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Case1 時間切れ

少女は逃げ続けた


その純白のセーラー服に似合わない鮮血を侍らせて


「ハァ……ハァ……!」


ひたすらに走った


頭から離れない時計の音


その音は刻々と少女の死を刻んでいる


「あっ……!」


ついに少女は疲労から足を絡ませ、廊下に倒れこむ


「はぁ……はぁ……」


心臓の音が激しく唸っている


もう立ち上がる力は残っていない


足音は聞こえない、聞こえるのは時計の音


しかし、その音さえも耳から消える


「あ……」


少女の目の前に現れたのは「化け物」


鳥というにはあまりに醜く

人というにはあまりに汚い


「あ……ああ……」


もはや使い物にならない足を引きずり、少女は化け物に背を向け、ゆっくりと動き出す


「いやだ……死にたくない……いや……」


少女の声は届いたのだろうか




答えは既に肉片となった死体が物語っている





******************


「っというのが、花咲高校神隠しの真相なのです!」


左の席のオレンジのポニーテールの少女、美菜子は楽しそうにそう語っている。

あまりにも無邪気な顔で、ぴょんぴょんと体を震わしているのはまるでウサギのようだ。


「じゃあ、その話は誰から聞いたわけ?」

「えっ、そりゃあ………あっ」

「この話知ってるのその襲われた女の子だけでしょ?どうやったって無理じゃない」


美菜子に冷静に突っ込みを入れる玲奈。

綺麗な長髪が特徴的なうちのクラスの委員長だ。

美菜子とは対照的に落ち着いた様子で、呆れな目をして美菜子を見つめている。


「どうせまた変なサイトから見つけてきたんでしょ?」

「へ、変なサイトじゃないし!花咲高校裏情報サイト!」

「変なサイトじゃないの!失踪事件を面白おかしく改変するなんて趣味悪い」

「いいじゃん別に!そんなんだから毎回玲奈は時代遅れなんだよ!」

「なっ……別にそんな事……美菜子こそ、そんな事してる暇があるなら勉強すれば?」

「ぐっ……」


これからはいつもの流れだ。別名「夫婦喧嘩」

結局言い負かされた美菜子(夫)が私(娘)に助けを求めてくる。


「ねぇ!友梨!どう思う?!」

「どう思うって言われても」

「友梨も言ってやってよ、こいつこの前だって赤点……」

「わぁー!わぁー!こんなところで言うな!」

「ジャッジ。玲奈ちゃんの勝ち」


私は手を振り上げてレフェリーの真似事をする。


「よっしゃ、やりぃ」

「そんなぁ〜」


玲奈は喜びにガッツポーズをし、美菜子を不満とばかりに机に突っ伏している。


「で、結局美菜子ちゃんはどんな話がしたかったの?」

「あ、そうだよ!、実は今日の夜中、学校に…」

「却下」

「まだ言ってない!」

「忍び込もうとでも言うんでしょ?」

「うぐ……」

「そんなの私が許しません」


ちょうどその時、教室に始業の鐘が鳴り響くと同時に数学の竹岡先生が教室に入ってきた


「おい、鐘なってるぞ!早く席につけ!」

「やべっ、玲奈早く席に……座ってる?!」

「委員長たるもの授業前着席は当たり前です」


いつのまにか自分の席に腰掛けている玲奈。

当然、私の席の周りで話していたものだから私もすでに席に座っている。


「座ってないのはお前だけだ。林!」

「はっ!はい!ただいま座りますです!」


2人ともちょっと変わってるけど、私の大事な友達だ。


……大事な友達だった。


*******************


日は既に傾き、アスファルトは既に夕焼け色に染まっていた。

住宅街に2人の会話が響いていた。


「そう!小5の時も美菜子がね!できるかどうかはやってみるまでわかんねーって言って、跳び箱10段飛ぼうとしてさ、結局失敗して足の骨折っちゃって、全治1週間」

「あははっ、昔も変わらないんだね」

「ほんっとにそう!昔から全然変わらない」

「いつからの付き合いなんだっけ?」

「わかんないけど、気付いた時には一緒にいたかな。腐れ縁ってやつ」

「だから仲良いんだ」

「別に仲良くはない!」

「またまた〜」


大声で否定する玲奈だが、その表情はどこか嬉しそうだ。


「だって、そのクマのキーホルダーもお揃いでしょ?」

「えっ?ああ、これは。合わせたわけじゃなくて。」

「どうゆうこと?」

「クリスマスパーティの時にね、プレゼント交換をしたの、その時に私の物が美菜子に行って、美菜子のやつが私のところに来て。それで、偶然同じものだったの」

「えー。相思相愛じゃん!」

「もう!からかわないでよ!」


玲奈は少し恥ずかしそうに前髪をクルクルと弄る。

本人はこんな風に言っているが、二人はまさしく親友。そこには深く根深い絆が刻まれている。


「…そういえば、美菜子ちゃんどうしたんだろうね。先に帰ってなんて」

「さあね。あいつの考えてることなんてわかんないし。けど、危ないことするようなやつじゃないから大丈夫でしょ」

「危ないことって?」

「危ないことって……タバコとか?」

「タバコ?」


私は美菜子がタバコを咥えて、ヤンキー座りしている様子を思い浮かべる。

