ラプラス
新入社員になり、電車に乗っているときに思いついた作品です。
私はすべて読むことができる。行動も、思想も、事象も私に偶然などない。私の前ではすべてが必然なのだ。
思考院にはすべてが見えていた。目をつむっても目を開いてもすべてが数式に見ることができる。それを解くと未来が見えた。
基本は見ないように意識している。それに慣れるまでに20年かかった。
小さい頃は計算などできなかった。だが両親が計算できるように思考院の脳に人工知能を埋め込んだ。そのため計算速度が人の数千倍になり、数式すべてを一瞬にして計算できるようになった。
思考院はその力を丁度学校で習った数学者の名前を借りてを『ラプラス』と名付けた。
4月職が見つかり、探偵事務所で働いている。そして一週間が過ぎた。
「行ってきます」
一人暮らしのアパートを出て電車へ向かう。通勤途中は計算を切っている。理由は満員電車に乗る際に情報量が多すぎて疲れてしまうからだ。
____ピッ
駅の改札を抜け、エスカレーターで降りる。
(多いな~、一本遅らせようかな)
通勤ラッシュに当たった。エスカレーターには左でゆっくり降りる人がいれば右で走り降りる人もいる。だが下でつっかえていた。そんな中、思考院は左でゆっくりとスマホをいじっていた。そして4人の集団が一気に右を駆け下りた。
_____ビビィ!
脳から電流が走った。そして一気に嫌な予感が脳内を巡った。こんなこと一度もなかった思考院はスマホをしまい『ラプラス』を使った。すると大量の数式が目の前に出てくる。そして感じ取れる数式からこれから起こることを導き出した。
■■■■■■■■■■未来視■■■■■■■■
キャァァァァァァ
女性の悲鳴の数式が見える。そして多くの生命を成す数式がなくなった。
そしてその1分後に電車の形を成す数式が崩れ落ちた。
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仕組み的には数式を解いてる途中に止めればそこの場面が見えてくる。
「ふぅ~」
エスカレーターに乗っている途中だったので大きな数字の変化するところまで見た。
ここで2択に迫られた。
1.事故る電車に乗る
2.事故らない電車に乗る
(だけど・・・)
電車は事故なのかと疑問に思った。それは電車が崩れるまでにすでに人がたくさん亡くなっていたからだ。
そして思考院はエスカレーターを降り終わり、自分がいつも乗る電車の待機場所に着くとすぐに観測を始めた。
■■■■■■■■■■未来視■■■■■■■■
電車は思考院のいつも乗る電車だった。
そして5人の男が拳銃、ナイフを持っている。
そしてその位置はジャージの両ポケットの中にそれぞれ入っている。
顔の形も見えてくる。
その観測で脳波を解析し、健康状態、精神状態、犯行動機まで割り出した。
大量の死体の中に、思考院は含まれていなかった。
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「いっつ・・・・」
終わると頭痛がした。抑えられるようになってから長時間使ったことはなかった。
(けどこの近くにはいない)
思考院が乗る電車はいつも5号車の先頭。だが犯人グループが乗るのは、1号車の先頭だった。最初に運転者を狙うからだ。
だがいまから動いてももう遅い、電車はすでに来てしまっていた。
(乗るか)
そして思考院は電車に乗った。少し押しつぶされそうになりながらも、3号車先頭の連絡扉の前に来ることができた。
『ラプラス』で自分の確定した直近の未来を見ることはできない。正確に言うと自分が干渉する未来は確実性がなくなることだった。それは自分が見ることができる故、変えることが可能だからだ。その際に長時間の時間過程を見ずに未来を見るとその未来は確定する。道順がわからないからだ。
今回は道順を見た。だが少し遅かった。長時間過ぎたのと未来視を使わなかったブランクもあった。計算を行わなかった時間の帳尻を合わせるのはすぐできなかった。それ故、電車が壊れるのは確定してしまった。
おそらく事件を解決するのは思考院、だが最後まで防げなかった。
それを踏まえた上で思考院は乗った。
(事件が起きるのは4駅発車後)
そして思考院はどう動けばいいか。もし自分が乗らなかった場合を考えた。
■■■■■■■■■■仮説視■■■■■■■■
もし電車に思考院が乗らなかったら。
電車に乗る際思考院が乗らず後ろの人に譲ったとする。
そこで過程を飛ばす。
死者が増えた。いや、全員が死んだ。乗った人すべて。
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「うっ」
嫌な思いをした。たくさんの死体を見てしまった。そして次に思考院がどうなるかを見た。
■■■■■■■■■■測定視■■■■■■■■
これから自分が取るであろう動きと、その動きに合わせた物体の変化を見ていく。
まず、3駅到着時に流れに乗るために、正面の扉を開けて2号車へ移る。
そして降りる流れと、乗る流れを利用して押しつぶされながらも2号車先頭の連絡扉まで移動。
4駅到着時に1号車へ移動。そこで犯人グループを目視。
そこからさらに分岐させた。先にしかけるか。後からか。
とりあえず近づくために前へ移動するとすぐ横で座っている女性がいた。
その女性は思考院の知っている人物だった。
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○○駅~○○駅~
一つ目の駅に着いた。一度測定視が終える。
(なんで安納さんがいるんだ)
・安納さん
