90話 焦燥
えりなと花蓮がまた一触即発な事態になってしまった、まさか花蓮が後からついてきているなんて思ってもみなかった。
それに今回は…… いや、そうじゃないか、最近のえりなと沙耶、あの後2人は度々喧嘩はするけど花蓮ほど苛烈なものじゃない。 ちゃんとお互いわきまえてる。 えりなと沙耶はちゃんとあれはあれで仲良くやれてるんだ。
花蓮はえりなを本当の意味で叩き潰すまで容赦がない。 花蓮は3人友達だと言っていてもえりなと沙耶に対してそんな感情はまるで感じられない。
次の日の朝、えりなの家を通り掛かるとえりなはいつも通り待っていた。 だけど私服だ、そしてやはり殴られた頬は腫れていた。
「おはよう健斗、私今日学校休むわね」
「おはようえりな。ああ、その方がいいかもな。 その顔何事かと思われそうだし」
「本当は…… 本当は休みたくなかったんだけど行ったらそうなるものね」
「帰りに寄るよ、だから大人しくしてろ」
えりな的にはもう時間があまりないと思っているのできっと俺ともっと触れ合いたいんだろうなって思う。
「ん、なら大人しくしてる。 私が居ないからってハメを外し過ぎちゃダメよ?」
えりなが両手で俺の頬を触ってそう言う。 もうえりなの両手は体温が感じられないな……
「んな事するかよ…… お前じゃあるまいし。じゃあな」
「バカ! …… 行ってらっしゃい。待ってるわ、気を付けてね」
えりなと軽く言葉を交わして学校に向かう。 花蓮どうしてるかな? 花蓮にどんな風にして顔を合わせよう? 花蓮も花蓮でショックだったはずだ。
学校へ着き教室に入るといつも俺に元気よくおはようと言ってくれる花蓮の姿はなかった。 というより花蓮は登校していないようだ。
まさか花蓮も休み? やっぱりそれほどショックだったのか?
そのまま昼休みになり沙耶と少し話してから俺が席を立った時、後ろから急に首根っこを掴まれた。 かなりの力だったので俺は一瞬息が出来なかった。
そして乱暴に廊下に放り出された。 誰だよ? と思いそいつを見ると上野だった。 沙耶が俺の所へ心配して駆け付ける。
「健斗君、大丈夫!?」
「健斗、てめぇ花蓮に何しやがった?」
「何って…… てかなんで上野が?」
「そんな事はどうでもいい、なんで花蓮が来てねぇんだよ?」
俺だってそれは気になってたよ。 でもこいつに何か言った所でどうなる? だけど知りたいなら教えてやる。
「昨日の帰り花蓮がえりなを殴った、そして俺が花蓮に怒鳴った。そのせいで来ないのか俺にもわかんねぇよ」
「何がわかんねぇだ! 花蓮はてめぇの事をッ!」
俺と上野の言い合いで周りがざわつき始める。 なんか不味い雰囲気になり始めた、周りも上野も……
上野が俺に掴みかかろうとした時。
「やめなよ」
そんな声が聞こえ上野と俺が声の主を見た。 花蓮だった、今学校に来たのか?花蓮は俺に掴みかかろうとする上野を睨んでいた。
「健ちゃんのせいじゃないよ、なのに健ちゃんに何しようとしてるの? 上野君」
「か、花蓮、だってこいつは……」
「健ちゃんのせいじゃないって言ってるよね? まだわかんないの?」
そう花蓮が強く言うと上野は気に入らないと言った感じだが俺を離しどこかへ行ってしまった。
「日々野さん退いて」
「嫌…… 」
「いいから退いて」
花蓮の迫力に流石の沙耶も俺から少し離れる。 花蓮は俺を見つめると急に笑顔になった。
「良かったぁ、上野君に殴られたりしてないよね? ね? 」
「え? あ、ああ……」
「健ちゃん、昨日は私どうかしてた、ごめんなさい。 あんな事するつもりじゃなかったの……だから、だから私を嫌いにならないで? お願い、健ちゃん!」
花蓮はそう言って周りに人がいると言うのに気にせず泣きながら俺に抱きついた。
「か、花蓮、落ち着けって! 今まで散々花蓮は俺の事気に掛けてくれただろ? なんでそんなお前を嫌いになるんだよ?」
泣きじゃくる花蓮を落ち着かせるように背中を摩りながら俺は優しく言った。
「ごめん、ごめんね健ちゃん!」
「俺こそ怒鳴ったりして悪かったよ、だけどえりなだって悪くないんだ。 そこはわかってくれるよな? 花蓮」
「………… 嫌、えりなちゃんの事なんか聞きたくない! 健ちゃん!」
あまりにも目立つので俺は花蓮を連れて屋上へ行った。 2人きりになり花蓮はようやく落ち着き始めた。
「健ちゃん、私ただ健ちゃんの事が好きなだけなの……」
「花蓮……」
俺には物凄く優しくしてくれる花蓮に俺はずっと花蓮のそんな気持ちを自分の都合で利用してだから俺に優しい花蓮が好きだと言って自分の安泰の事だけを考えていた俺は今の今まで何をしていた?
何もしてないで逃げていただけだった。 えりな、沙耶、花蓮と過ごせる時間なんて無限じゃないんだ。 3人の想いになんて応えられるわけない。
2人を捨てでも1人を選ばなきゃいけないんだ、少なくともえりなの時間切れの前に……




