントラルホールは広すぎるし……。あれ、資料室なんてあるのか。ここ使えるのかな?」


私は、スマホの隅っこにいるひし形のようなキャラクターをタップする。


「ナニカ オコマリ デスカ?」

「私って資料室って入れるかな?勉強にいい場所がなくて」

「1F シリョウシツ ナラ カノウ デス。アンナイ イタシマスカ?」

「うん。よろしく」

「カシコマリマシタ デハ ヘヤカラデテ ミギヘ マッスグススミ ツキアタリヲミギ……」


私を案内してくれているのは、財団が作り出した人工知能 IB-2000 だ。

なんでも、財団内での道案内。オブジェクトの収容状況の報告。あとは、他の職員の所在確認など、事務的な事は全てやってくれるらしい。


とある博士が作ったもので、職員の全てのスマートフォンに導入されている。

だが、この案内キャラクター、デフォルトだと空中に浮いているひし形になるが、美少女キャラクターに変更することもできる。

そのキャラクターというのが、猫耳をつけたメイド服を着た女の子で、語尾に「にゃん」をつける徹底様。

多分これを作ったのは結構なオタクだろう。確実に。

フィギアに囲まれた部屋でピザとか食べているタイプだ。偏見だが。


「モクテキチニ トウチャク シマシタ」

「ありがとう」


資料室の中は、壁一面に本棚があり、所狭しと本やファイルで埋められている。


「すごい……」


ここの施設はなんの部屋でもでかいのか。

私はそんな光景に圧倒されながらも、端の方に並べられた机に座り、夏華さんから渡された勉強道具を広げる。


「さて、始めるか!」


********************


「わかんない……」


やばい。

まるでわからない。

そもそも高校での成績も特段よくなかったのに、アレよりレベルの高い英語とかわかるわけがない。

しかも、試しに他の外国語に手を出したのがいけなかった。

私の頭の中で複数の言語が雁字搦めに脳を縛っている。


「うぅ〜!」

「あら、どうしたの?」


私は後ろからかかった女性の声に振り返る。

そこにいたのは、大人の女性。

金髪の欧米系の女性で、とても綺麗な人だ。薄いクリーム色のワンピースを着ている。

細い手足に反して、少しお腹が膨れている。おそらく妊娠中だろう。

右手の薬指には指輪がはまっている。


「それ、英語?」

「あ、いや、ちょっとわかんないなーって」


この人からしても英語なんて大したことないのだろう。

むしろこんな世界の最先端のような施設で英語もできない私が恥ずかしい。


「あ、じゃあドイツ語からやってみるのがいいかも」

「え?」

「ドイツ語って、文法は難しいけれど、英語と結構似てるし、ヨーロッパの方は結構全部似てるからね。あと、朝鮮語とかは日本語とかなり近いから覚えやすいかも」


その女性はニコニコと話している。


「…あ、ごめんなさいね。どうも困ってる人を見ると手伝いたくなっちゃって。大きなお世話だったかな?」

「いえいえ!ありがとうございます!」

「もしよかったら、教えましょうか?教えるのはちょっと得意だから」

「あ、是非お願いします!」



…その人の教え方はとても上手だった。

この人が先生だったらどれだけよかっただろうか。

とてもわかりやすくて、とても優しい。

私はどうにか基本の文法は覚えることができた。


「………凄い早いね。覚えるの。どこかで財団職員でもやってた?」


その人は私を見て笑いかける。

女神なのか、この人。

体から母性オーラが溢れている。


「いえいえ、教えるのが上手なんですよ。えっと……」

「あ、名前を言ってなかったね。私は…」


「カレナさん…!何やってるんですか?」


そこに突然現れたのは、美形の青年。クリスだった。


「あっ…クリス」