思考院の同期。なのだが、初日は用事でこれず2日目から入社した。そのことから『1日先輩』と思考院を呼ぶようになった。
安納さんは思考院の能力を知っている。だが安納さんは突発的な状況判断に優れており、思考院の行動を多少読むこともでき、一度凌駕したこともあった。
(とりあえず前に進まなければ)
降りる流れを利用して、2号車先頭への移動を始める。
運よく人の流れが激しい。一瞬人ががらりと空いた。その隙に軽く走って先頭にいけた。周りから見たらおかしい人に見えただろうが、これから起こることに比べれば払える代償だった。
(よし、計算通り)
2駅ほど余裕を持つことができ、もう一度測定視を始める。
■■■■■■■■■■測定視■■■■■■■■
安納さんの前を通ると目があった。
思考院のはシッーと人差し指を口の前に出す。
安納さんの前に行き、つり革をつかむ
スマホを取り出し、安納さんにメッセージを送った。
それを読んだ安納さんは少しびっくりしたものの状況を理解し、縦に頷いた。
その時、銃声が響いた。
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○×駅~○×駅~
2つ目の駅に着いた。一応駅を確認し、もう一度測定視に入る。
■■■■■■■■■■測定視■■■■■■■■
銃声が響いた途端、乗客が一瞬固まる。
そして理解した乗客が叫び、後ろへ逃げようとした。
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「いっつ・・・・」
一度に多くの人間が動く想定を行い頭痛がする。
(一旦休憩しよう)
これから犯人と対峙する際に頭と体を使うので少しでも万全にしておきたい。
そのため4駅までゆっくりと先頭の扉にもたれかかる形で4駅まで待った。
××駅~××駅~
4駅に着いた。
思考院はすぐに先頭の扉を開け、1号車に乗り込む。
そして流れに乗って、安納さんと目が合った。測定視通りの行動をする。
前に行き、スマホでメッセージを送る。そして、縦にうなずいた瞬間に銃声が響いた。
「なるほど、早いですね」
乗客が叫び逃げるよりも早く、安納さんは立って思考院に近づいた。
「すみません少しこっちに」
と言って安納さんは思考院の腰に手を置き抱き寄せるように座った。
「なっ!?」
思考院はびっくりしたものの対処できずに胸にうずくまる形になってしまった。
(どういうことだ)
と思った瞬間に乗客が叫んだ。そして多くの乗客が2号やへ移動を始める。
「少し恥ずかしいですけど・・・・こうしないと離れてしまいそうだったので・・・・」
顔を上げて安納さんの顔を見ると少し赤くなっているのがわかった。
少し冷静になり、計算を始めた。
「まずい」
1号車の乗客が残り半分くらいになるとき、2人の姿が犯人グループの視界に入りそうになる。
すぐに思考院は立ち上がり安納さんの手を取る。そして出入り口近くの椅子の影に隠れた。
安納さんを右に、思考院は左に隠れる。
二人の手にはスマホが握られていて、音をたてずに連絡することが可能だった。
そして乗客が逃げ、1号車には犯人グループと思考院と安納さんのみとなった。
(犯人は4人)
思考院は計算モードに入っていた。空気の流れや、音の振動を計算して現状いる人数を把握できる。
(1号車に3人、運転席に1人いる)
それをスマホのメッセージで安納さんに伝える。
OKと指で丸を作り、こちらを見ていた。
「よし、じゃあ暴れるかぁ!」
威勢のいい犯人が2号車へと歩いていた。だが、見た目や大きさなどはまだ見えていない。
(結構大きいな。一瞬で決めないと)
計算で大きさを割り出す。190cmで結構大柄だった。
(まず、安納さんを見るか)
残り数秒で見つかる。スマホを握りしめ、武器のように持つ。
そして大柄の人が隠れているところまで行くと、すぐに安納さんを見た。
「おまっ!・・・・・グぇ」
安納さんを見て思考院へ視界が完全に外れた瞬間に思考院が頭にスマホをたたきつけた。
いきなりたたきつけられた大柄の男は安納さん側に倒れる。そして倒れたらすぐに安納さんは持っていたカバンに張っていたメジャーで縛った。もちろん残りの2人に気づかれ、銃をこちらに向けてくる。
バンッ、バンッ
2発銃声が響く、だがそれは電車の椅子に守られ、影に隠れていた2人と大柄の男には当たらなかった。安納さんは足を延ばして座り、それにまたがる形で思考院が隠れている。
「先輩・・・これ」
と言って安納さんは水筒と、取り上げたナイフとハンドガンを思考院に渡してきた。
「銃使ったことないんだけど」
「私もです」
押し付けられる形でハンドガンを持つことになった。
だが安納さんからもらった水筒のほうが気になった。
「これ、ホットです」
中には熱いお茶が入っているらしい。温度は50度ほどで無力化させるには十分な熱さだった。
「よし」
どのように水筒を投げれば残り2人にお茶が当たるかを想定する。思考院の視界には大量の放物線が描かれていた。そしてそこから最適な線を導き出す。
「いくよ。安納さん」
開始の合図をして思考院は水筒を投げる。その水筒は犯人2人の間のつり革に当たり、お茶が飛び散った。2人が当たることはわかっているので思考院は先に出る。そして少し遅れて安納さんが動いた。
だが・・・
「あちぃ!」
犯人の1人が熱さに手を振り回す。思考院はその犯人の動きを見ていると手が安納さんの方向へ向くのが見えた。そして指が引き金にかかっている。
「まずい」
すぐに安納さんを椅子へ押した瞬間、銃口がこちらを向く。そこから生存本能が働いたのかスローに見える。
(よけきれない)
バンッ!