オレンジ色のポニーテルをした小柄な女子高生が鉄製のバットを持ちながらヤンキー座りしているのを。

そこまで想像して、私は思わず吹き出してしまう。

それは玲奈も同じだったようで、互いに顔を見合わせる。


「そういえば、綺麗だよね。友梨の髪。雪みたいに真っ白」


玲奈は友梨の髪に優しそうに触れる。

確かに私の髪は生まれつき真っ白だ。

その特異な外見から周りに馴染めなかった私に最初に話しかけてくれたのも二人だった。


「それって地毛でしょ?羨ましいな」

「私より、玲奈ちゃんの髪の方が綺麗だよ。サラサラしてて」

「そう?でも、美菜子の方が綺麗だよ。髪さらっさらで」

「また惚気話?」

「違うってば!」


またほんのりと玲奈の頰が染まる。

そうやって、いつまでもこの日常が続くものかと思っていた。



「あっ、じゃあ私こっちだから」

「そっか。じゃあね!玲奈ちゃん!」


オレンジ色の時計台は確かに時間を刻んでいた。



*****************



【助けて】


そのメールが来たのは夜の11時

送信元は美菜子からだった。


そのメールを見た瞬間に、わたしの彼女の言葉を思い出す。


(実は今日の夜中、学校に…)

「忍び込む…」


好奇心旺盛な彼女なら一人でも忍び込むだろう。

寧ろ、負けず嫌いな彼女は「証拠を見つける!」なんて、いかにも思いつきそうだ。


『助けて』その4文字からは美菜子の状態はわからない。

先生に捕まっただけかもしれないし、本当に大変なことかもしれない。


私は考えも半ばで、服を着替え、学校に走り出す。


美菜子はよく冗談を言うが、本当に人を傷つけるようなことなんて言わない。

ましてや『助けて』なんて人の心配を煽るようなこと、いつもの彼女からは想像できない。

反響する足音と相まって、学校が近づくごとに、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。


美菜子の身に何かあったんだ。


私が校門までたどり着くと、そこには玲奈の姿が見えた。

一心不乱に家を飛び出してきたのか、肩で息をしており、その格好は可愛らしいピンクのパジャマのままである。


「玲奈ちゃん」


玲奈は驚いたようにこちらを見る。

頬を伝う汗が胸元へ落ちる


「友梨……?なんでここに?」

「美菜子ちゃんからメールが来て……玲奈ちゃんも?」


玲奈は私の顔を見ると、無言で頷いて、無理矢理に笑顔を作った。


「多分、あいつのことだから驚かせたいだけだよ。さっさと見つけて連れ帰ろう」


美菜子がそんな事をする人じゃないってことは玲奈も知っているはずだった。

現に、その表情が、強がりということを表している。

優しい玲奈は私を見て、心配させてはいけないと思ったのだろう。

私はなんて言っていいかもわからずに、玲奈についていくことしかできなかった。

校門をよじ登り、昇降口までたどり着く。

美菜子が開けたのか、昇降口の鍵はかかっておらず、私たちはすんなりと校舎に侵入することができた。


「美菜子?いるんでしょ?」


廊下の暗闇に反響する玲奈の声。

その声は震えており、玲奈は今にも泣き出しそうな表情をしていた。

私は、無意識に玲奈の手を握る。


「大丈夫。私たちのクラス行ってみよう。もしかしたらそこにいるかもしれない」


玲奈を励ますつもりだったのに、自分の声が震えていたのに自分で気づく。

怖がりな自分が嫌になる。

私たちは手を離さない。いや、離せないまま、一歩一歩階段を登る。

玲奈の吐息や鼓動が耳元まで聞こえてくる。


私たちの教室。

2年B組。


当然、扉は閉まっている。

手はまだ震えたまま。

私は腹がひっくり返るような吐き気を催す。

虫の知らせとも言うべきだろうか、なんとなくだが、この扉を開けたら、全てが終わってしまうような気がしていた。

今までの私たちには戻れないような。


玲奈は私の手を繋いだまま、空いた左手で、扉に手をかける。

扉は驚くほどすんなりと空いた。


「美菜子………?」


玲奈は蚊の鳴くような声で美菜子の名を呼ぶ。



……扉の先で私たちが見たものは、

赤く染まったクマのキーホルダー。


綺麗に揃えられていた机や椅子はぐちゃぐちゃに荒らされており、黒板や壁には無数の爪痕が残っている。

そしてなにより、教室の中央にあるもの。

トマトスープをひっくり返したかのような真っ赤な床に、それがかかった大きな何か。

そしてそれを食す巨大な化け物。

人型を保ってはいるものの、四肢は極端に細く、尻からは尾のようなものが伸びている。

身体中は剛毛に覆われており、何よりも特筆すべきなのが、その長い首と巨大な嘴だ。


声は出なかった。

本当に驚いてる時は声が出ないんだなって、そんな冷静なことを頭では考えていた。

体は微動だにしない。ただ、頰を伝う汗の感覚だけが、これが夢じゃないことを伝えていた。

「SCP-4975の時間切れ」 は”Scented_Shadow”作「SCP-4975」に基づきます。

http://www.scp-wiki.net/scp-4975 @2019

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