97話 2人
修羅場と化した廃病院の中、沙耶が死に今度はえりなに死が迫ろうとしていた。
もう考えている暇なんてない、えりなの命を救わなきゃ死んだ沙耶にも申し訳ない……
沙耶、ごめんな。 俺えりなの事が好きなんだ、直接沙耶に俺の気持ちを伝えたかった。 死んでしまったら悲しむ事も出来ないじゃないか。
でも沙耶が死んでしまい次はえりななんてそんな事あってたまるか。 俺に救えるんだったら絶対えりなを救ってやる。
「えりな、俺が今日お前に会いたがっていたのはお前に言いたい事があったからだ」
「言いたい事?」
「俺、お前の事が大嫌いだった」
そう言った途端えりなは泣きそうな顔になり下を向いた。
「最後まで聞けって。 だけどさ、お前といつも接していくうちにだんだんとお前の事がわかってさ、大嫌いだったのがいつの間にかお前の事を考える事が多くなっていったんだ。 最初が大嫌いだったからこれがお前の事が気になってるって言う事になかなか気付かなかったけど、お前が家で俺を迎えた時にホットケーキ焼いててくれた時あっただろ?」
「あ…… うん」
「その時さ、えりながもしかしたら将来こんな風に俺に接してくれるのかな? なんて考えちゃったんだ」
「健斗……」
窓から月明かりがえりなの顔を照らした。 そんなえりなはこんな状況だってのにとても輝いて見えた。
「そう考え出した時から俺さ、もっとお前の事を考えていた。 今頃えりなは何してるかな? ちゃんと家で寂しくなくしてるかな? とかさ。 俺はっきりわかったんだ」
いろんな思いが込み上げてきた。 こんな時でも告白するって緊張するんだな……
「俺…… 俺はえりなが好きだ、だから側に居て欲しい」
「健斗ッ! 私も健斗が好き、大好き!」
そう言った途端えりなはポロポロと涙を流していた。 最悪の状況で告白したっていうのに俺とえりなはまるで別の空間にいるような気さえした。
そしてえりなは片腕で俺を抱きしめ押し倒しキスをした。 触れた瞬間えりなの唇は冷たかった、唇だけじゃなく身体中も。
だけど一瞬でえりなは人間らしい温かみを取り戻した、そしてゆっくりと唇を離し俺の顔にポタポタとえりなの涙が落ちる。
「健斗、私、私こんな時だけどとっても嬉しい。 健斗に…… 健斗に好きって言ってもらえて。 それに私……」
「ああ、俺もわかったよ。 えりなに体温が戻ったの、抱きついてるえりなの体、凄く温かい」
俺はえりなが温かみをを取り戻したのを確認するとえりなの腕の刻印は綺麗さっぱりと消えていた。
どうやらかなりギリギリだったけど間に合ったみたいだ。 えりなは俺に抱きついて泣きじゃくっている。
だけど事態はえりなは助かったけどここの病院にはまだ花蓮と上野が居る。 安心出来ない、ここを抜け出すまでは……
俺は抱きついて泣いているえりなの肩をそっと触りそんな俺にえりなは顔を上げた。
「えりな、とりあえずここから出よう? ここにいつまでも居ると不味いからさ」
「うん…… そうね。 花蓮ちゃん達から逃げないと」
こっそりと部屋から出て辺りの様子を伺う。 花蓮達はここら辺には居ないのか? でもどこから出てくるかわからない。 とりあえず下に降りないと逃げられない。
下に向かおうと階段を静かにえりなと一緒に探す。どこにも見当たらないと思い不安がよぎったがようやく下に降りる階段を見つけた。
この病院のこの階はここしか降りる所ないのか…… するとその下の階に通じる階段から人影が見えたので急いで隣の階段に身を隠す。
花蓮が下の階を探し終えたのか階段を上がってくる。隣には更に上に続く階段があるので仕方なくそちらへ上がってやり過ごすしかない……
階段を静かに上がるとドアがあったのでゆっくりと開く。 予想はしてたけどやっぱり屋上だ…… えりなは元には戻ったけど怪我までは治ってない。 そして花蓮はえりながいればえりなだけを執拗に狙うだろう。おまけに上野まで居たら防ぎようがなくなる。
どうにか下に降りれないかと屋上のフェンスが壊れている所から下を見ると高い…… ここから落ちたら死ぬな。
「健斗、私足手まといだよね?」
「何言ってんだよ? 2人一緒に逃げられなかったら沙耶がせっかくあそこまでしてくれた意味がなくなる」
「地味子、私達の為に…… 私の事友達だってちゃんと思ってくれてた。 私どうすればいいの? どうすればよかった?」
えりなは沙耶の事を思って泣き始めた。 一緒に、えりなと一緒にここら逃げないと……
「いきなりだけどさ、ここから出たら俺えりなと将来結婚したいと思ってる」
「え?」
「ふざけて言ってるんじゃない。 本当にそう思うんだ」
「…… 健斗………… わ、私で良かったら」
「だからなんとしても2人で一緒にここから出よう?」
「うん!」
「ふざけないで!」
「えッ!?」
その言葉が聞こえた瞬間、急にえりなの体が横に弾け屋上から足を滑らした。 そしてスローモーションになったかのような錯覚に陥る。
花蓮がいつの間にか俺達の背後に迫りえりなを屋上から突き飛ばしたんだ。 俺はえりなの後を追って一緒に屋上から飛び降りた。
「健ちゃん!!」
花蓮の悲痛な叫びが聞こえたが俺は落ちるえりなに手を伸ばし掴んだ。 その間何秒? どのくらいの時間が流れていたのかわからないけど一瞬の出来事だった。 そしてその間に俺はえりなと確かに会話した。
「バカ! 健斗のバカ! これじゃ2人一緒に死んじゃうよ!」
「側に居てくれって言ったろ?」
「バカよ健斗は」
「そうかもな」
「最初から最後まで私痛い目に遭ってばかりだったけど……」
そう言ってえりなは俺を抱きしめた。 それはまるで俺を直接地面に当たらないようにしているようだった。
「えりな!?」
「まぁ健斗がもし助かるなら悪くないかな」
そう言ってえりなはニッコリと微笑んだその瞬間、俺とえりなは地面に叩きつけられた。