銃弾が放たれた。スローになってだんだんと近づいていく。そして思考院うまく動けない。
銃弾からでてくる数字がだんだんと小さくなるにつれて近づいてくる。それをしっかり見ていた。
(場所は口)
当たる場所は口内だった。もちろん当たれば即死、思考院は死んだと思った。
バキィ!
思考院が目をつむり計算をやめた瞬間、恐怖で歯を食いしばった。するときれいに歯と歯の間に銃弾が入り、挟まる。火事場の馬鹿力が働き、銃弾の回転にも負けない力で噛むことができた。だがその衝撃を抑えることができず、首が上に曲がり、背中から倒れた。
「いってぇ__プッ」
首に痛みがあったがなんとか生き残ることができた。銃弾を口から吐き出し、犯人を向く。犯人はまだ熱さでお茶を手で払っている。
(後数秒で持ち直される)
「安納さん!」
安納さんを呼ぶとすでに向かっていた。スマホのイヤホンを両手に伸ばし、左の敵の首に回し、足を崩して倒した。
「先輩!」
思考院はいまから走っても間に合わないのでハンドガンを構えた。
「そこ!」
バンッ!
思考院の銃から放たれた銃弾は2人目の犯人の左ふくらはぎを貫いた。
「ぎゃぁ」
ふくらはぎを貫通させられたてなくなり倒れる。そしてその衝撃で銃を離してしまった。
それを安納さんは蹴り、銃を遠ざける。そして安納さんはイヤホンで1人気絶させ、もう1人をふくらはぎを蹴って気絶させた。
「ナイス。1日先輩」
「ありがとう。安納さん」
「いやいや、先輩いなかったらあの時死んでましたよ。ほんとに助かりました」
無力化し終え、互いに励ましあう。
バンッ!
と運転席から銃声がした。
「まさか」
思考院は運転席を計算すると運転手が頭から血を流して倒れているのがわかった。
「やっぱダメだったか。安納さんこの電車残り10秒で脱線する」
思考院は計算している余裕がない。ただわかっているのは残り10秒で脱線することだった。
「先輩こっち」
と言って安納さんは思考院の腰をつかんで片手で荷物を置く鉄の柵をつかんだ。
「先輩は私に抱き着く形で掴んでください」
思考院は言われるがまま手を安納さん腰にまわす。
「振り落とされないようにしてください」
少し強く抱き着いた。その瞬間大きな衝撃が2人を襲った。
ドォォォォン!
ものすごいスピードで電車が横転して滑っていく。
「やばい!」
安納さんの手は限界になり、離してしまった。そして力の流れで後ろへと飛ばされる。
「くっ!」
思考院は力の流れ、落ちる方向やぶつかる角度を計算した。そして急いで安納さんのからっているリュックの間に体を入れる。
「なっ、何を!」
背中からの感触で安納さんはびっくりした。
「これで・・・・・・ぐっ!」
リュックをクッションにしたが衝撃は抑えきれなかった。思考院の背中に大きな衝撃が襲う。安納さんは思考院とリュックで何とか衝撃を抑えきれダメージはない。
そして電車は止る。
「大丈夫ですか!先輩!」
「う・・・なんとか」
思ったより強い衝撃で、起き上がれない。そして30分後、救急救命士が助けに来てくれた。
ニュースで犯人の目的動機が発表された。動機はテロを起こすためだった。犯人は全員死亡。乗客はほとんど1号車から離れていて死亡者は犯人の4名、重傷が5名、軽傷が思考院含め50名だった。
「1日先輩大丈夫ですか」
病院から出てきた思考院を安納さんは出迎える。
「なんとか。杖って便利だな。結構歩きやすい」
腰をやってしまい1か月は杖生活と言われた。だがそれだけで済んだのは幸運だとも言われた。
「では、事務所に行きますか」
「え、これでいくんですか」
安納さんは心配していたが、遅れると連絡したうえ流石に現状を知らせてたいと思っていた。
「一応ね」
「わかりました。事務所ついたら寝ててくださいね。今日の作業は私がやりますから」
安納さんは思考院を支えて探偵事務所へ向かった。