「……なんでお前がいるんだ、怪物」

「なっ、かっ…」


私を睨むクリス。

蛇でも殺せそうな眼光だ。

私は思わずすくみ上る。


「こら、クリス。女の子にひどいこと言わない!」

「………。カレナさん、なんでここにいるんですか?安静にしとけって医者に言われたじゃないですか」

「体が動けなくても資料の整理くらいはできると思ってね。そこで困ってる子がいたから…」

「……そいつは化け物の仲間ですよ」

「この子は私たちの仲間でしょ」


私がいないかのように二人は会話をしている。

こいつ……

黙ってれば化け物化け物と……


「私は化け物じゃない!」


自分でも自分の声量にびっくりする。

二人は突然声を出した私に驚いているが、1番驚いているのは私だ。


「………行きますよ。カレナさん」

「あ、もうちょっとだけ…」

「行きますよ!」

「……はーい」


カレナさんは拗ねたように渋々クリスに従い、席を立つ。


「友梨ちゃんならすぐマスターできると思うから頑張ってね」

「えっ、なんで私の名前…」

「あなたは有名人だよ。私たちの強力な仲間って」


カレナさんはウインクしてそういうと、クリスと資料室を後にした。


強力な仲間……

強力な仲間かぁ……

悪い気はしない。


…もうちょっとだけ頑張ろう!



********************



夜11時


私は自身の収容室まで戻り、ベットに飛び込む。


「つっかれたー!」


あれから結構勉強したが、やはり言語の壁というのは高く、まだまだ時間が必要みたいだった。

とはいえ、流石に眠くなってきたので今日の勉強はおしまいだ。


ちなみに、夏華さんに頼んで、ちょっとしたソファと机と椅子は購入したものの、来月からは自分の給料で買えと言われてしまった。


家電製品は流石に購買には売ってないが、偶になら外に行く機会もあるらしい。

それまでにお金を貯めなければいけない。


世知辛い世の中だ。


「ん?」


私はとあるものに気がつく。

それは私の机の上に置いてあった。

私は立ち上がり、それを手に取る。


「これ、コーラ?」


そこにあったのはコーラだった。

しかも、缶ではなく、今時あまり見ない瓶のコーラ。

近くには小さな紙が添えられており、そこには綺麗な字で

「勉強がんばってね」

と書かれていた。


「誰だろう。夏華さん?優希さん?それともカレナさんかな?」


私はコーラを手に取り、部屋の端の小さな冷蔵庫に入れる。


「明日の朝に飲もうっと」


私はそうして、再びベットに横になる。

まだ、外国語をマスターするには時間がかかりそうだ。



********************



「大丈夫ですか?あの子」

「うーん、たしかに心配だね」


優希と夏華は資料室にこもる一人の少女をカメラ越しに見ている。


「あれ、どのくらいやってますっけ?」

「35時間。ぶっ続け」


少女、友梨は資料室の机へと向かい山のような問題集を解き続けている。


「止めた方がいいですか?」

「いや、彼女の新しい異常性かもしれない。並外れた体力。もう少し様子を見てみようか」



********************



頭が!!


滾る!!!




今日の私は絶好調だ!!



次々と単語が頭へと入っていく!!!





しかも全然疲れない!!!


私にはこんな才能があったのか!!!






ならもっと前から覚醒して欲しかったものだ!!!






それにしても、とても気分がいい!!







今ならなんでも……!!







「あ……」



私は床に倒れこむ。




あ……うあ……。



あたま…いたい。



あれ、床……?天井……?


重力ってこんなに重かったけ……?

てか下ってどこだ……?



