9話 急転直下
「あ、あの〜、美咲さん?」
「あら? 足立君見てたの? 女子の秘密のやり取り覗き見してたなんてとんだ変態ね」
「いや、悪かったけどさ。新月がお前と同類だったなんて…… 上野の奴とことんついてないな。 あ、俺もか」
「ちょっと! 私とあんなの同類なんて言わないでくれる? 私は誰かを憎くてその人の好きな人を奪ったりしないわ。 場合によるけど」
なんか上野の為にここまで苦労するなんてな、俺に美咲に新月…… これって美咲は成功したら万々歳、新月美咲への嫌がらせで満足、俺は一体なんの得があるのだろう? 見られたくない写真の削除? え〜、俺だけプラマイゼロじゃねぇか。
「何よ、そのやる気のなさそうな顔は?」
「考えてみたら俺って何も利点ないじゃん? お前が撮った写真の為に振り回されたりみんなに誤解を受けたりな!」
「ふんふん、つまりはもっと私に従わざるを得ない明確な弱みを握られたいというわけね?」
「いや、なんでそうなる!?」
美咲がうーんと考え出す。 こいつが考えてると絶対俺には良くない事考えてるんだよなぁ……
「あ! そういえば足立君の隣にいたあの地味な女の子居たじゃない? あの子の事足立君好きでしょ? 足立君が頑張れば私も足立君と地味子との恋愛を応援してあげる!」
「はぁ〜!? 俺が日々野の事好きだって? ないない、それはない! ただ隣にいるから話す機会が多いだけだ」
「足立君が好きじゃなくても地味子の方は足立君の事が好きそうよ? メスの顔してたもの」
「メスの顔って……」
いや、それこそ余計な事だろ、それに嬉しくない。 全然嬉しくない! てか俺の気持ちはまったく無視なのな、そしてそんな事に日々野まで巻き込んでしまっていいのだろうか? いや、良くないな。あいつは美咲のような性格の女の子とは触れ合ってもらいたくない気もするし……
「さて、話しが決まったんだから早速上野君の所に行って私の株を上げに行きなさいな」
「何勝手に決めてんだよ? それにさっき新月に宣戦布告みたいな事言った割にはセコい手ばっかり使うんだな?」
「当たり前でしょ? 私が直接行って花蓮ちゃんと醜い争いをしたら上野君ドン引きしちゃうもの! イメージ悪くなっちゃうじゃない、ああ、でも花蓮ちゃんに酷い事されたら上野君助けてくれるかしら? うふふふ……」
また美咲は何か妄想を始めてしまった。この前の事で結構ドン引きしたと思うけどな。 しかも新月はノーダメージで美咲に対するドン引きな。 ついでに俺も被害を被ったが……
すると美咲が俺にツカツカと近付いてきた。 今度はなんだよ? と思い近くに来た美咲は顔を横にして首を差し出してきた。
「すっかり忘れてたわ。ん!」
「え? 何?」
「私の匂いを嗅いで!」
「はぁ?」
もしかしてさっき臭いって言われたからか? 美咲は「早くしてよ」と急かしてくるので仕方なく首筋に顔を近付けて匂いを嗅いだ、別にこんな事しなくても美咲からはいつもいい匂いはしてると思うけ…… 首筋に俺の息が当たってくすぐったいのか「んぅッ」と美咲は変な声を小さく漏らす。
「で? 感想は?」
「感想って…… いつもの美咲の匂いだよ」
「い、いつも? 足立君っていつも私の匂いを嗅いでるの!? 変態!」
「別に近くにいれば匂いくらいするだろ! それに変態はどっちかったいうとお前だ!」
臭い匂いではないようなので美咲は少し安心していた。 新月の言った事真に受けるなんて意外とメンタル弱いのか? そして今度は更にとんでもない事をこいつは言ってきた。 美咲は手を差し出した。なんだ? と思えば……
「じゃあ舐めて」
「お、お前バカなんじゃないのか!? いや、バカだったな……」
「もし、もし万が一本当に不味かったら上野君に申し訳ないじゃない、早く舐めてよ!」
「よくそれで俺に変態とか言ったよな…… 女王様かよ」
全てを上野の為に行動しているんだろうけどこれじゃあ本当に変態だ…… いや、逆にここまで愛されてる上野は幸せなのか? そんな事を考えてた俺に先ほどのよう急かしながら手を差し出す。 やるまで終わらなそうだ、ちくしょう! 俺はペロッと美咲の指を舐めた。
うん、別に予想通り味なんてしないわ。こんなとこ誰かに見られたら本当に終わりだ。
「どうだった? 私の味は」
「その言い方やめろ! 別になんも味はしないよ!」
「味はやっぱりしないかぁ、普段から上野君の為にちゃんとお手入れしているから私が臭いなんてはずもないしね」
「おい、だったらなんでこんな無駄な事…… あ!」
すると美咲が携帯を俺に見せて「これなぁんだ?」とニヤニヤとして見せびらかす。 や、やられた…… 画面を見ると匂いを嗅がれた美咲はとても嫌そうな顔をしていた。 だからあんな風に俺から見えないように。
「ほら、また弱み握られちゃったね足立君! 頼りにしてるよ」
「ふざけんな返せ!」
「ちょっと! 女の子に乱暴するなんて最低!」
美咲から携帯を奪ってついでに全部俺の画像を削除しようとして美咲の腕を掴んで押し倒す形になってしまう。 美咲は携帯を奪われまいと咄嗟に服の中に携帯を入れた。
「ふふん、こうしたら取れないでしょ?」
「甘いな、生憎ここには誰もいない。そしてお前が俺にそんな事されたと言っても俺はみんなに誠心誠意訴えて前のように誤解を解く、決定的な証拠がなければいける! だからお前が服の中に隠そうと俺にはなんの問題はない。 誰もいない屋上を選んだのが間違いだったな」
「え、嘘? 本気!? いやーーッ変態!上野君ならともかく足立君はダメェ!」
「うるさい! 全部お前が悪いんだろ!」
そして俺は覚悟を決め美咲の服の中に手を入れ携帯を探す。胸やらブラやらに引っかかるが今の俺はいつにも増して賢者モードだ、こいつの色香に惑わされる事もない。
「あ……んぅッ! ダメ、そんな所に!」
「あ、あった! これでお前との関係も終わりだ」
そう言って美咲の服の中から手を出そうとした時屋上のドアがギイッと開く音が聞こえた。
「あ、足立君、な、何してるの? み、美咲さんと…… え? え?」
青ざめた顔で俺と美咲を見つめるのは先ほど噂していた日々野だった。 美咲の服の中に手を突っ込んだままの俺は慌てて手を出そうとして美咲の制服のシャツのボタンを結ぶ糸がブチブチと破け弾け飛ぶボタンと露わになる美咲の素肌。
「「…………」」
美咲から離れその後にムクリと肌を隠して起き上がる美咲、その顔は今にも泣きそうな表情になる。 ま、マズい。 俺の人生終わる……
「あ、足立君……」
「日々野! こ、これは違うんだ、これには深い訳が!」
最早そんな言葉が通じるわけもなく俺達3人に不穏な空気が訪れる。