91話 えりなと健斗の変化
その日の帰り、学校を休んだえりなの家に行った。 相変わらず親はいないようだ。 えりなはずっとこんな暮らしをしてたんだろう。
親の愛を受けずにただ物を食べ学校へ行き帰って寂しく過ごす。 そして親に認めて貰おうと頑張ったけど失敗して人を好きになるという事もろくに知らないで。
だから最初上野への想いで最初に好きという気持ちを理解した。 えりなは美人でそれまでも持て囃されて来たのだろうがえりなだってそこは自分の外見だけを見る連中と蔑んでいた。
上野はえりなの外見が良いからといってそこだけで親切にするような奴ではなかったってのは俺も感じているし今でもそういう奴だって思ってる。
だからなんだよ? 今更何言ってるんだってなるよな。 じゃあ俺は今までどうしてあんな面倒なえりななんかに付き合っていた?
俺が優しい? お人好しだから? それだけで今までのえりなの無茶苦茶な行動を受け入れて来たのか? 本当にそれだけ? 沙耶だってそうだ、花蓮は俺が好きだってハッキリ自覚出来た。
じゃあなんで今でも俺はきっぱりとえりなと沙耶の想いを拒否せずにいた? 修羅場になるのが嫌だ? それはあるけど俺に一欠片の気持ちがないとわかってもあいつらは俺にかわらぬ好意を抱けただろうか?
物凄くモヤモヤする、俺はそんな気持ちを抱えながらえりなの家の目の前に着きインターホンを押そうと思ったらえりなが待っていたかのように俺を出迎えた。
「おかえりなさい健斗。 ちゃんと来てくれたわね」
えりなはエプロン姿で出てきた。 何か作ってたのか? いや、そんな事よりも俺は優しく微笑んで俺を迎えるえりなに想像してしまった。 将来もし結婚したら俺もこんな風に未だ知らぬ結婚相手にこんな風に出迎えて貰うのかな? と。
そしてそんな姿を想像させたのは今目の前にいるえりなだという事実……
「ん? どうしたのよ? ポカンとしちゃって。 あ…… これ? 健斗が来てくれたらお腹空かせてると思って簡単だけどホットケーキ焼いてたのよ? 食べるよね?」
「え? ああ。 うん」
「そう、良かった。 じゃあ早くいらっしゃい」
そう言ってえりなは流れるようにキッチンへ向かいリビングへと俺は促される。
「まぁ誰が作ってもホットケーキはホットケーキだけど…… どうぞ」
「じゃあ…… いただきます」
えりなはニコニコしながら俺が食べている様子をただ見ていた。
「どうかな? 美味しい?」
「ん? うん。 美味しいよ」
そう言うと更に表情が明るくなり俺の食べるのをジッと静かに見つめていた。 そんなに見つめていられても食べ辛いとかそういう感じはしなかった。 それはえりながとても穏やかな顔をしているから。
「美味しそうに食べるわね健斗は。 なんだか私も食べたくなっちゃった」
「じゃあ食べるか?」
俺はフォークでホットケーキを一欠片刺しえりなに差し出した。 それをえりなはパクリと食べた。
「うん、我ながらよく出来てる!」
「ちょっと前まで全然出来なかったくせによく言うよ」
「あら、そこは偉いな頑張ったねって言う所よ? 健斗ったら。 今日学校はどうだった?」
そんなえりなの質問に俺はまた思った。 父さんと母さんもこんな感じだな、今日は仕事どうだった? とか。 そんな事思うって俺はえりなと何か重ねているんだろうか?
「うん? 私何か変な事聞いた? またポカンとしてるわよ健斗」
「いや、なんかえりな変わったなって……」
「変わった? そうかな? …… だとしたら悔いがないよう健斗と接しようって思ったくらいかしら?」
悔いがないよう…… えりなはもうそこまで思い詰めてるのか? 俺はそんなえりなに何をしてやれる?
「いいよ?」
「え?」
「別に無理して何かをしてもらおうと思ってるわけじゃないから。 私人を好きになるってこういう事なんだって健斗に教えてもらったから…… 最初は上野君だったけど私健斗を好きになって本当に良かったって思ってるよ、健斗のお陰で料理も上手になれたし」
えりなはそう言ってホットケーキを平らげた皿を片付ける。 洗い物をしているえりなの後ろ姿を俺は見ていた。
えりなは今楽しそうだ。 崖っぷちだっていうのにそれを感じさせないほどに。
「ふう。 はい、お終い」
えりなはリビングのソファで座っている俺の隣に腰かけた。
「最近家事とかもね、やるの楽しくなってきちゃった。 健斗がいつ来てもいいように綺麗にしておかなきゃって思ったらさ、なんだかやる気出るのよ。 うちの両親はさっぱり何もしないし余計にやり甲斐があるわ」
「えりな、お前辛くないのか?」
思わずストレートに言ってしまった。 どうして楽しそうにそう笑っていられるんだ? なんで今更なんてそんな風に俺は思った。 俺がえりなだったらそう思えるだろうか?
「辛い…… ねぇ…… ん〜、考えたってしょうがないでしょ? どうにも出来ない事もあるし。 だから私決めたの、健斗と楽しく過ごそうって。 例え想いが叶わなくたってその分健斗と楽しくいられたらそれだけで救われるような気がしてね。 だから悲しんでなんていられないわ」
そしてえりなはそっと俺の肩に寄り掛かった。 特に会話はなくそれが気不味いとかそんな感じもなく穏やかな時間だった。
俺…… えりなと一緒に居たいかも。 そう思った。 それからそんな思いが強くなっていった。
そして修学旅行の日がやって来る。