あ、なんか……これ……死ぬ……。



********************




……見知らぬ天井。

違う、見知った天井。

ここで目を覚ますのは二回目か。



「おはよう……ございます……」

「あ、おはようございます」


私の枕元にはシロツメさんが座っていた。


私は、たしか疲れないって調子に乗って勉強しまくって……


それで、倒れたのか。

疲労困憊ってやつだな。


「ごめんなさい、ちょっと疲れてたみたいで」

「友梨様は……多機能不全により……倒れました」

「多機能不全?!」


疲労困憊とかいうレベルじゃない。


「およそ……35時間に及ぶ……勉強……体に異変があるのは……普通です……」

「35時間……」


そんなにしてたのか……わたし。


その時、部屋の扉が開き、心配そうに夏華さんが入ってきた。


「大丈夫?友梨ちゃん」

「はい、まあ多分」

「そっか、よかった。一応後で医療チェック受けてね」


夏華さんの顔がホッとした表情へと変わる。


「それで、どうしたの?あんなに無茶して」

「いやぁ、ごめんなさい。やり始めたら止まらなくて…」

「眠気とか疲れはなかったの?」

「はい。全然疲れなくて」

「…………一昨日、何か変なことはあった?」

「変なこと…?特には……あ、うちの部屋にコーラがありましたけど」

「コーラ?」


この様子、どうやらあのコーラを置いたのは夏華さんじゃないらしい。なら誰が。


「はい。手紙があって。誰の物かはわからなかったんですけど……」

「待って。それを飲んだの?」

「え……はい。4分の1程ですけど」

「…………」

「もしかして、なんかやっちゃいました?」


私がそう言うと、夏華さんはおもむろにスマホを取り出し、IB-2000を起動した。


「SCP-207の収容室の最近一週間の入退ログを見せて」

「イッケン ヒット Arato Hinazome 7/11 4:23」


荒戸……?


「やっぱり……やられた」

「えっと、どういうことですか?」

「友梨ちゃんが飲んだのはSCP-207。ドーピング作用のあるコーラだよ」

「私、そんなの飲んだんですか!?」

「まあ、中毒性はないから、そこらへんの危険な薬よりは安全かもね。疲労で死ぬけど」

「それ、薬よりタチ悪くないですか?」


てことは、私が死ぬまで疲れが現れなかったのはそのSCiPのせいなのか……


いや、そもそもSCPならなぜ私の机の上に置いてあるんだ?


「ところで、私の机にそれを置いたのは……?」

「荒戸だね」

「…………あいつ今どこいますか?」

「案内しようか?」

「お願いします」




この後、夏華さんと一緒に荒戸をボコボコにしたのは言うまでもない。


「…………なんでシロツメは止めてくれなかったのさ」

「……流石に……博士に……非があるかと」

「…………」


*御館 友梨のSCP勉強のコーナー*


「このコーナーでは、私、御館 友梨が画面の前の皆様と一緒にSCPを勉強していくコーナーです!今日の先生はこちら!」


「こんにちは!カレナ・クレイナです。よろしくね。」


「ということで、カレナさん!よろしくお願いします!」


「おーけー!今回紹介するのは、SCP-018『スーパーボール』だよ。オブジェクトクラスはEuclid」


「私が荒戸に見せてもらったやつですね。たしか、見た目は普通のスーパーボールでしたけど」


「まあ、そうなんだけど、このスーパーボールは落とした高さの2倍の距離を跳ねるのよ」


「……というと?」


「例えば、1mの高さから落とせば2m…4m…8mって感じにね」


「なるほどなるほど。でもそれならあんまり危険と思わないんですけど……Safeじゃダメなんですか?」


「Safeじゃちょっと無理かなぁ。1mmでも跳ねたらどんどん高く跳ねていくし」


「あぁ、なるほど。完全に固定しないとダメなんですね」


「そうそう。しかもすごいスピードも相関的に速くなっていくから、再収容にも一苦労なのよね。収容時にはおよそ100km/h近く出ていたとか」


「あいつ…なんてきけんなものを見せてくれたんだ……」


「あ、あとねその性質を利用してパワースーツを作ろうとした博士がいたらしいの。足につけることでスーパーマンみたいに」


「おお!かっこいい!それで、どうなったんですか?」


「それを使ったエージェントは不正動作で水面に打ち付けられて身体中の複雑骨折だって」


「……もしかして、ここの人たち意外とバカだったりします?」



SCP-018

『スーパーボール』







「SCP-207の瓶コーラ」はAeish作「SCP-207」に基づきます。

Source: http://www.scp-wiki.net/scp-207 @2010


「SCP-018のスーパーボール」 は「SCP-018」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-018 @2008

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